そんなことされちゃ、惚れてまうやろ
僕たちはキャバクラ然り高級クラブに足を踏み入れた。
「いらっしゃいませクラブ『楽園』へようこそいらっしゃいました」
おもいっきりクラブって言ってるな。ああ、語学スキルのおかげで分かりやすく翻訳してくれてるんだな。黒い執事服風の男性スタッフが入り口付近に待機しておりすぐに対応してくれる。
「3名様。本日は初めてのご来店でございますか?」
「はい初めてです」
僕は今初めて都会に出てきた田舎者の気分だ。
「かしこまりました。それではまずお席にご案内いたします。こちらへどうぞ」
ボーイさんの言われるまま奥の席まで誘導される。すれ違いざま確認する女の子はどれもこれもが美人揃いだった。きらびやかなドレス姿で露出も多い。若い子からおそらく30歳くらいまでのタイプの異なる女性が他の客に数人づつついている。
「こちらにおかけくださいませ」
僕たち3人は言われるままにソファに腰をかける。
「それでは当店でのシステムをご案内いたします。当店は時間制になっております」
そこでボーイさんはメニューを開いた。
「おひとり様ごとに30分1オーダー制となっておりまして30分毎になんでもおひとつ以上ご注文をお願いいたします。もちろん30分以内に何品でも注文していただきましても問題はございませんが、30分ごとの注文は必ずその時に1品以上ご注文いただくシステムです」
なるほど。時間料も込みってことね。さぞかし1品お高いんでしょうね。
「おひとり様につき1名づつ女性スタッフがつかせていただきます。最高のおもてなしをサービスさせていただきますのでお楽しみいただけましたら幸いです。けれども女性スタッフも30分制でございますので30分で他の女性スタッフに交代させていただきます。その際にどうしても同じスタッフに対応してほしいということでしたらこちらに記載の指名料をお支払いいただけましたらさらに30分延長が可能でございますのでぜひご利用ください。注意事項はこちらのメニューにございますし、何かございましたらその都度女性スタッフ、もしくは私共にお聞きください」
僕はメニューに目を通す。タカシとマサルはメニューに目を向けようともしない。周りの様子をうかがって今か今かと鼻を膨らましている。
うおっと、ビール1杯銀貨2枚。20000円って・・・。
指名料が銀貨5枚。食べ物でも銀貨2枚から10枚くらいまでか。最安でいこうとしたら2時間でビール4杯80000円か・・・・。そんなことを考えている自分が少し悲しいな。
「当店が初めてということですので女性の好みのタイプをお伺いさせていただいてよろしいでしょうか?最初につくスタッフの参考にさせていただきますので」
あら、親切だ。ちゃんと考えてる。
「おっぱいの大きい子を」
「豊満なバストをお持ちな子を」
なんかだめだ。なんかコイツらダメな感じがする。
「あ、じゃあ僕は同い年くらいの子で」
タカシとマサルが2人して僕を見た。
「ええ?マーシーおっぱいはおっきい方がええんちゃうの?」
「こんなところで遠慮してどうする」
そんな2人がなんだかうらやましい。
「さっきチラッと見た感じ年上の人もチラホラ居たからちゃんと考えての返答なんですが」
「じゃあこいつには同い年くらいのおっぱいの大きい子をお願いします」
「はい巨乳3人でお願いします」
もう好きにしてくれ。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
ボーイさんは綺麗なお辞儀をして席を離れていった。
「お前たち、全然メニュー見ないよな」
「こういう店ではメニューに目を通すのは素人のやることだ」
「そうそう遠慮しとったら俺らも楽しまれへんし女の子も楽しまれへんで。それに金はマーシー持ちやしな」
「そういうところは尊敬するよ」
小心者の僕は一通りメニューに目を通した。小さくお触り金貨1枚とか書いてあったりしたらとか不安を拭えなかったりするんだよ。まぁ見た感じそんなこともなさそうだし、2~3時間呑み食いしてもせいぜい金貨1枚くらいだから大丈夫か・・・・・・。いや、100万か・・・・・。
「お待たせいたしました」
ボーイさんと女性スタッフが3人こちらにやってきた。
「お隣失礼いたします」
女性スタッフが3人、美女揃いだ。
マサルの横に赤のワンピースで茶髪のロングヘアの少し年上の女性。赤のワンピースは胸元が大きく開いており肩もむき出しのノースリーブ。ふともももばっちり見えるスリットの入った大人っぽい感じだ。もちろん巨乳。
タカシの横には金髪ロングの少し色黒の女性。彼女も少し年上か?こちらもワンピースだが真っ黒のドレス。同じく胸元が大きく開いている。こちらはスリットではないが膝上のミニだ。
そして僕の横には白のワンピースの子が座った。見た目は僕と同じくらい、いや少し下かも。やっぱりこの子も同じように胸元が大きく開いている。黒髪でセミロング。しかしまぁ、大きいな。
やるな『楽園』ここまで揃えてくるとは。
「それでは最初の注文を頂きます」
「とりあえず俺らはビールでええんちゃう?自分らは何呑む?お酒は大丈夫なん?」
第一声から女の子にも何を呑むのか確認とお酒を呑めるかの確認。タカシかっこいい。
「じゃあぶどう酒をいただきます」
「私もぶどう酒で」
「じゃあ私も同じもので」
「別になんでもええねんで。じゃあ、あとこれとこれと、このつまみも一緒に」
ぶどう酒が30000円、そのつまみが40000円に30000円にって・・・・・ダメだな。考えないようにしよう。
ドリンクとフルーツ、つまみが運ばれてきて皆がグラスを持つ。
「それではごゆっくりお楽しみください」
ボーイさんがテーブルにある砂時計をひっくり返して席を離れていった。
そうか、これで30分計るのか。
「じゃあ、俺たちの出会いに」
「「「かんぱーい」」」
グビッと一口。うむ美味い。そして横の白のワンピースの子が身体を密着させてくる。タカシもマサルもそれぞれ寄り添っている。
まずはそれぞれ自己紹介
「はいはい、私はマリーです。年は23です。好きなものはお酒でーす」
タカシの横についた金髪色黒の子。3人で一番元気な感じで明るくて雰囲気のいい子だ。
「私はミレーヌ。お酒も好きだけれど逞しい男性も好きよ」
マサルの横についた年上っぽい茶髪の女性。おっとりとしていて落ち着いた感じだ。横でマサルが自慢の筋肉をアピールしている。筋肉よりも脂肪の方が多いけどな。
「私はセラって言います。お酒はマリーさんほど強くはないですが好きです」
僕の横についた控えめな感じの黒髪の女の子が皆の方を向きながら自己紹介する。その間も僕の腕を掴んで体を密着させている。騙されるな、騙されるな、俺!
