冒険者になる。それは就職するということか。
少し早い時間帯ではあるがチェックアウトをして宿を出る。
「また、今日も来ると思いますのでよろしく」
とリアちゃんに伝えると
「はい、いってらっしゃい」
と返してくれた。女の子にいってらっしゃいと見送られるとなんかグッとくるものがあるな。
道中3人とも布の服を着用のため昨日みたいに視線を感じることはない。
僕はさきほどの得たスキル『識別』で道行く人のレベルやステータスをチェックしながら歩く。
レベル1レベル3、おっレベル7がいる。甲冑を着た兵士さんだ。それに剣術LVが1か。
それにしてもステータスの数値が低すぎると思うんだが
レベル7の兵士でさえ力が22で体力が24だ。タカシとマサルが力をMAXまで強化しているのを差し引いても3倍ほどの差があるな。レベル1の街人に至ってはステータスがほとんど1桁だった。僕の力12は一般レベル範囲内ってことだろうな。僕ら3人共全体的な基礎ステータス値は高そうだ。馬鹿2人の知力を除いては。街人の知力は平均6~7ってところだった。
10分ほど歩くと開けた場所に出てきた。真ん中にどデカイ噴水があり、それを囲むように屋台が何店舗が準備をしている。
まだ朝早いため準備中ってことかな。
噴水の向こう側に周りの木製の建物の中にその一箇所だけ違和感を放つ大きな市民ホールみたいな石造りの建物がある。
「多分あれが冒険者ギルドだな」
と、僕が一言言うと
「なぁなぁ、ギルドってなんなん?」
あまりゲームなどはしないタカシが聞いてきた。タカシはアクションゲームを少しかじる程度でロープレやシミュレーションなんかは多分やったことはないはずだ。そんな話を聞いたことがない。
マサルは人並みにはその辺りは分かるようでギルドとはどういったものなのか雰囲気では分かっていたようだ。
「ここのギルドがどういったものかは詳しくは分からないが、こういう冒険者ギルドってのはそこに登録しておけばいろんなクエストを受けられるようになる。例えば狼の牙を3本用意するとか、スライムの液体が2つ必要だとか。それならどっかに生息している狼とかスライムを狩って必要なアイテムを獲得してそれを渡せばクエスト完了。報酬がもらえる。アイテム収集以外にも直接このモンスターを退治してくれとかもある」
「ふーんなるほどなぁ」
タカシは分かったのか分かってないのか腕を組んでフンフン首を振っている。こういう時は半分以上分かってなさそうだが。もの凄く簡単に言ったんだけどな。
「ところでさぁ、、、、、、クエストって何?」
、、、、、、、、、、、、、、、、。
、、、、、、、、、、、、、、、、。
そこか!!
僕とマサルは目を見開いてタカシ見た。
「依頼ってことかな、、、、」
ふーん。口を尖らせるタカシ
とにかくいけば分かるさ。
僕らはその建物に向かった。
宿屋なんかとは比べ物にならないほどの大きな木製の扉を力一杯押して中に入ると天井も高めで広いホールになっている。右手に喫茶店みたいにテーブルとイスが並べられているがただの待合のようだ。その待合に4人で固まって座っている集団がこちらを見てヒソヒソと話をしている。1人は重装備。重々しい甲冑を着込んでおり、他3人は割と軽装だ。軽装といっても僕らみたいに布の服ではなく鉄製の胸当てやら鎧。頭部にも鉢金をつけていたり兜をかぶっている。見るからに冒険者って感じだ。腰には帯剣している。
入ってそのまま真っ直ぐ行くとカウンターが並んでいる。1番右端のカウンターは先客がいるので僕らは1番左端のカウンターに向かった。
もちろん対応は僕がするため2人は後ろで適当にニコニコしてるように指示した。
「すみませんが冒険者の登録はこちらでよろしかったでしょうか?」
「はい、登録ですね?少々お待ちください」
女性の受付の方が2枚の紙を出した。
「こちらに目を通していただいてメンバーのお名前をお願いします」
1枚は注意事項だな。語学スキルのおかげで問題無く読める。
適当に読み流したが、死んでも責任とりませんとかクエストに不正があった場合は登録抹消とかチーム同士なるべく仲良くしましょうとかそんなことが書いてある。なるべくってなんだろうか?やっぱりチーム同士で揉めたりすんのかな?
