黄金の国ジパングとはよく言ったもので
人の気配で目を覚ます。
ベッドで上半身を起こすと喋り声が聞こえてきた。
「タカシーバスタオルとってー」
「あかん、今手ェはなされへん」
ソファにかけたタカシの手が丸い光に覆われている。
「おい、何してる?」
僕は不安げに質問した。
「見て驚け!これが気功弾だ!」
「それで、それをどうするんだ?」
「・・・・・・・・・・・・どうしよか?」
「おい、それを壁とかにぶつけるなよ。なんとかそのまま消せ」
むむむむむむ、とタカシはその光った右手とにらめっこしている。
「タカシータカシー」
と、マサルは全裸で風呂から出てきた。
「何勝手に俺の部屋の風呂に入ってるんだ?」
「いやー、起こしにきたけど気持ちよさそうに寝てたからひとっ風呂浴びようかと」
僕はベッドの横に畳まれていたタオルをマサルに投げつけた
「とりあえず拭いてこい。ここは今日も俺が泊まるんだからあまり汚さないでくれ」
マサルはタオルを持って洗面所に戻っていった。
「で、タカシはそれを消せるのか?」
「んんん、ちょっとずつ小さくなってる」
よし、がんばれ。
そのままタカシは5分くらい頑張ってなんとか何事もなく済んだ。
そしてソファに3人並んで水筒に入った水を飲みながら今日の予定を話す。
「イエーーイ!フルボッコミーティングー!!」
「「イエーーイ」」
パチパチパチとまばらに拍手。
「とりあえず今日は武闘大会のエントリーに行こう。南地区に会場があるらしいからそっちに足を運ぶ」
「まだ日にちはあんねんな?」
「ああ、まだ5日くらいは先にはなるが定員オーバーとかで出られないとかになったら木刀も手に入らないしな。早めに行っておこう」
「召喚魔法かー、おれも覚えたら焼肉とか召喚できたりしないかなー」
マサルがなかなかスゴイ発想をしている。食べ物を召喚する召喚士は流石に聞いたことがないな。
「あと、冒険者ギルドに寄ってEランクかDランクの依頼を受けようと思ってる」
「え?依頼って金稼ぐためのもんやろ?金は
結構余裕あるように思うけど?え??マーシーなんかに使ったんか俺らに黙って」
「何食べやがったんだ!このやろう!!1人で勝手に旨いもん食べやがったのか!」
「そんなわけないだろバカども。金は確かに余裕はある。金の問題じゃない。俺たちは冒険者登録して一度も依頼をこなしてないんだぞ。冒険者登録して一切依頼をこなしてないなんて正直不審すぎるだろう。どうせ5日間大してやることもないんだから2~3件やっておこうってだけだ」
「確かに登録はしたけど仕事は全然せーへんってのはちょっと怪しいわな」
「あとやりたいこととしては、防具を揃えよう」
「鎧か!あのガチャガチャ歩くやつやな!!」
「特に鎧である必要はないけどな。普通のトレーナーやTシャツでいるのはもう限界だ。防御力の面ではなくて見た目の問題だ。正直これで冒険者やってるなんて怪しいヤツか頭のおかしいヤツに見えるってもんだ」
「一理ある。結構チラチラ見られている気はしていた」
「ああ、だからそれっぽい服装を今このタイミングで揃えよう。武闘大会は観客もいるらしいからこんな普通のTシャツの若者がフルアーマーの戦士をボコボコにするなんて絵はまずいと思う。とりあえずそれっぽい服装、例えば俺はミクシリアさんみたいな軽装で短めのローブとかで魔法使いっぽく、タカシとマサルはダルブさんみたいじゃなくていいからグラブルさんみたいな金属製の胸当てとかあまり邪魔にならない程度に肘当て膝当てを。とにかく見た目から入って行こう」
「動機はちょっと変やけどちょっと楽しみやな。冒険者っぽく見える風にってことか」
「ああ、だから街に居る冒険者の服装も参考にちょっと見ておいてくれ」
よし、今日は武闘大会のエントリー、クエストを受ける、そして防具を揃える。この3つを済ませよう。
そして1番大事なことを僕は2人に話しだした。
「それから、ここからが今日のミーティングの本題だ」
「まだなんかあんのか?」
「まずはこれを見てくれ」
僕は1枚の紙をアイテムボックスから取り出しテーブルに広げた。
「なんや、世界地図やん」
「ちょっと色々と違うような感じはするな。結構大ばっぱに作られた感じがする」
マサルの言う通り、手書き風だからね。
「これは俺が昨日ここの雑貨屋で買ったものだ」
タカシはなんでもないキョトンとした顔だったがマサルは驚いた顔をしてくれた。よかった、マサルが常識人で。
「ここにきて世界史の勉強なんかしたくないねんけど」
よし、タカシは少し黙っていようか。
「マーシー、ということはここの世界と元の俺らの世界はほとんど作りが一緒ってことか」
その通り。
「ああ、この世界地図にはヨーロッパ方面、アフリカ、オーストラリア、アメリカ大陸と俺たちの居た世界と同じような作りになっている。結構簡単な作りで東南アジア辺りの島国は書かれていなかったり南極北極は無いけどな」
「マーシー、するってーと、この島は」
「ああ、日本だ」
「ジパングって書いてあるな。ロープレっぽい」
マサルが笑みを浮かべてジパングを指さした。
「俺たちが最初に居た街『フラン』はここ、フランスだな。そして『スーの森』スイスだ。そして南に行けば『魔法都市リア』イタリアだな。そして今いるのが『帝都ルーシア』ロシアだ。以前フランで小さい地図を見せてもらったんだがそれはフランからスーの森、帝都、魔法都市リアしか載ってなかったから気づかなかった」
