無口の女の子と同じ部屋で缶詰めはキツいので
「はい、それじゃあ予選通過のお2人さんはあっちの扉の部屋へ移動をお願いしますね。公平を期すため他の予選会は見ないでいただきますので」
と、ヒューズマーは僕とロマネという魔法使いを案内してくれた。
闘技場の一角にある扉を抜けるとそこは小さな控室のようなところだった。長いテーブルと椅子が並べられていてお茶やお菓子が用意されている。
ヒューズマーは会場に残り髭のおじさんと女騎士さんが僕とロマネが入った控室に後ろから入ってきた。
「すまんな。少々ごたごたしちまったが2人とも予選通過おめでとう」
髭のおじさんが声をかけてきた。
「俺は魔法騎士団のホールドというものだ。一応第2支部の支部長をやっている」
支部長か・・・・・・偉いさんだったのか。
僕の横に立っていたロマネは魔法使いっぽいとんがり帽子をとった
「ロマネと申します。よろしくお願いします」
「あ、えっとマーシーです」
ぼくも咄嗟にホールドさんに挨拶した。
魔法使いロマネ。
長めのブルーの髪を後ろに編んでいる。予選中ほとんど表情はかわらずクールな印象だったがこうやってみると若くてかわいらしい女の子だ。歳は16。この若さで魔力300ってのはかなり才能あるんだろうな。
女騎士さんを見ると顔を赤らめてもじもじしている。そしてなにやらホールドさんに耳打ちする。
「ああ、えーと、こっちの鎧姿の彼女はネイと言って第1支部の支部長をしている」ネイさんは目線を下に向けて身をよじらせている「ああ、気にするな。彼女はただの恥ずかしがり屋だ。初対面の人間と話すのが死ぬほど苦手なだけだ」
たしかに。死ぬほどコミュニケーションが苦手っぽいな。
「中々良いもの見せてもらったよ。口の中に別で魔法出したヤツなんか今まで見たことなんてねーからな。それに気づくロマネの方も大したもんだ」
ホールドさんは嬉しそうに髭をサワサワと触りながら話した。
「それに・・・・・・大魔法使いミズリー様の弟子か」
「ミズリー師匠ってやっぱり有名なんですね?」
「そりゃあな。俺たち魔法騎士団の連中もあの人に魔法の手ほどきを受けたヤツは多いからな。それでも弟子として認められていたのはコイツ、ネイだけだがな」
『さっきの口の中に魔法を作り出す発想力。無詠唱で30個出す魔法力。どちらもミズリー様っぽいからそのブレスレットは、まぁ本物で間違いなさそうね。それ、いつもらったの?』
ビクッと僕は身構えた。
だって急に心の中に声が飛んで来たら誰でもびっくりするよ、きっと。
『まだいただいて数日ですよ、先輩』
『それにさっきの『念話』。あなたも使えるのね?』
あ・・・・・・さっき普通に『念話』で話しかけてたわ。
「ネイさんはいつ頃ミズリー師匠に魔法を教わりになられたんですか?」
僕は声を出してネイさんに話しかけた。
するとボッと顔を赤らめてホールドさんの後ろに隠れてしまった。
大丈夫か?支部長ってことはこの人も人の上に立つ人なんだろう?
