間違えるのにも程がある
山道になってるところを歩いていると大きな木と綺麗に削られた石。その石に腰をかけて村を見下ろしている黒髪の綺麗な少女がいる。
「誰が声をかけるんですか?」
「お前たちが行かないんなら俺がいこうか?」
「いやいや、マーシーが行くんやったら俺が行くわ」
「いやいやそれでしたら俺が行きますよ」
「「どうぞどうぞ」」
「なんなんですかそのくだりは?」
僕とタカシは自然に木の影に隠れ、マサルを追い出すように背中を押す。
マサルはチラッチラッとこちらを見ながら不安そうではあったが覚悟を決めたのか大きく深呼吸をすると一直線にかすみちゃんの方へと歩いて行った。
それにしても絵になる少女だな。石場に座り真っ白な一枚の大きな布のようなワンピース姿で長い真っ黒な髪が風になびいている。
かすみちゃんがマサルに気づいた。マサルを見てキョトンとした表情をしている。
「いやぁ、こんな良い場所があるなんてこの村はのどかでいい所ですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」キョトンとマサルを見るかすみちゃん。
「いつも休憩の時はここにいらっしゃるんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」軽くこくりと頷くかすみちゃん。
「草の匂いって良いですよね、心が落ち着くといいますか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」少し首をかしげるかすみちゃん。
「この村の食べ物は美味しいものばかりですよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」こくりこくりと2度うなずくかすみちゃん。
「ご飯も美味しいしお酒も美味しいしこの村でぜひとも永住したいと思いましたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」にこりと笑顔を見せるかすみちゃん。
「・・・・・・・・・・・・・強い男性はお好きですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」首をかしげるかすみちゃん。
「自分はだれにも負けない自信があるんですよ。鍛え上げたこの筋肉がありますから」腕をむき出しにグッと見せつけるマサル。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」少し困った顔のかすみちゃん。
「何か困っていることがあれば俺に言ってくださいね。かすみちゃんのためなら火の中水の中」1歩かすみちゃんに歩み寄るマサル。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」少し後ずさるかすみちゃん。
「そうだ、お腹空いていませんか?かすみちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」首を軽く横に振るかすみちゃん。
「ちょうどいいもの持ってるんですよ」突然マサルの右手には人を撲殺できそうな金属バット。
「・・・・・!!!!!」2歩後ずさるかすみちゃん。
「あ、間違え・・・・」
「ドロップキーーーーーーック!!」
綺麗に決まったタカシのドロップキックで吹っ飛ぶマサル。
「お前何しよーとしたんや!!いきなりそんなもん出して!!」
ズザザザッと地面を転ぶマサル。
「違っ!間違えただけですよ!焼き鳥を出そうと」
「かすみちゃんには指一本触れさせへんで!」
「本当に間違えただけなんですよ!信じてください!」
タカシはかすみちゃんの前にそして僕はゆっくりと横からかすみちゃんに寄っていった。
「焼き鳥とそのどでかい鉄の塊をどうやったら間違えんねん!」
「いやいやタカシなら分かるでしょう!アイテムボックスから選ぶときにたまたま横並びで横のを選んだだけじゃないですか!」
あの場面で焼き鳥と金属バットを間違えるとは天才だな、マサル。
かすみちゃんは目をキョロキョロとさせて僕、タカシ、マサルを見ている。
「すみませんお騒がせしました」僕はかすみちゃんの横に並んで座った「俺はこことは別の国で冒険者をやっているマーシー」
「俺はタカシや」
マサルを睨んだまま後ろむきでタカシは名乗る。
「俺はマサルです」
さらに向こうからマサルも名乗る。
「マサル、お前名前も名乗らずにあんな臭いセリフ吐いてかすみちゃんにお近づきになろうとしてたのか?この不審人物め」
「くっ!そういう魂胆だったんですね!初めから俺をはめてこういう状況をつくるつもりだったんですね!」
「馬鹿言うなよ、お前が普通に話かけていればこんなことにならないだろうが」
「ほんだらマサルはその危険な鉄の塊をまずしまおうか、かすみちゃんが怖がってるやんけ」
