後出し万歳。
大きな控室に出場者は全員集められている。
武闘大会ほどの人数はいないな。剣士や格闘家に比べると魔法使いの職業はどうしても希少なのかな?
ざっと見た感じでは200~250人ってところ。帝都の武闘大会は1000人近くいたからな。
そして時間は10時になり僕たちは順番に呼ばれ会場である広場に集められた。
控室を出ると闘技場のような施設につながっていて周囲には観客席が広がっている。もちろん今は人はいないが騎士っぽい人や魔法使いに身を扮した人が数人こちらを眺めている。
僕の番号は1番だったためミクシリアさんよりも先に呼ばれミクシリアさんは笑顔で親指を立てて僕を見送る。僕も親指を立てて笑顔で返し多くの出場者とともに広場に出た。
1番の予選出場者が広場に出ると僕達が出てきた扉は閉じられ、他の出場者はこちらを見れないようにするようだ。
だいたい50人くらいの参加者が横一列にズラリと並んで整列した。
全員服装はローブが基本。長い足元まで覆い隠す魔法使いっぽい服装から、僕の着用しているような腰上くらいまでのポンチョのようなもの、皮製の鎧を着ているものもいる。基本は軽装で大体は中肉中背から細いくらいが多い。
しかし僕の右隣の参加者だけは異様にでかかった。お前は本当に魔法使いなのか?
身長は190は超えている。腕も肩も胸元も筋肉でパンパン。威圧感を与えるようにスキンヘッドが光る。
そして何故か白のタンクトップ、茶色の半パン姿。
何故魔法使いがこんな服装なのだろう?そして何故そんなに筋肉を見せびらかしているのだろうか?
魔法使いの参加者である僕達の前に金属製の胸当てをした男性のエルフが書類をバインダーに挟んで片手に持ちながら近づいてきた。その後ろにはさらに2人、1人は中年のおじさん。長めの顎髭を右手で触りながらめんどくさそうな顔をしている。もう1人は少しキツめの目をした白い鎧すがたの女性騎士。年は若く、僕と同じか少し上くらいだろうか。長い金髪を後ろに縛ったポニーテールだ。真っ白な腰くらいまである清潔感あふれるローブを身にまとい、肘部分や膝部分を守る白い煌びやかな軽鎧に日の光が反射して後光が差すようにその存在感を主張している。
そして、長い顎髭の中年のおじさんと金髪ポニーテールの女性は僕達の前に準備された椅子に座り僕達を見定めしだした。
「皆さまご参加いただきありがとうございます。今回の予選の審査をさせていただきます魔法騎士団所属のヒューズマーと申します。よろしくお願いします」
緑色の髪にとんがった耳。エルフってのは全員がやっぱり美男美女なのだろうか?その整った顔はモデル顔負けだ。足元まで伸びたローブを華麗に着こなし澄んだ声で挨拶をしたヒューズマー。
「それでは皆様お持ちの銀色の札は左胸の辺りにお付けください。布に密着させればそのまま固定される素材ですのでこちらに数字が見えるように服にあてていただけましたら大丈夫です」
そう言われて銀製の札を参加者は自身の胸につけていく。僕も同じように服に当てただけで服に張り付いた。
なんだこれ?どういう仕組みなんだろ?
「ありがとうございます。予選中はその番号を名前代わりお呼びいたしますので自分の番号は覚えておいてくださいね。それではこの中から2名を選出させていただきまして本戦へと進んでいただく形になります」
およそ50人から2人か。中々厳しそうだな。
ざっと見た感じ1番右端の足元まであるローブ姿でこれぞ魔法使いといったとんがった帽子を被った少し小柄なヤツが1番の手練れって感じがする。若そうだが魔力が300を超えている。そして僕の横のマッチョが200ちょいくらいで2番目ってところか。後はだいたい100前後のやつばかりで150にも届かない。
「ええー、予選の内容は至って簡単です。一度の詠唱で出せる魔法の数を競っていただきます。属性は最も得意なもので構いませんのでとにかくいくつ出せるかで上位2名を選出させていただきます。当たり前の話ですが周りに被害の出ないようにお願いしますね。それでは少し広がりまして2列になりましょうか。皆様魔法が使いやすいようにリラックスしてお待ちください」
横に50人並んでも全然問題のないスペースの広場。
並んだ予選参加者はヒューズマーと呼ばれたエルフに言われた通りに2列になり距離を置いて整列した。
元々1番右端に並んでいた僕とマッチョと帽子を被った小柄な奴はそのまま2列目の右端に並んで周りを窺っている。
深呼吸をしているものや準備運動をしているもの。緊張で顔が強張っているもの、笑顔で周りを見渡しているもの。
そして僕の右に位置するマッチョの魔法使いはまわりを見渡しながらニタニタと笑みを浮かべていた。気味悪い奴だな。
1番右端の小柄な奴は帽子で表情が見えにくいが口元を見る限り落ち着いているみたいだ。特に周りを見渡したりもせず何かに集中しているみたいだ。
「ええー、それでは早速始めて参りましょうか。 一回勝負ですので皆様出し惜しみせずに精一杯頑張ってくださいね。数の上限はありませんので思う存分自身の魔力を見せてください。一応ルールとしましては5秒間魔法を維持できましたら十分ですのでその後は私が声をかけた方は魔力を解除していただいて構いません」
随分シンプルなルールだな。
詠唱する。
他の誰より数多く魔法を出す。
5秒以上。
声をかけられたら消してオーケー。
さてと、どういこうかな?
「それでは詠唱を始めてください!」
エルフの掛け声と共に参加者がそれぞれに詠唱を開始する。
例外はない。皆が皆それぞれ何かを口ずさみ目を閉じたり手を前にかざしたりと様々だ。問題があるとすれば僕くらいだろう。
参加者に出遅れて僕はまわりに聞こえないように詠唱を開始する。
「火の力を持って全てを燃やし尽くせ・・・・・(あ、詠唱終わっちゃった)」
まだ他の参加者はブツブツと何かを唱えているようだ。
詠唱って個人で色々と考えたり自分に合った詠唱を組み合わせて魔法の威力を上げることができるらしいが、僕ほとんど詠唱しないんでこれ以上の文章考えつかないんだけどな
「・・・・あるー日・・森のなーか・・熊さんに・・・であーった・・・(小声)」
僕はなんとか詠唱を繋いで時間を稼ぎ、まわりの様子を窺っている。
すると前列の何人かが詠唱を終えたようで
ファイア!
ウォーター!
ファイア!
ファイア!
ストーン!
と、魔法を唱えて自身の目の前に火の玉や水の玉を次々と発現させていく。
これは・・・・・。
後攻超有利じゃねーか!
後出し万歳。先に出した奴よりも多く出せばいいんじゃね?
現に他の参加者は周りの様子をキョロキョロと目をやりながら詠唱を続けている。横のマッチョもそうだ。
1番右端の小柄な奴だけはほとんど動かず口だけボソボソと動かして目は瞑っているようだが。
そして1人2人とさらに魔法を唱えていく。
7つ、8つ、8つ、9つ、7つ、お、11の奴がいるな。
ここまでで11がどうやら最高で後は僕とマッチョと小柄な奴の3人だけが詠唱を続けている。
「よし、165番と189番はもういい、76番もそこまでだ。12番98番も結構だ」
次々と参加者の成果を把握してヒューズマーがチェックして座らせていく。
右の2人は動きそうにないな。
さてと・・・・・そろそろ動くか。




