それならここからは延長戦ってことで
「それでは優勝者であるタカシ選手にはルーシア王様より直々に優勝賞品並びに優勝賞金の授与が行われます!!」
このままの流れで贈呈式か。こちらとは反対側に人が3人くらい通れる階段が闘技場から伸びておりそれはそのルーシア王の観戦している広いスペースに続いている。脇には聖騎士のアルベルトとレイアガールが並んでいてルーシア王の横に綺麗に着飾った女性の持ったトレイに木刀らしきものと豪華な袋が用意されていた。
「それではタカシ選手!!栄光の階段をお進みください!!」
タカシは言われるがままにゆっくりと階段を上り始めた。
観客からは鳴りやまない拍手と歓声。全員がスタンディングオベーションでタカシの優勝を称えている。もちろん僕とマサルも一緒に拍手を送っている。
ルーシア王のいる空間の前まで来たタカシは足を止めてルーシア王と向かい合った形で止まった。タカシの目の前にはガラス張りの壁があるため中には入れない。
するとアルベルトが左手をさっと上げると目の前のガラスがスッとなくなった。
すげえ、あれガラスじゃなくて魔法だったのか?
タカシもビクッとして驚いていたがフフンと驚いてないよみたいな顔をしている。
そしてさっとルーシア王の両脇に立つアルベルトとレイアガールが片膝をついた。チラッとアルベルトはタカシに目配せをしたようであわててタカシも片膝をついて頭を下げた。
「大丈夫ですか?すっごい心配ですが。タカシが王様と一対一なんて小学生の前に野生の飢えたライオン差し出してるような感じじゃないでしょうか?」
「ああ、とにかく何もしゃべらないことを祈るばかりだな」
そしてルーシア王が口を開いた
「ここまでの活躍見事であった。武闘大会を毎年見てきたがその中でも一番強い格闘家であったと思うが、どう思うかね?アルベルト」
「はっ、私も過去これほどの実力者が出場していたのは記憶しておりません。まさに最強の座にふさわしいかと」
「決勝戦。本音を言えばもっと長く見ていたかったが一瞬だったな。一体なにをしたか分からなかったが説明はできるかね?」
「せ・・説明・・。はい、えーと。開始と同時に真っ直ぐ行って、行きまして。裏拳かまして、ぶっ飛ばした、ぶっ飛ばしました」
腹を押さえて笑いをこらえる僕とマサル
「なんと、単純に真っ直ぐ拳を振っただけと。格闘家としての洗練された技術の成せる業ということか。タカシ・・・だったかな?優勝賞品と賞金は今から贈呈するが、他に何かあれば希望を言ってもかまわんぞ。良いものを見せてもらった褒美としてなにか用意させてもよいが、なにかあるか?」
ザワザワと会場内がどよめいた。王様からこんな提案が出ることなんてないのだろう。
タカシ・・・・・頼むからいらないことは喋るなよ。
「いえなにも・・・・あ、せやったら。さっき試合中に乱入したヤツ。あいつも悪気はなかったんです。惚れた女の子のあんな姿見てられんかっただけなんです。俺が同じ立場でも同じようにしたはずやし。許してもらえるんやったらお願いします」
「タカシ・・・・」
マサルがボソッと呟いた。
タカシ・・・・らしいか。
王様はチラリとアルベルトを見た。
「はっ。私も同じ気持ちでございました。寛大な処置、誠に光栄にございます」
「ふむ、それだけでよいか?」
「はい。ありがとうございます。十分です」
「希望の役職や聖騎士に推薦することもできるが?」
「いえ、俺にはもったいないです。ありがとうございます」
「そうか、よし。それでは優勝賞品を」
王様は椅子から立ち上がると脇で膝をついて準備していた綺麗な女性がトレイを王様の前に差し出しそれを手に取る王様。それを持って1歩2歩とタカシに近寄り
「この度の試合。見事であった今後の・・・・」
!?
ギイィィィン!!
!!??
何かを弾いたような音が響いた。
それをなしたアルベルトはタカシの背後にその大剣振りかざしている。
タカシは大剣が振られた時には身体を背後に振り返り何かに備えてすでに戦闘態勢だった。
会場内は騒然としていた。王様の前でアルベルトが大きく剣を振り上げたのだ。ただごとではないと感じ、なんだなんだと声を上げる。
「レイ!!王を守れ!!」
すぐにレイアガールは王様の前に立ち剣を抜いた。
「なんじゃ!どうした!!」
「王!!お下がりください!!すぐにマジックシールドを展開しろ!!」
すぐに階段を駆け下りるアルベルト。それにタカシも追従していた。
「マーシー、なんだ?」
「ああ、魔族が何か飛ばしたみたいだ」
壁にめり込んでいたサイモンは俯きながら立ち尽くし地面には白いローブの魔法使いが倒れていた。
ギギャギャギャギャギャ!!!
