保護者のいない問題児2人。トラブルが起きないわけがない
タカシとマサルはマーシーと別れた後とりあえず冒険者ギルドの周りをうろうろとしていたがどの店がいいのかさっぱり分からず結果先日足を運んだ防具屋に居た。
「おっちゃんおっちゃん、マサルに合う武器探してんねんけどおすすめある?」
「おい小僧ども、ウチは防具屋だ。武器なら他でも色々あるだろう?」
「初めての店に入る勇気がなかった。ただそれだけ」
「というわけで見知った人がおった方が勝手がええと思ったわけです」
武器が欲しいと思ったが、何がいいのか分からないマサルにアドバイスも何もできないタカシ。
「まぁ、何も置いてないわけじゃないからな。どんなのがいいんだ?剣か?斧か?」
「うーーん、こう、振り回しやすいものなら正直なんでも良い。持ちやすくて少しくらい重たいくらいなのが」
「そこの斧なんかはダメなのか?」
「え?刃物はちょっとなぁ」
「刃の無い武器なんてあまりないぞ。こん棒ぐらいしか思いつかないが・・・お、ちょっと待ってろ」
店主さんは店の奥へと入っていった。
少しして戻ってきた店主さんは2メートル近くの太さも直径30センチはある鉄の棒を抱えていた。しかしよく見ると柄がある。そうそれはさながら
「でっかい金属バットやん」
「こん棒ではなく鉄の棒か」
「ああ、この大きさででかい剣を作るつもりだったんだが依頼者からキャンセル入っちまってな。剣にする前の状態で残っててどうしようか悩んでいたんだ。少々重いが持てるか?」
マサルはその鉄の棒の柄の部分を右手で掴み持ち上げた。
「おお、片手で軽々と」
おやじさんは感嘆した。
「これはいい。こん棒よりも丈夫だしリーチも長い」
「ええやん、似合ってるでマサル。マサルは金属バットを装備した」
「それをそのまま武器としては考えてはいなかったが喜んでもらえてなによりだ」
「これをもらいます。おいくらですか?今手持ちは金貨3枚しかないんですが、足りなければ用意しますし(マーシーが)」
「元々売り物じゃねーからな。剣に仕立てりゃ金貨10枚は軽くするんだが、鉄代だけでいいから金貨1枚でいいぞ」
「ありがとうございます。それじゃあこれを」
マサルは金貨1枚を手渡して金属バットをアイテムボックスに収納した。
「おう。便利だなアイテムボックス。流石商人だな」
「思ったよりもはやく武器決まってもーたな。残った金でそのへんでなんか食おーや」
「よし、金貨2枚したってマーシーに言って多めに買い溜めしていこう」
そしてタカシとマサルは防具屋で買い物を済ませて表に出た。
「おう、また何かあったら来いよ」
「ありがとうおっちゃん、また来るわ」
「ありがとうございました」
2人は冒険者ギルドの表に並んでいる屋台を端から順番にまわっていた。マサルはそれぞれの店で12人前づつ商品を注文するとマサル本人が1つタカシに1つ。残り10個はアイテムボックスへ。
「うーん、アイテムボックスが結構もう一杯です」
「30個やもんな。武器と元の世界の服とお金以外は俺はほとんど酒にマサルは食べもんやけど限界あるよなー。ここはやっぱり種類増やさずに少ない種類で99個まで増やすべきかなー?」
「それにしても・・・・・酒飲みたくなってきたな」
「せやな。屋台の食べもんってどれもこれも酒に合うようなもんばっかりやからな」
屋台で買っては食べ、買っては食べを繰り返していた2人はそろそろお腹も一杯になりつつ次はお酒に切り替えたいところだがさきほどマーシーに止められたところだ。約束はあまり守らない2人だが少しの我慢ならできるようだ。後何時間もつのかは分からないが。
「ノンアルとか無いんかな?」
「あったらすごいな、技術的に。まぁ、車とかもないのにアルコール0%にする意味はないよな」
ふいにタカシの目の前を真っ赤なボールが転がったと、思ったら、ドン、とマサルの足に何かがぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
小さな3才くらいの真っ赤なワンピースを着た女の子が少し怯えた顔で頭を下げていた。
「マサル、怖がられてるで」
「え?ポッチャリマスコットのこの俺が!?」
マサルはしゃがみこんでその女の子の頭を撫でながら「ごめんごめん、よそ見しててごめんね」と、ニカッと満面の笑みで返す。
女の子は少し後ずさった。
「んん?これはお嬢ちゃんのかな?ボールってあるんやな?」
タカシは真っ赤なボールを足で器用に持ち上げるとトントンとリフティングを始めた。足の甲、ふともも、足の側面、肩まで使って慣れた身体使いでボールを操っている。
「すっごーーい」
女の子がキラキラした目でそれを眺める
「くっ、タカシ!そんな卑怯な手で心を掴むとは!俺にも貸せ!」
「ははっ、はいはい」
タカシからマサルにパスされたボールは今度はマサルが足やふとももで華麗に操る。女の子はすごいすごいと楽しそうに眺めていたが気づくと通行人が数人ばかり立ち止まってそれを眺めていた。
「おお、器用だね」
「こんなところで冒険者が大道芸とは」
少しばかり調子に乗ったマサルはへディングでタカシにパスしそれをタカシは頭で返す。
地面に落とさずに器用に身体でボールを操る2人を見て少しの歓声と拍手が起こっていた。
そして
「はい終了。お粗末様でした」
「ごめんごめんちょっとボール借りてもうたわ」
そう言って女の子にボールを手渡した。
パチパチパチパチ
なぜか見世物になっていたことに2人は少々照れていた。
「すごいすごい。私もやりたい!」
女の子がキラキラの瞳で懇願してくるがそうそうできるものではない。
「練習したらできるようになるから毎日少しずつ練習したらええ。最初は1回。次は2回ってゆっくり増やしていくだけやから。けど、周りに人のおらん所でやろうな」
「わかった!ありがとう!また見せてね!」
と、無邪気な笑顔でボールを持って去っていった。
「あれは後のなでしこジャパンだな」
「ああ、せやな。異世界でサッカーの布教ってのもいいんかもな」
「キャッ!!」
今の女の子が転んで真っ赤なボールが転々と転がっていく。
オイオイ、と2人はため息を吐いたが次の瞬間その横から豪華な馬車が現れた。女の子が小さすぎて御者には見えないのかスピードを落としたり進路を変えることもない。
「マサル!」
「おう!」
瞬時に行動する2人。マサルはダッシュで女の子に駆け寄り女の子を抱える。
タカシはというと直接馬車に向かってその馬車を・・・・・・両手で止めた。
キキキキキーー!
