偶然か必然か?こういう縁もある。
「マーシー・・・・この階なんか変や」
僕達は自分たちの部屋からグラブルさんに聞いた階へとやってきた。
「ああ、そうだな。明らかに俺たちの部屋の階よりも扉が少ないな」
「そうなると、考えられることは1つですね」
「ああ、2人とも。心して入ろう」
コンコンと扉をノックするとミクシリアさんが笑顔で出迎えてくれる。
「来たわね!いらっしゃーーい」
連れられて僕たちは中に入る。
「うおっ!!広っ!!」
僕達の部屋の二部屋分の広さのリビング。奥にキッチンも見える。
「全然僕達の部屋よりも広いですね」
「そりゃそうだろ?ここはチーム用で10人くらいまで泊まれる部屋だからな」
グラブルさんがまぁ座れ座れと中に案内してくれる。
真ん中のソファに30代中頃の髭を生やした渋いおじさん発見。ブラウンのジャケットにブラウンのパンツ姿。どこかの考古学者を思わせる姿だが似合いすぎる。
「ダルブさんお久しぶりです。先日はありがとうございました」
僕は深々と頭を下げた。
「いやぁマーシーくん元気そうでなによりだ。タカシくんもマサルくんも冒険者らしくなったじゃないか」
ソファから立ち上がり僕たちに握手を求めてくるダルブさん。背は僕達よりも高く、がっちりした体格がその威厳を醸し出している。
「あの時頂いたワイバーンの素材で買いそろえました。以前に比べて少しは冒険者に見えるようになったと思います。僕のはどうもミクシリアさんに似てしまいましたが」
「やーーっぱり私のを見本にしたのね!いいわ!お手本にされるなんて嬉しいわ」
するとグラブルさんがタカシの肩をがっちり組んだ。
「さてと、タカシ。聞きたいことがあるんだが」
「おう・・・なんやなんや?」
何か悪さをした少年のようにキョドッているタカシ。
「テメー!!武闘大会で優勝しやがったらしいな!!本当か!?」
「ははっ。おう優勝したった」
「優勝者の名前を聞いた時には流石に同じ名前のヤツかと思ったが、ルーキーで格闘家のタカシってなるとテメーしかいないだろうからな!!」
「武闘大会優勝とは恐れ入ったな。それなら聖騎士
から勧誘とかもあったんじゃないか?」
「それがなぁ、聖騎士に勧誘はされへんかったわ。そしてなぜかマーシーが聖騎士には勧誘されとった。俺とマサルは銀獅子団の副団長に誘われたくらいかな?」
「おいおい聖騎士団に銀獅子団って・・・ビッグネームじゃねーか。どっちにも行かなかったのか?」
「そりゃあな。俺ら3人でフルボッコやし。別のところに入って誰かの元でってのはちょっとなぁ」
「あんたたち大物感出てるわね。この数日で一体何があったのかしら?」
色々あったな。
大会で優勝し、大魔法使いミズリー師匠の弟子になり、貴族の屋敷に火をつけ、魔族を撃退したな。
「よし、今日は前に言った通り我々がごちそうするよ。今日丁度食料もお酒も調達したところだしな。ああ、マーシー君とミクシリアはほどほどにな。明日から魔術大会があるしな」
「え?ここで宴会すんの??マジ!最高やん!!」
「お肉は?お肉はありますか??今日はお肉の日なんです!」
「はははは、肉もあるからジャンジャン食って行けよ規格外のルーキー共。おおーい皆!飯にするぞ!」
すると奥からさらに2人。以前も一緒にワイバーンの肉を食べたナイトガードの人達だ。
「おう、もう肉を焼く準備はできてるぞ。ワイバーンってわけにはいかないがな」
「酒も一週間分くらいは買ってあるからドンドンいけるぜ」
テーブルに鉄板をセットして食材が次々と運ばれてくる。鉄板はマジックアイテムらしくスイッチ1つで火を起こして弱火にも強火にもできる。まぁ現代版のコンロだな。お酒もビールから果実酒までそろっており8人全員で勢いよく空けていく。
「タカシ、何本か酒をおすそ分けしておけ。良いのが何本かあっただろう?」
「おう、ダルブさんダルブさん。これ、帝都で買った良い酒なんで一緒に呑もうや」
「なんと、これはエシオン酒店のぶどう酒か?こんないいものはあまり呑む機会はないな」
「マジかよ!エシオンのぶどう酒!?俺呑んだことねーよ!タカシ!!俺にもくれよ!」
「ほんだら皆で呑みましょ!!ミクシリアさんもほらほら」
「うっ!?私も呑みたい・・・ちょっとだけ、ちょっとだけにしておくね。明日もあるし」
そういうヤツは大概がつぶれるまで呑むことになるんだよな。
8人が騒いでも十分な広さのリビングにリアの夜景が顔を出す。日が落ちて夜を迎えたリアの街明かりが夕方に見た景色よりもその絵画に色をつけて、見るものの視線を奪う。
「綺麗ですね。おいしいご飯においしいお酒にこの夜景。贅沢ですよね」
「綺麗でしょう。だから私たちはリアに来たら必ずここに泊るのよ。少々値ははるけどね」
お腹も一杯になりお酒もたんまり呑んだ僕たち。歳には勝てないと言って先にダルブさんがベットに行き、1人、また1人と横になっていく。