獣ではない、虫?虫のような鳴き声を上げながらサイモンは手に持っていたナイフを階段を駆け下りてくるアルベルトとタカシに投げつけた。
キイン!キン!
アルベルトはそのナイフを大剣で弾き階段を降りるとサイモンの元へそのまま向かっていく。
「敗者はおとなしく負けを認めるべきだ」
アルベルトは一直線にサイモンに大剣を振るうがサイモンは華麗にジャンプをすると5メートルくらい飛び上がりそのまま先ほどと同じようにギャギャギャと鳴いた。
すると背中の衣服の部分がもぞもぞと奇怪に動きそこから衣服を突き破って羽が飛び出した。羽は羽でも鳥のようなものではなく虫の羽。その羽は振動し、サイモンを空中に停止させた。
そして鳴き声とともに顔にヒビが入り弾けた皮膚から禍々しい形相の新しい顔がその姿を現す。ビリビリと衣服が裂け、その中から出て来た数本の腕、お尻のあたりには大きな袋みたいなものにその先にはでっかい針のようなもの。
そうその姿は
「なになに?蜂?蜂人間?」
「ああ。あれだけでかいリアルな蜂は正気度を失うな」
キャアアアーーーー!!
ま・・魔族か!!
観客席の人間はその姿を見た途端に我先にと出口へと逃げだす。
会場中がパニック状態に陥り客席全体で悲鳴が聞こえてくる。
魔族は鳴き声を上げながら手を前にかざし先ほどと同じような攻撃、どうやら針のようなものを王様のいる場所へ放つが今度は張りなおされたマジックシールドにより防がれた。
「人間めェ!人間めェェェェェェェ!!」
その時宙に浮かぶその魔族に向かって何か光る斬撃が飛んでくる。どうやらアルベルトが魔法かスキルで宙に浮かぶ魔族を攻撃したようだ。
しかしそれはむなしく魔族に躱され空の彼方へ。
「人間風情がぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は闘技場にいるアルベルトとタカシめがけて針を飛ばす魔族。
アルベルトはこれを大剣で弾く。
タカシは器用にすべてをサイドステップで躱した。
人の流れが観客席を覆うが僕はその流れに逆らって魔族の方へ駆け出した。
控室から鎧を着こんだ兵士が数人、ゲラハルドさんと十兵衛さんの姿もあった。
「皆気をつけろ!!針のようなものを飛ばしてくるぞ!」
アルベルトは視線は魔族に向けたまま声を上げる。
「隊長さん!俺にやらせろ!決勝戦の延長戦ってことやろ?」
「馬鹿言うな!もうそんな問題じゃないだろう!」
「ゲラハルド殿の言うとおりじゃな。とりあえず注意をこちらに向けねばあれを客席に飛ばされたら死人が出るわい」
ギャギャギャギャ!!
さらに針を闘技場の面々に飛ばしてくる魔族。
今度はゲラハルドと十兵衛の方に飛ばしてくる。
兵士は大盾を持っており兵士とゲラハルドはその大盾で針を防ぐ。
「十兵衛さん!!」
タカシが咄嗟に叫ぶと十兵衛は腰の刀を抜き、目の前で刀を二振り。十兵衛に向かって飛ばされた針はむなしく地に落ちた。
「ははっ、心配はいらんかったか」
タカシはすぐに魔族に目線を向けた
「よっしゃ、ほんだら今度は俺の必殺技の出番やな」
タカシの右の掌がぼんやり光ると野球ボールくらいの光の球が現れる
「必殺気功弾!!」
振りかぶって勢いよくその球を投げつけるタカシ。その光の球は猛スピードで魔族の5メートルくらい横を通過していった。
「・・・・・・・あかんわ、そういえば俺野球ってあんまりやったことないわ」
上空から魔族の針が降り注ぐ中闘技場内の面々は防戦一方でその針を防ぐのみだ
「まずいな、魔法を放ってもおそらくこの距離では躱されるだけだろうな」
アルベルトがそう話すとタカシが何かに気づいた。
「大丈夫、そろそろあっちがなんとかしてくれそうやわ、もうちょっと我慢しよか」
タカシは観客席を走るマーシーとマサルを見つけて笑顔を見せていた。




