ひとつ何かをするたびに何か1つのトラブルに巻き込まれている気がする
僕ら3人は一路南地区へ。
冒険者ギルドからそのまま南へまっすぐ行けば大きな闘技場が見えてくるということなのでまっすぐ南へ。
西門付近は飲食店、冒険者ギルド周りは武器防具屋。そこから南へ進むと割と住宅が多く感じた。所々雑貨屋や飲食店もあるが2階建て3階建ての住宅も並んでいる。
20分くらい歩いていると建物が少なくなって広い公園みたいなところに出た。緑も多くベンチや屋台まで並んでいる。
遠目に大きなドームみたいな建物が見えてきた。ドームというよりは造りが石造りだから古代ローマのコロッセオって感じかな。
「あれが闘技場かな?野球とかできそうなくらいでかいな」
「なんかあそこに人集まってるで。あそこが受付かな?」
闘技場の入り口のようなところで冒険者っぽいのが集まっている。あそこが受付みたいだ。
僕らはそこに近づき群れの後ろに並んだ。30人くらいがやいのやいの言いながら受付で署名をしている。全員が全員荒くれもの風。全員冒険者なのかな?
「参加者の方はこちらで署名お願いしまーす」
冒険者ギルドの受付嬢と同じ服装の人がテーブルについて受付をしている。冒険者たちは1人1人受付を済ませて銀貨を1枚手渡し、そして番号の入ったカードを受け取っていた。
参加費が銀貨1枚か。優勝賞金が金貨10枚って言ってたから1000人参加者がいれば運営は元が取れる計算だな。いや、観客席も有料だとしたらボロ儲けなのかも。
そして僕たちの番が回ってきてズラッと名前の入った名簿に僕たちも名前を記入するため机の前に並び、そして銀貨を3枚。
「え?マーシーも出んの?」
「焼き鳥10万本は絶対に譲らん!」
「いやあ、銀貨1枚なら安いもんかな?と思ってさ」
それに参加者になった方が色々と探れるものも多いと思う。魔法はあまりないにしても変わった特技とか技とか職業とかは確認できるかも。
そして僕は1枚のカードを受け取った。
711か。すでに参加者は700人超えてるってことか。
「おう、お前たちも来たか」
背後から声をかけられた。帝都に知り合いなんていないから少しドキッとしたが振り返ると見知ったロン毛のおじさんが立っていた。
「こんにちは。ひょっとしてあなたも出場されるんですか?」
昨日山頂で会った銀獅子団の副団長さんだ。
「まさか、俺たちは大会の警備を任されててな。運営側の関係者さ」
昨日グリズリーの剥ぎ取りをしていた若いメンバーを2人引き連れていた。
「一応大会までに闘技場の中に無断で入るやつとか受付時に暴れるやつとかをとっちめる役目さ」
副団長さんは腰に随分とデカい大剣をぶら下げていた。ズボンずれたりしねーのかな?
マサルもカードをもらって後はタカシがまだ名前を書いているところだったが隣で叫び声がする。
「なんだなんだひ弱なヤツだなーー!そんなんじゃ予選も通過できねーぞ!ヒャハハハハハ」
男が1人顔を腫らして地面に横たわっていた。悪者風の発言をしているのは見た目2メートル以上はある丸坊主の大男だった。
「予選なんてまどろっこしいことする前に俺様がテメーらの実力を見てやるよ!予選の時間が省けれりゃあ感謝もされるだろうしなあ!ヒャハハハハ!」
セリフも笑い方も悪役丸出しじゃねーか。あ、横で副団長さんが不機嫌そうにそいつを睨みだした。こういう時のためにいらっしゃったんですね?
