酒を呑む。風呂に入る。そしてベッドイン。これに勝てるものはない。
僕たちは受付に戻ってきた。
さっきと同じおかっぱに眼鏡の受付の人に紙を渡すとビックリして僕らの顔を二度見していた。さっきEランクの契約紋を見せたからこの報酬額には流石にビックリしたのだろう。
僕らは動揺1つ見せずに金貨の入った袋を受け取り、確認するとすぐにポケットにしまいこむ。
「さて、じゃあ宿屋に行こうか。それから酒な」
「ヒャッホー!酒だ酒だ!」
「肉肉お酒、肉お酒だー!」
恥ずかしいから早く出よう。
僕たちは冒険者ギルドを出てすぐ左に。
「宿屋が2つか」
「なんか向こうの方がでかくて綺麗やな」
そうなんだよなぁ。向こうの方がグレードが高い。そしておそらく金額も高いのだろう。
「この後どこも一杯で宿屋を多分変えれないんだろうな。なら良い方にしておくか」
こんなところで節約しても仕方ないような気がする。こっちのボロい方に泊まって後悔するのもな。
僕らは綺麗で大きい方の宿屋に入っていった。
言われた通りに受付で冒険者の契約紋を見せると1割引きで泊まれるようだ。
一泊1人銀貨2枚。2万か・・・まあまあするな。3人で6万でこれが10日、60万だぞ、おい。
そこから1割引きで54万、それでもかなり高いよな、
金に余裕があるからできる贅沢だな。
僕たちは滞在証ギリギリの10日間の宿泊費を先払いした。よし、これで寝床はオッケーだ。
僕たちは特に荷物はないがカギを受け取って一度客室に入ってみる。ちゃんとしたカギにちゃんとした扉だ。館内は床は絨毯で壁は綺麗に磨かれた石材。本当にちょっとしたホテルのようだ。
流石にボーイさんが荷物を運んでとかはないようだが働いているスタッフも小奇麗な身なりで確実に僕たちは場違いなような気がした。
だって僕は普通のトレーナーみたいな服装だし、マサルに至ってはロンTに前掛けだしな。
「じゃあちょっと部屋の確認したらすぐにどっか呑みにいこうか」
部屋は3つ並んで1人1部屋づつ。カギを開けて中に入る。
「これはこれは、流石に銀貨2枚か」
フランで泊まった宿の10倍は広い。入ってすぐにリビング。隣にもう1部屋あり、そこが寝室のようだ。ベッドも2~3人は寝れるくらい広いしリビングには高級そうなソファまである。普通のホテルならここにデカいテレビでもありそうだが流石にそれは無い。
お、寝室にさらに扉がある。
ガチャリ、扉を開ける。
「マジか、やるな銀貨2枚」
バタバタバタ、ドン!!
「マーシーマーシー!!」
マサルが血相を変えて入ってきた。
「風呂があるぞ!!」
うむ、今僕もそれを見つけたところだからな。
お湯や水はどうやって出すんだろうか?湯船の脇に蛇口っぽいもの2つ。赤と青の石がついている。
「まさかこれで?」
その石に触ってみると青の石のついた蛇口からは水が、赤の石のついた蛇口からはお湯が出てきた。
「すげーな、マジックアイテムか?持って帰りたいな」
ドタドタドタ、バタン!!
