僕達は今日も通常運転です
『オアシス』に着き店内へと入るとオーナーのミルウルさんが出迎えてくれた。
「あら、随分と有名人のお客さん」
僕とタカシはテーブルへと案内されて少し話をした。ミルウルさんも大会の会場で観戦していたようで大会の話で盛り上がった。他の女の子も数人がタカシを囲って質問攻めにされる中ミルウルさんがマサルが居ないことを聞いてきたが別で大事な用事があるということだけ伝えるとそれ以上の詮索はしてこなかった。
「マーシー、マーシー。今日は・・・・その・・・・延長は・・・?」
「心ゆくまで」
僕はサムズアップで答える。
僕たち2人は帝都での疲れを目一杯癒し(体力的には疲労一杯だが)帝都最後の夜を堪能した。
すっきりした僕が部屋から出て待合のテーブルでタカシを待っている間ミルウルさんと少し話しをした。
「そう、明日にはここを発つのね?」
「はい。また寄ることはあると思いますのでその時はぜひよろしくお願いします」
「ぜひよろしくはこちらのセリフよ。それに・・・ルガー伯爵の件って・・・あなたたち何かしたの?」
あのおかげで今日ここに来れてるのも一理あるよな。
「特になにもしていませんよ。ルガー伯爵は残念でしたね。まぁ悪いことをしていて聖騎士にしょっぴかれたわけですから自業自得でしょう」
僕はその後30分待たされたあとタカシを連れてホテルへと帰る。
「それじゃあ明日8時半にロビーに集合な」
「今まさにマサルの部屋ではミレーヌさんが・・・・」
「言うなよ。あえて口にしなかったんだから」
「ホンマ乗り込んだろか」
「行ったら行ったで自分が寂しくなるだけだろうな」
「・・・・・・・・・・・せやな」
それぞれの部屋に戻ってひとっ風呂浴びてベットにもぐりこみ目を瞑る。
帝都でやることは全部やった。
武闘大会で優勝、ミズリー師匠との魔法の特訓。召喚魔法を覚えれたのはラッキーだったし、防具も揃えて資金も得た。
あとは・・・・・マサルがどうするか。
まぁ、好きなようにしてくれればいい。マサルの人生はマサルの物だ。
僕の意識は早々に夢の世界へと呑みこまれた。
目を覚ますとここ最近毎朝見て来たスーツ姿の女性スタッフの姿。この気持ちのいい寝起きも今日までか。
「おはようございます。毎朝ありがとうございます」
「おはようございます。今日も良い日を」
大きなあくびをして背筋を伸ばす。
最後に朝風呂に入りますか。今度はいつ入れるかわからないからな。
目を覚ますために数時間前にも入ったが再度風呂へと入る。
「ああーーー。風呂とも当分はお別れかもなー」
帝都に来るときはこのホテルを毎回使おう。
風呂も入ってすっきりしたところで服装も外着に着替える。もちろん冒険者風のチョッキに短めのローブでちゃんと太ももにナイフホルダーも装着。ここに来る時とは打って変わってちゃんとした冒険者ルックだ。
さて、ロビーに行くか。
部屋から出た僕の視線は自然に隣の部屋に向いた。
ロビーにはタカシがすでに待っていた。現在8時15分。なぜタカシはいつも僕よりも先に集合場所にいるのだろうか?
