やはりここは戦場らしい
日が沈みかけてそろそろ夜の時間にさしかかるこの時間帯。以前にも足を踏み入れたこの歓楽街はちょうど賑やかになりはじめたところだった。
客が店の前を店選びしながら闊歩し、男性女性の客引きがそれに対して声をかける。
僕達も少し歩くだけですぐに声を掛けられたが今日は向かう店が決まっているため「すみません」と軽く頭を下げながら奥へと歩を進める。
あ!!タカシだ!!飯食ってかねーか!!
大会の優勝者じゃねーか!!呑んでけ呑んでけ!!
さっきは凄かったわね、サービスするから寄っていってちょうだい。
女騎士を助けに入ったヤツじゃねーか!お前も呑んでいけよ!サービスするぜ!
大会を見ていた人も多く、2人は色々と声をかけられていた。やっぱりタカシの方が声がかかることは多かったが。
「ごめんな、今日は行くとこ決まってんねん。また今度寄らせてもらうわ」
当たり障りのない返事を律義に返すタカシ。
そうしているうちに通路の行き止まり手前でお目当ての『楽園』に到着した。
豪華な扉を開けると執事風の男性スタッフが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませクラブ『楽園』へ。本日も3名様でよろしかったでしょうか?」
この店員・・・・前に来たのを覚えているのか。
「ああ、3人やけどすぐにいける?」
「かしこまりました。奥の部屋へどうぞ」
僕達は奥へと案内される。
今日は早く来たこともあり他に客は1組しかいないようで店内はまだ空席が目立っている。
以前と同じような奥の席へ案内されると今回はさらに奥に折れて他の席からは隔離されたような個室に近い席に案内された。
「どうぞこちらへおかけください」
勧められるように席に着く男3人。
「こんな席があるんですね?他の客の視線も気にしなくていい良い席ですね」
僕は思ったことをそのまま口にした。
「タカシ様は特に。マサル様もマーシー様も一躍有名人でございますから他のお客様の目につけばお声を掛けられることもあるかと思いまして。失礼しましたお気に召さなかったでしょうか?」
なんて優秀な人だ。
「いやいやありがとう。さっきから声かけられてしゃーなかってん。こんな配慮してくれるなんてありがたいわ」
タカシが笑顔で返す中僕は疑問に感じた。
「タカシとマサルは分かりますが、よく俺の名前も知ってましたね?」
本選出場をしていない僕の名前まで知っているなんて中々の物好きなのか?それとも別の理由があるのか?
「大会は予選から拝見させていただきました。その中で当店のご利用をいただいた方の名前は職業病のように覚えてしまいまして。それに知り合いがマーシー様とあたったというのも要因かと思います」
あ、僕ミレーヌさんに負けたもんな。
客の名前と顔を覚える。当たり前のようだが、ここのスタッフは優秀だな。
「それでは当店のシステムはご存じかと思いますが説明はいかがいたしましょうか?」
「ええわええわ、とりあえず指名させてもらってええ?」
「かしこまりました。指名とおっしゃられますと以前と同じ女性スタッフになされますか?それとも何人か見て判断されますでしょうか?」
「マリーちゃんで」
「ミレーヌさんで」
・・・・・・・・・・・・・え?
2人とも即答っすか。
「じゃ、じゃあ俺はセラちゃんで」
「マーシー!お前!じゃあってなんやねん!!セラちゃんに失礼やろ!!どういうつもりやねん!!」
「マーシー貴様一体ここに何しにきたんだ?俺はミレーヌさんに会いに来たんだ!ひやかしなら帰れ!!」
「何しにって?酒を呑みにきたんだよ」
「はぁ、これだからマーシーは・・・。マーシーよ。キャバクラってのはな、酒を呑みにくるところじゃないんや。いや、酒は呑むよ。呑むんやけどな。ここはマリーちゃんと親密になれるところや!マリーちゃんと楽しくおしゃべりできるところなんや!そして俺は今日マリーちゃんとのアフターを実行させるんや!そんな中途半端な気持ちでここに来てどうするんや!?」
「おい、お前たち。まだ一滴も酒呑んでないよな?」
「もうええわ!ボーイさん!マリーちゃんとミレーヌさんとセラちゃんでよろしく!ちなみに今日も指名し続けるから」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
そう言って下がっていったボーイさん。
必死の形相で僕を睨みつけるタカシ
「そんなに睨むなよ。楽しく呑もーぜ」
「マーシー、ここは戦場やで。戦意がないとあっという間にやられてまうで」
