順調な武闘大会にそろそろ動きが欲しいと思っていたところです
大会控室
タカシとマサルが十兵衛を出迎えた。
「流石やな、おっちゃん」
「その勢いでできればタカシを倒していただければ幸いです」
「これで明日はタカシとじゃな」
ニヤリと笑うタカシ、そして十兵衛も嬉しそうな笑顔をしていた。
「居合ってかっこええよなぁ。なあなあ俺にもできるかな?」
「ん?タカシお主、刀を使えるのか?」
「いんや、使ったことない」
「はっはっは、儂の居合は刀を振り始めて30年でここまでできるようになったのじゃぞ。簡単にできたら苦労はせんな」
「なら・・・拳で居合みたいにでけへんかな?こう、構えて・・・・。ビュン!と」
「ふむ、格闘家の正拳突きは近しいものがあると聞いたことはあるのう。拳と刀は違えど。構えて。力を抜き。流れるように打ち抜き。そして構えに戻る」
タカシは腰を下ろし左手を前に右拳は腰元で握りスッと力を抜いた。
ゾクッ、十兵衛は背中に寒気が走った感じがした。
パアン!!
タカシの構えはそのままだ。
「なんと・・・するどい拳か」
タカシが放った右の正拳突きは乾いた音だけを残した。
「うーん、雰囲気は分かるけどおっちゃんみたいにシュンッって感じじゃないなぁ」
「え?何今の音。音速?」
見えない拳を放ったタカシを見て十兵衛は苦笑い。
「ふむ、明日が楽しみじゃの」
「めちゃめちゃ・・な」
タカシは嬉しそうに笑った。
二回戦第三試合
サイモン(魔族) VS ハゲール
うーむ、ここまで順当すぎて正直つまらないな。僕が興味があったのは二刀流スキル持ちが居たくらいだな。この試合も結果が見えていてつまらない。
「いけーー!ハゲール!!初出場のヤツなんかに負けんじゃねーぞ!!」
僕の右隣のおじさんは相も変わらず大きな歓声というか罵声を浴びせている。
無精ひげを生やした40代後半くらいの身体はがっちりとしていて見た目山賊みたいなおじさんだ。
「ハゲール選手をご存じなのですか?」
ただの好奇心だったが思わず声をかけてしまった。
「ん?ああ。俺がまだ現役だったころに少し世話してやったんだよ」
どうやら元冒険者だったようで大会に出場している選手の中に知り合いが多くいるようだ。タカシに敗れた両手に手甲をつけたグールベルや鉄拳のグースも知っているらしい。
ハゲールが魔族相手に自慢の槍で攻撃を仕掛ける。突きの連続で相手に攻撃の隙を与えないという感じではあるが、その突きを難なく躱し続ける魔族はつまらなそうな顔でハゲールを見ている。
「槍破斬!!!」
今度は大振りで切りかかるがその槍は魔族の人差し指と中指に挟まれてビクともしない状態になった。
あ、ダメだな。
そうこうしているうちにハゲールは魔族の蹴りを腹に喰らってそのまま動かなくなった。
「勝者!サイモンーーー!!」
大歓声の中おじさんはチッと舌打ちしていた。
「それにしても今年の大会は初出場の化け物が多くて嫌になるな」
「そうなんですか?大きな大会なので色んな地方から強者が集まってくるイメージだったんですが」
「帝都で名をあげた冒険者たちは地方で少々力をつけたやつらなんかにゃそうそう負けたりしねーよ。残ってるヤツで知ってるのは十兵衛くらいだ。他のヤツらはなんなんだよ、タカシってのもマサルってのもサイモンってのも只者じゃねーし、ミラベルなんてなんだよあの全身フルアーマーってよう。攻撃通るのかよ?」
「そうですね」
「お?あんちゃんそういえば予選であのミラベルに決勝で負けた兄ちゃんじゃねーか?」
「はい。残念ながら僕の攻撃は通らなかったですね」
「まあ、木刀ってのもどうかと思うが。鉄の剣だったとしても切れるかどうか怪しいもんだな」
そして本日の最終戦、
マサルVSロボ
両者が闘技場に出てくると大歓声が鳴り響く。
マサルも優勝候補を倒しただけあって最初に比べると声援も増えたかな。
「さぁ本日最後の試合は、今大会最も優勝に近い男クラーを倒し自ら優勝候補に躍り出た前掛けがトレードマークのマサル!!」
前掛けに触れられてちょっと嬉しそうな顔してるな。
「この見た目で脅威のスピードを誇り、一切の攻撃も受け付けない鉄壁のフルアーマー姿のミラベル!!」
表情は分からないがじっとマサルを見下ろしている。
「今大会が初出場同士ではありますが両者ともに圧倒的な強さで対戦相手を寄せ付けない戦いをみせてきたもの同士!!一体どちらが強いのか!!ベスト4の最後のイスを賭けて只今より試合開始です!!」
大歓声が鳴り響く。マサルとロボは中央でにらみ合ったままだ。マサルはウキウキしているようで晩飯前のような笑顔を見せている。
「さぁそれでは参りましょう!!二回戦第四試合!始め!!!」
ロボは前傾姿勢でマサルを見据えた。
マサルは右手をワキワキさせながらスタスタと横に歩を進めロボの突進を待っているようだ。
ドン!!
