ここでもやはり厄介事の匂いがするな
「あなたは、一体何者ですか?」
何者かときたもんか。ただの冒険者だっつーの。
「一般的に世界を旅する冒険者ですよ。今回魔法大会に参加するためにリアに足を運んだだけです」
その3人組は少し目配せをしてボソボソと相談している。
どうする?どうするんだ?戦闘か?ここはバトルパートか?こんなところで魔王と関わり持つつもりもないぞ。
「それでは少し質問を変えさせていただきますね」
と、黒髪黒目の少し日本人を彷彿させる東洋美人が話しだした。
「あなたは『治癒の血』というものをご存知ですか?」
!?話があらぬ方向に向いたな。
「聞いた事はありますね」
「それではそれがどこで手に入るかご存知でしょうか?」
ただ今絶賛僕のアイテムボックスに入ってますけどね。
「以前、冒険者ギルドの依頼に出ていたのを覚えていますが」
「それではその依頼をした人物が手にしている可能性があるということでしょうか?」
「その依頼が達成されていればの話しですね。失敗というのもありますし、まだ現在進行中かもしれませんしね」
また3人で目配せとやりとりだ。
なんとか戦闘にはならずに済みそうかな。
魔王の娘がわざわざ治癒の血を探し求めてってのは何か理由があるんだろうな。こりゃイベント発生の匂いだな。やめて欲しいんですけど、魔王絡みなんて。
するとそこで索敵に2人の人影ヒット。
ウチの2人が遅れて来たようです。
岩陰からこっそりとこちらを窺っている。
ぼくが気づいてないとでも思ってるんだろうか?
さてと、それにしても3人共強いんだよな。
ダークエルフのお姉さんは力は100そこそこだが速さと魔力が300を超えている。
右の大柄なお兄さん。職業は魔族なんだよな。力、体力、速さが500超えてる。アルベルト隊長と良い勝負しそうだ。
そして真ん中の魔王の娘。
魔力が600ある。ミズリー師匠よりも魔力が上とか。それでも一応僕の半分くらいではあるが。
水魔法、土魔法、闇魔法。
魔法耐性、魔力操作、マジックガード。
だから、魔法耐性って僕への当てつけですか?
!?
「ウォーターアロー」
魔王の娘の放った3本の水の矢がウチの馬鹿2人に向かって飛んでいく。
バレテーラ。
「待ってくれ、さっき俺と居た俺の仲間だ!」
僕は咄嗟に声を出した。
ズガン!ズガン!
と、2人の隠れていた岩が弾ける。
「おい、出てこい。バレてるぞ」
タカシとマサルは場が悪そうにすごすごと頭を掻きながら出てくる。
先程流れるように僕を撒いたことは後から追及しよう。
「べ・・・別に隠れてたわけじゃないねんで。なんとなく出ていける雰囲気じゃなかったからちょっと様子見よかってマサルと・・・なぁ」
「そうそうそう。大事な話でしたら僕達が邪魔をするわけにもいきませんし」
「と、いうことです、すみません。この2人も別に悪気はないですし、何か疾しいこともありませんので」
そうは言ってもコソコソこちらを見ていた2人を警戒されても文句は言えない。
ジトーっとした目で2人を見つめている魔王の娘。
「そちらの方々にも聞いておきましょう。『治癒の血』をご存知でしょうか?」
「エ?ナニソレ?イミワカンナイ」
喋るべきではないと判断したマサルは一応評価はしてやろう。しかし嘘が下手すぎる。
「え?それやったらマーシーの・・」
僕はタカシを睨みつけて黙らせた。お前は0点だ。
「治癒の血は病気や怪我の万能薬になるとお伺いしたことがあります。何か理由があるのだとは思いますが、入手するのはかなり困難だと思いますよ。ギルドの依頼もAランクで出ていたはずなのでそれだけ入手困難だと考えられているはずです」
「ええ、それはもちろん分かっているのだけれど」
ところがどっこい。僕達が治癒の血を入手しようとした場合。
①タカシ笛を吹く
②ヤマト現る
③瓶に詰めて治癒の血ゲット
わずか10秒で手に入れてしまう。
すると側近の大男が一歩前へ出て来た。
「動きや振る舞いから名の知れた冒険者であるとお見受けする。そこで折り入って頼みを聞いてくれないだろうか?今話していた治癒の血が我々はどうしても必要なのだ。どうか協力いただけないだろうか?入手手段や何処で手に入るか調べるだけでも構わない。我々は遠方から来たものでここに協力者も伝手も無いのだ」
おっと、ここで久々。
治癒の血入手の協力をする?
