居合とか二刀流とかそういう響きがいいのに憧れる
武闘大会一回戦第三試合
真っ黒な150cmくらいの黒光りする黒剣を持った通称黒剣のギル。相手はナッツという名前の50cmくらいの小剣を二本装備した二刀流スキルを保持した小柄な男だ。
二刀流スキル・・・・欲しい。どうすれば取得できるのだろうか?二刀流で剣を使い続ければそのうち覚えるのか?
黒剣のギルってのは会場に入るときに優勝候補の1人みたいな感じで言われていたヤツだな。オッズは3番人気か。
終始小回りの利くナッツが攻撃していたが元のスピードとパワーが完全にギルの方が高く一気に攻勢に出られてあえなくナッツ撃沈。
そして第四試合は十兵衛さんの出番だ。
相手は上から下まできっちりと重鎧を着こんだドンクという騎士。
十兵衛さんと向かい合うと鞘から剣を抜き綺麗な構えで剣先を十兵衛さんに向けた。
対する十兵衛さんは・・・・・居合だ。
いい。いいよ。雰囲気出てる。腰を落として右手を左の腰の刀に添えている。
試合開始の合図がされてもお互いピクリとも動かない。
場内の全員が固唾を飲んでその2人をただ黙ってじっと見ている。
そのまま10秒くらい無音のまま時間が流れる会場内。
瞬きもせずにジっとドンクという騎士を見つめる十兵衛さんの視線が・・・・左に逸れた。
ドン!!
と、地面を蹴る音が聞こえ距離が詰まった。前に出たのはドンク。
姿勢はそのままで踏み込んだようには見えないが一瞬で間合いを詰めて流れるように前に向けていた剣を上へ。そして下へ。切りおろした。
しかし切りおろした時には十兵衛さんはすでにドンクの背後に。刀も鞘に納まったままではあるが。
「居合かぁ、かっこいいなぁ。刀を抜いて鞘に納めるまでが芸術のようだ」
背中合わせで立ち尽くす2人。一瞬の攻防に言葉が出ない観客席。
カラン
するとドンクの兜の首から上がきれいに切られ地面に落ちた。
ヒッと悲鳴みたいなものが聞こえたが首から上は鎧の上にまだあることからクビちょんぱというわけではない。
「参りました」
降参したのはドンクだ。
「うむ。良い試合であった」
「しょ・・・勝者十兵衛!!!」
速い。スピードの数値だけ見れば僕の方が完全に上なんだがあの瞬発力というかダッシュ力。
・・・・・僕に躱せるだろうか?いや、見えてはいたからなんとかなるかな。
タカシの瞬発力は力任せだが、十兵衛さんのはやっぱり技術的なものなんだろうな。
あの一瞬目を逸らしたのもそういう駆け引きとかは戦闘経験からくるものなんだろうな。
続く第五試合。ここで魔族が出てくる。
相手はベリアンという2メートルくらいで片手斧を持った大男だ。
勝負はあっという間だった。
試合開始と同時にベリアンが右手に持った片手斧を振りかぶり魔族に襲い掛かる。
岩をも砕きそうな勢いだったがその右手を難なく左手で受け止めた魔族が掴んだ右手をそのまま捻るとベリアンの右腕はあらぬ方向へと曲がっていた。
ベリアンはそのままギブアップ。魔族は少し笑みをこぼしたように見えたが無言のまま控室へと戻って行った。
第六試合は・・・・・なんかもう普通だった。
ハゲールという槍使いのおじさんが勝った。特に印象にも残らなかった。残念、次の魔族の餌食です。
そして第七試合。マサルの登場だ。
相手は今大会一番人気の槍使いのクラーという金髪の男前。鎧は軽鎧で肩当てと膝当てをつけている程度で年は若そうだ。多分僕達と同じくらいか少し上くらいだろう。身長も高くて体もがっしりとしている。ナイトガードのグラブルさんみたいな感じだな。ステータスもグラブルさんに近い。力も速さも体力も150から180くらいだ。と、いうことはグラブルさんが大会に出ていたら優勝候補ってことなんだろうな。
控室から出てきたマサルとクラーが闘技場の中央で向かい合う。
お、マサルは武器無しでいくのか。あの金属バットを振り回す姿も見たかったんだけどな。
「よっしゃーー!!やってやれーー!!クラー!!そんなデブなんて切り刻んで居酒屋に売り飛ばしちまえーーー!」
僕の右隣のおじさんが張り切って応援している。
あ、マサルと目が合った。
俺じゃないよ。言ったのおれじゃないよ。
多分右隣のおじさんはクラーに賭けてるんだろうな。残念、ご愁傷様。
「それでは只今より一回戦第七試合を行います!!」
わあああああああああァァァァァァァ!!(大歓声)
クラー様――――!!
クラーーーー!!やったれーーー!!
キャーーーーー!!
