ボブの肉屋本店。まぁ冒険には関係ないんだが
門を抜けると広―――い通りが姿を現した。石造りの床が広がり建物も2階3階建ては当たり前。フランは木造建築がメインだったがここは石造が目立つ。色も基本は白でものすごく清潔感に溢れている。正面は広い大通りで、左右の通りには商店が並んでいるようだ。まぁここが言うなれば帝都の顔みたいなもんだもんな。
「うおお、人が一杯やし店も一杯や」
「ドラゴン料理屋は?ドラゴン料理屋はどこ?」
おい、いきなり冒険の終着点目指してんじゃねーよ。
「活気があっていいな。夕方だから今はどこも人が多いんだろうな。とりあえず宿をとろうか?それからちょっと酒でも呑んで今日はもう休もう。明日から色々まわりたいな。冒険者ギルドも行きたいし武闘大会のエントリーとかもあるだろうし」
「珍しくマーシーの口から酒って出たから今日はマーシーの奢りや!ヒャッホー!」
まぁ、金はまとめて僕が持ってるからね
「肉は?いや、こんなところなら魚とかもあるかも。あ、あそこの店なんか揚げてる!まさか串カツか!!」
「肉も魚も串カツも後な。とりあえず宿屋だ。10日くらいはいる予定だからいろんな所に泊まってみたいな。とりあえず近いところから順番に見てまわろう」
僕たちは門を入ってすぐ右側の商店街のようなところから攻めてみることにした。
飲食店、雑貨屋、武器屋などのお店がズラーーーーッと並んでいる。これだけ店舗が多ければ競争率とか高そうだが結構どこも繁盛しているようだ。やっぱり帝都ってだけあってお客さんも多いんだろうな。
「お、宿屋発見。入ってみよう」
他の商店に比べて3倍は敷地面積がありそうな大きな宿屋だ。3階建てで清潔感もある。ちょっとしたホテルみたいだ。
中に入るとフランの街のリアさんのところの宿屋とは全然違う内装。入ってすぐにおおきなロビーがありホテルのボーイさん風の衣装を身に着けた若い店員さんがフロントに数人いる。
流石にリアさんのところの宿屋と比べるもんじゃないな。田舎の民宿と都会のホテルってくらい違う。
「すみません、宿をとりたいのですが」
「申し訳ございません本日はもう満室でして、次のご予約も10日後以降になってしまいます」
さて、こんなやりとりを今3軒連続で行ったわけだが。
「どこも一杯みたいやな、どないする?」
「マーシー先に飯にしよう飯に。腹が減っては宿屋探しもできない、さっきから美味しそうな匂いがたまりません」
「まぁ待て、あそこに交番っぽいところがある。鎧の人が2人ほどいるから詰め所かなにかだと思う。ちょっと聞いてくるよ」
お店よりも狭いスペースに鎧のおじさんが2人。多分このあたりの警備とかをしてるんだと思うが。
「すみません、少々お伺いしたいのですが」
「ん、どうかしたかね?迷子か?」
「いえいえ、迷子ではないのですが。宿屋を探しているのですが何処も一杯でして、少々高くても空いてそうなところとかご存じないでしょうか?」
「ああ、宿屋が一杯か。そりゃそうだろうな、もうすぐ武闘大会が始まるからな。この時期はどこも一杯だよ。出場者もそうだが観客はその何十倍といるしな」
ああ、そっか。ただ力比べをするんじゃなく祭事として成り立っているのか。
「高くてもいいのならお城の方まで行けば貴族ご用達の宿屋はあるが、その服装なら追い出されるかもな」
「一介の冒険者が泊まるところじゃないんですね?」
さっきの宿屋でも十分立派だったがもっと上があるのか。本当にホテル並みなんだろうな。
「君たち冒険者なのか?なら冒険者ギルドに行って冒険者用の宿屋を紹介してもらえばいいぞ。ここらよりはあっちの方が空きはあるはずだからな」
帝都はど真ん中にまずお城。その周りに貴族たちの高級住宅。そこを中心に北地区と東地区は主に貴族関係の建物が多く学校や病院、図書館、教会などがあるらしい。ここは西地区。西地区と南地区は一般人向けで商店や住宅が多く冒険者ギルドも西地区にあるらしい。ちなみに南地区に大きな闘技場があり、武闘大会の会場になっていて受付もそこでできるようだ。明日にでも行かなきゃな。
「ありがとうございます。一度冒険者ギルドの方に行ってみます」
僕たちは最初に入ってきた時にあった大きな通りへ戻ることにした。そこを真っ直ぐ進めば冒険者ギルドが見えてくるらしい。