マサルは手に握っていた金属バットを消した。
「マサルはそこに正座な」
「・・・・・・・・・・はい」
マサルはおとなしく地べたに膝をついた。
「お騒がせしました。彼も悪気があったわけではないんですよ。ちょっとあなたとお近づきになりたいと思っていただけなんです」
「そうそうちょっと間違うて10倍以上デカイ焼き鳥出してもうただけなんや」
「もうあれは焼き鳥じゃなかったけどな、ははは」
「ごめんなさい・・・・・」
マサルは意気消沈と頭を下げた。
クスッと笑顔を見せたかすみちゃん。
「今この村の人たちに色々話を聞いてまわっているところでね。少しだけお話しよろしいですか?」
ゆーーっくりとかすみちゃんは頭を上下させた。
「確か、かすみちゃんだったね。君はこの村にずっと居るのかな?」
こくりと頷くかすみちゃん。
「お父さんの料理は好き?」
こくりと頷くかすみちゃん。
「ここはお気に入りの場所なのかな?」
こくりこくりと2度頷くかすみちゃん。
「いつもここには1人で来るの?」
こくりと頷く。
「友達とここに来ることはある?」
ゆーーっくりと頷くかすみちゃん。
「それはけんたくんなんか?」
タカシの問いにタカシを見ながらこくりと頷く。
「まさかけんたくんのことが好きなんか?」
おいおいタカシ・・・・・。
特に無表情で左右に首を振るかすみちゃん。
「残念やな、けんたくん」
やめてやれよタカシ。
言葉は喋れない。
しかし状態異常は特にない。
病も呪いも何もかかってはいない。
少し特徴的なのは知力・・・・・魔力が少し高く150ほどあるくらいか。他の出会った人達はせいぜい20や30くらいだった。
けれど魔力は高いが魔法を覚えているわけでもない。
困ったときの万能アイテムを出すか。
「かすみちゃん、妖精って知ってるかい?」
ゆーーっくりと首を傾けて、そして左右に首を振った。
エルム
「はいはーーい」
はっ、とした顔で目の前に現れたエルムを凝視する。
「あら、かわいい子。こんにちは。私はエルムよ」
『すまないなエルム、この子は声が出せないみたいなんだ』
エルムはふーーんといった顔でゆっくりとかすみちゃんの周りを回った。
『喋れない理由は分かるか?』
『特に体に異常はないわね。何か精神的理由かしら』
やっぱりそうだよな。
「かすみちゃん、この小さいのは妖精のエルムだ。人の言葉を喋るし食事もするし、魔法だって使えるんだよ。俺の友達だ」
ぽかーんと口を開けてゆっくりと手をエルムに近づける。
エルムはその手に触れた。
「よろしくねかすみちゃん。このマーシーには不用意に近づいちゃダメよ」
「おい、何言ってる」
「せやでかすみちゃん。こいつはよしこちゃんの耳をフニフニした前科があんねんで」
「誠心誠意謝ってよしおさんには許してもらったから俺は無罪だ」
「マーシーに近づかれたら耳出してたらあかんで。注意しーや」
僕の方を見て両手で両耳を塞いだかすみちゃん。
ガーーン
「いやいや俺は悪くないよ。ちょっと犬耳が気になっただけじゃん。みんなもかわいい犬が居たら毛並みを堪能して耳くらい触るじゃん。ちょっとだけ触れただけでこれかよ。まるで変質者扱いなんだもんな」
僕は三角座りで地面を見つめた。
「何よ、マサルもマーシーも元気ないわね」
「ごめんなかすみちゃん、マサルもマーシーも悪気はないんやで。よく勘違いされるだけなんや」
「お前が勘違いさせているんだからな」
僕はタカシを睨んだ。
くすくすくすくすと笑い出すかすみちゃん。
白い歯を見せて声は出さずにそのかわいらしい笑顔を見せる。
「ほら、やっぱり声は出せんでも話しはできるやん。こんなかわいい笑顔見せてもろて嬉しいわ」
急に恥ずかしくなったのか、かすみちゃんは少し顔を赤くして口を閉じてしまった。
そしてはっとしたように立ち上がり頭を深々と下げた。
「なんや、もう行ってまうの?」
コクコクと頷くかすみちゃん。
「ありがとうかすみちゃん。またお店に行かせてもらうね。ほらマサル、もう行っちゃうってよ」
「ほんとうにごめんなさい」
マサルは反省した表情で再度頭を下げた。
くすくすと少しの笑顔を見せたかすみちゃんはマサルに近寄りマサルの両手を取って立たせるとマサルの汚れていた膝を払った。
そして笑顔で皆に手を振るとその場から去っていく。
「天使だ」
マサルは放心状態だ。
「めちゃめちゃええ子やん」
「そうだな。少なくとも俺たちは近寄っちゃダメな気がするな」
エルムはすーーっと寄って来ると僕の頭に乗っかった。
「ああーー、久々。なんなのマーシー、魔王の娘に秦の王女様の次はあの子に手を出すの?」
「ふざけんなよこのバカ妖精。強制送還するぞ」
「あの天使はマーシーには指1本触れさせません」
「その天使に金属バット振りかぶったバカがいるけどな」
マサルは払ってもらった膝を再び地面についてガックリした。
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