わざわざフラグを立てに来るヤツもいる
闘技場は昨日までの6面の闘技場がなくなっており、広い1面のグラウンドのようだった。
「なるほど、本選は場外はないって言っていたな」
観客席から大きく見えるように対戦トーナメントが貼り出され16人の名前がデカデカと貼り出されている。
闘技場から観客席までは高く離れていて、最前列から覗き込んだ感じでは3~4メートルくらいの高さはあり闘技場全体を高い位置から見下ろす感じになっていた。
「下から見るのと上から見るのとじゃまた違うな」
開会までは3時間以上もあったがバラバラと観客は入ってきている。3割くらいは観客席は埋まっていたが僕は1人ということもあり前列から3番目くらいのなかなか見やすい席をゲットできた。
「3時間もあるな・・・暇だな」
僕はアイテムボックスから取り出した本を読みながら時間を潰すのだった。
闘技場控室
昨日は1000人近い人数が入っていた大広間も今は16人の出場者と20人ほどの見張りの兵士に関係者が数人。
すると十兵衛がタカシとマサルに近づいてきた。
「木刀を持った青年は残念だったな」
「おっちゃん。おはよう」
「むぐ、んぐ。十兵衛さん朝飯食った?焼き鳥食べる?」
マサルは右手に持った焼き鳥を十兵衛に差し出した。
「いやいや結構。朝飯は食べてきたわい」
「十兵衛さん。準決勝までいったら俺と当たるな」
「うむ、そうだな。しかしタカシの一回戦の相手はどうやら優勝候補らしいぞ」
「ああ、あそこの色黒のヤツやろ?」
兵士となにやら話しているスポーツ刈りで色黒の青年。目はキリッとしていて目力がある。タカシと同じくらいの背丈でタカシよりも太い二の腕と太もも。いかにも武闘家という感じだ。
「まぁ見た目は悪くないけどまだまだやな。あれやったらゲーリーさんの方が強そうやわ」
「まだまだ・・・か。はっはっは!威勢があっていいわい。拙者とあたるまで負けるでないぞ」
「ああ。お互いにな」
「むぐむぐ、ゴクン。そして勝った方をぶちのめして優勝するのは俺だ」
「はっはっはっ。マサルよ、そちらのブロックの方が大変そうだからのう。マサルの一回戦の相手もなにやら優勝候補といわれているらしいからの」
「焼き鳥10万本が呼んでいる。絶対に負けない」
壁際で目を瞑って腕を組んでいる魔族
部屋の隅の方でピクリとも動かないロボ
タカシは無意識に2人に目をやり、それから他の出場者を見渡した。
「やっぱり十兵衛さんと当たるまではつまらなさそうやな」
ボソッとタカシは呟いた。
「おいお前!」
なんとなく自分に声がかけられている気がしたタカシだがこの会場にはマサルと十兵衛さん以外に知り合いがいないため自分ではないだろうとシカトを決め込む。
「おい!お前だよ!!」
「タカシ。呼ばれてるよ(笑)ねェねェ呼ばれてるよ(笑)」
ニヤニヤしたマサルが無性に腹の立つタカシ。
「ああん?」
その苛立ったまま振り返ったタカシに声をかけてきていたのは一回戦でタカシとあたる鉄拳のグースだった。
「おいルーキー。なかなか頑張ってるみたいじゃねーか?一回戦が俺じゃなけりゃ良かったんだがな。まぁ本選出場しただけでも箔がつく。今回は運が悪かったと思いな」
「それ、威勢だけ振りまいて負けてまうパターンやで。マーシーに言わせりゃフラグってやつやな(笑)」
「はははは!リアルでそのようなセリフを聞けるなんて、マーシーが居れば喜びそうだ。グース君ナイス!!」
マサルはグースに対してサムズアップ。
「ああん?なんだと?ヘラヘラしやがって。ルーキーだから手加減しようかと思っていたが重傷希望みたいだな」
「ああ、なんや、手加減してくれんのか?そりゃありがたいわ。本気やったら5秒やけど手加減してくれたら3秒で仕留めたるわ」
「なんだと?この野郎」
ズイッとタカシに近寄って睨みをきかすグース
「おいおい待たれよ。もうすぐ目一杯やりあえるのにこのような場所で何を考えておるか」
十兵衛さんが間に入ってグースを睨み返した。
「・・・・・・・・・・・・テメーはボロボロにしてやる」
タカシに捨てセリフを吐いてグースは去っていった。
「タカシもタカシじゃ。煽ってどうする」
「いやいや今のは向こうから喧嘩売ってきてましたやん。ああいう場合はマーシーは笑顔で躱す。俺は逆に煽り返すって決まってんねん」
「ははは、一回戦楽しみですね(笑)」
さっきからずっとニヤニヤしているマサルのボディにタカシの拳がめり込む。
「痛ッ!!暴力反対!!」