「マーシーマーシー!!」
今度はタカシが入ってきた。
「風呂があるぞ!!」
そのやりとりはもうやったよ。
「すげーなここのホテルは(もうホテルと呼んでしまっていいだろう)後で帰ってきたらゆっくり入ろうぜ」
そして僕たちは酒を求めて街へくりだした。
「これだけ店があるとホンマ迷うなぁ」
「10日は居るんだからめぼしいところは順番に入っていっていいんじゃないか?」
僕たちは冒険者ギルドのある西地区でお酒の飲める飲食店を物色する。冒険者ギルドの周りは武器防具屋、鍛冶屋なんかが多く見られたが来た道を戻るように西へ進むと飲食店が多く目についた。元気のいいところは外で客引きもやっていたりする。
「マサル、何が食べたい?」
「うーーん、肉も悪くはないんだが、一角牛やワイバーンの肉を経験したから今日は別のもいいんじゃないでしょうか?」
「よし、それ採用で」
「ほんだら魚とかいっとく?」
「「いいねー」」
目の前で魚を網焼きにしているお店発見。一緒に貝っぽいものも焼いている。
店は木造りで和食亭っぽいのがまた良い。
「すみません、ここは魚がメインで食べれるんですか?」
「はいいらっしゃい、焼き魚も生魚も新鮮でおいしいですよ」
ツンツン頭にハチマキをした眉毛の濃いおじさんが魚を焼きながら答えてくれた。
「酒は?酒はある?」
「もちろん、魚に合うお酒を用意してますのでぜひどうぞ」
はい、決定です。
僕たちは3人店に入り、座敷っぽいところに案内された。夕飯時としては早いのか待ち時間なく座れたのはありがたい。店の前で実演で魚焼くなんてまんまと釣られてしまったな。
「俺ビール!」
「俺もビールで」
「すみません、じゃあビール3つお願いします」
ビールでちゃんと通ります。異世界万歳。
「あと、これとこれとこの焼き魚とこの刺身を」
刺身でも通ります。異世界最高。
正直魚の名前がいくつかあったがさっぱりわからないので適当に頼んでみた。グイとかエラとか、何が来るのかわからない闇鍋感覚の注文スタイル。
「はーいおまちどーさまー」
若い女性の店員さんがビールをジョッキで3つ持ってきた。
「よし、とりあえず乾杯しよか、武闘大会優勝の前祝いやな!」
おい、他の客に聞かれて面倒起こしたくないからそういうのはやめて。
「「「かんぱーい」」」
「ぷはー、うまーい」
「ゴキュゴキュ、ぷはー。おかわり!」
はやいわ。
魚も次々に並べられた。割と普通の魚が多いな。焼きさんまにホッケ?鯛の塩焼き風。
うお、刺身の色がスカイブルーだ。なんだこりゃ。
「マサル、刺身が透き通る空のようだぞ、食べてみろ」
「マジか!このタレでいくのかな?ムグムグ、おおおおお!脂のっててサーモンみたいで美味い!!」
お、いけるのか。じゃあ僕も。
「あ、本当にサーモンみたいだ」
「こっちの秋刀魚バリうま!」
「おねーちゃんおねーちゃん他にお酒ってあんの?」
「米酒と果実酒ならありますよー」
「米・・・・まさか、日本酒か・・・」
「「米酒で!!」」
2人の声が揃った。まさか本当に日本酒なのか。
運ばれてきたお酒はグラスに満たされた透き通るお酒だった。匂いが完全に日本酒じゃねーか。
グビッとタカシとマサルが一口。
「あ、これアカンやつや」
「魚に合いすぎ。美味すぎる」
僕も1口いただく。
「まんま日本酒じゃねーか」
そうなると2人は止まりません。今日はマサルは食よりも酒寄りに。次々と日本酒を頼み続けて次々と空けていく。
僕もその横でチビチビやっているが一杯呑み終わるころには2人はグラス5杯は空けている。
果実酒もさっぱりしていて酎ハイのレモンやゆずのよう。
呑んでるこの場はここが異世界だなんて感じられず、いつものように居酒屋で3人して呑んでるような雰囲気だった。
宴会を終え僕たちはホテルに向かっている。
「はあーー、呑んだ呑んだ」
「ほんまこんな所で日本酒に出会えるとは夢にも思わんかったわ、もう10日間さっきの所でええんちゃうかと思えてくるわ」
確かに1軒目で大当たりだった。店はまだまだ回りつくせないほどあるから明日からこういう店を探すってだけで楽しみになってきた。
「今日はこのまま風呂に入って寝るだけやんな?なんか旅行気分やわー」
そうだ、今日は風呂が待ってるんだった。
まだ時間にしては9時と早い時間だったが今日の所はお開きだ。
3人とも部屋で風呂に入って今日は就寝。
明日からのことは明日の朝相談しよう。
とにかく今日は
風呂が待っている!
ホテルに戻り風呂に湯を溜める。この赤い石に触れるとお湯が出る。もういちど触ると止まる。青い石も一緒で水かお湯の違いだけだ。
「マジックアイテムか、こんな複雑な仕掛けどうやって作るんだろう?触ると水が出てもういちど触ると水が止まる。機械じゃあるまいし」
ちょうどいい湯加減で溜められた浴槽にゆっくりと浸かる。
「ああああぁぁぁぁぁぁーーーー」
最っ高----だーーーーーー。
異世界に来て初めての風呂はそりゃあもう至福の時だった。
タカシとマサルも今頃同じ気分だろう。
やっぱり日本人は風呂が好きだなぁ。
そうして帝都での1日目はふけていった。