YES ・ NO
僕はチラリと背後に目線をやると、タカシとマサル、2人共コクリと頷いた。
2人にも選択肢が出たということで間違いなさそうだ。今回は勝手に選択したということはない。
さて、後はメリットとデメリットの話しだな。
デメリットは時間と労力だろうか?最悪手に入らないということはないしな。一応一緒に探して手に入れるために色々動いてみて、それでも駄目なら適当な言い訳してストックの治癒の血を出すことができるか。
と、なるとメリットとしては失敗はないってことか。
それにしてもそれ以外のメリットがあまり思いつかないんだよな。なるべく魔王とかとも関わりたくないし。報酬的なものは何か出るのかな?
選択肢は出たままだが僕は話を続けた。
「協力することによって俺たちに何かメリットはありますか?例えば・・・その指輪だったり?」
僕は先程魔王の娘が着けていた指輪を指した。外から見える姿を変えることができる指輪。結構便利そうだし、面白そうだ。
「治癒の血が手に入るのであればどのようなお礼もさせていただきます!」
綺麗な黒髪のお嬢さんが力強く拳を握って訴えてくる。
「どのようなお礼も・・・」
「え?どのような・・」
「なんでもええんやったら・・・」
3人がそれぞれ妄想を働かせる。
「よしヤローども。妄想はそれぐらいにしておこう。」
ここまで出て来た選択肢で考えると基本はやっぱりYES一択。ゲームでもこういう場合は変に回避するよりもイベントに首を突っ込むのが常識。わざわざ向こうから関わってきているのだから何かしら意味のあることである。この3人組にしても僕達よりももっと相談する相手がいるはずだ。単純に冒険者ギルドに相談とかした方が効率が良さそうだしこんな一介の冒険者の若造にお願いする意味が分からない。
ただ、相談されたこっちは入手困難な『治癒の血』を持っているっていう奇跡が起きているわけだからこの3人からすれば現状一番ベストな相手に相談している。
ゲームと考えるなら・・・YES
けれど・・・・・魔王はなぁ・・・・・。
「ええんちゃう?マーシー?」タカシが声をかけてきた「別に俺たちそういうガラでもないけど、困ってる人がお願いしてくるんやったら別に断ることもないんちゃう?けども魔術大会があるからすぐってわけにはいかんと思うけど」
あれ?タカシが割と真面目な常識的な回答をし出したぞ。
「本当か!それはありがたい!魔術大会は明日から2日間だと聞いている。それが終わってからでも問題ない」
「ちょうどいいわ。こっちも出場のエントリーをしているから大会が終わってからお手伝いお願いしたいわ」
ダークエルフのお姉さん。マントを羽織っているがメチャクチャ胸がでかいのがマント越しでもはっきり分かる。
僕の横に居るタカシとマサルの視線が魔王の娘の左に固定されている。そこにいるのはダークエルフのお姉さんだ。
下心か!!
下心なのか!!!
「ありがとうございます!!ぜひお願いします!!」
そう言って深々と頭を下げた魔王の娘。
それに釣られて大柄な魔族とダークエルフのお姉さんも深々と頭を下げた。
こうもされたら・・・・断るわけにはいかないじゃないか。
僕は出ていた選択肢の YES を選んだ。




