隠密活動中に金属バットをフルスイング
マサルは階段を駆け上がると大きな廊下に出た。
扉の前に横たわる1人の警備っぽい人物。その横に剣を抜いて立っている黒い肩当てをした人物。
「何ものだ?コイツも貴様がやったのか?」
横で倒れている警備を指して言ったのだろう。
「いや、それはマー・・・マーライオン」
隠密行動中の人間が名前を答えてしまいそうになる。
「まさか賊が侵入するとはな、門番や下にいる魔法使いはどうした?殺したのか?」
「オレコロシテナイ。オレコロサナイ。オマエタオス。オレニンジャ」
「狙いはルガー伯爵の命か?ここは通さんぞ」
ギーネルは剣を横に構えてマサルと対峙する。廊下は十分に広いため剣を振り回すのも問題はなかった。
素手の仮面男に油断したのかギーネルは構えたまま一気に距離を詰める。
「死ねェ!」
マサルはどこからともなく1本の鉄の塊を右手に構えていた。
「な!?どこから!?」
ドゴオオオオオオオォォォォン!!
横一閃
ギーネルは左わき腹を打たれた勢いで廊下の壁を突き破り部屋の中に吹き飛ばされた。
マサルは壁にできた穴から中の様子を窺う。部屋の奥でギーネルは壁の机をへし折りぐったりと仰向けで倒れていた。手に持っていた剣は脇に転がっている。
(え!?大丈夫?死んでないですか?)
マサルは固まっている。
マサルは扉の前の警備に目を向ける。
マサルはギーネルに目を向ける。
マサルは腕を組み再び固まった。
(俺は悪くない)
背後から人が階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
マーシーだった。
「どうしたマサル?」
「俺は悪くない」
あ、何かやらかしたなマサル。
僕はデカい穴の開いた部屋を覗き込んだ。
「ギーネルってヤツだな。死んでないか?」
「大丈夫死んでない。みねうちだ」
マサルの持つ金属バットにはそもそも刃もみねもないがな。
「スリープ」
僕はギーネルに向けてスリープを放ったが1階に居た魔法使いと同じように接触する前に弾けた。
「こいつもか」
僕はそっと近づいていく。
ギーネルは白目をむいて仰向けで伸びている。
ギーネルのステータスを確認するとHPは残り2割ほどで失神状態になっている。装備品の中に魔除けの首飾りが表示されていた。
「便利なアイテムがあったもんだな。・・・・・・直に触ってスリープかけたらかからないかな?」
僕はギーネルの肩に手を当てた。
「スリープ」
失神状態の横に睡眠状態が追加された。
直接触れればアイテムの防御も関係ないか。僕はギーネルの首から魔除けの首飾りを剥ぎ取りアイテムボックスに収納した。いただきますね。
「よし、マサル。気づかれてなかったか?」
「服装も違うし仮面もしていたから大丈夫だと思いますが」
「よし、コイツと扉の前に転がっている警備の人間を外に放り出してこい」
「あいあいさー」
僕はルガー伯爵の部屋に入る。カギはかかっていたが自慢の風魔法で切り刻んだ。
ルガー伯爵は机に突っ伏して眠っている。仕事中だったのかな?
部屋には特に扉は無くダルの葉が大量に置いてある部屋に入ることができない。
「ここは一番端の部屋だから外にもう扉は無いしなぁ。隠し扉があるのか?」
本棚と壁を手探りで探ってみるが怪しい場所は無い。
僕は迷わず風魔法で切り刻んだ。
刻んだ壁が絨毯の上に転がり隠し部屋が姿を現した。
壁一面の棚にダルの葉が束ねて並べられている。他にはキセルと机の上に調合用の器材があるだけだ。
少し持って行こうかと考えたが、やっぱりやめておこう。
僕はルガー伯爵を担いで廊下へ出る。丸々と太ったルガー伯爵だが重さはあまり感じない。タカシとマサル程ではないが僕も力は一端の冒険者並みにはある。廊下に居たマサルにルガー伯爵を引き渡すと僕は索敵を広げる。
よし、ミズリー師匠は屋敷から少し離れたところにいるな。冒険者を何人か連れているようだ。
さてとそろそろ火をつけよう。
部屋で眠っていた人間も2人に指示を出しそれぞれ運び出させてこれで全員だ。
「それじゃあ始めようかな。ファイア」
20個ほどのサッカーボールくらいの火の玉を各部屋にばらけさせて燃えやすそうなカーテンやベットに点火。屋敷はみるみるうちに火に包まれていく。
ルガー伯爵の部屋の付近は火は点火せず僕はルガー伯爵の部屋で静かに身を潜めていた。
タカシとマサルは火を確認するとすぐさま裏手から屋敷を離脱。
僕はルガー伯爵の部屋の窓から索敵と肉眼で表の様子を窺っている。
「皆、大変!火事よ!ここはルガー伯爵の屋敷だったかしら」
ミズリー師匠のあからさまなセリフが聞き取れた。
「私はすぐに消火するから誰か人を呼んで来て!」
