旅行の前日は楽しみで眠れないこともある
身体を揺さぶられている。
右へ左へ。
「なんだよ」
と、重い瞼を開いて不機嫌に悪態をつこうとした瞬間はっと目が覚める
「起床のお時間ですよ」
20才くらいの黒髪セミロングの若い女の子が僕へと笑顔を向けてくれていた。
「あ、ありがとうございます」
その女の子はニコっと笑うとそのまま部屋を出ていった。そうか、電話もないし起こすのには直接起こすしかないよな。
時間を見ると7時30分。
良い。こんな起床もいいな。モーニングコール万歳。
しかし今から娼館に行くっていうのにこんな笑顔を見せられたらなんだか罪悪感が出てきてしまう。
さてと、さっきも入ったが風呂に入って身を清めておこう。
風呂に入り目も覚めた。着替えは一瞬。タカシとマサルを起こしに行こう。二人はモーニングコールなんて頼んでないはずだしな。
部屋を出て隣の部屋に移動する。
コンコン
「おーい、起きてるかー?」
ガチャリと扉が開いた。中から上半身裸で汗だくのマサルが出てきた。
「何してたんだ?そんなに汗だくで」
「暇だったから、筋トレを」
逞しいヤツだな。暇だから筋トレって僕の選択肢にはないぞ。
「とりあえず風呂に入ってこいよ。先にタカシを呼んでくるよ」
そのまま僕はさらに隣の部屋へ
コンコン
「おーい、起きてるかー?」
ガチャリと扉が開いた。中から上半身裸で汗だくのタカシが出てきた。
「もういいよ。分かったから風呂に入れ」
「え??俺なんにも言ってないやん」
風呂に入って僕の部屋に来るように伝えて僕は自分の部屋に戻った。2人で打ち合わせているのだろうか?
さて時刻は8時前。3人揃った。
「お前たち寝てないのか?」
「いやあ1時間くらいは寝たんやけどなんか目が冴えてもうて、暇やったからちょっと体動かしとっただけやわ」
「俺はほとんど寝ていない。興奮して目が冴えてたからとりあえずこのムラムラを発散するために筋トレしてたのです」
まぁ構わないけどな。
「さて出陣だ」
「おお!」
「がってんだ!」
服装は冒険者風。風呂も入ってすっきり。いざ戦場へ。
僕たちはホテルを出て南地区へと歩いて行く。
南地区に近づくにつれて人通りは少なくなっていく。ここの情報をくれた交番?の前は意識して避けさせてもらった。聞いて当日足を運んでるなんてちょっと恥ずかしいからだ。
闘技場が見えてきたが闘技場の前には人はいないみたいだ。受付は夕方には終了しているのだろう。闘技場を越えて真っ直ぐ進んでいく。
まだ闘技場を越えたあたりは人通りはほとんどなく公園のような感じだったが遠目に光が見えてきた。
近くまで寄ると西門近くの飲食店街に似た感じの大通り。右も左も居酒屋風、バーっぽい店。肉料理店なんかもある。それよりも目が向いてしまうのは、女の子の客引きだ。
「なんか俄然夜の街って感じがしてきたわ」
「飯も美味そう、飯も美味そう、肉も美味そう。しかし、しかし今日は女の子のお店で美味しい酒を」
「どうする?何か飯食ってからでもいいけど?」
僕の言葉にマサルが反応した。
「飯先に行く?肉食ってからキャバクラ、風俗。なんて贅沢なフルコースだ!」
「タカシは?」
「じゃあマサルに免じて肉食ってからでもええよ」
よし、じゃあそこの肉屋にしよう。まずは腹ごしらえ。それから呑みにいこう。
通りを入ってすぐの肉屋の前で中を確認する。どうやら普通の飲食店のようだ。ちょっと高めだな。ステーキ一皿大銅貨5枚から銀貨1枚とかするな。まぁ許容範囲内だな。
店に入って席につく。
入った感じ高級ステーキ店って感じがした。広いカウンター席で客の目の前で分厚いステーキを店員が焼いている。席は半分くらいが埋まっていて客は貴族っぽい人とガタイのいい冒険者風のグループも居た。