「早いなタカシ」
「待ち合わせには遅れへんのが俺の正義や」
「そうか。カギはロビーに渡してとりあえず冒険者ギルドな」
「了解」
僕とタカシはホテルを出て並びの冒険者ギルドの扉をくぐった。
朝から冒険者ギルドには人が集まっている。
昨日に挨拶は済ませていたがそういえば魔法書をたんまりと預かっていたままだったので返却しておかないといけない。
チラリと受付を覗くが今日はミズリー師匠は受付には座っていないようだ。
「それならいいか」
と、僕は空いていてすぐに対応してくれそうな受付の人に話しかけた。
「すみません、ミズリーさんにお返ししておいてほしいものがあるのですが」
「あら、フルボッコさん。おはようございます。お預かりしますよ」
チーム名で覚えられている。タカシ効果か。
僕は大量の魔法書をカウンターに積んだ。
「魔法書・・・・ですね。かしこまりましたミズリーにお渡ししておきますね」
「はい、お願いします」
特に用事は他にはないかな。ミズリー師匠にも挨拶は済んでいるしな。
「それじゃあ行こうか。西門の近くに馬車のレンタルとかもあったはずだ」
「おーう。メロン師匠には挨拶はええんか?」
「昨日済ましたから大丈夫だろ」
そして僕らは西門へとそのまま足を向けた。
飲食店やボブの肉屋を横目で見つつまっすぐ西門へ。
道中開いている商店で食べ物飲み物は補充しておく。馬車でリアに向かうなら数日かかるだろうしな。
西門はいつもより出ていく人間で溢れている。
「やっぱりこのままリアへ向かうヤツは多いみたいだな」
西門の右手に馬の看板を出したカウンターが見える。ここが馬車をレンタルしてるのかな?
「すみません、今日今からリアへ行きたいんですがここで馬車のレンタルとかできるんですか?」
「ああ、いらっしゃい。リアだね。定期便が9時から出るからそっちに乗るかい?それとも別で馬車もレンタルできるからそっちにするかい?定期便なら片道1人銀貨3枚。馬車のレンタルなら御者も込みで大銀貨2枚になるよ」
「馬車をレンタルでお願いします。御者もお願いします。馬車の扱いはわからないので」
「はいよ。じゃあ先払いでよろしくね」
僕は大銀貨を2枚手渡した。
「人数は2人かい?大人なら8人くらいまでなら乗れるけど?護衛がいたり・・・ってオイオイ大会の優勝者がいるんなら護衛なんていらないな」
「はい大丈夫です。荷物も大してないですし、人数は2人か3人になりますので」
「まぁ今は護衛なんていらないけどな。リア行きの馬車はこの時期大量に出てるから金持ちの護衛だけでも十分人数いるからね。魔物が出ても逆に取り合いになるくらいさ」
おーいジャイス!と、受付が声をかけると横で馬の手入れをしていた若い男の子がこちらに近寄ってきた。
「彼が御者を勤めるよ。腕は問題ないから安心しな」
完全に子供じゃねーか。14とか15くらいの茶髪の短い髪にベレー帽を被った少年だ。
「よろしく」
小さい声であいさつした少年ジャイスは僕とタカシを連れて西門から帝都を出ていく。
門を出て右にすぐ逸れると馬小屋が並んでいる。普通の木の柵の小屋や豪華な造りの馬小屋まである。
「準備しますので待っててください」
ジャイスくんは慣れた手つきで馬を誘導して馬車の前まで連れていき馬車を取り付ける。
馬は2頭で荷車の方も結構大きい。畳3枚分くらいの広さで2~3人くらいなら十分寝るスペースはある。座席がついているわけではなく何もないスペースに絨毯みたいなものが敷かれているだけだ。
「お待たせしました。準備は大丈夫です。何もお持ちではないようですが、食べ物や飲み物はどうされますか?今から買いに行きますか?」
「ああ、ありがとうジャイスくん。アイテムボックスがあるからリアまでは十分だ。君1人増えても問題ないよ」
「いえ、僕は一応ありますから」
そう言うジャイスくんは手に持ったリュックを掲げた。
「ジャイスくん、申し訳ないが出発は9時半だ。まだ30分くらいあるから少し待機していてくれ」