そうか・・・・ここは戦場なのか。僕には理解できないな。
僕はマサルに声をかけた
「マサル、ミレーヌさん居てよかったな。流石に今日はいないかと思ったが」
「会場で少し話したときに今日の夜に来るって俺から言っておいたからな」
そうか、試合後に2人になった時に話したんだな。
女の子3人はすぐに男性スタッフとやってきた。
「お待たせー。今帝都で一番の有名人さん」
長い金髪の色黒のマリーちゃん。真っ白の胸の大きく開いたドレスで笑顔満開でそのままタカシの横の席につく。
「こんばんは、マサルちゃん」
ミレーヌさんも笑顔でマサルの横についた。昼間に見た彼女ももちろん魅力的な感じだったが店に立つ彼女は綺麗な茶髪を今は後ろに綺麗に止め、化粧をした目元や口元が色気のある大人の女性を演出している。肩や腕、足も大きく露出しているが今日受けた傷は全く見当たらない。そんなミレーヌさんを見て僕は少しホッとしていた。
「こんばんは、マーシーさん」
僕の隣についたセラちゃん。綺麗な黒髪、そして大きく開いたドレスの胸元。今日は白でなく水色のワンピース姿で早速僕の右腕をがっちり掴み僕の理性に先制攻撃だ。
「誰でもいいかもしれませんが『じゃあ』今日はセラがお相手しますね」
皮肉を込めた言い方をしてくるセラちゃんが笑顔で僕の腕に寄りかかる
「違う、違うよ。そういうわけじゃないよ。俺セラちゃんと一緒にお酒呑めて最高だよ」
「えーー、ホントー?」
ジト目のセラちゃんの右手が僕のふとももに。
「よっしゃ!今日は俺のおごりやからじゃんじゃん注文したってや!!」
タカシは公言通りに優勝賞金の金貨10枚で奢ってくれるようだ。なんて正直なヤツだ。僕の懐には配当金とタカシがもらった魔族の討伐金で金貨50枚以上あるのにな。
「優勝の賞金をここで使ってくれるんだ?ありがとうタカシくん。太っ腹!」
マリーちゃんがタカシを持ち上げてきた。もうすでにこの場は戦場と化しているようだ。
「ミレーヌさんは何を呑みますか?体調が優れないようでしたらお酒じゃなくてもいいですよ」
「大丈夫よ、体はもう元気だから。一緒に呑みましょう」
マサルがミレーヌさんの身体に気を使っている。紳士に見せようとしているように見える。
「マーシーさんは何を呑むんですか?」
セラちゃんが僕にしがみつきながら聞いてくる。
「えっと、最初はビールにしようかな」
「じゃあ私も同じのにしようっと」
そして全員分のお酒と適度な量の料理がテーブルに並んだ。
「ほら、タカシ。今日の主役だろ?」
「ああ、せやな。それじゃあ」と、タカシはその場に立ち「今日は俺の為に集まってもらってありがとう!」
陽気に挨拶を始めたタカシ。別にタカシの為に集まったわけではないが、まぁ祝勝会も兼ねてるしな。
「俺、帝都に来て一番うれしかったのはこの『楽園』に出会えたことと、マリーちゃんに出会えたことやわ」
「おい、武闘大会優勝はどこいった?」
「いや、タカシの言う通り。俺も帝都に来て一番の幸せはミレーヌさんに出会えたことです」
横からセラちゃんの視線を感じる・・・・。
「そ・・・そうだな、うん。オレもセラちゃんに出会えた奇跡に感謝してる」
「ほんだら今日は楽しんで呑もう!!こんな魅力的な女性3人と俺たちの再会を祝して!!」
「「「乾杯!!!」」」
「ミレーヌさん、体の方は本当に大丈夫ですか?」
僕はやはり心配だったためミレーヌさんに声をかける。
「ありがとうマーシーくん。あなたの回復魔法のおかげですっかり大丈夫よ。私も改めてお礼を言いたかったのよ。ありがとう」
「いえ、無事でなによりです。それに助けたのは俺じゃなくてマサルですよ」
「そうね。ありがとうマサルちゃん」
「ミレーヌさん、お礼は何度も聞きましたよ。今は楽しみましょう」
マサルがあまり料理に手をつけていない。珍しいな、緊張してるのか照れているのか?
すかさずセラちゃんが
「はい、あーーん」
料理を僕の口へ運んでくる。
「あーーん。もぐもぐ。うん美味しい。はい、セラちゃんも、あーーん」
僕は早くも毒を抜かれている。
「そうなんや、マリーちゃん試合見てたんや。どうやったどうやった?」
「かっこよかったーー。ちょっと惚れちゃったかも」
「マーージでーーーーー!?マリーちゃんが見てるって分かってたらあと3倍は強かったのにーー」
え?なにそのドーピング?
ミレーヌさんの無事を確認できてよかった。麻痺も毒も怪我もどれも影響はなさそうだ。闘技場で裸を晒したこともマサルが庇っていたこともあり気にしていない感じだ。
そして話は僕達3人が明日には帝都を発つ話になった。




