そいつはダメだよ、サイモンさん
「それでは皆様!!頂点を賭けて!決勝の椅子はひとつ埋まりました!!残すもうひとつの椅子を賭けて準決勝第二試合を行います!!」
「どっちを応援するんだ?マサル?」
「もちろんミレーヌさんだ」
「そうしたら決勝でミレーヌさんがタカシに敗れる図になるが」
「それでもミレーヌさんの負けを祈るわけにはいかん」
「ああ、そうだな」
ステータスは目安程度で考えないといけないことは分かっているが、全体的にミレーヌさんと魔族のステータスの差は大体倍くらいだ。ミレーヌさんのステータスは他の選手に比べれば高い方だがスピード以外は十兵衛さんと同じくらいで力も体力もスピードも200手前くらいだが魔族の方は力が345、体力325、スピードに至っては415。
あの鎧に攻撃が通るか通らないかで勝負が決まるかな。
「ベリアン選手、ハゲール選手と一流の冒険者達を全くの無傷で退けたその強さ!まだまだ実力は出していないように思えます!!真っ黒のローブに真っ黒のマフラーをしたその佇まいに相対した選手は触れることすらできずに崩れ落ちることになる!!サイーーモーーン!!」
「この威圧感からまさか中の人間があのような美人だったと誰が予想できたでしょうか!!女性だからといってもその実力はここに残っているだけで十分な証明になります!!この巨体から繰り出されるパワーとスピードに逃げ道はない!!ミラーベルーーーー!!」
大歓声が鳴り響き、お互いはただ相手を見据えている。
ミレーヌさんに対する男どもの歓声がやけに増えていたが、まぁそういうことだろうな。
「それでは只今より準決勝第二試合を行います!!!」
魔族は動かないがミレーヌさんは肩に携えた大剣を握りしめた。
「始め!!!!!」
大剣を構えたミレーヌさんが低い姿勢に構える。いつも通りの突進の準備動作だ。魔族はただ見ているだけでまだ動かない。
ドン!!
と、地面を蹴り一瞬で距離を詰めるミレーヌさん。振りかぶった大剣を斜めに切りつける。
魔族はバックステップで躱し着地。
躱されると分かっていたのかミレーヌさんは二歩目と同時にそのまま素早く突きを放つがこれも魔族は軽々と右に躱し距離をとった。
そして今大会初めて魔族は武器を手にした。
腰に下げていた服装に合わせたような真っ黒なナイフを二本。両手に持ち構えた。
「武器出してきましたね。モグモグ。素手じゃあの鎧は無理だと判断したか。モグモグ」
「よっぽど切れ味がいいナイフなのかな?」
ミレーヌさんも警戒しているがリーチも考えると自分が有利だと感じたのか剣の届く範囲くらいから横なぎに、そして返して足元を狙うような斬りつけを繰り出す。
しかしそこは魔族のスピードの方が上でうまくサイドステップで躱すとミレーヌさんの懐に入り込む。
咄嗟に左腕を振り迎撃しようとするミレーヌさんだが懐に入った魔族は
ギイン!ギイン!
と2振り。鎧に切りつけるが若干の傷がついたように見えるがダメージまでには至らない。
ミレーヌさんは左腕と右ローキックも繰り出し距離をとろうするが再度魔族は切りつける。
「関節部分狙ってやがるな。モグモグゴクン。ちゃんと考えてやがる。プハー(ビール)」
マサルの言う通り魔族も考えているようで鎧部分は攻撃が通らないと考えて攻撃が通りそうな関節部分。腕の隙間や手首、足首の辺りを切りつけているようだ。
ミレーヌさんが右手に持った大剣を大きく振るうと魔族は後ろに跳び距離をとって着地した。
!?
その時魔族の口元が薄ら笑いを浮かべたのを僕は見逃さなかった。
ミレーヌさんの左腕。肘あたりから一筋の血が流れているのが見える。
隙間を通して攻撃が通ったってことか。それにしては随分とチマチマした地味な攻撃だな。
攻撃が通ったことはミレーヌさんも分かっているはずだから今後は注意もするだろうな。
まだ一度もヒットせず躱され続けている大剣をミレーヌさんは振り回す。
ん?気のせいか?