僕たちは走るわけにもいかずトボトボと周りのお店を見ながら通りを歩く。
うん、さっきマサルが言ってたようにすっげえ良い匂いがするんだよなぁ。おなか減ってきたよ。
「マーシー!マーシー!!」
「なんだよ」
タカシがうるさい。
「ボブの肉屋や!ボブの肉屋があるで!!」
「マジで!?マーシー!!ちょっと寄って行こう!!」
マサルもうるさい。
「寄らんよ」
「なんでやねん!ボブやで!肉屋やで!ここはきっと本店やで!フランの支店よりずっと肉屋やで!」
「そっか!ボブはフランには居なかったのか!本店ってことはきっとここにボブが居るはず!はやく挨拶に行くべきゅい・・・」
僕はうるさい2人にアイアンクローをかけ黙らせる。
「はいはい周りに迷惑ですからね。静かにしましょう」
そのまま顔をつかんだままボブの肉屋が見えなくなるまで引き摺って行く。
ちょっと寂しそうにしている2人を連れて僕たちは大通りをひたすら歩いた。20分くらい。すると大きな役所みたいな建物が姿を現した。
「多分これかな。フランの冒険者ギルドも大きかったがさらにでかいな」
冒険者ギルド本部って書いてあるな。本部か。ちょっと緊張するな。周りを歩く人たちもガラの悪そうなヤツが多く感じる。そしてマッチョも多い。
宿屋の前に冒険者ギルドの用事を先に済ませよう。
大きな扉をくぐると中は大きく右側はフランと同じように飲食スペース。100席くらいはありそうな大食堂だ。そこで何人かが酒を呑んでいるのが見える。
左側に広く空いたスペースとカウンターだ。多いな。カウンターは1・2・3・4・・・・10か。フランは確か3カウンターだったな。
1つ1つのカウンターも大きい。カウンターで素材をそのまま手渡ししている冒険者がいるため換金所も兼ねているのだろう。
なぜか一番右端のカウンターは行列になっている。それ以外は埋まってはいるが並んでいても1人2人。もちろん僕は待ちのない列に並ぶ。
「うお、めっちゃきれいなお姉さん」
タカシの声に釣られて右端のカウンターの受付に目をやるとそこには髪は金髪でウェーブのかかったロングヘア。色白で口元にほくろのある受付嬢がムッチムチの足を組んで受付している。なにより目についたのは他の受付と同じ制服なのにボタン2つほどはずしてものすごく主張しているバストだ。めちゃでかい。
「メロン級やな」
タカシは真顔で呟いた。
「はいあれはメロンですね」
僕も横目で呟いた。
「俺もあっちに並んでいいかな」
マサルは僕が引き留めた。
だから右端が行列になってるんだな。釣れすぎだろ、冒険者の男ども。
こっちはすぐに順番が回ってきた。
「すみません僕ら3人フランからやってきまして今日ついたばかりなのですが」
受付はおかっぱの眼鏡をかけた地味な子だった。若いな僕らと同じくらいだろうか。
「まず素材の引き取りをお願いしたいのと、宿屋を紹介してほしいのと、討伐依頼にオークがいればお願いしたいのですが」
「はい分かりました。オークは討伐依頼が出ていますので1匹につき大銅貨5枚です。宿屋はこの建物の左横に2軒続けてございますのでそこの受付で冒険者の契約紋を見せていただけましたらランクに応じた割引ができますよ。今はまだ空室もあるはずですので早く行くのをお勧めします。もうすぐ武闘大会が始まりますのであっという間に満室になりますからね。素材はここで鑑定しますのでここに並べてください」
オークの討伐依頼料がフランよりも安いな。まぁ仕方ないか。
広めのカウンターの横に1メートル四方のカゴが用意されている。ワイバーンの鱗やらなんやらと結構持たされた素材の量なら入りきらないな。
「ちょっと量的に入りきらないのですが、ここでしか素材の受け取りはしてないのですか?」
「あ、失礼しました。アイテムボックスをご利用でしょうか?でしたら素材の受け取りはカウンター左の奥の部屋でお願いします」
フランの街にあった同じ機械でオークの討伐数を確認してもらい僕は3人の合計で銀貨10枚を受け取った。
よしそれじゃあ素材を換金してから宿屋に行くか。
「ありがとうございました。またお願いします」
僕たちはカウンターの端の奥にある通路へと足を運ぶ。