どうやら黄色い歓声も多く女子からも人気があるようだ。
「今大会はルーキーが大健闘だ!!そしてここで登場するのが一回戦で優勝候補グースを破ったタカシと同じ冒険者パーティーだ!!実力は未知数だが!ありえるぞ!!大番狂わせが!!その丸い体は筋肉の塊!!マサーールーー!!!」
いや、脂肪だよ。
「さぁ、やっと出てきたぞ!!今大会大本命!!槍を持たせたら帝都で右に出るものはいない!!昨年のあの壮絶な闘いを見たものも多いはずだ!!あれから一年で数々の武勇伝を引っ提げて今大会リベンジに燃える!!帝都最強の槍使い!クラーーーー!!!!」
わあああああああァァァァァァ!!
キャーーーーーーー!!
マサルはどっしりと腰を下ろして左半身を相手に向けて両ひざに手をあてている。珍しく考え事をしている顔だ。多分どうやって倒すのか、もしくはタカシよりどうやって早く倒すのか考えているな。
対するクラーは両手で持った槍の槍先をマサルに向けてこちらも腰を下ろして構えている。
「それでは一回戦第七試合・・・始め!!!」
両者は動かなかった。
クラーがかなり警戒しているな。まぁグースってのがあんな簡単にタカシに負けちまったから無理もないか。下手に突っ込んだら同じ結末になるかもと考えているんだろうな。
お、それでも動いたのはクラーだった。
長い槍のリーチを活かして距離をとったままマサルに突きを繰り出すその手数は多く、突くたびに風を切る音が聞こえてくる。
それを難なく右に左に躱し続けるマサル。
ん、あの顔は色々考えたが結果なにも思い浮かばなかった顔だな。
あ、今度はなるようになれって顔だ
数ある突きの中に小さな薙ぎ払いも交えて攻撃を繰り出し続けるクラー。そしてそれをすべて躱し続けるマサル。
「す・・・すげえ」
「何やってんのか全然わかんねェ」
「あれだけの突きを全部躱してるのか・・?」
クラーの顔に焦りはなかった。これだけ攻撃してもかすりもしないのは人生でひょっとしたら初めてだったかもしれないが油断は全くしていない。表情を変えず落ち着いて勝機を見出すことに集中している。流石に今大会一番人気だな。
少し大きめの薙ぎ払いをマサルの太もも辺りに繰り出すクラー。マサルは咄嗟に後ろにジャンプする。
!!
「もらった!!!槍破斬!!!!」
マサルの足は両足とも地面には着いていない。咄嗟にジャンプしたことで空中でその動きには制限がかかる。そこを見逃さないクラーが渾身の一撃をかける。グラブルさんも使っていた『槍破斬』ワイバーンの首をもぶった切る威力の大振りの槍がマサルを襲った。
槍とマサルが交錯する。
ビタッ!
ゴォォォォォ!
槍の風圧が観客席まで届くほどの威力でマサルを切りつけたクラーだったが、マサルにその槍は届かなかった。
マサルの拳がその槍を掴んでいた。拳じゃないな、あれは・・・・
「秘儀、指相撲」
とのことだ。
目を見開き動きの止まったクラーにそのまま突進してクラーの腹にマサルの肘が入る。
ドオォォン!
と、槍も手放し5メートルほど吹き飛ばされたクラーは仰向けのままそのまま動かなかった。
マイクを持ったおじさんがそろそろとクラーに近づきクラーの顔を確認すると
「勝者!!マサーーールーーー!!」
「うわあああああァァァァァ!!!」
「クラーが負けたーーー!!!」
「キャアアアアーーーー!!」
「なんてこったーーー!!」
「金返せーーー!!」
「やりやがったーーーーー!!」
大歓声・・・・というよりは悲鳴に聞こえるな。
すぐに魔法使いが近寄って回復魔法をかけている。大丈夫死んじゃいない。肘うち一発で体力が半分以下になってるがな。
観客の悲鳴にいたたまれなくなったマサルはそそくさと控室に戻って行った。
一回戦第八試合。これで一回戦は最終だ。
ここでロボの登場。相手はムーと呼ばれる髭を生やしたずんぐりとしたおじさんだ。得物はでかいハンマーで、叩きつけられたらそりゃもうものすごく痛そうだ。痛いというよりは潰れてしまいそうだが。
それでも試合は一方的だった。
試合開始後ジリジリと距離を詰めていくムーは射程範囲に入るとそのハンマーをものすごいスピードでロボに打ち付けたがロボはこれを左腕でガード。
止められるとは思っていなかったのか驚いたムーの隙だらけのボディにロボが拳を打ち込むとハンマーを手放して吹き飛ぶムー。後は2~3発ロボの拳を受けたムーはあえなく降参した。
これで一回戦は終了。残りは8人。
一回戦はえらくバランスが良かったもんだ。順当に勝つべく選手が勝った形になった。
と、思っているのは僕も含めてごく一部だろう。
まぁ、周りの大方の予想は覆した大波乱のスタートとなったわけだ。