「マーシー」
「なんだ?マサル」
「ミレーヌさんの動きがおかしい」
「マサルもそう感じるか?」
確かにミレーヌさんの動きがなんだか少しぎこちなく感じる。何か動きにくそうな感じだ。
魔族はミレーヌさんの攻撃を右に左に躱し続ける。両手に持ったナイフを使う素振りもなく今は回避だけし続けている。
僕はミレーヌさんのステータスを確認してあることに気づく。
「まずいな。マサル、魔族のスキルに毒針と麻痺針があるって言ったよな?」
「ああ、ホテルで言ってたな」
「今ミレーヌさんのステータスに『麻痺毒』ってのがついてる」
「さっき切りつけた時か?」
「ああ。多分な」
それが武器についた特殊効果ではなくあの魔族本人のスキルであるのは分かるが、それがありなのか無しなのか?僕たちには判断できない。それでも現在ミレーヌさんはそのせいでどんどん動きが鈍くなってきている。
そして大剣を横に構えたままの体勢でミレーヌさんはゆっくりと動きを止めた。
お互いに動きを止めたまま対峙。10秒ほどすると魔族の方が動いた。
ギイン!ギイン!
と、ナイフを2振り。そしてそのまま拳を顎めがけてアッパーカット。ミレーヌさんは防ごうとすらせずにその拳を受ける。
するとミレーヌさんの兜がはずれてカランと音をたてて転がった。
昨日と同じようにミレーヌさんの長い髪が露わになり男どもの歓声があがる。
魔族とミレーヌさんの距離はわずか1メートルだ。攻撃すればすぐ届く距離にもかかわらずその後はお互いに動かなかった。
そして、魔族の顔はいやらしく笑みを浮かべた。
バキッ!
ナイフをもったままの右手でミレーヌさんの顔面を強打。
ゴッ!!
今度は左拳で顔面を殴りつける。
マサルが席を立った。
「行くなよマサル。公式戦の真っ最中だぞ」
「・・・・・わかってる・・・・」
司会兼審判のおじさんは止めに入らない。流石にまだお互い立って見合っている状態だからな。
魔族は右手に持ったナイフをゆっくりとミレーヌさんの左肩の鎧の隙間に当てた。
そして
ザクッ!
そのままナイフを押し込むとナイフから伝って血が流れ出てくる。
今度は左手に持ったナイフをミレーヌさんのわき腹の鎧の隙間にも差し込む。そのナイフからも同じように血が滴り落ちてくる。
ここで観客もざわつき出した。何か様子がおかしい。ミラベルの動きが止まって反撃しようとしないことに疑問を持ち出した。
ざわざわとしだした会場内でサイモンの声が響いた。
「おいおい、早く負けを認めてくれよ。そうしないとこっちもやめるにやめれねーじゃねーか」
そして顔面めがけて右拳を振るう。
ミレーヌさんはもちろん立ったままその攻撃を受けている。口元から血が出ていた。
さらに魔族は左拳をミレーヌさんの顔面にストレート。ミレーヌさんの鼻から血が噴き出し魔族の左拳にはミレーヌさんの血が付着する。
横で立ってその光景を目の当たりにしているマサルの拳は強く握りしめられて血が滴り落ちていた。
おいやめておけよ魔族君。それ以上やると君の命がないぞ。
「はっはっは!!すげー根性見せるじゃねーか!なかなか男気あるやつだな!いや、そういえば男じゃなかったよ・・・・な!!」
魔族はガシッとミレーヌさんの首元から鎧を掴み胸部の部分を力任せに引き剥がした。
グシャア!!
するとミレーヌさんのその豊満なバストが披露され観客の男共の目が釘付けになった。ミレーヌさんはピッチリとした真っ白のスポーツブラのようなものだけを身に着けておりその魅力的なボディラインは男の観客全員の視線をまるごと奪ったにちがいない。
「ほらほら、早く降参してくれよ!俺だってこんなことしたくねーんだよ」
魔族は追加のナイフを手にとりそのスポーツブラの上部に添えた。
ゆっくりゆっくりと切り裂いていくがそれでもミレーヌはピクリとも動かない。
「ここまでやって降参しないなんてほんっとーに尊敬する・・・・なっ!!」
スパン!!と切り裂かれたミレーヌさんの胸元を覆うその白い布。
観客席から『オオッ!!』という声が聞こえた時には
僕の横にはマサルの姿はもう無かった。
マサルは魔族とミレーヌさんの間に立ち、魔族を睨みつけていた。




