横入りを注意できる男、タカシ
山頂を数十メートル進むと反対側、帝都側を見下ろせるところまで来る。そこで初めて僕たちは帝都を目の当たりにした。
「おお、でっかい街やな」
「確かにフランの何倍もあるな」
一際目立って「ザ・お城」ってのが遠目に見える。もちろん西洋風でバカでかい。
そのお城を囲うように背の高い壁がそそり立ち、その壁の周りにも建造物が立ち並んでいる。
こりゃあデカいし、広いわ。
まだ数キロ先に見えているだけだがその大きさは流石「帝都」と呼ばれるだけはある。
お城を囲うように街があり、外回りをぐるっと背の高い石の壁が延々と続いている。
うむ。端が見えないな。
フランの町と同じ構造だが、広さも壁の高さも比較にはならない。
壁が高く堅固そうなのはモンスターの侵入を防ぐためのものだろうがやっぱり物々しいんだよな。でっかい刑務所みたいだ。まぁこんなに近くでグリズリーとか出るならそれも頷けるか。
下りも上りと同じような山道がグネグネと続く。上りと同じように獣はほぼ無視してスタスタと下っていく。
「さっきのロン毛のおっちゃん強そうやったな」
「ああ、レベル52で腕力290な。ゲーリーさんの倍くらい強いと考えられる」
「なんかそう考えるとめっちゃ強く感じるな」
ゲーリー基準。確かにものすごい強く感じる。
タカシの力は999オーバーだからどう考えてもこちらよりは格下なんだが。
下山して視界が開けた場所に出ると街は見えなくなる。遠目にただ壁が並び、さらに遠目にお城のとんがりがちょろっと見えるだけになった。
ここからは馬車の行き来もあったりするようだ。遠目に何台かの馬車が見える。なので僕たちはゆっくりと徒歩で近づいていく。まだ30分くらいかかるだろうなこりゃ。
「でっかい壁やな。大雨とか降ったら中はプールになるんかな?」
そうなったら建造したやつはただのバカだな
「え!?競争?壁まで競争する?」
「行くなよ。行ったら他人のフリするぞ」
マサルが凄くウキウキしながらかけっこのポーズをしていたが僕にはそんな熱は全くない。
地平線が見えるレベルで視界が広い。左右に馬車が列を成しているのが見える。多分整備された道がちゃんとあるのだろう。
でっかい帝都の周りは延々と続く草原地帯。
何か攻め込んでくる敵がいればいち早く発見できるということか。
そのまま30分ほど男3人はトボトボと歩き続けてようやく壁の前に到着。
唯一中に入れそうな木製の門の前には行列ができている。
「入国審査ってな」
ほとんどが馬車ばかりだが数人はやんちゃそうな奴が列に並んでいる。武器も腰にぶら下げていていかにも冒険者風だ。武闘大会の参加者かな?
それからさらに30分行列に並ぶ。
あ、そろそろウチの2人が飽きだしてる。イライラしてるのが伝わってくる。
「もうちょい我慢しろよ。中に入ったらなにか旨い物でも食べよう」
前にはあと2組くらいだからもうすぐだろう。フランと同じように石版に手を置いて入国料を支払うだけみたいだし。
さっき冒険者は腕の契約紋を見せていたから冒険者である確認もするのかな。
ガタガタガタガタ!