席に着くと1人の店員さんが鉄板越しについてくれて注文をした。3人ともステーキを注文。マサルだけは2枚。もちろん牛肉だ。
「後で呑むけどビール一杯だけええやろ?」
まぁ一杯くらいならと3人ともビールを頼み分厚いステーキを口に運ぶ。
「あかん、こりゃ美味いわ」
「確かに。フランで食べた一角牛より多分美味い。柔らかさ、肉汁、やるな高級ステーキ。調理方法とかいろいろと違うんだろうな」
ここで肉を肴に酒を呑み明かしてもいいかと思えるほどのおいしさだ。
ステーキは食べやすいように店員さんが一口サイズに切り分けてくれる。客に対して1人の店員がつくというこのスタイルも高級感が出ている。
早々とマサルがステーキ2枚を食べ終わり僕とタカシも食べ終わる。
「それじゃあ行こうか。ごちそうさまでした。とってもおいしかったです。また近いうちに食べにこさせていただきます」
1枚7000円のステーキ4枚。ビールが一杯1000円。はい、しめて31000円になります。肉1枚とビール1杯だけで昨日の居酒屋とほぼ同じ料金になるのか。普通に飲み明かせば倍以上にはなるな。
ステーキ店を出て僕たちは本命を探すべく少し歩くことにした。
女の子が小奇麗な店の前で客引きをしている。男の店員が呼び込みをしているところもある。大通りの入り口付近から進めば進むほどそういったお店が多くなっているイメージだ。どのお店もお酒の呑めるバーって感じの雰囲気。
「お兄さんたちお店探しているの?ウチにおいでよ今ならどのお酒も1杯サービスしてますよ」
「ウチは女の子が多いから今なら1人に2人以上つけますよ」
「かわいい子一杯いますよ。そこのかっこいいお兄さんウチでハーレム作りませんか?」
うーん、どこに入っても同じような気がしてきたな。僕あんまりキャバクラって入ったことないんだよな。お酒そんなに呑めないから今までの人生でちょっと避けてきた節がある。
「タカシ、どこがいい?決めていいぞ」
この際店は決めてもらおう。
「いや、もうちょっと奥の方がええわ」
「同感です。もう少し奥に行こう」
何かあるのだろうか?その基準が分からん。
200メートルくらい進むと突き当りに二股の分かれ道が見えてきた。その先はどうやらここまでとはうってかわって外を歩く人が急に少なくなっている。
あそこがこの通りの出口かな?お、まさかのボブの肉屋発見。こんなところにもあるとは。
「タカシ、マサル、ボブの肉屋があるぞ南地区支店だぞ、きっと」
「そんなん後回しや」
「男の肉屋に用はない」
残念ボブ。今はそれどころではないらしい。
どんつきの手前。客引きの立っていない豪華な扉の前でタカシとマサルが立ち止まる。
「ここやな」
「ああ、ここにしよう」
基準が分からんな。
「なぜここに?」
自身満々な2人に聞いてみる。
「ひと際豪華なのはもちろん売れ行きがいいからだ」
マサルの言うことはごもっとも。
「客引きがおらんっちゅーことは客引きせんでも客が入ってるっちゅーこと」
なるほど。確かに正論だ。
「さらに言うと足を運びやすい入り口付近よりも客の寄り付きにくいこの場所でこれだけ豪華な店で客引き無しっつーのがリピーターが多く運営を続けれるほどのサービスを受けれる証」
何この評論・・・・。
「分かったよ。じゃあここにしよう」
僕たち3人はその店の扉を押し開けた。
「おおおおお、すっげー店内」
中は豪華なシャンデリア、壁は大理石風で高級感丸出しだ。店内は広々としていて客と客の間は大きく間隔をあけて豪華なソファにカーテンがしきられている。
「高級クラブじゃねーか」
さぁ異世界でキャバクラ初体験だ。




