師匠と呼ぶとなぜかこっちも照れる
水の壁を解除しミズリーさんを見据えた
パチパチパチパチ。
「お、よくかわしたね」
ミズリーさんの目の前には最後に残った火の玉1つ。
「じゃあこれが最後ね」
シュンッ!!
「早っ!!」
一直線に向かってきた火の玉。今度は早すぎて壁を出す余裕はない。咄嗟に僕は右の手を僕の胸に向かってくる火の玉の延長線上に持っていき丸い盾のようなものを水で作り出す。
グンッ!!
しかしその火の玉は1メートルほど手前で僕の胸から僕の額へ軌道を変えてその高速のまま額にヒット。
バシュン!
火の玉は弾けて消えた。僕は無傷だった。
ガードはかかったままだったがそもそもミズリーさんの放った火の玉は熱も衝撃も感じなかった。
「んんんー、いい反応してるね」
「完全に額に一撃もらいましたけどね」
「咄嗟に後ろに飛んだのは70点。すぐに水の壁を出したのも70点。左右に水の壁を出したのは30点、自分の逃げ場所を減らすのはダメ。そのせいでその後上か後ろにしか逃げれなくなってる。今使ってるのはマジックガードじゃないね、多分戦士職のガード。それは反則だね。けれど効果的ではあるから65点。最後の手に纏わせた水はいい反応してたよ60点。そして頭にヒット0点」
「どうでしたか?最後に0点もらいましたけど弟子としては合格でしたか?」
「そうだねェ。評価としては60点を授けよう」
「60点ですか。いいのか悪いのか」
最後の額にヒットした魔法。貫通力のある魔法や僕のガードを打ち破る威力の魔法なら死んでる攻撃だった。いい経験させてもらった。魔法ってこういう風にも使えるもんなのか。俊敏を上げて反応速度を高めれば今のも躱せたのかな。
「マーシー君はあまり詠唱は必要なさそうだね?分かりやすく声に出してるだけって感じがするよ」
「そ・・・そうですか?やっぱり詠唱した方が魔法の威力ってあがるんですか?」
「・・・・・・・・マーシー君。私って相手と会話する中で嘘なのかそうなのか、建前なのか本音なのかって結構分かるんだけど」
読心術スキルだな
「詠唱すれば魔法の威力はあがる。これって世界共通であったりまえのことよ」
まずった。
「ひょっとして詠唱したことない?」
「ファイアとかウォーターとかではなく?」
「それはただの魔法名だね」
「そうですか」
「本当にないのね?」
「はい」
「あっきれた。どうやって魔法覚えたのよ?見て覚えたの?魔術書って読んだことないの?」
魔術書ってあるのか。ぜひ本屋にいかねば。
「ただ、まぁ。魔法使いの理想と言えば理想なのかも。声を出して魔法を構築するよりも体の中で自然に魔力を構築できれば溜めもいらないし威力も細かく調整できるしね。私も中級魔法くらいまでなら詠唱はいらないけど」
「その、詠唱ってできないと何か不便があるんでしょうか?」
「不便っていうよりは周りから変わった目で見られるわね。初級魔法ならまだしも中級以上を詠唱無しで使ったら、どこの大魔法使いさんだろうって目で見られるわ」
「ぜひ教えてください」
「中級も詠唱無しで使えるの?」
「ははは・・・やだなあ。中級魔法なんて(ミズリーさんの目が怖い)すみません使えます」
「上級魔法は?」
「いやいやいや、使えませんよ。試したこともないです。これは本当ですよ!」
だめだ。読心術スキルやばすぎる。ヘタに嘘は言えないぞ。
「魔術書はギルドにあるから後で用意してあげるわ。それからさっきの『ガード』は何?」
「えっと・・・何?って言われましても」
「どこで覚えたの?まさか職業が魔法剣士なんていう冗談でも言うの?」
「えっと、叔父から剣を学んでまして気が付いたら使えるように」
「嘘ね?」
「はい。嘘です」
ダメだな。ここから逃げだすのも考えたが必ず後々面倒なことになりかねない。ミズリーさんは信用できるだろうか?核心だけは伏せて色々相談に乗ってもらえる人がいればありがたいとは思っていたところだ。それに美人だし。今後も仲良くさせてもらいたいし。
「ミズリーさん。ミズリーさんは信用できますか?俺の口から異常な発言が出た場合ギルドや衛兵に漏らさずに黙っていてくれたりはしますか?」
「マーシー君。あなたはすでに異常よ。詠唱したことのない魔法使いでさらにガードまで使えるんだから」
「いままで、俺には頼る相手がいなかったから。自分が普通ではないとは薄々気づいてはいましたがそのことを誰かに相談なんてできなかった。けれどあなたになら相談できるんじゃないかと今考えてます。どうなんですか!ミズリー師匠!」
