流れ的には熊との戦闘があると思っていましたが
その後ミクシリアさんと再度共鳴し回復魔法を唱えると今度もミクシリアさんは1発で回復魔法を唱えることができた。
フラッフラの状態で膝をつき本日2度目のリバースタイムに突入していたが数十分したらなんとか起き上がり僕にお礼を言ってきたがまだ目は虚ろだったのでとにかくまだ寝ていろとダルブさんに馬車に放り込まれていた。
「ありがとうマーシー君。ワイバーンの素材も手に入ったし、ウチの魔法使いの戦力増強にもなったし君には頭があがらないな」
ダルブさんが頭を下げて丁寧にお礼を述べてくれた。
「いえ、こちらこそ貴重な時間をありがとうございました。これだけの素材もいただきましたし」
「そうだ、マーシー君。魔法都市リアの魔術大会には参加するのかね?」
「はい、できれば出てみたいと思っています。それより先にウチの2人が武闘大会に出る予定ですが」
「そうか、魔術大会の日までは我々もリアに滞在する予定だから食事をごちそうするよ。ギルドの近くの宿屋にいると思うから一度寄ってみてくれ」
「ありがとうございます。田舎から出てきたばかりで全く知り合いもいないのでそう言っていただけるとありがたいです。その時は魔法都市のことも色々教えてください」
もちろんだよと快くダルブさんに返事をいただいた。まだ日が高いうちに森の手前まで行かないといけないということでダルブさん達は出発する準備を始める。
僕たちもそろそろ先へ行こうと土産にもらったワイバーンの素材を大きな布でくるんでもらう。一応3人とも商人でもないのにアイテムボックスを使うのはどうかと思い見えなくなるところまでは担いでいくつもりだ。
まだ肉とにらめっこをしていたマサルを皿から引き剥がし準備をする。
グラブルさんと「じゃあまたな。リアの料理も旨いんだぞ」と固く握手をかわし、ダルブさんとダープさんにもお礼を言ってまわる。『料理』と『旨い』という言葉にマサルが反応していたがほうっておこう。ほかのメンバーにも挨拶をしたがミクシリアさんはまだ馬車で静養中だったのでそっとしておいた。また数日後には会えるしな。
さてとはやく帝都に向かおう。できれば野宿を回避したいものだ。
草原を帝都方面に駆ける。まだ日は落ちておらず時間は15時をまわったところだ。
あの後一組の馬車とすれ違っただけでほとんど人に出くわすことはなかった。
そしてやっとのことで目的の山が見えてきた。ありがたいことに何千メートル級のってわけではないようでどこにでもありそうな緑茂るゆるやかな斜面が続く数百メートル級の山みたいだ。さほど高さはないが大きな森みたいで左右に大きく広がっている。
ここを大きく迂回すれば帝都に着くのか。
「ワイバーンとは手合わせでけへんかったけど熊とは拳をまじえられるかな?」
さあ、熊とのエンカウント率はどれほどかな?
山道はきっちり整備されているようで道幅2メートルから3メートルくらいの人が歩ける歩道が設けられている。グネグネと曲がりくねった道が頂上手前まで伸びているのがうっすらと見える。
さて、なぜわざわざ道が整備されているのか、ふと考える。
『迂回ルートが驚くほど長距離である』
これが濃厚かな
『山に人が入る機会が多い。良い素材が採れる』
鉱物とか植物系で重宝されるものがあるかも。
『人が住んでいる』
神社仏閣があったりもするか。
まあ考えてても仕方がない。
「さて行くか。夜には帝都に着いてしまいたいな」
なんとか野宿を回避しよう。
辺りに人は居ないので駆け足で山道を進む。
狼、狼、猪。
あまりスーの森とかわらないな。
索敵に引っかかるのは野生の動物ばかり。グリズリーは出てこない。
山道はカーブが多いためあまりスピードは出さずに駆け足で頂上を目指す。獣は無視だ。目の前に出てきたヤツだけ風魔法で真っ二つか、タカシが森へ蹴り返す。マサルは器用にも走りながら両手に焼き鳥を装備している。
「もうすぐ頂上に着いてまうな。熊は?マーシー?」
「ダメだな。俺の索敵の範囲内にはいない。そもそも一角牛並みの熊なんてあちこちに居たら帝都も危険だろうしな」
ありがたいことに人も全然いない。ここまで山道で誰かと出くわすことはなかった。
難なく頂上に着くということろで僕の索敵に人の反応が出る。どうやら頂上に数人いるようだ。
「はいはい減速。頂上に誰かいるからここからはゆっくり行こう。後は下るだけだしな。今は・・・16時半だからなんとか18時19時には帝都に着いてしまいたいな」
山頂はなだらかな岩場になっているようで休憩場所にはもってこいみたいだ。100メートルくらいの平地になっていて超えれば向こう側から今度は下れるようだ
山頂に到着・・・・おおっと。熊が出ない理由はこれか。
冒険者風の男数人の横に積み重ねられた熊の死体。こいつがグリズリーだな。
