俺たちはお邪魔ってこと
「そっかぁ、明日には行っちゃうんだー。もうちょっとゆっくりしていけばいいのにー」
マリーちゃんがタカシに寄りかかりながら残念そうにしている。
「今度はリアでマーシーが魔術大会で優勝したらその賞金でまたここに来るわ」
「リアの魔術大会に出るんですか?」
セラちゃんのその胸の膨らみがつぶれるほどに僕に押し付けられる。
「ちゃうちゃう、出るんやなくて優勝するんや。マーシーやったら間違いないで」
「ああ、ベストを尽くすよ」
「マーシーくんほどの実力ならもちろん優勝も狙えるでしょうね。聖騎士の人たちがスゴイスゴイって言っていたわよ」
ミレーヌさんは会場で携わっていた魔法使いの3人がそんなことを言っていたと話してくれた。ミレーヌさんに回復魔法をかけていたあの医療班だな。
「ああーん魔法使える人って尊敬しちゃうーー」
と、横で僕の肩に頭を摺り寄せているセラちゃんではあるが何を隠そう彼女は魔法使いだったりする。
以前は見ることもなかったが一応心配でミレーヌさんのステータスをさっき確認した時にマリーちゃんとセラちゃんのステータスも一緒に確認。マリーちゃんはスピード、パワーが100を超えた格闘家。セラちゃんは魔力150の魔法使いだった。火魔法と土魔法の使えるそこそこ腕のたつ魔法使いだ。
「マーシーさん、私に魔法使ってないですよね?」
「え?使ってないけど・・・」
「うそ。魔法にかかっちゃいました・・・。恋に落ちる魔法に♡」
怖いよ、この娘。
「ええ!?俺もマリーちゃんにその魔法使いたいわ」
乗っかって来るんじゃない。
帝都の人間が全員これくらいのステータスということはない。おそらく3人共元々冒険者なのか、それとも現役なのか?こちらから聞くことはないと思いその場は口を塞いでおく。
横について僕のお酒のグラスが空くとすぐにお酒を注いでくれるセラちゃん。
「雷魔法と回復魔法が使えるなんてどこかの神官や巫女の家系なんですか?」
そういえば魔法は血統で素質が全然違うと誰かが言っていたか。確かにタカシとマサルは全然魔法の才能ないしな。それ以外が規格外だが。
「いいや、俺たち3人田舎町の出身だからそんなことないよ。魔法は小さい頃から得意ではあったけどちゃんと努力もしたしね」
「努力だけじゃどうしようもないことも魔法じゃ多いんですよー。私なんて・・・・。はい、これも美味しいですよ。あーーーん」
もぐもぐ。うん美味しい。
「マサルちゃん今日はご飯あまり食べてないんじゃないの?せっかくタカシくんの奢りなんだからいっぱい食べなきゃ」
「はい、いただいてます。けれど今日は食べるよりもミレーヌさんとお話することの方が楽しくて」
「あら、ありがとう。あの時闘技場で助けに来てくれた時の後姿かっこよかったわよ」
「すみません、マーシーには止められもしたんですが、我慢できなくて」
「そうね。あれは違反行為ですものね。でも・・・・やっぱり嬉しかったわ」
「なんやなんや!ええ雰囲気やんけマサル!」おやじが割り込んできた。そっとしておけよ「マサルが行かんかったら俺が行ってるところやったけどな!けど俺はマサルが出てくるって分かってたから譲ったったんやで!」
「そうね、タカシくんもありがとう」
「ええんやええんや。その感謝の言葉は全部今日はマサルに譲ったんねん。だってあの時ミレーヌさんの前に立ってたマサルは・・・・・そりゃもうかっこよかったからなぁ」
「ああ、そうだな。ここ何年かで1番かっこよかったよ。オレもタカシもあんなことできないな」
「ええー、私が同じ立場だったら助けてくれないんですかー?」
「セラちゃんが同じ立場だったら・・・もちろん俺が助けるよ。すべてを敵にまわしてでも」
「キャー、マーシーさん素敵――!」
勢いよく抱き着いてくるセラちゃん。
「マリーちゃんが同じ立場やったら誰よりもさきに俺が助けに入るで!!すべてを敵にまわしてでも!」
「あー、タカシくんマーシーくんと同じセリフー。そんなんじゃハグはできないなー」
俺と同じ状況を期待したのだろう、ちょっと悔しそうにタカシが拗ねている。
そんなタカシを見て他の5人は笑顔を見せる。
「リアの魔術大会の後はどうするんですかー?」
セラちゃんは新しいお酒を注いでくれている。
「魔術大会の後はジパングに行こうと思っているよ」
「ジパングって、お侍さんの居る島国ですよね?」
「俺たち3人とも出身はジパングなんだよ。けれど実は行ったことがなくてね」
「ジパングかー。帝都みたいに活気のあるイメージはないけど自然が豊かなイメージかなー。あと、お侍さんとか貴重な鉱物が採れるとかは有名ですね」
「貴重な鉱物?ミスリルとか?」
「昔はオリハルコンやヒヒイロカネとかが採れたみたいですけど。昔の話ですよ、そんなのが採れるならもっと発達した街になってるはずですし」
オリハルコンを求めてジパングへ・・・か。何かのイベントでもあればそっちへと流されることもあるか。まぁすぐにでも必要なものじゃないしな。ジパングに行った時にはそういうのも手に入ればいいなくらいで覚えておこう。