「はいはーい!タカシ21才。格闘家です。好きなものはお酒とマリーちゃん。今日は浴びるほど呑む予定でーす」
なにこのチャラ男。
「はい!マサル21才。好きなことは食べること、お酒を呑むこと、そしてミレーヌさんとお話することです!」
え?なにこの空気。
そして僕の自己紹介ってわけですか。
「ほらほら、マーシー。次マーシーやで」
「そして呑め!手が止まっているぞ!」
「あ・・・ああ。マーシーです。同じく21才。魔法使いです。最近はまってることは風呂に入ることです」
「たっはー風呂って言うからマリーちゃんの裸想像してもうたわー!マーシーやらしいなー!」
誰だ?このエロ親父は?
横でセラちゃんが僕の腕をさらに力強く掴んで上目遣いで目をうるうるさせながら僕を見上げている。
自己紹介で2人がいらないことを言うからだな。
「あと、好きな場所は風呂場とセラちゃんに会える楽園です」
笑顔になってさらに抱きついてくるセラちゃん。意識的にその豊満なアピールポイントを押し付けてくる。
「それじゃあ3人さんは冒険者なの?」
マリーちゃんがタカシのふとももに手を置いて前のめりに聞いてきた。
「そうや!ワイバーンも倒したし、一角牛の群れも蹴散らしたことがある!」
スゴーイ、とさらに抱き着いて囃し立てる。
「ワイバーンも一角牛も美味かった!ぜひミレーヌさんにも食べてほしいです!」
「あるわよ、ワイバーンのお肉。注文する?」
ブフゥ!!現実に噴出したわけではないが心の中で絶句した。
「おう!持って来い!ワイバーンの肉!ぜひ食べよう!」
マサルが金額の確認せずに大声で追加注文だ。
「ええー、じゃあマーシーさんも魔法で一緒に戦ったんですかー?」
セラちゃんずっと僕にしがみついてるんですけど。
「もちろん。俺は雷魔法で動きを止めただけだけどね」
「すごーい、雷魔法って使える人あまりいないんですよね?1度見てみたいなー」
と、さらにすり寄ってくるセラちゃん。
こいつはダメだ。
そうだ。
呑もう。
もう呑むしかない。
「タカシ、マサル、米酒呑むか?」
「マーシーから酒振ってくることは珍しい」
「ええやんええやん。じゃんじゃんいこーや。マリーちゃんも呑む?」
「もちろん」
お酒追加お願いしまーす!とマリーちゃんが声をあげる。
僕は半分くらい残ったビールを一気に飲み干した。
「ええなええな。こんなマーシーあんまり見られへんわ。その赤面は酒なのか?セラちゃんのせいなのか?」
「とりあえず、酔いたい気分なんだよ」
酔わなきゃついていけない。
「じゃあ、一緒に私も酔おうかなー」
セラちゃんがたたみかけてくるのを横目に僕は店員さんが持ってきたお酒を次々に空けていく。
その後デカい皿に盛られたワイバーンの肉をすごいすごいと皆で食べ、ワイバーンのブレスを防いだのがマサルに、首を刎ねたのがタカシに変換された自慢話が語られた。
僕もちょいちょい口をはさみながら米酒を空けるペースを落とさずグビグビ呑んでいたが横でセラちゃんが平気な顔で僕と同じペースで呑んでいる。
目が虚ろになってき始めた僕の横で変わらずずっと体を寄せて、時には手をふとももに乗せたり「汚れてますよ」と口元を拭いてくれたり、僕の話にあいづちを打ってくれたり、イチャイチャカップルな気分だ。おもわずこちらからも肩を抱いてしまう始末だ。
ああ、本当に幸せです。
さて、宴もたけなわ。リアルに戻る時間です。




