いや、ほんの出来心だったんです。
ルガー伯爵の馬車が去った後タカシとマサルの元に近寄ってきたマーシー。
「説明してもらおうか?この人だかりを」
「いやいやいや、俺はなんもしてへんで。ちょっと腹の立つおっさんの馬車を素手で止めただけやし」
「おれは昨日ぶっ飛ばしたヤツにリターンマッチをけしかけただけだ」
うまい具合に悪いところだけよく言ったもんだ。
「いやあ!ありがとう!二人とも!女の子も怪我はないようだね!」
なんだかうるさい。聖騎士副隊長レイアガール。ツンツン赤髪の元気な人だ。
「ルガー伯爵に目をつけられるとは災難だな」
金髪ロング。イケメン。名前がアルベルト。どこでも主人公張れそうだなオイ。こっちが隊長さんか。
お互いに自己紹介だけ軽くしたがなんなんだこの男前2人は。絵に描いたような主人公キャラじゃないか。
「申し訳ございません。ウチの2人がご迷惑をおかけしたみたいで」
「いや!迷惑ではない!勇気ある行動を行ったのだ!」
簡単に説明をうけた。
女の子が転んだ。
馬車が女の子を刎ねそうになる。
マサル助ける。
タカシ馬車止める。
一触即発。
聖騎士登場。
なるほど。騒ぎは起こしたが犯罪行為をしたわけではないと。
「お兄ちゃんありがとう」
「ん、おお。今度からは気をつけろよ」
マサルが照れているのが手に取るようにわかる。
女の子は真っ赤なボールを両手で抱えて走って行った。
「君たちは冒険者だな?この街でも他の街でもそうだが貴族に手を出すのは言語道断だ。それはわかっているね?」
隊長のアルベルトさんがタカシとマサルに視線を向ける。
「すみません。二人には十分に言い聞かせておきます。今後このようなことのないように」
「いや、それは世間では当たり前のことで今後注意はしてもらいたいのだが、今回は本当にありがとう」
隊長さんは人目も気にせず頭を下げた。
「あのままだったらあの女の子は怪我を、いや最悪死んでいたかもしれない。我々が守るこの帝都でそのようなことになっては聖騎士の名折れだ。本当にありがとう」
「ええってええって。たまたま目についてもうただけやから思わず動いてもうたけど。こっちもこんな騒ぎにしてもうてすみませんでした」
タカシも頭を下げる。マサルも横で一緒に頭を下げていた。
「お前たちの正義!見せてもらったぜ!ルガー伯爵が何か言ってきたら俺たちに言え!力になるぜ!」
この人はさっきから本当にうるさい。そんなことを大声で言っていいものなのか?
「おい、声が大きいぞレイ」
「すみません!隊長!」
「それでは我々はこのあたりで」
隊長と副隊長はペコリと頭を下げた。
アルベルト隊長のステータスを確認しますか?
YES ・ NO
!?
久々に選択肢が。
意味深だ。意味深すぎる。
選択肢ひとつで必ずルートが決まる。ヤマトの時もそうだった。リザマイアの時はNO一択だったが。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
やめておこう。なんだか嫌な予感がする。
NOだ。
一応副隊長の方だけステータスチェック。
やっぱり強いよな。
レイアガール 聖騎士
力も体力も素早さも400手前。
剣術LV3に光魔法LV2か。
聖騎士ってだけあって光魔法が使えるのか。
それなら隊長はこれより強いってことだよな。
去っていく2人を見送って僕はタカシとマサルに声をかけた。
「詳しい話を聞きたいしこっちの話もしたいからどこかに入ろうか」
手近な店になると冒険者ギルドのカフェが一番手っ取り早かったため僕たちは冒険者ギルドに戻ってコーヒーを手にテーブルについた。
「というやりとりがあったって感じです」
「あのルガーってのはホンマむかつくな。自分はなんもでけへんのにやってしまいなさい助さん格さんみたいな感じがカチンとくるわ」
さっき聞いた通りだな。少々ルガー伯爵との間には嫌な遺恨を残したみたいだが2人のとった行動は褒めてやってもいいことだ。
「2人ともよくやったよ。けれどその後聖騎士の2人がいなかったら大騒動になってるところだからな。そもそも馬車止める必要はなかったんじゃないのか?タカシのスピードで女の子を拾うだけで良かったんじゃないのか?」
「・・・・・・・それを言われたら身も蓋もないわ。咄嗟のことやから考えるよりもまず体が動くもんやん」
「今回のことはいいさ。誇っていいぞ」
「おう。俺、やった」
「おう。俺正義」
「でだ、こっちの話になるんだが。おれは弟子になることになった」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ヒャーーーハッハッハ!!
ヒーーーヒッヒッヒ!!
2人は腹を抱えて笑い出した。
まぁ、多分僕が逆の立場でもそうなってるから今回はなにも言い返せない。
「一応俺の師匠はあの右端のカウンターの人だ」
あ、ミズリー師匠メッチャこっち見ながら手を振ってるぞ。
ガシッ!胸倉をつかまれた。
ガシッ!タカシのアイアンクローで僕のこめかみが悲鳴を上げる。
「イタタタタタタ、ギブギブ」
「なんでいつの間にそんなことになってんねん!もうあのメロンを堪能したんか!!」
「俺たちの居ない間にちょっかいかけるとか引く。マジ引いた。人には娼館に行くなと言ってたヤツが」
「魔法だよ魔法。魔法教えてくれって言ったらあの人がここの魔法使いの指南役で、気に入られたんだよ」
その後2人からの尋問と僕の言い訳のやりとりがなされた。魔力鑑定の石の話。庭でのやりとりも全て話してやっと2人は落ち着いた。
「お前たちも勝手に騒動おこしてたしチャラってことにしておこう。な?」
「それとこれとは別問題や。マーシーをあなどってたわ。マーシーはやるヤツやと思ってたけど」
「ルガーとメロンでは罪のレベルが段違い」
「ちなみに、マサル。武器は?」
「話を強引に逸らしやがった。ホンマすごいわ、マーシー」
「まぁメロン師匠のことは一週間くらい責めるとして、これを見ろ!」
マサルは両手を前掛けの大きなポケットに突っ込みそこからどでかい鉄の棒みたいなのを取り出した。
「お・・・おう。金属バット・・・か?」
「そう。そしてこのポケットから出す演出も今日編み出した!きーんーぞーくーばっとー!的な」
なんだかマサルが楽しそうだ。
「金属バットって名前じゃないだろ?正式名称は?」
「この前の防具屋のおっちゃんに良い武器ないか聞いたら剣になる前の鉄の棒を頂きました。ですのでこの鉄の棒にはまだ名前がないわけです。面倒臭いのでこれは金属バットでお願いします」
「防具屋に武器を聞きに行ってる所がおかしいとは思うが、まぁそこは目を瞑ろう。名前もマサルがそれでいいのなら文句はないな」
マサルは金属バットを手に入れた。
「よし、じゃあ後はタバコを買いに行こうか。マサルもタカシも他になにかやりたいことはないか?」
「マーシー、俺アイテムボックスの量を増やしたい」
「マサル。量を増やしてその分食料のストックを増やしたいのか?」
「はい正解」
うん、通常運転です。
「商人レベルを1あげればアイテムボックスを30から50にできるから次レベル上げするときには商人にしておけばいいぞ」
「次・・・かぁ。分かった。我慢する」
「タカシは何もないか?」
「メロン師匠に挨拶したい」
「明日な、明日。ちなみにミズリーさんな。間違っても面と向かってメロンとかスイカとか言うなよ」




