修行って山籠もりとか滝行をイメージする
ルガー伯爵の屋敷の火事騒ぎのあった次の日、僕は何事もなかったかのように冒険者ギルドに足を運んだ。もちろんミズリー師匠との修行のためだ。
「昨日みたいなことは今後絶対にないように」
「もちろんです。僕もできるだけ犯罪者にはなりたいとは思っていませんので」
昨日のことに釘を刺されたがミズリー師匠もあまり怒っている風ではなかった。それほどルガー伯爵が真っ黒なヤツだったということだろう。
「それで、あの二人は?」
ソファーに座ってジッとこちらを見ているタカシとマサル。
「すみません。ただの見学です。あの2人は目を離すとすぐ問題を起こすんで連れてきました」
「見学ねェ。まあ折角だし色々と手伝ってもらいましょうか」
タカシとマサルはジッとこちらを・・・・いや、ミズリー師匠を見つめている。もちろんその胸を。
(タカシタカシ、横から見るとスゴイ)
(組んだ腕に乗っかるメロン。メーブルちゃんよりもでかいわ)
こそこそと話している2人の会話は僕には聞こえてこないが何を話しているのかは見当がつく。
「それじゃあ始めましょうか。今日明日でやることは魔法の応用と確認ね」
「応用と確認?」
「応用は魔法の色々な使い方の応用ね。加減だったり形をかえてみたりね。確認は自分がどこまでできるかってところね」
「確認は・・・・できれば勘弁してもらいたいんですが」
「ダメよ、こっちの方が大事。自分がどこまでできるのか分かっていないともちろん加減もできないし絶対に勝てない相手に対して無謀な勝負を挑んでしまったりするでしょ」
「分かりました。では師匠以外には見られないようにっていうのと口外禁止でお願いします」
「もちろんよ」
「あと、あそこの2人に核心をつく質問なんかはできれば遠慮させてください。2人とも嘘つくのがびっくりするぐらい苦手なので」
「ええ、分かったわ」
そしてそれから数時間僕はミズリー師匠から色々と魔法の技術を教わった。初日は応用がメイン。
魔法の形を変える。
魔法の大きさを変える。
魔法の速さを変える。
それぞれ僕は感覚でやっていたがちゃんとした理論があり魔力の練り方なんかで応用が可能だった。そのあたりは元々やっていたこともありミズリー師匠が驚くくらいの対応をやってのけた。
魔法はイメージ力。
詠唱はその部分でも大きく影響している。火の玉を放つファイアーボール、火の矢を放つファイアーアロー。それぞれ詠唱が違うのは玉なのか矢なのかのイメージを作るのに詠唱が影響する。
僕の場合は魔法名を口にすることでイメージが湧くようだ。詠唱をすっとばしているのは魔法を放つときの魔力の練りを詠唱で整えることなく身体が自然にやってくれているからこそなのだとか。
なので無理に詠唱する必要はないだろうとのことだ。今後もっと大きな上級魔法以上を使う場合は必要かもしれないがとはミズリー師匠。
タカシとマサルにも折角だから修行に参加してもらう。タカシとマサルに対してマジックガードを張る。これもマジックガードを人型に張るという応用だ。
そして野球ボールくらいのファイアーボールを様々な角度から放ってそれを2人が躱すだけだ。
最初は渋々だった2人も30以上の火の玉が延々襲い掛かってくるのをギリギリで躱し続けているとなんだか楽しそうに動いていた。そういえばあまり思いっきり体動かしたりすることなかったからな。流石体育会系だ。
「何?あの子たちも規格外?」
ミズリー師匠はあきれていた。スピードと反応速度が常人のそれとは違うようだ。
2日目も僕たちは3人で冒険者ギルドにお邪魔した。
2日目も応用がメイン。
土魔法で土から椅子を作り出したり水魔法でベッドを作ってみたり(驚くほどにウォーターベッドだった)
便利だと思ったのは風魔法による遮音だった。範囲内の音を外に漏らさないように風で囲ってしまう。闇魔法も似た効果があったが使うなら断然こっちだ。
タカシとマサルが横で筋トレをしている中僕がどれくらいまで魔法を練れるのか?放出できるのか?の確認作業も行った。
「一番簡単なのは魔法をいくつまで同時に出せるか確認することね」
「以前知り合いにそんなことは聞いた覚えがありますね」
「毎年魔術大会でされる予選会がいくつ魔法を一度に出せるか?っていうのがあるのよ。多分今年もやると思うし」
「師匠、昨日確か10くらいで本選出場級って言ってましたよね」
「そうね、だいたい本選出場者は10は超えるくらいだって言われているわね」
「俺昨日20出してたんで本選出場は大丈夫そうですね」
「ええ、余裕ね。けれど今からいけるところまでいってもらうから」
「・・・・・・・・・・・・・・・さいですか」
「ちなみに言っておくけど私でだいたい50くらいね」
知力500オーバーで50個か・・・。なら僕なら100くらいいけるのか?