男手三人で今現在剥ぎ取り中だ。岩に腰かけた髪が肩まで伸びたロン毛のおじさんがそれを黙って見ている。山頂に到着した僕たちに気づいてそのロン毛のおじさんはチラリとこちらを見た。
なにも気にすることはない。横取りするわけでも喧嘩を吹っ掛けるつもりもない僕たちは立ち止まらずそのままその冒険者たちを素通りしようとする。
「ん?どうした?グリズリーが珍しいか?」
ロン毛のおじさんが話かけてきた。僕は横に居たタカシに目をやるとタカシはグリズリーを見て口がポカンと空いている。まぁそういう反応になるか、意気揚々とグリズリーを狩るつもりだったからな。
うおっと、このロン毛のおじさん強いわ。レベルが52で力が290だ。力がゲーリーさんの倍以上だな。
剥ぎ取りしてる若い衆たちもレベル20台で力も素早さも100そこそこ。グリズリーの死体がおよそ10体ほど積まれているところを見ると結構な実力者のようだ、冒険者ランクもCかBかってところかな。
「いえ、この山はグリズリーが出ると聞いてましたがここまで1匹も出なかったんです。その答えが目の前にあって少々お驚いているだけですよ」
今はタカシはシュンとした顔をしている。ちょっと落ち込んでるのかな。
「そうかコイツを狩るつもりだったのか、それは悪いことをしたな。ただこっちも仕事だったんでな」
「いえいえ何も狩ろうだなんて思ってはいなかったですよ」
「それよりもお前たち、この山を西側から登ってきたのならワイバーンが1匹そっちに飛んで行ったはずだが見なかったか?」
「ええ、ワイバーンでしたら『ナイトガード』という冒険者の方々が退治されてましたよ。ちょうど近くで見かけましたもので」
「そうかそれは良かった。別段被害もなかったか」
ロン毛のおじさんはニヒルに笑みを浮かべた。
「それでは僕たちはこれで」
と、僕たちは冒険者たちの横を通り頂上の反対側へと歩を進める。
「待て」
はい、『待て』入りましたー。
「はい?なんでしょうか?」
僕はタカシとマサルを僕の後ろに並べロン毛のおじさんと対峙した。
「一応俺たちは冒険者ランクAの『銀獅子団』っつって帝都を拠点としてるんだわ。それで帝都に何か危険とかがあった場合俺たちも力を貸す立場なんだが」目が割と本気になってきた「お前たち3人帝都に向かってるんだろ?何が目的だ?たった3人でろくな装備も無し。武器も無し。ほとんど手ぶらでグリズリーの出る山を越えようなんて、普通じゃねえよなあ」
おっしゃる通り。そう言われれば確かに怪しい3人組でした。
剥ぎ取りをしていた若い衆も手を止めてこちらを見ている。
僕は一歩前に出てロン毛のおじさんをにらみ返した。
「僕らも冒険者です。(腕をまくり冒険者の印を見せる)装備は確かに貧相かもしれませんが」
僕はアイテムボックスからレイピアを取り出した。一瞬全員が身構えた。
「武器や食べ物、テントなんかも全てアイテムボックスの中です。魔法も使えますので腕には結構自信はあります。田舎から出てきたばかりなので冒険者の心得もまだまだですがフランの街の冒険者ギルドの方によくしてもらい帝都の武闘大会の話を聞いて是非にと足を運ばせていただいた次第です」
「フランの冒険者ギルド?スキンヘッドの旦那か?」
「はい。ゲーリーさんに随分お世話になりまして」
「ああ、そうか。元気にしてたか?あの人は?」
「はい。恐ろしいほどに元気でしたよ。現役引退したって言ってましたがあの街で多分1番強いでしょ、あの人」
「ははは、違ェねえ。あの人まだまだ現役続けりゃよかったのにな」
ゲーリーさんの現役時代を知っているのか、確かに歳は近そうだしな。
「お知り合いなんでしょうか?」
「ああ、あの人はウチの元メンバーだよ。2年前まで一緒に駆けまわっていたのさ。ゲーリーさんの知り合いか・・・。すまなかったな時間をとらせた。帝都はそこからすぐ見えるよ。1時間2時間もあれば下れるはずだ、グリズリーも多分もういないしな」
「いえ、ありがとうございます。それでは失礼します」
そう言って僕は2人を連れて頂上の反対側へと向かった。
ゲーリーさん、あの人Aランクの冒険者だったのか。スゴイ人だったんだな。
「いいんですか?副団長。行かせちゃって」
「ああ、大丈夫だろう。言葉に嘘はなかったからな」
「でもあいつらEランクでしたよね?Eランクでグリズリー狩りって何考えてんですかね?自殺行為ですよ」
「多分勝てるんだろうな、俺に睨まれてアイツ普通にしてたからな。一切ひるまず睨み返してきやがった」
「そりゃあ確かに・・・・普通じゃないっすね」
「まぁ武闘大会に出るんなら嫌でもまた顔を会わすしな」
そら、とっととバラしちまえよ!夜までに帰れなくなっちまうぞ!
そして若い衆達はせっせと剥ぎ取りに戻っていった。