マサルは1人でまだ肉を焼きながらビールをラッパ呑みしているがタカシはソファでいびきをかいていた。
その向かいのソファでグラブルさんとミクシリアさん、そして僕がチビチビと米酒を口にしながら話しをしている。
「明日はひょっとしたらマーシーとミクシリアが対決ってこともあるんだよな?」
「もちろんよ。優勝狙うからにはどこかであたるわね」
「そうですね。その時は胸をお借りしますね」
「はぁ、それにしても私の周りって才能ある人間ばかりで嫌になっちゃうわ。マーシーもそうだし」
「前に言ってた兄弟子さんも才能の塊って言ってましたよね?」
「私に魔法を教えてくれてた人がスゴい人でね。その人の弟子って多くはないんだけれど変な人か天才って呼ばれる人しかいなかったなぁ」
「あ、俺帝都である魔法使いの弟子になったんです。これは弟子の認定品です」
そう言って僕は青い宝石の埋め込まれたシルバーのブレスレットをアイテムボックスから取り出した。
「げっ!大魔法使いミズリー」
「やっぱり知ってましたか?」
「知ってるもなにも」
ミクシリアさんはジャケットの内ポケットから僕の持つブレスレットと同じ物を取り出した。
「はははは、ミクシリアさんもミズリー師匠のお弟子さんだったんですね?」
「いやいやあんた可笑しいわよ。弟子になったってことはせいぜい一週間とかでしょ?それなのにそのブレスレットもらってるって絶対変よ」
「帝都を出る時に持って行けっていただきました。弟子の何人かに渡してるから何かの役に立つんじゃないかって」
「役に・・・ねェ・・・。マジックアイテムとしては多分売れば金貨何十枚って価値はあると思うけれどこれを持った人に出会ったらあまり関わらない方がいいわよ。大抵は変わってる人ばかりだから」
「変な人か天才ばかりなんですよね・・・そうか。ということは俺もミクシリアさんも結構変わってるってことでしょうね」
「私はマシよ!あんたは絶対おかしいからね!あのミズリーさんが一週間でそのブレスレット渡すなんて絶対おかしいはずよ!」
はははは、ひどい言われようだなとグラブルさんが笑っている。
「おかしいからっていただけた訳じゃないですよ。ミズリー師匠は気に入ったものに渡しているって言ってましたから。俺もミクシリアさんもミズリー師匠のお気に入りなんですよ、きっと」
「ミズリーさん・・・。そっか。そう言われるとちょっと嬉しいな」
「それでもまぁ、うかつに見つけても軽く声を掛けるのは気を付けます」
「それよりもさぁ、ミズリーさんを『師匠』って呼んでるの?あの人『師匠』って呼ばれるとヘニャっとするでしょう?」
「ええ、なんか言われ慣れてない感じがしましたね」
「みんな『ミズリーさん』とか『ミズリー様』って呼ぶのよ。元々冒険者だったから師匠って呼ばれるとむず痒いって言っててね。たまーに『師匠』って呼ぶとおもしろい反応してくれるんだよねー」
「そうなんですね。俺はずっと『師匠』って呼んでたんで慣れちゃいましたけどね」
「そっかー、大魔法使いのミズリー門下生同士の対決もあるってことかー」
「ミズリーさんって美人だよなー。帝都のギルドの受付してる時はついつい目がいっちまうもんなー」
グラブルさんの鼻の下が伸びている
「ミズリー師匠の受付だけ人が並んでましたよ。なんなんですか?あれは?」
「あれはもう名物としか言いようがないよ。俺も何回か並んじまったしなー。いいよなーミズリーさん。色っぽいし、胸もめちゃくちゃデカいしなー」
「確かに。あのメロンは至高だった」
マサル、急に入って来るな。
「そうだよな!そうだよな!あれほどの爆乳は他には見たことない!」
グラブルさんがのってきた
「マーシーと訓練中のあの揺れはまさに凶器」
「やっぱり巨乳っていいよなー」
グラブルさんとマサルの視線がミクシリアさんの胸に集まった瞬間その場の空気が凍った
「よし、あんたたち。ちょっと頭冷やしてこい」
周囲に氷の粒が舞うとグラブルさんとマサルに降りかかる。
ミクシリアさんは決して胸がないわけではない。人並だ、人並。ミズリー師匠が常軌を逸しているだけだ。
おっと、心の声が聞こえたのか僕にも氷のつぶてが降り注いだ。
そのまま暴れ出しそうなミクシリアさんをこっそり放ったスリープで寝かしつけてその場を収め、それでもまだ肉にしがみついていたマサルを鉄板から引き剥がしマサルにタカシを担がせて僕たちは自分たちの部屋へと戻るとする。
あとはグラブルさんに任せて退散だ。明日には魔術大会本番もあるしあまり夜更かしもできない。
時間はまだ日をまたいではいなかったがお酒も適度に入っているためそろそろ就寝とするべきだ。
部屋に戻った僕は風呂は明日入ればいいかとキングサイズのベットに横になり瞬く間に眠りへと落ちる。
明日が楽しみだ。
帝都ではタカシとマサルの見せ場ばかりだったからちょっと明日は張り切らせてもらおう。




