こういうバトルがしたかったんです
試合が始まっても2人は動こうとはしなかった。
お互いがお互い警戒はしているようで飛び込んできたらカウンターを合わせようとは思っていたはずだ。
「よっしゃ、じゃあこっちから行こか」
タカシが構えるのをやめて十兵衛さんを中心にゆっくりと円を描くように少しづつ距離を縮めながら歩き出した。
十兵衛さんはこれに合わせて体の正面をタカシに合わせてジリジリとすり足で体の向きをかえている。
ときおりタカシは足にグッと力を入れて飛び込むような動作も交えているが十兵衛さんはピクリとも反応はせずジッとタカシを見据えたままだ。
2人の距離が縮まってくる。
どっちから動く。
シュン!!!!
十兵衛さんの抜いた刀は空を切った。
確実にタカシを捉えた一振りだったが瞬時に一歩後ろに下がってその刀をやり過ごしたタカシが待ってましたとばかりに刀を振り終わった十兵衛さんの懐に入るが
ガシッ!!
タカシは右手で自身の顔の側頭部へと打ち込まれた十兵衛さんの左手に持たれた『鞘』の攻撃を防御。そしてすぐに後方へジャンプし距離をとる。距離をとろうとしたタカシの顔スレスレを十兵衛さんの返しの刀が横切るとそのまま十兵衛さんは居合の形になっている。
「やば」
タカシが呟いた
ダン!!
という音が響くと
十兵衛さんの居合はまたも空を切る。
タカシが猛スピードで地面を蹴ってバク宙による回避を行って地面に穴が開いた。
「っふーーーー。今のはヤバかったわ」
「まいったのう、今のを全部躱すか」
今の動作。素人目にはどう見えただろうか?おそらく1秒くらいのやり取り。
タカシが近づいて後ろに跳んだ。
十兵衛さんが2度ほど刀を振りぬいた。
くらい見えれば上等だろう。
「一発もあたりませんでしたねェ。なぜ俺にはこんな見せ場がなかったのだろう」
「ああ、一発目の居合、鞘による攻撃、返しの刀、二回目の居合。あの一瞬で2回も居合で打ち込めるなんてな」
それに、全部峰を返していた。やっぱり想像以上に十兵衛さんは強い。
「今の鞘を使った連撃は見せたこともはいはずじゃが、よう躱したのう」
「ははっ、漫画で見たことあったからな。想像はちょっとしてた。ホンマに来た時はビックリしたけどな」
「おそろしいほどの身体能力じゃ」
十兵衛さんはまた居合の形に。
タカシは珍しくボクシングのファイティングポーズをとった。
ゆらゆらと体を揺らしながらジリジリと距離を詰めていく。
「やばい。タカシが本気のようです」
「ちゃんと構えて喧嘩するのは珍しいな」
それでもリーチは十兵衛さんの方があるから先に攻撃できるのは十兵衛さんだ。そうなると一振り躱してからどうやってタカシが一発入れれるかだな。
ピョン
!?
跳んだ・・・・・十兵衛さんが。
居合のまま30cmばかり跳ねた十兵衛さん。着地と同時にドンッと音を立てると瞬時にタカシの右横に現れそのまま刀を横一閃。
速い!!
放たれた刀はタカシの右腕に
グルン!
タカシは瞬時に左回りに体を回転させ一撃を躱す
一撃を躱された十兵衛さん勢いを殺さずにそのまま自身も右回りに回りそのまま二振り目をタカシに振りぬくが
ガシィン!!
タカシの左蹴りと刀が衝突!
タカシの足の裏で止められた刀は勢いに負けて弾かれて十兵衛の体勢が乱れる。
パワーはやっぱりタカシが上か。
弾かれた刀は十兵衛さんの身体の左横。
対するタカシは蹴った左足はもう地面について右拳をもう打てる態勢だ。
勝負ありか。
!?