と地面を蹴る破壊音とともに2メートルはあるロボの身体がマサルめがけて突進。
ロボの右拳がマサルを襲うがマサルは真正面からそれを左腕で受け止めた。
ズザザザザザ
1メートルばかりロボの勢いでマサルは後退させられるが笑顔のままだ。
受け止められた右腕を引いてロボは左のミドルキック。
バチン!!
今度は右腕でマサルはその蹴りを受け止める。
そして右左と繰り出すロボの拳をマサルは躱さず右腕左腕でガード。そんな攻撃じゃダメだダメだと軽く受け止める。
たまらずロボは後ろに飛び退き背中に背負われた大きな真っ白な大剣に手をかける。
「よしよし、マーシーをぶっとばしたその剣で来い来い。けど、その剣でも俺に通用しなかったらテメーの負けだからな」
ロボは両手で肩に担ぐような体勢で大剣を構えグッと足に力を込める。
さっきと同じようにマサルに突進。今度は拳ではなく大剣を上段からマサルに振り下ろす。
大剣がマサルに触れるかと思うほどギリギリまでその太刀筋を見ていたマサルは本当にギリギリのタイミングで後ろに飛び退いた。
ズガン!!
闘技場に割れ目が入る。
「危ない危ない。やっぱちょっと怖い」
あ、真剣白刃取り狙ってたな。
ロボはその自身の重量をものともしないスピードでマサルに向かって行きそのまま横払い。咄嗟にしゃがんで躱したマサルに蹴りを放つがマサルは再度後方へとステップしこれも躱す。
どうしたどうした、防戦一方じゃないか。勝ち方を考えてるのか?
「うお、やっぱりミラベルってのはすごいな。あの巨体にあのスピードだからな。反則だぜ、あれは」
隣のおじさんがため息を吐きながら腕を組んでいる。
「そうですよね。それにしてもどうして顔を隠してるんですかね?ものすごい不細工なんでしょうか?」
「はっはっは、ちげえねェ。きっと見れる顔じゃねえんだろうな。はっはっは」
「顔を隠すなんて男として間違ってますよね?」
「おう、そうだな。多少ひどくても真剣勝負の相手に顔も見せねえのは間違ってるな」
「ですよね?神聖なこの武闘大会で自身を晒さないなんて。なら武闘大会に出なければいい」
「そうだ!この大会は己こそが強いと示す場所だ!!顔を隠すなんて大問題だ!」
「そうだ!顔を隠すなんて間違ってる!」
闘技場ではロボの攻撃を右に左に躱すマサルの姿が見えるがそんな中闘技場に向けてやたらとデカい声が響く。
「大会で顔を隠すなんてどういう了見だ!!そんな奴の仮面なんて剥いじまえ!!!!」
横のおじさんが会場全体に響くような大声でがなり上げる。
マサルの耳がピクリと動いた。多分聞こえたな。
他の観客席からも「そうだそうだ」「どんな顔してやがる」などの声が聞こえてくる。
マサルの口元がニヤリと笑ったのを僕は見逃さない。
そして僕の口元も一緒にニヤリ。
そこにロボがマサルの肩目掛けて大剣を振り下ろす。今度もマサルはギリギリまでその剣を睨み
ガシッ!!!
「真剣白刃取り」
少しひきつった顔でどうだとマサルの一言。
すげえな、ホントにやりやがった。しかし少しビビっていたんだろうな。顔が笑ってない。
きっと今ロボの中身は驚愕の表情なんだろうが見えない。
剣を受け止められたロボは咄嗟に右のローキックを放つがマサルは同じく右のローキックを放ちキック同士が交差。ロボはバランスを崩して右ひざを地面につけた。
その一瞬ロボはマサルから目を離したのだろう。マサルの方を向くとそこにはマサルの姿はなくロボは右に左と視線を向ける。
しかしこちらからはマサルがどこに居るのかははっきり分かる。マサルはロボの背後で満面の笑みだ。
ガシッ
背中からガッチリホールド。
170cmの小太りが200cmのロボを・・・
バックドロップ!!
ガアアアン!!
後頭部から闘技場に叩きつけられたロボ。そのままフォールではなく手を離したマサル。ロボは膝と手を地面につけて少しふらついている。
まぁ、マサルの場合直接打撃を打ち込んだ方がきっとダメージあるだろうな。派手さは断然こっちだが。
そして手の届くところにあるロボの兜に手をかけるマサル。
「いいぞ!!そのまま顔を晒してやれーーー!!」
隣のおじさんが先導し
「いいぞーー!」
「一体どんなヤローなんだ!」
「とっちまえーー!」
ガシッとマサルはロボの兜の首の継ぎ目に手をかけた。
「一体どんなヤローか知らないが男同士の戦いなんだ、腹割って顔突き付けてバチバチやりましょうか」
バキン!!
と、兜を剥ぎ取り地面に放り投げたマサル。
「「「おおおおおお」」」
観客からも声が上がる。
残念マサル。この場合どうする?
バサッと長い茶髪が露わになりマサルの顔が真顔で固まった。
ロボの中身はクラブ『楽園』でマサルの横でお酒を呑んでいたミレーヌさんだった。