僕たちの元居た世界地図とこの異世界の世界地図はほとんど同じ。そして日本の位置には『ジパング』。
「なるほど、ほんだら俺たちの目的地はここ、ジパングってことか?」
頭をひねっていたタカシもようやく納得したようだ。
「ああ、そうしよう。ここにも日本があるというのなら何かしら行ってみる価値はあると思う。何もない可能性もあるからな、期待はせず」
「元の世界に戻る方法とかもあるかもってことか」
マサルが口にしたことは僕も思っていた。日本であの事故に巻き込まれたのだからこっちの世界のその場所に行けばなにかあるかもしれない。それでもやっぱり過度な期待はせず。
「目的地もなくフラフラとってわけにはいかなかったからな。これである程度の旅の順番とかも考えられるようになる。帝都で武闘大会、その後はリアで魔術大会、そして帝都に戻ってきて南に下ってジパングに向かおう」
「俺オーストラリアに行きたい」
機会があったら・・・・な、タカシ。
「よし、じゃあとりあえず冒険者ギルドへ行こう」
「その前に朝飯が食いたい」
そうだなマサル。このホテルって飯ついてないんだよなあ。
「冒険者ギルドにでっかい食堂があったからそこで食べよう」
そして僕たちは並びの冒険者ギルドへと向かった。近すぎるな。
扉を入ってまずは食堂の方へと足を運ぶ。壁にズラッとメニューが書かれているので各々注文する。
「俺ビー「無しな」ル・・・・コーヒーとこの大きいパンで」タカシを制止する。
酒は夜に山ほど呑むんだからとりあえずは控えさせる。
「じゃあ俺もコーヒーとこのパン2つとそっちのパン3つとこの肉の挟んだサンドとそのサラダ。お、そっちのバナナみたいなのも」
朝からどんだけ食べるんだよ。
2人はテーブルでモグモグとパンをかじっている。その間に僕はコーヒー片手に受付の横に設置された大きな掲示板を眺める。ここに貼られた紙にそれぞれ依頼が書かれていて受けるものを受付へ持っていけばいいらしい。
EランクかDランクしか受けれないからな、あんまりないな。
冒険者ランク
Eランクは新米。ここで複数の依頼をこなしてDランクへ。ルーキーとも呼ばれる。
Dランク。冒険者で一番多いのがこのDランク。Eランクで複数の依頼をこなせば上がれるためDに上がるのは難しくない。しかしここから上がるためには依頼を十分にこなし、昇格試験に受かる必要がある。ちょっと剣が使えたり腕に自信のあるくらいの冒険者はここで停滞することも少なくない。
Cランク。ここでやっと一人前と判断される。E、Dランクは素材集めや雑用の依頼が多いが討伐系の依頼はここから多くなり、依頼の難易度も跳ね上がる。
Bランク。Cランクで一定以上の依頼をこなし、なおかつ冒険者ギルドから強さもさることながら普段の素行であったり評判も加味されて認定されたチームのみが上がることができる。まさに上級冒険者といったところ。確かフランで会ったヴィランが居たのがBランクだったか。
Aランク。Bランクでさらに評価をあげて何かしら偉業をこなしたチームのみが上がることができる。一つの街を救ったり、単独チームでドラゴンを討伐したりと色々あるらしい。ヴィランのところがドラゴン討伐したって聞いたが1回だけじゃ簡単にはあがれないのだろう。ちなみにAランクは世界中でも10くらいしかないとか。
Sランク。世界で3チームしかないトップチーム。SランクになるにはAランクでさらなる偉業を行い、さらにギルドだけではなく国から認められる必要がある。それこそ国を救ったり魔王を退けたなどの功績が必要でもう100年以上Sランクになったというチームは存在しない。
まぁ上に上がろうなんて思ってないけれど、やっぱり一つくらいはランク上げてCランクの依頼あたりじゃないと生活できないようになってんだよなぁ。
とりあえず当たり障りのないこのワイルドウルフの牙の採取ってのにするか、ワイルドウルフなら山で何回か索敵でひっかかっていたからな。
その依頼の紙を手にして受付へ持っていく。
受付は朝早くても人が結構並んでいる。右端は昨日と同じように長蛇の列だったので別のカウンターへ足を運んだ。
「ご依頼ですね。それでは契約紋を拝見します」
そして、ポンっと依頼書にハンコを押してその依頼書は受け取った。
「それでは依頼が完了しましたらこちらへまたお持ちください。ワイルドウルフは群れで行動していることもございますのでその時は十分にご注意ください」
「ありがとうございます。失礼します」
僕は2人の待つテーブルに戻る
「おかえりー、良さげな依頼はあった?」
おいマサル。さっきまでここにあった山盛りのパンはもう食べたのか?
「なになに、ワイルドウルフの牙5つか。少なっ、報酬銀貨1枚って少なない?」
「まあこんなもんだろ?日給1万と考えればいい。安い宿とって普通に飯食えるくらいだろ?」
「しかし俺たちの昨日の飯代は確か銀貨3枚は払っていたような」
「ああ、お前たちがバカ程呑んでいたからな」
「それもこれも一角牛とワイバーン様様やな。ワイバーンか一角牛を狩り続けたら金にも飯にも困らんな」
あんなのがバカスカ出てくるようなら一般市民は恐怖だろうがな。
「よっしゃ、防具買いに行こうや、防具」
「ああそうだなそろそろ行こう。身なりは早いところ整えていた方がいいしな」
それじゃあ防具を見にいきますか。