今度は逆方向から3人に近寄ってくる人物が1人。その人物は綺麗な銀色の肩当てと大きな大剣を腰に携えたロン毛のおじさんだった。
「おう、二人も残るとはな。もう1人も予選決勝まで残っていたし、なかなかやるじゃねーか」
「ええっと・・・ゲラ・・・・なんとかさんだ」
マサルの記憶力は散漫だった
「あ、ロン毛のおっちゃんや」
タカシは元々名前を覚えるつもりもなかった
「ゲラハルドだ。ここの警備をやってるって言っていただろう」
「これはこれはゲラハルド殿。2人とお知り合いだったのですかな?」
「やあ十兵衛さん。少し縁があってね。そうか、3人ともジパング出身だったのか」
「そ・・・そのシルバーのライオンの形した肩当て・・・・・めっちゃかっこいいやん!」
タカシが目を輝かせた。
「ん?ああ、銀獅子団の主要メンバーだけ配られるウチのトレードマークだ。いいだろう」
「なんなん、なんなん!俺らもそんなん作ろうや!!マサル!マーシーに言ってなんか考えようや!」
「そういうの好きだよな、タカシって」
「まとめてウチに入れよ。そのうち手にすることもできるだろうよ」
「はははは、こんなところでまとめて勧誘ですか?気が早いですな」
「もちろん十兵衛さんもぜひにな」
「ははは、拙者はこの和装が気に入っておるのでな。今回は遠慮させてもらおう」
「うーーん、俺はめっちゃそれ着けたいけどフルボッコ以外はちょっとなぁ」
「というわけで今回は申し訳ないですがご遠慮させていただきます」
笑顔で話す4人を遠目でチラチラと見ている他の出場者たち。
「まぁ3人共頑張ってくれ。怪我のないようにな」
ゲラハルドはそう言ってその場を離れていった。
十兵衛はマサルに近寄って小声で話しだした。
「マサルよ。まだすぐにはあたらんがあの黒い者には重々気をつけよ。何やら不穏な感じのするヤツだ」
「ああ。マーシーも言ってた。あいつもそうだけど個人的にはマーシーに勝ったあのロボの方が楽しみですが」
「ロボ・・・?」
「ああっと、あのフルアーマーのでかいのです」
「ああ、ミラベルという者か。名前は聞いたことがないが確かにあの巨体であのスピードはなかなかのものだったな」
控室内がザワザワとしだした。
出場者と関係者の視線の集めている方を見ると先ほどのゲラハルドと話をしているのは金髪のロングヘアに真っ白の鎧に身を包んだイケメンだった。
「あ、団長や」
「イケメンの団長さんですね。こんなところになにか用なのか」
ゲラハルドと会話をしていた聖騎士団の団長アルベルトはこちらに気づいたようでゆっくりと近づいてきた。
「やあ2人とも本選出場おめでとう」
「なに?このイケメンフェイスは?」
「ほんまにおめでとうと思っているのかは別としてこの愛嬌のふるまき方は尊敬できるわ」
「あれ?僕は嫌われているのかな?」
アルベルトは不敵な笑顔で返す。
「イエイエ、ドウモアリガトウゴザイマスガンバリマス」
マサルがロボだ。
「いやいやなんでわざわざそんなこと言いに来んの?変に視線集めてもうてんねんけど」
「いやあ、僕がわざわざ激励に来たと周りに伝われば君たちが警戒されると思ってね(超笑顔)」
「え?何この人?超怖いんやけど」
「マーシーがあなたには気をつけろと言っていた意味が少し分かりました」
アルベルトは笑顔を崩さない。
「アルベルト殿、王の警護はよろしいのか?聖騎士団長の務めであろう?」
「ああ、大丈夫。今は副団長に任せていますので。出場者に知り合いが居たもので少し声をかけようと思いまして」
「その声かけはメチャメチャ悪意のある声かけやったというわけか」
「帰れ団長」
「うん、ひどい言われようだね。まぁ皆さんの善戦を期待しています。もちろん試合も観戦させてもらうからね」
そう言ってアルベルトは終始笑顔のまま控室を後にした。
「アルベルト殿と知り合いとはこれは驚いたな」
「十兵衛さん。何?アイツってそんなに偉い人?」
「この帝都を守る聖騎士団の団長だからの。この国でアルベルトを知らん者はいないであろうな。そしてこの国で・・・・・一番強い」
「へえ、一番強い」
タカシはニヤリと笑った。
「その笑みをマーシーが見たら泣くな」
アルベルトがわざわざ声を掛けに来たタカシとマサルに対して周りの人間は何やら警戒した目で見ていた。まんまとアルベルトの思った通りになったようだ。
マサルは何してくれてんだと考えたがタカシは特に何も感じず今か今かと試合が始まるのを楽しみにした様子だった。
そして場外のアナウンスが響き渡った。
『それでは只今より!第72回武闘大会を開催いたします!!』




