エリクサーって個人的に最後の最後まで使わなかったりする
光を放つエルムについて数分歩いてきたが、前を見ても森。左右を見ても森。上を見ても森。しかもどれもこれも樹齢何千年だとかいうレベルだ。デカいし佇まいが違う。
ここでエルムを見失ったら一生出れないような気がする。
一応、人が通れるほどの幅2メートルくらい。左右も上も木と草で覆われいるためトンネルを歩いてるみたいだ。
「エルム。この道は元々誰が通るための道なんだ?」
先を行く光るエルムはこちらを見てスーッと寄ってくると僕の頭に乗っかった。
「ここに道なんてそもそもないのよ。あなた達に分かりやすいように見えてるだけなんだから」
道であって道であらず?わけわからん。
「まぁそうねぇ。今こうやって進んでるうちは森がわざわざ道を開けてくれてるようなものかしら。次来た時はこんな道なんてなくなってるわよ」
エルムと一緒だからの高待遇ってことか。普通じゃこの森抜けるのは苦労しそうだな。
あ、また僕の魔力吸ってやがる。
「そんなに俺の魔力はおいしいのか?」
「これはヤバいわね。たまーにこの森に迷い込んだ人間の魔力をいただいたりしてるけどここまで上質で栄養のある魔力は初めて食べたわ」
栄養って、、、なんか自分が食べ物に見られてるみたいでやな感じだな。
「それはどうやったら食べれる?」
オイ、食いついてくるな。この食いしん坊が。
「ははは、人間には無理でしょ。私達は人間みたいに何か食べて栄養をとるんじゃなくて魔力を吸収して栄養にしてるのよ。普段はこの森の木々から吸収するのよ」
「ならそこの2人からも摂取しろよ。俺の魔力も無限じゃないぞ」
「駄目よ。あんまり美味しそうじゃないし。それに魔力少なそうだから吸ったらすぐに死んじゃいそうだし」
オイ待て
「魔力を吸いすぎると俺は死んでしまうのか?」
「大丈夫でしょ?全然減ってる感じがしないもの」
確かに僕のMPは減少はしている気がするが微々たるものだ。何時間吸い続けても0にはならないんじゃないだろうか。
「そもそも魔力って0になったら死ぬものなのか?」
「言葉に語弊があったわね。『死んじゃうこともある』っていうのが正確かしら。ただ、昏睡状態とかにはなるわね。戦士や格闘家は影響少ないけれど魔法使いは危険かも」
「ということは俺は魔力が0になれば危険ってことだな」
MP0か、僕のMPは現状2000を超えている。今のところどの魔法を使っても2とか3くらいしか減らないし、1分もしないうちにすぐ元通りに回復するためMP枯渇の概念は今現在では無縁だ。まぁ基本値が高けりゃ自然回復量も早いってことか。高レベルの魔法はもっとMPを消費するとは思うが多分災害レベルの被害を引き起こすことになると予想できるためどれもまだ試していない。今後使用することがあるのだろうか。
なんにせよMPは0まで使いきらないようにということか。
歩くスピードはゆっくり。
このままなら森を抜けるのにどれくらいかかるのだろう。
「エルム、このままゆっくり歩いてちゃ森を抜けるのに何日もかかるんじゃないのか?」
「んん、大丈夫よ。もう着くから」
もう着く?まだ歩き始めて30分かそこらしかたってないぞ
すると木々で作られた道の先から光が射し込んでいるのが目に入った。
久々に見る太陽の光だ。
その光の差し込む場所へと歩を進めるとその光が徐々に広がり僕らを包み込む。
光を抜けた先は絶壁だった。
「なんやこれ、すげーな」
タカシの口から思わずこぼれたセリフに僕も共感した。
到着した場所は簡単に言うと崖。数メートルの岩場だけで左右にずっと続いている。随分と高い位置に出たらしくこの景色を見下ろしている形だ。
