ふと思う。相手を眠らせる魔法って最強なんじゃねーか?
冒険者ギルドをすぐ出たところの出店で串焼きを食べているタカシとマサルを見つけて合流する。
「それ旨そうだな。何の肉だ?」
「これはどうやらイカ焼き風です」
「イカか。それをもう一つください」
僕は銅貨を2枚渡しイカ焼きを受け取る。
「ふむ。確かにイカだな、これは」
「そしてこれがお釣りです」
マサルが律義に残った銅貨数枚を僕に返した。残りが銅貨数枚か・・・。結構色々買ったみたいだな。
「申し訳ないけどもう一度山に行くことになった。次は猪と薬草の採取だ」
「猪かー。盛り上がらへんなー。またワイバーンとか出―へんかなー」
まぁ出ないだろうな。
僕たちは再度西門から出て森へと繰り出す。片道30分をとぼとぼと歩いて山の麓へ。
猪2体も索敵のおかげであっという間に見つけてタカシとマサルが仕留める。
索敵でカラミ草も見つけることができたのでマサルとタカシにも指示して3人で草集めだ。カラミ草はポツポツと生えているためそれもまとめてアイテムボックスに放り込んだ。これもどれほどあればいいのかいまいち分からないためあるだけ詰め込んだら30分くらいで×99になってしまった。まぁ回復薬の材料になるみたいだから引き取ってもらえるだろう。
「よし、依頼はこれで完了だな。ちょっと時間潰していこうか」
僕たちは少し山に入り近くに誰もいないことを確認した。
「ライト!」
掌を前に出しその掌からまばゆい光が点灯する。
「おお、光ってるやん。懐中電灯がわりになるやん」
光魔法LV1のライトだ。イメージした通りの魔法だな。
「ライトアロー」
次も光魔法LV1、ライトアロー。30センチくらいの光の矢が前方の木に向かって飛んでいく。
バシュッ!!
木に接触すると光ははじけて消えた。木の表面は軽く削れた感じになっているだけだ。
「殺傷能力はあまりないな。おそらくだけどアンデット系のモンスターとかには効果的なのかも」
あとは闇魔法LV1、ダークとダークアロー。
ダークアローもライトアローと同じで殺傷能力はあまりない。ダークに至ってはただ真っ暗な玉が出てきただけだ。その中に足元の草を放り込んでも何も起こらない。
「ダークアローの方はひょっとしたら光属性のモンスターとかがいれば使えるかもしれないがこのダークの方は効果が分からないな。ただの黒い球だな」
「なぁなぁ、その玉もっと大きくでけへんの?その中に入ってみよーや」
恐ろしいことをタカシがさらっと言ってのけた。大きくか・・・・・。できるな。
「よし、人が入るくらいに大きくしてみよう」
少し意識すると黒い球が徐々に大きくなっていく。直径3メートルくらい。
「さぁタカシ、入れ」
「え?俺?とりあえず先にマサ「ドン!!」ル・・」
マサルのショルダータックルがタカシを黒い球に押し出した。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「音沙汰なし・・・・・。」
腕を組んで黒い球を見つめるマサル。ちょっと心配そうにしている。
あ、足が出てきた。
ゆっくりゆっくりとタカシが出てくる。
「マジで死ぬかと思ったわ。マサル、覚悟はええか?」
タカシの両手に光の玉が発現する。それは野球のボールくらいの大きさだ。
これが気功弾か。
右、左、とタカシがその玉をマサルめがけて投げつける。咄嗟に後方に飛びのきそれを躱すマサル。
さらに右、左と光の玉を生み出しては投げ、生み出しては投げを繰り返す。マサルの躱したその光の玉はマサルの後方の岩を砕き木はへし折れる。当たったら痛いじゃすまないやつだ・・・・。
「ストップストップタカシ!マサルが死ぬ死ぬ!」
「タカシゴメンゴメンって」
なんとかタカシをなだめて攻撃をやめさせた。
「タカシ、ずいぶん気功弾をうまく使えるようになってるじゃないか」