十兵衛さんが刀を手放していた。
スパアアーーン!!
乾いた音が会場に響いた。
十兵衛さんの右拳がタカシの顔面に。
タカシの右拳は右の腰辺りに。
「おみ・・・・ごと・・・」
グラリとそのまま十兵衛さんは前のめりに倒れこみタカシが正面から抱きかかえた。
チラッと司会の人に目をやるタカシ。
それに反応してマイクを握り十兵衛さんの様子の確認をする。
「勝者!!タカシーーーー!!!」
うああああァァァァァァ!!!!!!
大歓声が鳴り響いた。
タカシは十兵衛さんを抱えたままフウッと一息ついていた。
救護班が近づいてすぐに回復魔法をかけているがお互いに大した怪我はない。
タカシの鼻からは一筋の血がでているが。
タカシは十兵衛さんに肩を貸しながら控室へと入っていった。
「マーシーマーシー。俺、こういうことしたかったんですよ」
「ああ。こういうバトルって大事だよな。最後のは正拳突きだったよな?タカシって空手やってたっけ?」
「いんや、昨日十兵衛さんにちょっと教えてもらってたけど」
なんだよそりゃ。
闘技場控室
ソファーに横になりながら救護班に回復魔法をかけられている十兵衛の姿があった。
意識はあるようで妙に清々しい顔をしていた。
「はっはっはっはっは!負けてしもうたわ。やはり拙者はまだまだじゃのう」
「いやいやいやいや、正直今のは引き分けやわ」
「なんじゃ、同情なぞいらんぞ。完敗じゃ完敗」
「なんちゅう試合してくれてんだあんた達は」
そこに現れたのはゲラハルドだった。「あんなもん素人が見たって何やってたか全然わかってねえはずだぞ」
「そこはそれ。雰囲気でなんとなくわかるもんやろ?あ、俺も回復魔法お願いしてええ?」
タカシは鼻血の出ている顔を指さした。
「最初の十兵衛さんの居合二発も常人で理解できるもんじゃねえし、最後のあの乾いた破裂するような音はなんだ?拳の音じゃねーだろ?」
「ああ、あれは俺の必殺技『音速正拳突き』や」
「・・・・なんなんだよそれは」
「読んで字の如くやな。めっちゃ速い正拳突きや」
「あれは昨日ここで見せたヤツじゃな。まさか儂が喰らうはめになるとはの。はっはっは」
「正直俺の予想じゃ十兵衛さんだったからな。刀と拳じゃやっぱりリーチが違うからな。よく勝ちやがったな」
「いや、あれは引き分け・・・・いんや俺の負けみたいなもんや」
「まぁ、どっちが勝ってもおかしくないとは思う内容だったが、実際勝ったのはテメーの方だろ?」
「いや、おっちゃんがみねうちじゃなく刃の方で勝負してたら蹴りで刀弾いたときに足もっていかれてるはずやし、実際最初からみねうちじゃないならもっと居合のスピードはあったんちゃうの?」
ニコッと笑顔を見せた十兵衛さん。
「何を言うておるか。これは武闘大会じゃぞ。殺し合いではない。それを言うならタカシも最初から本気で殺しにくるつもりならもっと違う展開になっておったろうが」
「・・・・・・うーーんそうかもやけど」
「結果は結果じゃ。いやぁ、久々に本気で動いたお陰で体が痛いわい。無理する歳ではないな。はっはっは」
タカシも笑みをこぼした。
純粋な強さだけでいえば自分の方がやっぱり上かもしれない。
それでも十兵衛の研鑽された強さに大きな憧れを抱いて、こんな風に強くなりたいと心から思った。
そんなタカシの横を通り過ぎ2人の選手が控室を出て闘技場へと向かう。
2人はタカシの方へは目もくれず出ていった。
「さて、どっちがあがってくるかのう?」
魔族かロボか。決勝の枠をかけて準決勝戦第二試合が始まる。




