オレ、優勝するつもりですから。
ピピピピピ
ピピピピピピピピピ
今日は電子音で目が覚める
すごいぞ魔法都市リア。目覚まし時計なんてどうやって稼働させているのだろう?
さぁひとっ風呂浴びよう。
風呂は帝都と同じ仕様で青から水、赤からお湯の出るマジックアイテム。
ざっぱーんと湯船に浸かりここ数日の旅の疲れも吹っ飛ばす。
いつもの冒険者スタイルの服装になり気を引き締めて一息つく。
コンコン
部屋のノックが耳に入りドアへ向かうと前掛け姿のマサルと今日は普段着のタカシ。
「早く行こうや。早めに行ってエエ席とらな」
「2人とも今日は気楽でいいな」
「今日はマーシーの日やからな。俺らはビールでも呑みながら高みの見物やわ」
「観客席でグラブルさんと適当に呑んでる」
受付開始が9時。そして予選が10時開始。午前中に予選を行い、午後から本選1回戦。
残りは明日に決勝戦までやってそこでおしまい。
会場は中央の城壁の外。ここから城壁沿いに10分も歩けば着くところに大きな闘技場があるらしい。
「少々早いが行くとするか。先にナイトガードの皆さんに挨拶に行こう」
僕達は昨日お邪魔した部屋へ向かう。
部屋についてドアをノックするとグラブルさんが出迎えてくれた。
「おう、早いな。もう出るのか?」
「はい。ウチの2人が良い席を取りたいっていうもので」
「そうか、お前たち知らないんだな?大会で観客が入るのは本選からだ。予選は見れないぞ。だから観客は午後からしか入れねーんだよ」
「え?マジ?」
「朝からマーシーをつまみに焼き鳥ビールの構想が・・・」
聞いておいてよかった。と、なると午前中は僕だけで行って2人は午後から本選だけ見にくればいいわけか。
「グラブルさんも本選は見に来るんですよね?」
「ああ。ミクシリアが本選に出場すれば応援するし。敗退した場合はミクシリアの席も取っておいて本選を見るだけでも十分アイツの勉強にもなるしな」
おっと、僕は本選に出る気まんまんだったがそうだよな。午前の予選が終わるまでは本選の出場者が誰になるのかまだ分からないからな。
「そういうことでしたら、申し訳ないのですがウチの2人も一緒に連れて行っていただけますか?」
「おう、もちろん構わねーよ。じゃあミクシリアの方を頼むな・・・・・・・あ、そういえばそれどころじゃなかった・・・・」
「どうかされました?」
「ああ、ウチのバカ。二日酔いで今動けねーんだった」
本当にバカなことだな。
「お邪魔していいですか?もしかしたら治せるかもしれません」
「本当か!!頼む!!」
僕はお邪魔してミクシリアさんの様子を窺う。
昨日呑んだ大きなリビングの隣の個室。そこのベットにミクシリアさんが真っ青な顔で横になっていた。
「だ・・・大丈夫ですか?顔色最悪ですよ」
「無理ィ。吐くぅ」
もうこの人からはゲロのイメージしかないな。
僕はミクシリアさんに右手をかざした。
「キュア。ヒール」
ミクシリアさんの身体が淡い光で覆われる。
「!?」
目を見開いたミクシリアさんがシュタン!とベットから飛び上がりベットに立った状態で僕を見下ろしている。
「良くなったみたいですね」
「うそ。回復魔法って二日酔いにも効くの?」
「さあ?以前自分もこれのお世話になったもんで」
「あーりがとう!!まさか二日酔いで魔術大会不参加なんてことになったらミズリーさんにも顔向けできないところだったわ!」
そういってTシャツ短パン姿のミクシリアさんは僕に抱き着いて来た。
「それはこちらとしても不本意ですね。良くなって本当に良かったです」
準備するから待ってて!と僕は部屋を出てミクシリアさんを待つ。
「おいおい本当になんとかしたのか?一体どうしたんだ?二日酔いなんて治せるのか?」
グラブルさんが迫ってきた。
「回復魔法って便利ですよねー」
と、僕は笑顔で返した。
準備を終えたミクシリアさんと僕は2人で会場入りすることに。タカシとマサルはナイトガードの皆さんに預けて午後に一緒に会場に来てもらう。