「ああ、マサルを殺ルために練習したんや」
マサルはタカシから距離をとっている。
「そしてこれを使うと走るよりも疲れるんや」
ハアハアと少しタカシが息切れしている。MPは使わないが単純に体力を使うのか。
「それじゃあマサルもどうぞ中へ」
僕はマサルに黒い球の中へどうぞと手を差し出した。
「あ、やっぱりですか・・・」
「タカシは無事みたいだったから大丈夫だろう。一回経験しとけしとけ」
マサルは恐る恐る黒い球に近づいていく。
「とりあえず中は真っ暗やったわ。そんで無音。外の音が全然聞こえへんかった。ホントに薄っすらとも見えへんから方角も距離もさっぱり。とりあえず足を進めたら出れたけど」
「害はないけど真っ暗の空間か・・・、マサル中に入ったらとりあえず声出してくれ。外の音が聞こえないのと同時に中の音が外に漏れるかどうかも知っておきたい」
「は・・・はい・・・。じゃあ・・・・行きます」
マサルはゆっくりと黒い球に入っていく。
「マサルー、聞こえるかー?おーい?」
こちらから声をかけてみる。返事はない。
10秒くらいすると入ったのとは反対側からゆっくりと出てきた。
「うん。これは怖い。もしもこのまま出れなくなったらと思うとげっそり痩せてしまいそうです」
僕は黒い球を解除した。
「マサル、入ってすぐにこっちから呼びかけてみたんだが聞こえてなかったか?」
「ぜーんぜん。俺も叫んでみたけど全然誰も返答してくれなかったし」
なかなかおもしろい魔法ではある。しかし光も闇も使いどころは選びそうだ。
「サンキュー、事前に試せてよかった。どの魔法も後は威力が上がるだけだと思うから別の手段でもっといろんな魔法を覚えてみたいな。まず手始めは召喚魔法だけどな」
「大会で優勝すりゃええんやろ。ならもうすぐやな」
「油断は禁物、とは言いたいところだが他の冒険者たちとステータスを比べてみたら負ける要素はないと思う。タカシもマサルも力はカンストしてるしタカシは俊敏、マサルは体力がカンスト間近。やっぱり一般では強いヤツでだいたいステータスが200あるくらいだからな。そう考えたら2人とも×5がなけりゃ他の冒険者と同じくらいの強さってことなんだよな。あと注意しておくのはステータスに影響されない攻撃とかがあるかどうかだよなあ」
「それはどういうものなんだろうか?即死攻撃的な?」
「それもそうだし、毒とか麻痺とか催眠だったり石化とかもあったら嫌だな」
「すべての攻撃を受けずに全勝すればええわけか」
「口で言うのは簡単だからな。できれば感知のスキルをつけといた方がいい。この感知スキルは何か攻撃みたいなものが近づいたら危険察知してくれる感じだから割と使えると思う」
「気を・・・・感じ取れるんか・・・?」
「ああ、そうそうそういう感じ」
興味の沸いたものにはちゃんとスキルポイントを振ってくれるだろう。
もうちょっとバトルもしたいところなんだよなぁ。レベルもそうだが職業レベルもあげていきたい。僧侶みたいにきっと選べる職業が増えるはずだし。まぁ武闘大会と魔術大会が終わったらダンジョンとか入ってみてもいいかもな。あったら・・・・だけど。
「よし、じゃあ戻ろうか。クエストの完了したら風呂入って昼寝でもするか」
「昼寝か・・・今日は徹夜も辞さないということですね?」
「まぁまだ3時やしな。昼寝もええけど昼間っから呑む酒も贅沢でええんやけど」
「酒は無しだ。夜にしこたま呑めばいいさ」
マサルの目が一瞬輝いたが
「うーんどっちもいい。昼に呑んで夜に備えるのも、昼は休んで夜に備えるのも」
財布は僕が握っているため却下だ。