もう1枚に名前を書く欄がある。1番うえに『リーダー』と書いてあったので2番目に名前を書いた。日本語で書くと自動書記のように勝手にこの世界の文字に変換されたのでほっとする。で、タカシに渡す。そしてマサルも書いて僕の手に戻ってきた用紙を見るとリーダー欄はタカシが。1番下にチーム名を書く欄があったようでそこに『フルボッコ』と書かれていた。僕はなんら問題無くそのまま提出する。
ちなみに『フルボッコ』とは僕ら3人が所属しているフットサルチームの名前なので特に意味は無い。
「はい、お預かりしますね。それでは簡単に冒険者ギルドの説明をさせていただきます。当ギルドではクエストを受注することができます。右手の掲示板に依頼は掲示されますのでお選びいただいてカウンターへお持ちください。ただし受けられるクエストはランクがチームと同じものかひとつ上かひとつ下のものしか受けることができませんちなみに今回登録いただきました皆さんは最低ランクのEランクになります。ですので今受けれるクエストはEランクのものかDランクのものに限られます。クエスト完了時もカウンターへご報告ください。報酬をお渡し致します。もしクエストが被ってしまった場合は基本は先にクエストを完了されたチームに報酬が出されますので予めご了承ください。複数のチームで完遂した場合も報酬額は変わりませんので提示されている報酬額を複数チームで分割していただきます。依頼を受けるクエストとは別で討伐依頼というものがございます。こちらは依頼は受けなくても討伐数で報酬が出ますので今現在討伐依頼の出ているモンスターは何なのかは確認しておくことをお勧めします。討伐されたモンスターは当ギルドで買い取らせていただきます。西館入り口に専用カウンターがごさいます。並びに野うさぎや猪などの野生動物も買い取り可能です。同西館カウンターまでお持ちください。何か質問はございますでしょうか?」
えらい説明口調だな。マニュアルっぽくてなんかヤダな。
「その討伐依頼の討伐数はどうやって判断するんですか?死体を持ってくればいいんですか?」
「、、、、、、、、大丈夫です。数は当ギルドで把握できますので。他にはございませんか?」
一瞬何言ってんだ、コイツは?的な表情になったがなんかまずいコト言ったかな?
「大丈夫です」と答える。
受付はその用紙を持って奥へ入っていった。
1分ほどで中からハゲのむさい筋肉隆々のおっさんと頭がボサボサのローブ姿の女の子が出てきた。
「お前達か、、、、、線が細いな、、」
期待外れだ、みたいな顔をされた。
「私はゲーリー。ここの副ギルド長だ。何かあればいつでも相談に来い。だいたいここにいる。今から登録するから腕を出せ」
腕?なんだろう?
僕は左手の袖をまくり、それとなしにこの2人のステータスを覗き見た。
来た!!この街最強か?
『ゲーリー・アルドレド 36歳 LV34 戦士』
HP 180
MP 46
力 115
俊敏 60
知力 48
体力 85
運 21
剣技LV3 格闘LV2 槍術LV1 ガードLV2
それでもやっぱりステータスが心許ない。
でもまぁ考えるに、ウサギを50メートル蹴り上げたタカシのあの時の力が60だったと考えるとその倍だ。十分怪物級だろうな。あと、ガードってなんだろう?気になる。盾術とかかな?