「分かりました。すごいですね時計をお持ちなんですね?それでしたら出発時間に声をかけてください。それまでお待ちしています」
ジャイスくんはそう言うと馬小屋の他のスタッフに声をかけて自分は御者台に腰をかけた。
「マサル・・・・来るんかなぁ?」
タカシは馬車の荷台に腰をかけて呟いた。
あと30分・・・・か。
僕は手元にキセルを用意し葉っぱを詰める。
指をビッと弾くと火魔法で火をつけて煙を吸い込んだ。
「マーシー、俺も俺も」
タカシも用意したキセルを咥えて火をねだってくる。指を弾いてそれっぽく火をつける
「なんなんその火のつけ方。ちょっとかっこいいやん」
ちゃんとマッチも持っているがこの方が早い。そしてちょっと自分に心酔できる。
「マーシー、マサル来ーへんかったらどうする?」
「どうするもこうするもないんじゃないか?」
「2人で旅続けるのはいいとして、もし元の世界に帰れる算段がついたらどうするん?」
「その時はマサルに決めさせるさ」
「元の世界に帰ることを選ぶのか、この世界で女の子とイチャイチャすることを選ぶのか・・・か」
「その時は俺も、タカシも、どうするのか考えないとな」
「せやなー。それよりも今この瞬間マサルが友情をとるのか?愛情をとるのか?やけどな」
「そうだな。俺なら女を選ぶな」
「当たり前やん。俺も愛情選ぶに決まってるやん」
タバコを吹かして帝都の西門を見る。
人の出ていく姿が多く貴族の偉いさんっぽい人から冒険者風のガラの悪そうなヤツも多い。
そんな中、見覚えある前掛けをした人物が目に入った。
「悪い悪い、遅くなった」
たったった、と小走りで近づいてくるマサル。
「マサル、遅いわ。時間ギリギリまでイチャイチャしとったんか?」
「おう、ついさっきまで腕組んで買い物してた」
ドスッドスッ、とタカシのボディブローがマサルに突き刺さる。
「痛っ!痛い!」
「ほらほらやめておけよ。出発するぞ2人とも」
「お前は!ミレーヌさんの足を!ミレーヌさんの肌を!ミレーヌさんの乳を!堪能したんかーー!!」
「おう、最高でした」
「死ね!!マサル!!ここがお前の墓場や!!」
「やめやめ、タカシも昨日堪能しただろうが。置いていくぞ」
僕はジャイスくんに声をかけた
「待たせたね。出発しよう」
「はい分かりました。何かあればここの扉を開けて声をかけてください。閉めれば大声じゃなければ外に声は聞こえませんので中では自由にしてもらって大丈夫ですので」
いやいや。
中で3人でお楽しみくださいって意味が頭を横切ったがすぐにかき消した。
「ほら2人とも、騒いでないで乗れ」
僕は2人を馬車に放り込んでジャイスくんに合図をする。
ガタガタと動き出す馬車。タイヤにはゴムではないが柔らかい素材を巻いていたのでそれが一応クッションになっているのだろう、揺れは思ったよりも少なかった。
「せこいなー、せこいわー。俺だって、俺だってマリーちゃんと・・・」
いじけるタカシをマサルが笑いものにしている。
そこには何も変わらない日常があった。
友情と愛情どっちをとる?
僕は愛情だと答えた。
タカシは愛情だと答えた。
マサルもきっと愛情だと答えるだろう。
けれどもマサルは戻ってきた。
実際僕が同じ立場だったら。
タカシが同じ立場になったら。
おそらく僕もタカシもこっちに戻ってくるのだと思う。
戻ってきたマサルを普段通りに出迎えたタカシと僕。
そしてなにもなかったかのように笑うマサル。
僕達は今日も通常運転です。
「なぁなぁ、なんでミレーヌさんと残ってイチャラブな毎日過ごそうと思わんかったん?」
「え?俺いなくなったらこのチームのマスコットキャラクター、一体誰ができるんですか?」
「・・・・・・・・前から言おうと思っててんけど。その前掛けめっちゃダサいで」
「死ね!!俺はなんと言われようとこの前掛けの悪口だけは許さん!!」
「マジで暴れるな!!馬車が壊れるだろうが!!このバカ2人とも!!」