ミクシリアさんの服装は以前出会った時のもので短いローブ、ジャケット。藍色の長い髪は後ろで結んでいる。ふとももにナイフホルダーを装着していて、まんま僕と被ってしまっている。
完全に僕が真似たわけだけど。
「ふっふっふ。完全に私のリスペクトよね?何?私に憧れちゃった?」
ホテルを出て城壁沿いを2人で歩く。
「正直に言うと負けた気分になりますが、かっこいいと思ってしまいましたね。引きづるような長いローブなんかはこれぞ魔法使いって感じがしますが、冒険者としては動きやすさも踏まえるとこの形がベストですよね。くやしいですがミクシリアさんを真似たことは認めます」
「いいのよいいのよ、弟弟子が兄弟子に憧れるって悪いことじゃないわよ」
すごく機嫌のいいミクシリアさん。よし、今日はできるかぎり煽てていこう。
会場は数分歩くとすぐに見えて来た。
帝都に負けないほどおおきなドーム型の建物。中で余裕で野球とかできるな。
ちょうど受付が始まる時間に着けたようで会場前にはすでに人だかりができている。
そのほとんどが出場者ってことか。
ざっとステータス確認してみる。
知力100前後が多いか。ちなみにミクシリアさんは現在の知力224。確か出会ったときは140くらいだったような気がするが僕との2回の共鳴でここまで上がっている。
これならミクシリアさんも本選にいけそうかな?
「ミクシリアさんは魔術大会って出たことあるんですか?」
「ええ、去年が初めてね。今年で2回目。去年は予選で敗退しちゃったわ」
「ミズリー師匠に聞いたんですが予選は代々魔法の数をいくつ出せるか?っていうのらしいんですが去年もそうだったんですか?」
「そうよ。これは多分今年も変わらないと思うわ。ちなみに去年の私の数は9個。本選に出場した人は確か11個だったと思うわ。ねェねェ、マーシーはいくつ出せるの?」
「・・・・・・言うと思うんですか?」
「ええー、言ってくれてもいいのに。まぁ2桁出せないなら諦めた方がいいかもね」
「それなら大丈夫ですよ」
「そっかー。予選はグループ分けされるから別々になればいいのにね。マーシーと出場枠争うのはちょっと骨が折れそう」
「そうですね、2人とも本選出場を考えると別々の方がいいですね」
受付の順番が回ってきた僕たちはギルドで手渡された銀製の札を見せる。そして僕たちはそれぞれ紙を渡されると中へと入っていった。
「紙には何番って書いてある?」
と、僕は受け取った紙に目を向け
「1番って書いてますね」
「そっか!良かった!私は3番」
そうか、これが予選のグループってわけか。
「別々のグループってわけですね。それじゃあ後はお互い本選出場目指してがんばりましょうか」
ふと僕の目にミクシリアさんのローブの隙間から青い宝石のついたブレスレットが目に入った。
「それ、いつも持ち歩いているんですか?」
「ええ、もちろんよ。お守りね、お守り」
そう言ってミクシリアさんは首にかけた紐を掴みその先に通されたブレスレットを出す「ああ、けど大会じゃマジックアイテムは使用禁止だからもちろん使ったりはしないわよ」
「お守り、ですか?じゃあ俺も」
僕はブレスレットを左手首にはめた。
同じ師を持つ2人の共通の証として同じものを身に着ける。少々照れる感じもするが悪くない。自分は1人ではない。ミクシリアさんとミズリー師匠が見ているから恥ずかしい所は見せられないな、なんて気持ちも若干湧いてくる。
それにこのブレスレットが広く認知されているのなら少々無茶なことをしても大魔法使いミズリーの弟子なら、なんて思ってくれるかも。
そしてこれを着けて優勝したらミズリー師匠の名も一層上がるかな?なんて思ったりもする。
「お、いいじゃない。でもこれを身に着けるからには恥ずかしいことはできないわね」
「もちろんです。オレ・・・・優勝するつもりですから」
「ふっふっふ、弟弟子になんて負けられないわ」
僕達は笑顔で会場入りした。




