もめ事はイベントの匂い
さてそろそろ宴もたけなわ。
3時間に渡り呑み明かした僕たちは名残惜しくもオーダーストップ。これ以上は僕の身がもたないと判断し、タカシとマサルもこれに便乗。
結果3人とも指名し続けて女の子達はずっと僕らのテーブルについてくれていた。
「ええーもういっちゃうのー?」
「また来るよセラちゃん。ありがとう」
「マリーちゃん酒強すぎるわー、酔わせて色々しよー思ってたのに残念やわー」
「へっへーん、私に勝てたら好きにしてもいいんだけどなー」
「ミレーヌさん今度はぜひ2人きりでご飯でも食べに行きましょう。美味しいお肉が食べれるお店あるんですよ」
「ええ、機会があったらね。またね、マサルちゃん」
クラブ『楽園』恐るべし。
堪能しまくりました。
そしてお会計。
「しめて金貨2枚と大銀貨8枚になります」
280万ときたもんだ。
「ごちそうさまでした」
そう言い、店員さんの差し出したトレイに金貨3枚を乗せる。表情は崩さない。
見送りはいいよと女の子たちに言い僕たちは名残惜しくも店を出る。
出口で男性スタッフさんに見送られ、店を出たところでタカシとマサルがそのスタッフを両脇から挟んで拘束した。
「兄ちゃん兄ちゃん、ちょっと聞きたいんやけどマリーちゃんアフターとかってでけへんの?」
「申し訳ございません。店外でのお客様との接触は控えさせていただいております。お客様も店内以外でウチの女性スタッフへの接触はお控えください」
お持ち帰りする気だったのか。
「まぁそっちはええわ。それよりも、このへんで良い娼館探してんねんけど、どっかええとこある?」
「娼館・・・ですか?それでしたらこの道の左に並んでいますよ。すみませんが私は一介のボーイですので娼館を利用したことがございません。ですのでおすすめというのはございません」
「そっか、左の道やな。サンキューな」
ボーイさんは解放され今度は僕がタカシとマサルに拘束される。
「食欲は満たされた。さぁ、次は性欲を満たす番だ!」
マサルが真顔でそう言った。
「夜はこれからやでー!」
三人で肩を組みボーイさんが教えてくれた左の道へ行く。
しこたま呑んだおかげで僕は睡眠欲も全開なわけだが、これから行くところのことを考えると寝ていられない。
店を出てすぐに二股に分かれた道。人通りも少なく薄っすらと暗い。わずかに左の道には明かりが灯っているようで、確かに店があるようだ。看板が建物の前に並んでいる。
そして客引きもいる。
「すごいな、通りひとつ違うだけでこんなにも雰囲気が違うもんなんやな」
さっきの通りは客引きも元気で夜なのに明るく照らされていたが、ここは明かりも小さく客引きもポツポツだ。
あ、1人の男性が近寄ってきた。40歳くらいの小さなおじさんだ。
「お兄さんたち、店探してるの?ウチは若い子が多いよ。どう?」
「ありがとうな、でも一通り見てまわりたいんや。ちなみに料金は?」
タカシが慣れた感じで聞いている。
「1時間大銀貨5枚。指名は別で大銀貨1枚でいいよ」
「ちなみにもちろん娼館なんやな?」
「あんたら他所もんかい?この並びは全部娼館だよ。突き当りまでで全部で20店舗くらいある」
1時間で50万と考えると高いな。僕らの世界のように2~3万ってわけにはいかないのか。
「ちょっと高くないか?別の街はもっと安かったぞ」
ちょっと揺さぶってみよう。
「おいおい、このあたりじゃだいたい相場だよ。もっと安いところは娼婦の質や店自体がレベル低くなっちまうよ。ウチは貴族様もご用達だからランクはまあまあ上の方さ。そこの店だよ」
おじさんは右手の店を指さした。
『夜の姫』
豪華な扉にぼんやりと光った看板。雰囲気は良さそうだ。
「ありがとう検討するよ」
僕たちは足を進めた。
「タカシ、マサル、どうするんだ?流石に外見だけじゃ判断できないんじゃないのか?ネットとかで調べられないし」
ちなみに僕たちはまだ三人で肩を組んでいる。
「そうやな、なんか普通の一軒家みたいなんは嫌やしなあ。せっかくやから豪華にいきたいところやな」
「ああ、金にものをいわせて酒池肉林希望」
まぁ、金の面は問題なさそうだが、こういう店は選んだ店のサービスが悪かったらアホほど凹むからなぁ。
ガン!!ガシャン!!