その悪役が右手をブンっと振るうと目の前にいた冒険者が1人吹き飛んだ。と、同時に勢い余った右手がタカシの後頭部にヒットした。あらあら。
なんかマサルがウキウキしている。今から何が起きるのか楽しみなんだろうな。
おっと、先に動いたのは副団長さんだった。
「おい、この場で暴れんのは俺が許さ・・」「すみません、少しお待ちください」
僕は咄嗟に副団長さんを制止するべく副団長さんの前に入った。「これは正当防衛ですので」と一言添える。
僕の後ろをゆっくりゆっくりとガタイのデカい長身の悪者に向かっていくタカシ。その間にさらに冒険者が1人その悪者にぶっ飛ばされていた。
けれどもここからタカシのターンです。
「おいデカいの。今俺の頭に1発入れたことに対して謝罪も無いんか?」
「ああんなんだ兄ちゃん、テメーも出場者か?ならここで予選敗退だな。ヒャハハハ」
そいつは右腕を振りかぶりそのままタカシの左頬へと振り下ろした。副団長が右足を踏み込んだが僕はそれを手で制し「大丈夫です」と声をかける。
ドゴン!!
結構大きな打撃音が響いた。
「ギイヤアアアアア!!!!」
拳を振り下ろしたデカブツが右手を押さえてうずくまり悶絶している。今タカシが拳に拳を合わせたな。おかげでタカシの倍はあるそいつのデカい拳は大きく陥没していた。
「予選敗退はお前みたいやな」
「テメーーーーー!!ぶっ殺して・・・・」
その悪者が懐から大きめのサバイバルナイフを取り出した時には副団長さんの大剣がそいつの喉元に添えられていた。
「俺はAランク銀獅子団のゲラハルドってもんだ。テメーは予選前に敗退だ、カードを置いてさっさと失せろ。それとも・・・・・人生敗退してみるか?」
威圧感がすごい。副団長ゲラハルドは虫ケラを見るような眼で悪者君を睨みつける。その悪者君はガタガタと震えだした。そして何も言わずにカードを投げ捨て去っていきましたとさ。
さてと
「タカシ、さっさと名前書いてカードをもらって来い」
ゲラハルドさんは大剣をしまい、こちらを見据える。
「ああいうバカの為に俺たちは警備で駆り出されているんだが悪かったな、手を煩わせたみたいだな」
「いえいえ、先にあっちが手を出してきたのでこっちとしては少々やり返しただけですよ。殴られたら殴り返す。当たり前のことでしょう?」
Aランクの冒険者の副団長、そして2メートル以上の大男を返り討ちにしたタカシが注目を浴びている。まずいな、さっさとこの場を離脱したい。
タカシがカードを受け取ったのを確認する。
「では僕たちはこれで。お騒がせしました」
ペコリと頭を下げて何もなかったようにその場を去ろう。
「待て」
はい、昨日に引き続き『待て』入りましたー。
「どうかしましたか?」
「今のバカも腕の一振りで一介の冒険者をぶっ飛ばすくらいの実力はあるヤツだったんだが、Eランク冒険者にしてはお前たちは腕がたつんだな」
「冒険者じゃなくても強い人はいるでしょう?俺たち3人とも冒険者になったのは最近ですからEランクってのはあてになりませんよ。田舎では結構鍛えてましたから」
「ああ、そいうことなんだろうな、少々興味が湧いただけだ。お前ら一体レベルはいくつなんだ?」
「他人にホイホイ自分のレベル言うようなバカにみえますか?まぁ、レベルだけが強さじゃないですがね」
「そうだな。俺はゲラハルドだ。まだ名のってなかったよな?お前らの名前を聞いていいか?」
「俺はマーシー、デカいのを返り討ちにしたのがタカシ、それでそこでのほほんとパンを食べてるのがマサルです」
マサルめ、朝食のパンをストックしていたのか。
「分かった。武闘大会楽しみにしているよ」
やっと解放されてその場を離れる。
なんだか色々と疑われているんだろうな。やましいことはなにもないんだが、何か色々と誤解されていそうだ。
さぁエントリーも済んだしどうしたもんか。ワイルドウルフの牙ってのを採りにいくか、それとも帝都を散策してみようか。
「それにしてもこの辺りは入り口ほど人はおらんみたいやな。店もあんまりないし」
この南地区は確かに人が少なく感じた。決して人がいないというわけではないのだが建物もぽつぽつと。あの闘技場がなけりゃあまり人はこっちに近づかないのだろうか?
