餅は餅屋。僕はおいとまさせてもらおう。
予選会2日目。
闘技場が6つ並べられた広場は昨日よりも広く感じた。
そりゃそうだ。昨日で参加者の半数以上が負けてここからいなくなったのだから。
「随分と数減ってもうたな。今日で16人まで絞るんか」
試合時間にばらつきがあるためブロックによっては残りが多いところもあるが今日中には確かに終わりそうだ。
「3人共残っておるのか?なかなかやるではないか」
十兵衛さんが話しかけてきた。
「おっちゃんも残ってんのか?流石やな」
ブロックが別で良かった。十兵衛さんとあたるのは本選だ。
十兵衛さんは顔を寄せて耳元で
「あの黒い物には気をつけよ。なにやら不穏な感じのするヤツだ」
黒い物とは壁際で腕を組んで目を瞑っているヤツ。そう、魔族だ。
十兵衛さんも魔族に対して何かを感じ取ったのだろうか。
「アイツもブロックは別ですね。あたるなら本選か」
今日も励めよ、と十兵衛さんは笑顔で去っていった。
それだけ言いに来たのか。過保護な人だ。
「よし、じゃあ2人共予定通り頼むぞ。2人のブロックにはめぼしいヤツはいないから問題ないよ」
「マーシーのところにはロボがいますね」
「あのロボどうなん?強いん?」
「まぁここまで残ってるくらいだからな。まぁ適当にやるさ」
昨日と同じように番号を呼ばれて闘技場へ。
人数が少なくなりほとんど全員の確認はできた。
やっぱり注意すべきはあの魔族、その次に十兵衛さんってところか。あと2人ほど強いヤツもいるが問題なさそうだ。問題があるとすれば、ロボなんだよな。
タカシとマサルが別々で呼ばれて闘技場へと向かった。
僕の出番はまだなので遠目で2人の闘技場へと目を向ける。
「タカシの相手・・・女子じゃねーか」
筋肉ムキムキの大柄な女子。色黒の肌に茶髪のショート。軽鎧に身を包み片手斧を抱えている。
チラッとタカシはこっちを向いて何か意見を求める目をしていたが僕はサムズアップしてやり過ごした。
さてさてタカシはどうすんのかね?女の子を殴らないという紳士なヤツでもないと思うが。
マサルの相手は冒険者というよりは山賊っぽい獣の皮で作られた鎧を身に着けたボサボサ頭と無精ひげのおじさんだった。こっちは問題ないな。
僕は視線をタカシの試合に向けた。
試合開始と同時に大柄な女子はタカシに向かって走り出し手にした片手斧で攻撃をしかける。
難なく躱すタカシ。決して軽くはないであろうその片手斧を重さを感じさせず右へ左へブンブン振り回すその姿は女子に向ける言葉としては間違っているかもしれないが、豪快でパワフルだった。
けれども1発としてヒットしない。かすりもしない。
右へ左へと躱し続けバックステップで距離をとって大柄の女子を見据えるタカシ。
「スピードもパワーもまぁまぁやけど、俺には届かへんみたいやな。まだ続ける?」
その大柄の女子は息があがっている。
「はぁ、はぁ。どうして攻撃してこない。私が女だからか?」
「ああ、そうや!女やからや!女殴ったらあとでマサルに何言われるか分かったもんじゃないわ!」
「これは真剣勝負だ!女だからって手加減されるなんて屈辱以外のなにものでもない!」
大柄の女子は再度タカシに向かって行く。
片手斧を振り回しそれをタカシが躱す躱す。
そして咄嗟にタカシはその右手の片手斧を両手で挟み奪い取った。真剣白羽どりってな。
そして場外へと投げ捨てる。
「得物なくなったけどどうする?まだやるか?」
大柄の女子は苦悶の表情で右こぶしを振りかぶり渾身の右ストレート。
ズガン!!
拳はタカシの左頬を直撃する。しかしタカシは微動だにせず頭の位置もほとんど動いていない。
「悪かったな。覚悟はあるようやな」
タカシはそのまま右こぶしを振りかぶる。
「今からボディに一発入れんで。防御せんでええんか?」
はっとその大柄の女子は咄嗟に自身の腕をクロスさせボディを守る態勢になるがタカシは迷わず拳を振りぬく。
ドオン!!