ん?なにやら前方で揉めている。看板が横に倒れて割れているじゃないか。
「ワシはこの女が気に入ったのだ!金貨3枚で十分釣りが出るだろう!」
「お止めくださいルガー様!私共は身売りは行ってはおりません!」
きらびやかな服を着た50くらいのでっぷりとしたおじさんが20才くらいの女の子の腕を引っ張っている。その女の子は白いワンピースだがものすごく薄い。透けるんじゃかろーかというほどの薄い素材でなんていうかエロい。それを止めに入る30そこそこの綺麗なお姉さんと横で傍観している左肩に真っ黒の肩当てをしているごつい男。見た感じ女性2人は店の人でごついのは多分おじさんの方の護衛なのかな?
「ワシを誰だと思っている!娼婦1人に金貨3枚出すと言っているんだぞ!こんなところで働く女1人には過ぎた金額だろう!」
僕を支える両脇の2人の機嫌が一気に悪くなったのが分かる。
もちろん僕も気分が悪くなってきた。メタボのおっさんのせいなのか?酒によるものなのか?
バシッ!!
そのメタボのおっさんの振るわれた左腕が年上の方のお姉さんの頬を打った。
と、同時に僕の右に居たマサルがその揉めている集団に近づいた。ちなみにタカシも一歩踏み出したが僕が止めた。僕のふらつく体を支える役目であることと、力加減のできない男タカシであるためだ。
ガシッ!
マサルが女の子を引っ張るそのメタボじさんの腕を掴んだ。
「おじさん。流石に見ていられません。女の子に手をあげる男は最低だと思うんです」
冷静なセリフではあるが、逆にそれが危うい気がする。マサルは今相当呑んで酔っている。
「いたたたたたた」
マサルが力を入れるとそのおじさんは女の子を離して掴んだマサルの手に掴みかかった。
同時に黒い肩当てのごつい男は腰に差していた剣を抜きマサルに剣先を向けた。
「おい貴様。その方が誰か分かっているのだろうな?」
「女の子に手をあげるクズだろ?」
スパン!
ごつい男の反した剣がおっさんを掴むマサルの腕を狙ったがマサルは咄嗟に手を引いた。なかなかのスピードだったが今の泥酔状態でよく躱したな、マサル。
「貴様ぁ私に対してこのようなことをォ」
おじさんが顔を真っ赤にして掴まれた右腕を左腕でさすっている。マサルの手の痣がついているな。
「ギーネル!斬り捨ててしまえ!」
そのギーネルと呼ばれたごつい男は視線と剣先をマサルに向けて静態している。
「おやめくださいルガー様!どうかご容赦に!」
年上の女性の方が横から口を出しているが、マサルとそのごつい男はにらみ合ったまま微動だにしない。二人ともすでに臨戦態勢だ。
「どうするんだ?そこの小太りなおじさんに言われた通りに俺を斬ってみるか?」
マサルが挑発する。
「今のはよく躱したな。腕を斬り飛ばしたと思ったが」
「ああ?今のハエが止まりそうな剣のことか?」
シュッ!
ごつい男が一歩踏み出し剣を横なぎ一閃。
マサルはスッとバックステップで躱す。
そして剣を反す間もなく、マサル突進。
ドン!!
マサルのショルダータックルでごつい男は吹き飛び地面に転がった。
「ギーネル!!何をやっている!」
「おっさんおっさん。何をって?今おっさんが言ってた通り俺を斬り捨てようとして逆に吹き飛ばされたというわけです」
ぐぬぬぬぬぬと、おじさんの顔が真っ赤に。
「くそ!!」
おじさんはそのまま悔しそうにマサルに背を向けて駆けだした。
ドン!
「痛っ!」
そのおじさんは振り向きざま僕にぶつかったが顔を真っ赤にしたままそのまま駆けて行った。
マサルにタックルを喰らって地面に片膝ついていたギーネルと呼ばれていた男は「覚えていろよ」と捨て台詞を吐いてメタボのおじさんを追いかけていった。
おや、足元に小奇麗な棒が?手にとってみる。まさか・・・・これは・・・・・。
「タカシタカシ。キセルだ」
「ほんまや、キセルやな。あんのか?この世界にたばこの類が?」
多分今のメタボのおじさんが落としていったものだろう。
マサルがこちらに戻ってきた。
「ヒーロー帰還。お疲れさん」
僕は皮肉気味に労った。