「なぁなぁこれからどうする?防具屋行くんはちょっと早いと思うし、牙採りに行く?」
「そうだな、ワイルドウルフもそうだがこの辺りで何かないか聞いてみようか。ちょうどそこに交番があるし」
交番かどうかは分からないが西地区にあったような兵士の詰め所みたいなものがあった。
「すみませーん。少しよろしいでしょうか?」
30歳くらいのがたいのいい鎧の人が僕らを対応してくれた。
「なんだ?迷子か?」
「迷子じゃないですよ。帝都に来たのが昨日でして、何がどこにあるのかちょっとわからなくてですね。色々お伺いしたいのですが」
「おお、帝都は初めてか?なんでも聞いてくれていいぞ」
「おいしいお酒の飲める店を」
「おいしい飯の出てくる店を」
タカシとマサルが割り込んできた。
「ははは、それなら西門入ってすぐの通りが一番だ。店も多いしどこもレベルが高いからな。ちなみに俺のおすすめは門から入ってすぐ右手にある『鳥屋』ってところだな。値段も安くて旨い鳥の串焼きが絶品だ」
焼き鳥だな。マサルの目が光った。
「お酒はどこも似たようなもんだとは思うがギルドから東に行けば少々高級だが色々なお酒を出す店がある。貴族も立ち寄るようなところだからあまり冒険者は近づかないがな」
僕たちの服装を見てあまりすすめないがな、と一言添えられた。
「この南地区はあまり人はいないようですが、こっちはなにもないんですか?西地区は昨日少しまわってホテルや飲食店は多かったのですが」
「こっちは少々特殊だな。この時期じゃなけりゃ闘技場で定期的に賭け試合をやっているんだが一般人が来るのはそれくらいさ。闘技場の向こうには足を運んでないのか?」
「はい。闘技場で武闘大会のエントリーをしてきただけですので」
「そうか。あっちは奥に行けば行くほど治安が悪い。行くときは注意するように」
スラム街にでもなってんのかな?
「闘技場を越えてすぐのところは高級飲食店が並んでいるんだ。あとは奴隷館と娼館があるくらいだ。基本的に足を運ぶのは金持ちさ。特に夜は賑わっているな」
娼館・・・・・・娼館・・だ・・と・・・。
マサルの目が光った。しかしタカシはとぼけた表情のままだった。多分娼館の意味が分かっていないと見える。
「高級飲食店ってどう高級なんですか?ドラゴン料理が出たりですか?」
マサルの目が光った。反応しすぎだな。
「ドラゴンかー、あるかもしれないなぁ。まぁ料理っていうよりはサービスが高級なんだろうがね。わざわざ若い女の子がお酒を注いでくれたりするらしいよ。金持ちの道楽だね」
マサルの目が光った。もういいよ。
うん、多分、キャバクラかな。
「ちなみに奴隷って僕たち一般人でも買ったりできるんですか?」
「ああ、もちろん。お金さえあればね。冒険者なら荷物持ちや戦闘力のある獣人を雇ったりしているね」
フランでは見なかったが奴隷制度がここにはあるのか。そういえば冒険者の契約紋以外に奴隷紋があるって言っていたな。それに獣人かぁ、エルフもそうだけど獣人とかも会ってみたいよなぁ。
「お金を貯めて一度は南地区を豪遊するっていうのはここの冒険者では当たり前の話だ。俺も一度は行ってみたいもんだよ。君たちも稼げるようになったら一度は行ってみるといい。夜の帝都の南地区に」
「ありがとうございました。参考になりました」
僕たちは頭を下げてその場を後にする。