「うっ!!・・・・ミズリー師匠・・・・いい響き」
あ、まさかのチョロイン
「師匠!俺の味方になってくれますか!ミズリー師匠!!」
師匠って言われ慣れてないのか?他にも弟子が居そうなかんじだが。
「マーシー君マーシー君。落ち着きなさい。その・・・・師匠として弟子の味方をするのは当然よ。(頬が赤らんでいるな。照れてるのか?)けれど、あなたがもし犯罪や悪の手に染まるようなことは見逃せないわ。その時は、し・・・師匠としてあなたを正しい道へ導く義務があると思うの」
「もちろんです。その時はご指導お願いします。ミズリー師匠」
さーて、タカシとマサルへの言い訳を考えておかなくちゃな。
「それじゃあ、なんでも相談に乗ってあげるから1つだけ約束して頂戴」
「なんでしょうか?」
「私の前では嘘はつかないこと」
「・・・・・・・・・・・・・分かりました」
真剣な目で僕を見るミズリーさん。例え嘘をついても分かってしまうんだから嘘はつけない。それでも嘘をつかれたと分かってしまうことに思うところはあるんだろう。
「マーシー君、歳はいくつ?」
「21です」
「さっき上級魔法は使ったことがないって言っていたけど使おうと思えば使えるの?」
「多分使えます」
「私と本気で戦ったら勝てると思う?」
「・・・・・・・・多分・・・・・五分五です。魔力量は負けてないと思いますが実際さっきの頭にヒットしたのがもっと高威力だったらと思うとゾッとしました」
「ふふ。帝都で私に対して五分五分とか、魔力量は負けてないって言ったら多分笑われるわ。外では言わないように」
「分かりました」
「帝都にはいつまでいるの?」
「あと一週間くらいです。武闘大会が終わったらそれからリアに行って魔術大会に出ようかと」
「ならそれまででいいから毎日ここに来なさい。色々とみっちり教えてあげるから」
なんか不謹慎にもエロい想像をしたことは反省しよう。
「分かりました。なるべく時間は作ります。けれど他のメンバーのこともありますし武闘大会にはちょっと僕も出ようかと思ってるんで明日明後日がメインになると思います」
「魔法使いが武闘大会って・・・・。まぁいいわ。じゃあ明日明後日朝からここに来なさい」
「よろしくお願いします」
バタン、と扉が開いた。
扉からは青髪の召喚士ルビーナさんがひょこっと出てきた。
「ああーーーー、こんなところにいたーーーー」
変わらずほわーんとした感じだ。
「あ、ルビーナ。ちょうどいいところに来たわね。ギルドにある魔導書あるだけ持ってきてくれる?」
「魔導書――?どうするのー?その子にあげるのーーー?」
「ええ。弟子の教育用にね。大きめの袋に入れて1つにまとめてもらえるかしら?」
「うーーーん、袋はいらないよーー。その子ーーアイテムボックス使えるからーー」
キッと僕を見るミズリーさん
「使えるの?」
「はい。まぁ」
はぁとため息を吐いたミズリーさんだったが「まぁ多少のことじゃもう驚かないわ」と笑っていた。
ルビーナさんはミズリーさんに用事があったらしくここに呼びにきたようだった。今日はタカシとマサルを待たせていることもあり魔導書だけ預かってアイテムボックスに放り込み訓練所を後にした。
ひょんなことから明日明後日の予定が入ってしまったな。この後2人にどう説明したらいいものか考える。相手があのミズリーさんなだけで大揉めしそうなもんだ。
今回の件でまたこの世界の知識不足が露見した。それでも魔法関係にしては明日からの2日間でご教授いただけるところはできるかぎるご教授いただこう。
そして僕たちに足りないこともはっきり出た。
タカシとマサルは力、スピードは他を圧倒するほどある。僕は魔力。ただしそれだけではやっぱりダメなのだろう。本気でミズリーさんと戦闘になった場合、本人にも聞かれたが勝つイメージよりも負けるイメージが湧いてきた。やっぱり力が強いものが勝つ。魔力の強いものが勝つ。ってわけにはいかないということだ。
例えば剣術スキルが同じLVだったとしても経験や積み重ねてきた研鑽次第で同じ強さということはなくなるはずだ。実際魔力量が約半分のミズリーさんに一本取られたわけだし、実践になればもっと厳しいこともしてきそうだもんな、あの人。
レベルもあげていきたいところだが戦闘経験値ってのも上げていくべきなのだろう。
やっぱりもっと実戦を増やしてバトルに慣れていくしかないかな。
さて、マサルはどんな武器を買ったのかな?
僕はタカシとマサルと合流するべく冒険者ギルドを出た。