「ゆっくり話をしたいのはやまやまなんだがこの後も予選はあるからな。ここで予選が終わるまではゆっくりしててくれ。本選出場者が決まったら全員に一斉に本選の説明をすることになってるんだ」
そしてホールドさんとネイさんは外の広場へと出ていった。
代わりに魔法騎士団の人と思われる20代くらいの若い青年が控室に入ってきた。何か用事や質問があれば彼に聞くようにとのことだ。
僕は椅子に座ってお茶を一口。索敵を広げて予選の様子を窺う。
「ねえ」
!?何?無口キャラだと思っていたロマネちゃんが話しかけてきた。
「なんでしょうか?あ、本選もよろしくお願いします。対戦する可能性もありますしね」
「さっきの魔法。もういちど見せてもらっていい?」
「さっきの・・・・・・?口の中に出したヤツ?」
「そう」
この後敵になる可能性のある相手に自分の手の内をさらす・・・・・とかなんとかも考えたが無言で異性と同じ部屋に缶詰めはきついものがあるのでここはコミュニケーションを優先するか。
「ファイア」
と僕は呟き口を閉じる。同時に口の中でさっきの火の玉を1つ作り出しペロッと舌を出してロマネちゃんに見せた。
「すごい。すごく小さい」
僕の作り出したファイアはビービー弾くらいの大きさだ。
魔法ってのは大きく出そうとすればその分魔力も必要になるが小さく出そうとした場合はその分魔力のコントロールが難しくなる。大きくするのも小さくするのも大変ってことだ。
「ウチの師匠が小さく出すのも訓練だってさ」
「分かる。魔力操作ってこと」
「そうそう。結構難しいけど慣れれば君でもすぐにできると思うよ」
「小さい魔法はスピードは出るけど威力はない」
「威力がない?そうかな?結構使い勝手いいと思うけど」
僕は指先を1メートル離れたところにあるコップに向けた
「バン!」
ビービー弾くらいに圧縮した水の弾をピストルの弾のように放つ。
パキン!
という音がするとそのコップに小さな穴が開いた。
「えっ!?」
「ね?結構威力あると思うけど」
「あの少量の水にコップに穴を開ける威力なんて普通は出ない」
え??マジ??
ミズリー師匠も似たようなことできたぞ。
「水を減らしてるんじゃないよ。こう・・・・・」
僕は拳くらいの水の玉を作り出し、それを小さく小さく圧縮していく。そして先ほどと同じくらいにまでちいさくすると「バン!」とさっきと同じコップへと放つ。
コップには二つ目の穴ができる。
「水も魔力も何も減らさずにそのまま凝縮するイメージかな?あ、すみません兵士さん。コップ1つダメにしちゃいました」
僕は扉の前に立っている魔法騎士団の青年に謝罪した。
「いや、かまわないけど。流石ミズリー様のお弟子さんだね。口で説明するのは簡単だがそこまでの魔力操作は僕でもできないよ」
ロマネは自身の手元に水の玉を作り出してそれを小さく圧縮し始めた。
「お、そうそういい感じ」
ムムムムムッとロマネが集中しているが僕の作り出した水の弾の5倍くらいの大きさでそれ以上小さくできないようだ。
「これは俺の独学だけど、それをそのまま回転できる?回した方が小さくできる・・・・・気がする」
僕は最初そうやっていた。
ロマネはその水の弾を回転させるとさらに小さく小さく水の弾は圧縮される。
そしてさっき僕の出したものと同じくらいの大きさになった。
「おお、できるじゃん。じゃあそのままあのコップ目掛けて」
ロマネは指先に留めたその水の弾を放つ
ビュン!!
バン!!
残念。コップを躱して壁に穴が開いた
「お、惜しい。初めてやって同じようにされたら俺の立場がないから、これでよし!そして兵士さんごめんなさい。今度は壁に穴が開いてしまいました」
あれ??
兵士さんとロマネは2人して目を見開いていた
「すごい。私できた」
「初めてやってあれだけの魔法のコントロールができる君もそうだし、一言アドバイスしただけでそうさせたマーシーくんも2人ともすごいな」
「ありがとうマーシー!」
ガッと両手で僕の手を掴みキラキラした目で僕を見つめるロマネ。
「いや、俺ほとんど何もしてないよ」
横で若い兵士さんも同じように水の玉を小さくしている。ビービー弾くらいの大きさまで小さくなるとパシャンと途中でそれは弾けた。
「そうか、回転させるのか。なるほど。マーシーくんありがとう!コツを掴めたよ!流石ミズリー様のお弟子さんだな!」
え??僕何してんだろう。
兵士さんも僕をキラキラした目で見つめていた。
その後魔法について3人であれやこれやと話していると控室の扉がガチャリと開いた。
しまった。予選の様子確認するの忘れてた。




