武闘大会。男の子なら当然ウキウキする
武闘大会予選当日
僕たちは朝飯は冒険者ギルドで済ませて南地区へゆっくりと向かう。
服装はいつも通り冒険者風。マサルはもちろん前掛け付きだ。
人通りは多い。ガラの悪そうな連中が多く皆が皆出場者なのだろうと予想がつく。
闘技場の入り口の受付。
観客は脇の階段から上に上がっていっている。
出場者はここの入り口から中に入るようだ。
受付で番号を見せると同じ番号の札を受け取った。お風呂屋さんの下駄箱の木製の鍵みたいな札。数字がはいっている。
ぼくたちはそれぞれ札を受け取って入り口から入っていく。作りが石造りのため日が届かなくなると結構な暗さだ。矢印通りに通路を進んでいくと大きく開けた空間に出た。
天井も高い。
天井も壁も石造りのそのフロア。そこにたくさんの猛者たちが集まっている。控え室と言ったところだろうか、ざっと見た感じで300人は居そうだ。
フロアの隅に木製の槍や木刀が並べてある。受付の人に聞いたところ自由に使っていいとのことだ。それぞれ自前の武器防具があるためほとんど使用はないようだが用意は毎回されているらしい。
よし。木刀1本お借りしよう。
「え?マーシー木刀でいくん?」
「弘法筆を選ばずだよ」
「ん?ああ、筆だよな筆」
タカシが混乱した
識別による職業、ステータスチェック。
戦士戦士格闘家戦士騎士
騎士と戦士ってどう違うのだろうか?
ステータス的にも力と体力が割り増しで似た傾向だ。
変わった職業はないものかな?
侍
居たーーーーーー!
サムライーーーーーー!
って見た目から侍じゃねーか。
黒髪、黒目。
和服に袴に草履。
流石にちょんまげではないが、肩まで長いセミロングに無造作に生えた髭が特徴的だ。
「マーシーマーシー、侍だ。」
「ほんまや。侍や。武士や。ちょっと挨拶しとこうや」
「ああ!もちろんだ。せっかくの機会だよな」
僕たちは3人揃ってその侍に近づいていく。まだ距離がある時点でその侍はこちらの3人に気づき、視線と体をこちらに向けた。腰には刀が帯刀されており決して笑顔ではない表情でこちらを見据えている。
「少々お時間よろしいでしょうか?」
「何か?」野太い声で侍は返す。
レベル32、力、体力は180くらいで素早さが240。強者と分類されるくらいの実力はあるな。剣術LV2で刀術LVが3だ。刀術LVなんてあるのか。
「ひょっとしてジパングの方でしょうか?」
「左様、拙者はジパングの生まれであるが、お主らもそうではないのか?」
あ、どうしよう。ジパングって島国だったからどこの国とか村の出身かって聞かれて適当に答えたらボロが出そうだ。
「父や母の故郷がジパングなんです。父や母以外でジパングの方にお会いしたのが初めてでしたのでお声をかけてしまいました。ご迷惑でしたでしょうか?」
「いや、構わんよ。ジパング独特の黒髪と黒い目は嘘ではなかろう」
お互いが気を許したのか、色々な世間話をすることになった。3人で冒険者になり旅をしていること。腕試しで大会に出場したこと。いずれはジパングに行こうと思っていること。見た目が周りの人達とは違ってまるきり日本人であるためなんだか親近感が湧いてしまう。タカシとマサルも交えて刀の話や食の話もした。白米がジパングにあることを聞いて絶対に行くことを誓った。
侍のおじさんの名前は十兵衛と言った。5年くらい前にジパングからこの大陸にわたり旅をしているようだ。冒険者登録もしていて1人で5年でCランクまでになったらしい。
ジパングへの行き方も親切に教えてくれた。想像していた通り帝都から南へ行き、秦という国をさらに南東へ。そして港町チョーアンから船が出ているらしい。
中国が秦ってそのままじゃねーかとはツッコまずにはいられない。
十兵衛さんは特にジパングへ帰るつもりはないと言っていたが、ジパングの話をする時の十兵衛さんは少し寂しく感じた。
「どこかでいずれ闘うことになるかもしれんからこのくらいにしておこうか。久々にジパングの話ができて楽しかったぞ若者たちよ。拙者とあたったら手加減くらいはしてやろうか?」ハッハッハッと大きな口を大きく開いて高笑い。
「こっちこそ、ちょっとくらいは手ェ抜いたろうか?」タカシが笑顔で答える。
「それではの」
と、十兵衛さんは僕らから離れて行った。
「近所のおっちゃんを思い出したわ」
うん、どこにでも居そうな普通のおっちゃんだった。そこが凄く懐かしい。
「マーシー。ロボがいる」
ロボ?