崖のすぐ下はどうやら川が流れているようだが先に見えるのは地平線まで見えそうなただっ広い草原だった。
左側の遠方に小さく見える山々。
右側も地平線まで続く草原。
前方に見える地平線まで続く草原。
こう言ってしまってもいいかもしれない。
ホントに何もない。
だからこそ少し感動したかもしれない。都会育ちの僕にとってこれだけ何もない空間は初見だったのだから。
この世界に来た時の草原もそうだったのだろうが、この見下ろす感覚がまた一段と僕の心を揺さぶったようだ。
「はーい、到着よー。スーの森はここまでだから後は真っ直ぐ行けば帝都に着くわ」
真っ直ぐっつっても建物の気配もさらさら無いくらい草原だけどな。
それよりもこの崖をまずどうやって攻略するかだよな。
「これはちょっと飛び降りるんは勇気がいるなぁ」
「俺の体力ならダメージなしでいけるか?」
無理だマサル。多分死ぬ。
「まぁ左右に道があるんだから多少遠回りになっても降りれる所を探そう。かなりショートカットしたから急いでないしな」
僕なら風に乗ればなんとかなると思うが人の命を預かるのは勘弁してもらおう。
ゆっくりでいいよゆっくり行こうよ。
「それよりもエルム。移動時間が異様に短かったがどういうことだ?地図でスーの森を見た感じじゃあスーの村から魔法都市までの距離よりも長いようだったぞ」
「そんなの、何日も歩いてらんないじゃない」
確かにそうですが。
「まさか、、、、ワープ使ったんか?」
はいはいワープね。あながち間違ってはないのかね。
「この森の中じゃあ結構色々勝手が効くのよ。わたし妖精の長ですから」
まぁ、あれだな。ファンタジーだな。ワープでもなんでも来いだ。
「マーシー、マーシー。景色もいいし飯にしようぜ」
マサル、さっき牛の丸焼き食べてたじゃないか。
「いや、どっちかって言うとこっちやな」
タカシは両手に瓶ビールを装備した。
そういえば町を出る時にタカシには酒類を買いに行かせたが今のコイツのアイテム欄はどうなっているんだろう?確認するのが怖い。
マサルは肉料理、タカシは酒がアイテムボックスにひしめきあってるんだろうな。
「まぁ少しくらいはいいか。確かに景色も綺麗だしな。マサル、酒のつまみになるようなものだけ少し出してくれ」
マサルは焼き鳥と干し肉のようなものを皿ごと僕たちの前に並べた。
地べたに座り込んでタカシから瓶ビールを1本受け取る。ちなみに栓はタカシが指であけている。力999オーバーの見せ所だ。
「エルムは酒は呑めるのか?」
「まさか、私はこっちでいいわよ」
と、僕の頭に乗っかった。僕の魔力で乾杯ね。
おい、タカシ。何故今そのホイッスルを咥えているんだ?
途端目の前の空間がボンヤリと歪んだと思ったらそこから馬鹿でかい獣が現れた。
もちろんヤマトです。
「バカか!!飯食うだけでわざわざヤマトを呼び出すな!!何考えてんだ!!」
「はははは。何事かと思ったぞ。無事森を抜けたようだな」
いや、怒っていいところじゃないか。
「ええやんええやん。ヤマトも呑もうや」
「あんた犬神をお酒呑むのに呼び出すって正気じゃないわね」
すみませんウチのはいつもこんな感じなんです。
「マーフィーマーフィー、まぁまぁいいんじゃなふぃですか。町に着いたら呼ふぇないんだし」
マサルはもう食ってるし。
「はいはい、町では呼ぶなよ。あとできれば呼ぶ前に俺に一言言え」
「はっはっはっ、じゃあ少しだけいただこうか。さくらが心配だから長居はできんがな」
気さくに笑う犬の図。側から見ると結構怖いものがあったりする。
そっか、さくらは呼べないのか。
それよりもさっき空間が歪んだよな。異空間的な場所を通って来たのか?