「さてと」
僕はここまで火が燃え移らないように一応部屋全体を水魔法で濡らして外に向けて広範囲でキュアを唱える。なんとか門番にも届かせることができた。庭に寝ていた全員のスリープを解くと屋敷の裏手にある窓から飛び出しそのまま壁をよじ登って外に出る。
「大丈夫ですか、みなさん!?」
ミズリーは庭に横になっている人たちに声をかけ回って負傷者がいないのかを確認していた。
火が大きく広がろうと燃え上がると同時に
「ウォーターボール!!」
大きな水の球が屋敷の頭上に3つ発現。そのまま弾けて屋敷に降り注ぐと火は勢いを緩めて所々で煙をあげる。
「皆さんはすぐに避難してくださいね!」
そして自身に水をかけると入り口から颯爽と中に入って行こうとした。しかし。
「待て待て待て待て!勝手に入るんじゃあない!ここはワシの屋敷だぞ!」
声をかけたのはルガー伯爵。血相をかえて大声をあげるがミズリーは聞こえないふりをしたまま、さも人命救助のためかのように入り口から中に入っていった。
「待てといっておるだろうが!!」
ルガー伯爵はすぐに自らも中に入ろうとするが横に座っていた執事に「危険です!ルガー様!」と、止められた。
(ルガー伯爵の部屋は2階の一番端の右手だったわね)
ミズリーはマーシーから聞かされた部屋の場所へと一直線に向かって行く。所々火を見かければ水魔法で鎮火させながらすぐにルガー伯爵の部屋の前までたどりついた。
(ここは全然燃えていないわね)
中に入ると切り刻まれた壁の中に小さな部屋がありそこに大量の葉っぱ。もちろんダルの葉だ。
「できれば冗談で済めばよかったんだけど・・・。どうしようかしらね」
「ダイジョーブですか!?みなさん!!すぐに建物から離れてください!!」
「あら、良い所に来てくれたわ」
庭で救命活動をしている大きな声には聞き覚えがあった。
「レイアガールさーん!すぐにこっちに来てくださーい」
ミズリーは庭にいる聖騎士隊の副隊長であるレイアガールに声をかけた。
「これはこれはミズリー殿か!ではこの火事を鎮火したのはミズリー殿だったのですね!ご苦労様です!すぐにそちらに参りますね!」
「何をしておる!!そこはワシの部屋ではないか!!勝手に入るな!!ギーネル!ギーネル!!すぐに二人を叩き出せ!」
ギーネルはマサルに瀕死状態にさせられたままなので睡眠状態が解けても失神したままだった。
「落ち着いてくださいルガー伯爵!自身の屋敷が火事にあって錯乱されているのですね!大丈夫我々にお任せください!お前たち!ルガー伯爵の看護を頼むぞ!私はミズリー殿を手伝ってくる!」
颯爽と駆けていくレイアガール。
「行くなあああぁぁぁぁぁ!」
叫ぶルガーだがレイアガールはあっという間に中に入っていきルガー伯爵の部屋へと行きつく。
「レイアガールさん、ご苦労様です。早速ですが、コレを見ていただいていいかしら?」
「んん?この小さい部屋ですか?」
棚に並べられたダルの葉をレイアガールは一つ手に取りマジマジと見ている。
「ダルの・・・葉・・・・ですね。こちらはルガー伯爵ご自身が自分の部屋だとおっしゃっていましたね。これは十分な取り調べが必要なようだ」
レイアガールはその束を1つ手に持ち窓からルガー伯爵を見下ろした。
「くっ!!どけェ!!」
ルガー伯爵は自身に手を差し伸べていた聖騎士を振り払い門へと駆け出したが。
「逃がすな捕らえろ!お前たち!そこに居る者たちをここから出すな!カイール!フルル!門番の4人もこっちに連れて来い!全員重要参考人だ!」
ルガー伯爵は捕らえられ身柄を拘束される
「貴様ら!!ワシを誰だと思っておる!!離せ!離さんか!!」
「大変なことになりましたね、レイアガールさん」
「ええ全くです。あ、この壁はミズリーさんが切ったのですか?風魔法でしょうか?」
「え・・・ええ・・・・。不自然な穴があったので誰か居ないか緊急でしたので咄嗟に・・・ホホホホホ」
「そうですか。器物破損にあたりますが今回は見ていないことにしておきましょう!なにせ今回は偶然にもそのおかげで大きな悪が暴かれましたから!ミズリーさん!お手柄ですよ!!」
(私この人のこのノリ苦手なのよね)
「さぁ忙しくなるぞ!!」
(マーシーくんは大丈夫かしら?)
ルガーの屋敷を裏口から出ると人が居ないのを確認しすぐに衣装を冒険者風に戻す。
さてと、野次馬に混じりに行こう。
「こんなところで一体何をしているのかな?」
「!?」
声をかけられた。
まさか、肉眼と索敵も合わせて人が居ないのは確認したはずだ。
しかもよりによって
「これはこれはアルベルトさん」
聖騎士隊長のアルベルトがそこに居た。