僕はマサルに言われて後ろを振り返った。
「ロボだな」
正確にはロボットではないが、2メートルを超えるガッチガチのフルアーマーの鎧がガチャガチャと歩いている。プラモを彷彿とさせる姿で全身真っ白。顔まで完全に覆っていて鎧の強度次第では剣は一切通らないんじゃないだろうか?
反則なんじゃないか?
「装備持参オッケーだからあれも大丈夫ってことだろうな」
「前見えんのかな?あれ」
ちゃんと前は見えているようで人ごみをかわして僕らから離れていった。
おおっとっと・・・・。コイツはいいのか?
僕は壁際で腕組みをしてジッと動かない参加者に視線をうつした。
職業が『魔族』だ。
全体的に黒い服。僕と同じような短めの黒いローブに黒いマフラー。髪も真っ黒だ。
ステータスが高い。力と体力が300超えているし、俊敏が415だ。参加者の中では僕たちを除けばおそらく1番だ。
スキルが毒針と麻痺針。想定していた最悪の攻撃手段じゃねーか。麻痺はまずいな。
あまり見ていては気取られそうだから視線を逸らす。それ以外には特にめぼしいヤツはいなさそうだ。
侍にロボに魔族か。楽しみだ。
少し待っていたら会場に声が響く。
「参加者の皆様、外の闘技場の方へお集まり下さい」
「やっとか」
「ああ、行こう」
僕たちもゾロゾロと出て行く参加者に並んで大きな門みたいな扉をくぐって外に出る。
パチパチパチパチ。
おおおおぉぉぉぉ、っと歓声と拍手。
おいおい、予選から見世物にされんのか?
陸上競技場のような広いスペースに6つの闘技台が設置されている。一辺25メートルくらい。
「それでは只今より第72回武闘大会予選会を開始いたします」
おおおおぉぉぉぉ!!
パチパチパチパチパチパチ。
「参加者の皆様にはこの6つの闘技場でそれぞれ予選を行っていただきます。お手元にある番号を呼ばれましたらAからFまでの闘技場でそれぞれ1対1の試合を行なっていただき本選への出場者16名の座を競っていただきますこちらのボードをご覧ください」
壁に大きく貼られたボードに16個のトーナメント表だ。1つのトーナメント表に60~70個の番号がある。やっぱり参加者は1000人くらいなのか。6回くらい勝てば本選出場か。
「本日の予選会でだいたい2戦から3戦。そして明日に本選に出る16名が決定し、さらに翌日に本選開始。最終日に準決勝、決勝と行います。尚、本選は例年通り優勝者を予想する賭けの対象となりますため予選会からめぼしい参加者に目をつけておく為に集まった観覧者の方々がご覧になる中での試合となりますが、皆様気負わず十分に実力を発揮できたらと思います」
優勝者予想があるのか、いいこと聞いたな。
「それでは大会におけます注意事項を説明いたします。ご存知の方も多いかと思いますが、違反者は即失格でございますので重々ご注意ください」
周りの大半はあまり話を聞いていなさそうだ。出場者には常連も多いのだろう。僕は漏れなく聞くため耳を傾けた。タカシとマサルはあまり聞いてなさそうだしな。
「魔法の使用は禁止でございます。魔法効果や特殊効果のある武器防具も禁止でございますのでご準備いただきましたものがコレにあたる場合は先程の控え室にございます武器防具をご利用ください。試合の勝敗は降参、戦闘不能により負けとなります。尚予選のみ闘技場から身体の一部でも場外に出てしまいましたら負けとなってしまいますのでご注意ください。空中は大丈夫ですが地面に身体の一部が付けば場外負けとなってしまいます。降参は文字通り負けを認めて審判にお声掛け下さい。そこで試合終了です。戦闘不能は審判が主に判断いたしますが失神してしまったり命に関わる重傷になった場合に負けと判断いたします。勝敗は審判の行うものとなりますのでそれ以外でも反則と取られる行為もございます。あらかじめご了承ください。なお対戦相手を死亡させてしまった場合も負けとなります。武闘大会は殺し合いではございません、皆さまの正々堂々たる闘いをご期待しております」
降参か戦闘不能、予選は場外負けありか。予選は手っ取り早く外に出すのが効率よさそうか。
相手を殺せば反則負けか、流石に観客が入るのにまぁそれはないのか。
「おい、2人に注文がある」
タカシとマサルがこちらを向く。僕は周りには聞こえないように2人に近づいて小声で話しかけた。
「予選は出来る限り力を見せるな。手加減しろ。適当に場外負けにするくらいが丁度いい」
「相手がメッチャ強かったら?」
「大丈夫だ。そこまでの奴はいない」
予選はとにかく目立たないように言い聞かせる。最終的に優勝するとなるとそこで目立つのは仕方ないが予選はなるべく抑えるように。
「それでは予選会を開始したします!番号を呼ばれた方はそれぞれの闘技場へお願いいたします!」
そうして予選会が開始した。