100キロはありそうなその大柄な体は宙を舞い、そのまま場外まで飛んでいった。
「場外!それまで!」
タカシは不服そうな表情でこちらに戻ってきた。
「おつかれさん」
「やっぱりあんまり気分のええもんじゃないわな」
「まぁあれくらいが限界だな。迷わず顔面打ち抜くようなら友達付き合い考えるところだ」
マサルも試合が終わって戻ってきた。
「あと1回勝てば本選出場。余裕のよっちゃん」
「マサルお疲れさん」
すると試合に負けた大柄の女子がこちらに向かってきた。
「何?何?アマゾネスあらわる」
マサルが少し身を引いた。
「さっきは感情的になってしまっていた。すまない」
頭を下げるアマゾネスさん。
「ええってええって、こっちも差別発言やったわ。申し訳ない」
「拳ひとつであんなに吹き飛ばされたのは初めてだ。また機会があれば手合わせしてもらいたいよ」
「今度は鎧じゃなくてドレス姿やったら考えとくわ」
フフッと皮肉な笑みを浮かべてアマゾネスは去っていった。
「何何?見初められた?タカシ惚れられた?」
マサルはタカシに肘うちしながらニヤニヤしている。
あのガタイでドレス姿はなかなかパンチ効いてるなと僕は思った。
数は着々と減っていき予選決勝。
タカシは相手の攻撃を何度か受けながらも辛くも勝利して本選出場。マサルも特に問題はなかったが言われた通りに苦戦したように見せて勝ちをおさめ、2人共本選出場を決めた。
他の参加者も順当に本選出場を決めていた。魔族、十兵衛さんも特に危なげなく。
「さてと、俺の出番だな」
「よし、やったれやったれ」
「ロボ・・・・俺が闘いたかった」
僕の相手はロボだ。これに勝てば本選出場となる。
闘技場に上がり僕はロボと向き合った。
「大きさは2メートル強ってところか。ロボロボ言ってたから鎧じゃなくてホントにロボに見えてくるな」
「始め!!」
ロボは前傾姿勢で構えている。
僕は少し前進しロボとの距離を詰めるとロボの足元の地面がビシッと砕けた。
と、同時に突進してくるロボ。
右手で掴みかかろうとしてきたが僕は横に飛び、これを躱す。ロボは左足で地面を削りながら急ブレーキからの急発進。今度は背中に装備していた大剣を抜き横なぎにしてくる。
僕はバックステップで大剣の射程から離れてこれを躱す。
「おいおいよくその姿で軽々と動けたもんだな」
ロボは構えた大剣を今度は両手で持って上段へと構える。剣道なんかで見たことはあるがなかなか威圧感があるんだな。
そして突進からの一閃。
「うおっと、昨日の色男のそれとは全然違うな」
振り下ろされた大剣を右に飛んで躱しそのまま木刀を横なぎにロボの胴体に切りつける。
グシャア!!
「あら」
木刀の方が粉砕。
「あかんやん得物の方がイカれてもうてるやん」
「マーシーピンチ!!」
ロボは振り下ろし地面にたたきつけた大剣を僕に目掛けて横なぎに振りぬく。
僕は咄嗟にジャンプしその大剣を躱すことに成功するが
「あれ、俺今無防備かも」
ロボの目の前で空中1メートルくらいの位置に身をさらした僕に対してさらに横なぎに大剣を一閃。
僕は咄嗟に太ももに取り付けてあったナイフでガードを試みる。
その大剣の横腹にたたきつけられた僕は野球のホームランよろしく吹き飛ばされてそのまま場外に華麗に着地。大剣をフルスイングしたロボはこちらをただただ見ていた。
「場外!!それまで!」
おおおおお!!っと歓声があがった。
「なんや!マーシー負けてもうたやん!!」
「よし!これでライバル1人減った!!」
ロボはじっとこちらを見ている。
僕は笑顔で軽く手を振りタカシとマサルの元へと足を向けた。
「いやあ、負けちまった」
「そんな強かったか?悪くはないとは思うけど負けるほどじゃないんちゃう?」
「得物が木刀だったからな。あれだけガチガチのフルアーマーはちょっと厳しいな」
「これで俺の焼き鳥への道の邪魔者はタカシだけになった。よしよし」
「というわけで優勝は2人に任せた。俺は明日は観客席から見てるよ」
「なんやえらいあっさりしてんな?悔しくないん?」
「まぁ土俵が違うからな。俺は魔法使いだからな。それにお前たち2人がちゃんと優勝してくれるって分かってるしな」
「任せとけ。マサルも含めて全員ぶちのめすわ」
「タカシから恨みを買うのと焼き鳥10万本どちらをとるか?・・・・ダメだ、よだれが・・・」
というわけで予選の決勝で敗退になったが、予定通りだ。
もともとどこかで負けようとは思っていた。
本選に出てもタカシマサルには勝てる気はしないしな。
まぁ明日はゆっくりと観戦させてもらおう。