ヒヒーーン!!
急に後ろの馬車が動かなくなって驚いた馬2頭は悲鳴を上げて停止を余儀なくされた。
前に乗っていた御者は急なブレーキによって「おわああ」っと地面に転がってしまっている。
馬車の中からも「な!なんだなんだ!」と小奇麗な身なりの小太りのおじさんが血相を変えて出てきた。
なんだなんだ、どうした?と、周りに人だかりが出来始める。
女の子を抱えていたマサルが
「大丈夫か?怪我はないか?」
「う・・うん。ごめんなさい」
「おお無事やったか?よかったよかった」
ケロっとした顔でタカシが寄ってきた。
「なんだ貴様達!!さてはワシの命を狙う不届きものか!?」
「いやいやちゃうちゃう。そこの女の子が転んでたところに馬車が近寄ってきて踏まれそうやったから助けただけやわ。無事やったみたいで良かった良かった」
「なあにーー、そんな理由で無理やり止めたのか!!馬鹿にするのか!ワシを誰だと思っておる!!」
「はぁ?そんな理由?女の子1人が間違ったら踏まれて死んでもおかしくない状況やったのに理由もなにもないやろ?」
マサルはその貴族を見てふと思い出す。
「あ、昨日のポッチャリ貴族ですね」
「き・・貴様は昨日の!!」
昨日オアシスの前でひと悶着あった貴族の馬車であった。流石タカシとマサル。引きが強い。
「昨日だけならず今日までも・・・、もう我慢ならんぞ!!ギーネル!斬り捨ててしまえ!!」
馬車の後ろから黒い肩当てをした大柄の戦士が近づいてくる。昨日に合わせた顔だ。
マサルが女の子を立たせてすっくと立ちあがった。
「昨日のリターンマッチといきますか?」
少し小馬鹿にした態度でその大柄の戦士を睨みつけるその大柄の戦士は腰の剣に手を添えた。
「はーい、ストップストップ。皆さん動きませんように」
パンパンパンと手を叩きながら間に入ってきたのは真っ白な軽鎧に立派な剣を腰に装備したいかにも騎士風な若い剣士だった。
「これはこれはルガー伯爵お久しぶりでございます!聖騎士隊副隊長のレイアガールにございます!この度は災難でございましたね!」
大声でハキハキとした喋り方。少しうるさいくらいだ。
ツンツンととがった赤髪にチャラチャラとピアスをつけたその若い剣士はマサルとギーネルの間に入る。
「くう、聖騎士がなんの用だ?下がっていろ」
「そういうわけにはいきませんので」
聖騎士副隊長の後ろからひと回り大柄の金髪ロングヘアの男性。同じように真っ白な鎧に立派な剣。西洋風のイケメンが副隊長の横に並んだ。
「ア・・アルベルト。何用だ?」
ルガー伯爵にアルベルトと呼ばれた聖騎士はタカシ、マサルを一見。次にギーネル、ルガー伯爵と目線を向ける。
「いやあ、良かったですねルガー伯爵。もう少しのところでそこの小さな女の子を馬車で轢いてしまうところでしたよ。ひとつの命が亡くなることがなくて本当に良かった。その女の子に気づいてすぐに助けに入った青年2人には感謝ですね。ありがとう。ルガー伯爵、自分の身の危険を顧みず少女を守る青年。実にいい街じゃないですか、この帝都は。そんな帝都を守るのが我々聖騎士の、わたくし聖騎士隊長の務めです。もし馬車に故障などございましたら帝都聖騎士まで修理費はご請求ください。さぁさぁルガー伯爵」
アルベルトはルガー伯爵を警告するような冷たい目で睨みつける
「お引き取りください」
「・・・・ぐ・・」
ルガー伯爵はギリギリと歯を噛みしめ何も言えずにいる。
黒の肩当てをした大柄のギーネルは何も言わずに馬車の後ろに引き返した。
「ば・・・馬車を出せ」
ルガー伯爵はそのまま馬車に戻り御者に一言伝えてそのまま去っていった。
「まぁ、なんもなくて良かったかな?ちょっと期待してもうたけど」
「これ以上に何かあったらあそこで膝をついて絶望してるマーシーにかける言葉がみつからないな」
離れたところで膝をついていたマーシーは腰を起こしてタカシとマサルに極寒のような鋭い視線を向けた。