それに隣の女の子。
『ミミ・ナード 16歳 LV5 契約師』
ステータスは普通だがスキルに『契約魔法』
ってのがある。気になる。気になるぞ。
僕の捲った左手をその女の子が掴んだ。ふいに掴まれたのでドキッとしたが二の腕あたりを両手で覆うと何かブツブツ喋り出した。
「#&#&契約#&/#/&/&@#/給え」
小さな声と早口なため何を喋っているのか分からないが、おそらく魔法の詠唱なんだろう。すると僕の左腕がボンヤリ光り、二の腕あたりに幅1センチほどの痣のようなものが残る。
タカシとマサルにも同じ要領で痣を残し
「お疲れ様でした」
と一礼すると女の子は奥の方に戻っていった。おそらく今のが契約魔法なのだろうか
「よし、これでお前達は冒険者になった」
今のだけで?魔法で登録か、、ファンタジーだな。
「何か聞くことはあるか?」
「すみませんが僕達初心者なので色々とお伺いしたいのですが?」
そうか、とゲーリーさんはカウンターの奥の個室に案内してくれた。
僕達は簡単な応接室みたいなところに通され
ソファに3人並んで腰をかける。ゲーリーさんが対面に座っている。腕とか足とかもうパンパンで威圧感がすごい。
と、ゲーリーさんが話し始めた。
「何が聞きたい?冒険者の心得か?強くなる術か?金を稼ぐ方法か?私の強さの秘訣か?」並んだキレイな白い歯が眩しい。
「すみません、先ほどカウンターで討伐したモンスターの数はギルドで把握されるとお伺いしたのですが、どう把握するんでしょうか?」
「なんだ契約紋を知らんのか?」
契約紋?さっきの痣か?
「さっきウチの契約魔法師が左腕に刻んだ契約紋は冒険者の契約紋になっている。それがあれば討伐したモンスターと現在のランクが分かるようになっているんだ」
王族が騎士に与える騎士紋
主人が奴隷との契約の際に刻む奴隷紋
などが他にはあるらしい。
どういった仕組みなのかはこの際なんでもいいか、魔法だよな魔法。
「このあたりでレベルを上げるにはどの辺りがいいですか?」
「ちまちま上げるなら草原で野うさぎを狩ればいい。野うさぎの肉はウチで買い取るから資金稼ぎにもいい。次は南門を出てずっと東に行けば森に当たる。草原と森の境界あたりに猪がたまに出る。3人がかりならなんとかなるだろう。森には入らないほうがいい。奥に行けばたまにオークが出る。武装していたり複数でいることが多いから低レベルのウチは危険だ。あとスライムが出てきたら全力で逃げろ。物理攻撃があまり効かん。あとブヨブヨしてて気持ち悪い」
ブヨブヨ、、、ですか、、。
「草原で野うさぎ狩りか、森の手前で猪を狩るのがいいってことですね」
「ああ、そうだ。最初は地道でいいんだ。それが大事だ。今なら野うさぎなら銅貨3枚、猪なら大銅貨5枚で回収しているしな」
「魔法使いの方はこのギルドに所属されてたりしますか?」
「魔法使いか、、、今この街に滞在している中では2人だな。帝都や魔法都市なんかにはゴロゴロいるらしいが。ちなみにスライムは火魔法に弱い。使えるのか?」
「はい初級程度ですが(多分)」
「そうか、スライムが出たら火を出せば十分牽制になる。倒すことはできなくてもその隙に逃げれるはずだ」
「ゲーリーさんなら倒せますか?」
「フン、当たり前だ。十分にレベルを上げて修練した者の剣速と剣圧であればスライムも粉砕できる」
「すごいですね、ゲーリーさんは見たところレベルは高そうですが、この街の最高レベルはゲーリーさんなのですか?」
「ほほぅ、見る目があるな。この街でのレベル30オーバーは私だけだ」
「それはすごい!!レベル30ですか!!まだお若いのに数多の戦闘をくぐりぬけてきたのですね!!」
「いやいやいや、それほどでもない。もうピークは過ぎてしまったからな。2年前に引退してこの故郷に帰ってきたのだよ」
「そうですか、ありがとうございます参考になりました。また何かあればご相談させていただきます」
またいつでも相談に来い。と見送られてずっと黙っていた2人を連れて部屋を出た。
こういう場では必ず2人は黙ってニコニコしていることを心がけてくれている。話に入って来た場合、、、、まぁ、、、8割方こじれるのを本人達も分かっている。多分タカシあたりが第一声で『ハゲ』とでも言って心象を悪くしてしまうだろう。
役割り分担は大事だ。この2人には別のところで頑張ってもらおう。