「よっしゃ、じゃあ乾杯や!ヤマトも吞め呑め!」
タカシはヤマトの口に左手の瓶ビールを突っ込み右手の瓶ビールで僕たちと乾杯。僕もビールに口をつけ、マサルの出した焼き鳥を少し頬張る。
エルムは僕の頭上で魔力吸収中。
「ヤマト、さっきここに現れた時に空間が歪んで見えたんだが、魔法か何かなのか?」
「ああ、あれか。マジックアイテムだから魔法の類なのだろうな。ちなみにこの笛を作ったのはそこのエルムだ」
「え?作り方教えてくれエルム」
マジックアイテム、、、、いい響きだ。
「無理に決まってるでしょ。そもそも素材が集まらないわよ。魔力の篭ったクリスタルがあれば火の石とか水の石くらいなら魔法使いなら作れると思うけどその笛は空間魔法が込められてるから」
「空間魔法って、、、ワープとかできたりする?」
空間魔法、空間魔法、ときめく。
「そうね、できるわね」
「教えてくれ。いくらでも魔力食べてくれて構わないから」
「無理よ。あたし使えないもん」
「なんだよ、じゃあどうやって笛作ったんだよ」
「昔使える人間がいたのよ。500年くらい前の話だけどね。今はほとんどいないんじゃないかしら?当時から珍しい魔法だったし」
500年って、、、その人間が生きていないのは間違いないが。それよりエルムが500年以上生きてるとは、、。
「お、エルム。今何歳なん?結構なおばあちゃんなん?」
タカシが自ら地雷を踏みにいった。
「殺すわよ」
うむ、頭上から殺気を感じる。タカシめデリカシーのない発言をしやがる。
「マジックアイテムを作るには必要な魔法とそれなりに素材が必要ってことか?」
「魔法が使えれば作れるってわけじゃないけどね。クリスタルに魔法込めるだけのマジックアイテムは初歩中の初歩。素材と術者が噛み合えば水中で生活できる石や空を飛ぶことができる羽とかなんでもできちゃうらしいし。まぁここ数百年でそういったマジックアイテムが出回ってるとは聞かないわね」
マジックアイテムかぁ。夢があるよなー。
「ちなみに犬神の治癒の血はその素材の中でも一級品よ」
そういやなんか不老不死の薬の素材になるとか聞いたな。それもマジックアイテムだと考えると治癒の血だけあってもそれに見合った術者が必要なんだろうな。
「うむ、そうだな。マーシー、ポーションの空瓶はまだいくつかあるか?」
タカシに抱きつかれているヤマトが顔だけこちらに向けている。
「いくつかあるな」
ガリッ
するとヤマトは自らの舌を自分の牙で嚙みつけた。
痛い。痛いよ。
「早くしろ。すぐに傷は塞がるぞ」
あ、くれるのね。
アイテムボックスからポーションの瓶2つと解毒薬の瓶を取り出して中身をすてて軽く水で洗う。そしてすぐにヤマトの舌から流れる血を入れていく。うむ、銀貨2枚を僕は今捨てたことになる。
ポーションさん解毒薬さんごめんなさい。けれど治癒の血には敵わないよね。
マーシーは治癒の血を3つ手に入れた。
「あなた今ポーション捨てたわね。なんてもったいない」
「大丈夫大丈夫。俺ヒール使えるから」
さて、この治癒の血の効果と価値はいかほどなのか?Aランクのクエストになるくらいだから相当なのではなかろうか?金貨1枚や2枚じゃきかないだろうな。多分数十枚。これ1つで家が建つな。
「なんかマーボの目が『金』になってるで」
「不老不死の薬の素材にもなるのならそれなりに高価なんだろうな。飲んだら美味いのかな?でも基本は血液だしなぁ」
マサルが本気で悩んだ顔をしている。
「勝手に飲むなよマサル」
「治癒の血はそのまま飲んでも対象にかけても回復薬や治療薬としては超一級品よ。売ってもいいけど大事にとっておくことをお勧めするわ」
流石に売ったりはしねーな。特にお金には困ってないし。まぁエリクサーだなエリクサー。HP、MP完全回復みたいな効果があるんだろう。
そして僕はRPGでエリクサーは最後の最後まで残しておいて結果使わないタイプだったりする。
ヤマトの舌の傷は早々に塞がっていた。やはり治りが早い。ヤマトこそは不老不死なんじゃないだろうか?
だって神だしな。山神。