「どけどけどけーー!」
お、なんだ?馬車が1台割り込んできた。
きらびやかな衣装をした御者が大慌てで門の前に着けて門番に話しかけた。
「門番!先にこちらを済ませろ!ルガー様の商品だ!」
あらやだ。横入り。
「なんだなんだ順番は守れよ」
「こっちはもう30分以上並んでるんだぞ」
「この国じゃそんな勝手が通るのですか?」
「ルガーってルガー伯爵か?」
「何言ってんだいあんた、さっさと後ろに並びなよ」
「なんだと貴様ら!!今ここにある荷物はルガー伯爵様が王宮へ納品される品物だぞ!!荷物が遅れれば王宮に、いや、国王様にご迷惑がかかる!!それでも邪魔をするというのなら今ここで私が代わって処してくれるわ!!文句がある奴は前にでろ!!」
王宮や国王様の単語が出たことで並んでいる一同は口をつぐんだ。
まぁウチの馬鹿2人をのぞいてな。
「御託はいいからさっさとどいて後ろに並べや。そんなにいらん啖呵切られても結局は、後から来た。横入りした。邪魔する奴は切る。言うてるだけやろ?」
一歩前に出たタカシがものすごい形相でその横入りの御者を睨みつける。
「そーだそーだ(棒読み)」
マサルが拳を突き上げて同調している。
何か面白そうだから乗っかってるだけだなあれは。
「きっさま〜〜。たかだか平民がこの私に口を出すとは覚悟はできているのだろうな!!」
いやいや、文句あるやつ出ろって言ったじゃん
タカシが睨みをきかして突っかかる。
「ああん。テメーが一体何様なのかは関係ねーだろーが。俺はただ横入りすんな、後ろに並べっていうてるだけやろうが」
御者さんが腰の剣を抜いた。
ああ、まずいまずい。
それを見た門番が2人タカシとその御者の間に割って入ってきた。
「やめなさい。こんなところで殺し合いをするつもりかね」
門番は割と普通なんだな。国王様とか伯爵様とか出したらハイどうぞじゃないのか。
「すみません門番さん。こういう時って先に通るための通行証とかあったりしないんですか?」
「それはもちろんだ。来賓や王宮に直接届く物なら事前に連絡があり通行証も発行されている。今回はそういう品でないのなら後ろに並んでもらうよ」
「だから言っているだろう!これはルガー様の商品で王宮へ納品されるものなのだ!門番風情が責任をとれるというのだな!!」
タカシが門番の制止をものともせずに御者の目の前に立ちはだかる。
「おいおっさん。子供みたいなこと言ってんじゃねーよ。そういう通行証があるならともかく。無いのに先に通せ。実際その荷物が王宮に送られたものかどうかも正直わからん。ただ周りに迷惑かけてるだけやん」
カタカタカタと剣を握る拳が小刻みに震える。ギリギリと歯を食いしばり興奮してか顔も真っ赤だ。
「横から失礼します」
僕はタカシと御者の間に割り込む。
「私マーシーと申します。ユーロポート領フランの領主の娘リザマイアの婚約者なのてすが、この度国王陛下に謁見をお願いに参りました。もし叶いましたらその際には『本日入国の際にルガー伯爵様から王宮への納品物を運ぶ馬車が通行証無しで横入りをしようとし、さもそれが国王陛下の意向であるように振舞われていましたがお間違えございませんでしょうか?』とお伺いたてて見ようかと思います。ああ、どうぞどうぞお通りください。ささ門番さんはやく手続きしてあげてください。他でお待ちの方にも迷惑になります。さっさと通してしまった方がこのまま揉めるよりも早く済みますし。おっと失礼お名前をお伺いさせていただいてよろしいでしょうか?」
顔が引きつっているな。どうするんだ?
「もうよいわ!覚えていろよ貴様ら!」
と、名前も言わずに最後尾に並ぶのでした。
なら最初っから横入りしようとするなよ。
「すまないね君たち。それにしてもその格好で貴族だったのか君」
門番さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。例え婚約者(仮)だったとしても貴族であるわけではないが。
「やぁありがとう。すごい啖呵だったね」
「胸がスッとしたよ」
「帝都の中で気をつけなよ。ルガー伯爵はいい噂を聞かないからな」
「勇敢な若者がいたもんだ」
列に並ぶ人からは称賛されたが、面倒なフラグたてちまったかな?
「さぁ、次の方どうぞ」
門番さんが手続きを再開し僕らも問題なく帝都へと入ることができた。
ここでもフランの時と同じように石板に手をあてて身元確認をさせられそうになったが冒険者の痣を見せると石板は不要とのことだった。冒険者はそれだけで身元を保証してくれるようだ。めちゃくちゃ簡単に冒険者登録ってできたけど職業自体が盗賊や山賊の場合は冒険者登録すらできないのかもな。
入国料金はちなみに銀貨1枚だった。高いな、街に入るだけで1万円ってことだ。10日滞在で武闘大会の決勝までギリギリいけそうだ。
「ほんだら行こうぜ10歳の婚約者」
「よっしゃ行こうぜ小4の婚約者」
そんなこんなでやっと帝都に到着。