「じゃあ50出したらそこまででいいですか?」
「ダメよ。いけるところまでいって魔力を練れなくなる限界を知っておく訓練なんだから」
「限界・・・・か・・・・」
「それじゃあ始めましょう」
ミズリー師匠は少し離れて見守っている。タカシとマサルも休憩しながらこっちを見ていた。いや、目線はミズリー師匠だ。
「よし、やってみるか」
ファイア
と、まず10個ほどこぶしくらいの火の玉が僕の周りを浮遊する。
ファイアファイアファイアファイア
10個づつ増やしていき現在50。まだいけるな。
そのまま数を増やしていく。
70・・・80・・・90。
「とりあえず100・・・」
なんだか身体が重たい。なにも持っていないのに体に重りをつけられているみたいだ。これが限界を感じるってことか。
「105・・・・107・・・・108」
ダメだ。限界だ。
「し・・師匠。もう限界ですね。これ以上はちょっとまずいかもしれません」
「・・・・・・分かったわ。ゆっくりでいいから消すことはできる?」
ゆっくりゆっくり火の玉を消していく。3分くらいかけて全て消し終えたあと僕はため息をついて地面に座り込んだ。
MPを確認してみたが1割も減ってはいない。MP減少による疲労ではないのか。
「予想はしていたけれどこれほどとはね。まぁ50は超えるんじゃないかと思ってたけど」
「魔力がそのまま魔法使いの実力じゃないでしょう?この魔力でもおれは師匠に勝てるイメージはできませんよ」
「それはそうだけど逆に言えばこれだけの魔力でちゃんとした知識と応用もできればとんでもない魔法使いになるわよ。ちょっと嫉妬しちゃうくらい」
「さすが煩悩の塊マーシー。108個っていうのが狙ってやったのか?そうじゃないのか?」
マサルがヤジをとばしてきたな。
「じゃあ次は」
次は一度で出せる限界値。今108個出したんで一回で108個出せるかどうか。
僕は息を整えて目を瞑る。
「フー・・・・・・、ファイア!!!」
ボボボボボボボボボボボボボボッ
何個出たかわからん。
「うーーんとねェ、98・・・・かな?」
重い、体が重い。さっき108個出した時よりもさらに体が重く感じる。ゆっくり順番に出すよりも一気に出すほうが想像以上に負担がかかるってことか。
僕はゆっくりと出した火の玉を消した。
はぁはぁはぁはぁ。
「いいわ。じゃあ今の感じを絶対忘れないように。限界以上の魔法を使おうとしたら今以上に体に負担がかかるって分かるでしょう?一度魔法を限界以上の力で使っちゃって動けなくなったらただの足手まといになっちゃうからね。最悪そのまま失神したり死んじゃったりすることもなくはないからね」
僕今めっちゃ修行してる。1人じゃできなかったことがやっとできてるって実感してる。やっぱ独学でできることは限界あるよな。
「ありがとうございます師匠。おれミズリー師匠の弟子になれて本当に良かったって心から思います」
嘘偽りのない僕の言葉を聞いて師匠は頬を赤らめて照れていた。こういうところホントかわいいよな。
こうして2日間の修行も終了し明日から武闘大会の予選だ。2日間しかなかったが色々勉強になった。
「ありがとうございました師匠。困ったことがあればまた相談に乗ってください」
「ええ、貴族の屋敷に火をつけるみたいな大事じゃなければなんでも相談に乗るわ」
ははははっと僕らは笑みをこぼした。
「タカシくんもマサルくんもよ。自分では手に負えないことも必ずあるんだから。1人ではなく2人。2人ではなく3人。周りもきっとあなたたちの手助けになってくれるわ。もちろん私も」
本当にありがとうございましたと僕たち3人は頭を下げて冒険者ギルドをあとにした。
「さてと明日からはやっと武闘大会やな!」
「すまないな、俺の修行に付き合ってもらって」
「いやいやいや、良い目の保養になりました」
「ホンマメロン師匠爆乳やったな。マーシーと魔法打ちあってた時の揺れるメロンは動画に残しときたいもんやったわ」
やめろ、僕の師匠を変な目で見るんじゃあない。
「それに久々に全力で体動かせてええ運動になったわ。明日のええ準備運動になった気分や」
「目的の武闘大会まで随分と時間がかかったが、まぁ明日から楽しみだな」
さぁ帰って風呂入って寝よう。
そして武闘大会が始まる。