すでに時刻は10時にさしかかっていた。呑み始めたのは5時台だったため相当呑み食いしている。常に楽しくおしゃべりしていることもあり時間が経つのを忘れて全員が楽しんでいたが誰かが止めないとこのままずっと居座ってしまいそうだ。
「タカシ、マサル。今日は十分楽しんだか?」
「ああ、そうか。もうこんなに時間過ぎてたんか」
「ずっとここに居るわけにもいかないですしね」
「それじゃあセラちゃん、今日はありがとう。また会いに来るよ」
「また帝都に戻ってきてくださいね。次もまた待ってます。ちゃんと指名してくださいね」
名残惜しみながら僕は席を立つが今日は女の子3人共が見送りもしてくれるようでそれぞれが腕を組んだり手を繋いだままで入り口まで歩いて行く。
僕とマサル、それにセラちゃんとミレーヌさんが店を先に出てタカシの会計を待っていた。遠目でタカシがマリーちゃんに猛烈アタックをしているのが見える。アフターがどうのこうのと言っていたな。
店の前は人通りは少ない。ここはこの歓楽街の端に位置するため入り口や中央に比べると通行人や客引きはあまりいない。
「じゃあね、セラちゃん」
僕は名残惜しいがセラちゃんの腕を離してセラちゃんの肩をポンとたたく。
すると会計を済ませたタカシが店から出てきた。口をへの字にしてマリーちゃんの肩に腕をまわしている。
「不肖タカシ!!アフターに失敗いたしました!!」
と、敬礼のポーズをとるタカシ。
「残念だったなタカシ。次回に期待だな」
「それじゃあね、改めて優勝おめでとう。またいつでも来てね」
「マーシーさん、また指名お待ちしてます」
そしてマリーちゃんとセラちゃんは店に戻っていった。すれ違ったミレーヌさんに笑顔を向けて僕たちに手を振って店内へ。
そして僕達3人とミレーヌさんがこの場に残った。
「私、元々今日はお店に出ない予定だったの。試合の後だったしね。けれどマサルちゃんたちが今日来るって言っていたからマサルちゃんたちだけってことでお店に来たの」
「え?ホンマに??ありがとうミレーヌさん。マサルもミレーヌさんに会えて嬉しかったと思うわ」
「だから今日はこのままお店には戻る必要ないわ。後は帰るだけ」
「ええー、そうなん。じゃあ今から4人で改めて呑みなおそうや!まだまだいけるやろ」
真顔のマサルに対してタカシの浮かれっぷりが半端ないな。この酔っ払いが。
「スリープ」
「はにゃっ」と、タカシはその場に倒れていびきをし始めた。
僕はマサルの横に並びマサルの肩に手を置いて
「マサル。ホテルのチェックアウトは明日の朝9時だ。その時間までにフロントにカギを返しに行って俺たちはそのまま西門からここを出ていく予定だ。タカシと俺で9時になる前には準備をして西門の外で待ってるからタイムリミットは9時半にしよう。門の外で9時半までは待ってる。もしその時間までにマサルが来ないなら俺たちはそのままリアの街へ行く」
「マーシー・・・」
「異世界で惚れた女と一緒に居れるならそれはそれで俺はいいと思うよ」
僕は大会の配当金の入った袋をマサルに手渡してマサルの背中をポンと叩いた。
「俺だったら冒険者として魔物をただ狩る人生よりも好きな女と一緒になることを選ぶよ。マサルも好きにすればいい」
そして僕はタカシを担いでマサルとミレーヌさんに笑顔を向けた。
「マーシー。サンキューな」
マサルとミレーヌさんはそのまま腕を組んで歓楽街の入り口の方へと消えていった。それを見送った僕は2人が見えなくなってからタカシを担いだまま逆方向へ。通りを曲がったあたりでタカシを起こした。
「ミ・・・・・ミレーヌさんとマサルが・・・・」
わなわなと震えているタカシ。
「なんでやねん!!マリーちゃんはアフターNGやのになんでマサルがお持ち帰りしてんねん!!」
確かに・・・・な。
「落ち着け。そんなにガツガツいくから断られるんだよ。マサルは・・・たまたまだなあれは。窮地を救われた相手に恋をするなんて漫画みたいな展開だが、あんなことされたら・・・・惚れてしまうんじゃないか?」
大会の時のマサルの行動は正直男前だったからな。あれだけ純粋な気持ちで助けられたら心も動くことだろう。今回の恋のキューピットは魔族だったってことか。
「いやや!いやや!俺もアフターしたいーー。マリーちゃんを!俺にマリーちゃんをーー!!」
「そっか、それじゃ今から『オアシス』には俺一人で行ってくるか」
「!?」
「タカシはマリーちゃんが仕事終わる時間まで出待ちをするってことだな?そして1度断られたがもう一度成功するかわからないアフターをお願いしに行くということでいいんだな?」
「え??『オアシス』行くん??ちょ、ちょっと待ってや」
「俺のことは気にせずマリーちゃんの所へ行ってくれて構わないよ。俺は1人寂しく夜の街を堪能してくるだけだから」
「そっかー、やっぱりマーシーを1人にするわけにはいかんよなー。マリーちゃんも大事やけどやっぱり親友を1人にするわけにはいかんわー」
あっさり掌を返したタカシは笑顔で僕の肩を組み男2人は『オアシス』へと向かって行った。