再び僕たちは帝都に戻り冒険者ギルドで依頼の報告をする。仕留めた猪は大きすぎて召喚士のルビーナさんの所に持っていき査定してもらう。猪は狼よりも高額で引き取ってもらえた。食べて美味しいかそうでないかの違いだそうだ。カラミ草が思ったよりも良い値で売れた。1つ大銅貨1枚。1000円だ。99個あったため99000円。あんな草1つが1000円で売れるなんてこんな楽な商売があるのかと思ったが普通は1日に10、多くて20くらい集めれるのが限界らしい。僕は索敵で簡単に見つけていたためこんな結果になったようだ。元々商売用でたくさん持っていたということにしておいた。
報酬を受け取り僕たちは宿に戻る。宿に戻るとシーツは変えられ部屋も掃除がされていた。流石高級ホテルだ。
それじゃあ各々部屋でゆっくりして20時に集合。ステータスメニューにはアラーム機能は流石についていないためホテルのフロントに起こしてくれるように伝えると快く了承してくれた。フランには時間の概念がなかったがホテルのフロントには大きな置時計があり時間の概念が帝都にはある程度あることが分かった。個人では時計というのは高価なものらしいがこういったホテルや貴族は時計を使っていることもあるらしい。
冒険者も高ランクの冒険者なら時計を持っていることもあるらしい。何時に集合、何時に出発、何時にどこそこに移動、何時までにとかそりゃあ便利なものだろう。興味本位で時計を個人で買ったらいくらくらいになるのかフロントの人に聞いてみたが金貨が10枚以上とかのレベルらしい。やはり僕たちのいた世界との違いは大きい。僕たちはメニューに時間が表示されるため購入の必要はない。
とりあえず風呂に入ろう。
湯船にお湯を溜めて全裸でダイブ。バッシャーンと贅沢にお湯を溢れさせて頭まで浸かる。
「ああああああああああーーーーー。いい湯だーーー」
1人になって物思いにふけることがあまりなかった僕は風呂に浸かりながら今日3人で話していたことを思い返していた。
帝都の冒険者たちに対しても僕たちはシンプルなバトルだったらそうそう負けることはないはずだ。しかし懸念されるのはやっぱり状態異常。毒や麻痺ならなんとかなると思う。魔法はなるべく魔法名を呼んで使用しているがいくつか使用した中級までの魔法はおそらく全部詠唱無しで使用できる。1回使用すれば感覚みたいなのが身につくのだろう。キュアの使える僕は毒、麻痺なら喰らったとしてもすぐにキュアを使えば大丈夫なはず。麻痺で口がきけなくなっても詠唱無しでキュアを使えばいい。けれどそれ以外の状態異常であった場合が心配だ。やっぱり催眠、あと睡眠とか。もしも催眠とかがあってタカシかマサルが敵にまわってしまうことがあったりしたらどうだろう。漫画やアニメにある王道的な展開。キュアで元に戻せないとかならやっぱり力ずくで無力化するしかない。
・・・・・・・・・・・・・・・・無理だな。
とりあえず距離をとって遠距離魔法で仕留めるしかない。その前にあのカンスト近い俊敏で詰められたらアウトだろ。ガードがどこまでもつのか。距離をとって遠距離魔法で攻撃したとして無力化させるくらいの魔法を放った場合は多分死んでしまうと思う。そう考えると相手を無力化させる魔法が欲しいところだ。麻痺させたり眠らせる魔法か。
耐性も欲しいし使えるようにもなりたいな。
魔法が使えるファンタジーな世界に来たらド派手な攻撃魔法を使えるようになるのが醍醐味だが、堅実に考えるとそういった補助的な魔法の方が使えるのが多く感じるのはなんだかもやっとするよな。
確か図書館があるって言っていたから武闘大会の前の時間があるうちに寄っておこう。それにできれば魔法に詳しい人とかいればゆっくり話を聞いてみたいな。冒険者ギルドに相談してみるか。
身体も十分あたたまったので風呂から出る。
ひとっ風呂あびてそのままベットイン。
やることもやりたいことも山ほどあるがとりあえず今は寝よう。夜のために。
そう、夜のために!
「さてとひと眠り」
僕は瞼を閉じて心地よい眠りについた。




