新しい村に着いたらとりあえず全員に話しかける精神
ガラガラガラ
と、居酒屋の扉が開いた。
「お、けんたくんや」
「けんたくんじゃないですか。ここ!!ここ空いてますよ!!」
マサルは他の席も空いているのに4人テーブルの僕の横を指さした。
「どうぞ」
仕方なく僕も軽く頭を下げて席を空けた。
「今日も来てたのかい?一緒でもいいのかな?」
「ええやんええやん一緒に呑もーや」
そのけんたくんは僕の横に座ってマスターにお酒を頼んだ。
「昨日はこの2人が失礼じゃなかったですか?」
「いえ、楽しくお酒をご一緒させていただきましたよ」
「せや、けんたくん明日なんかお祭りがあるって聞いたんやけど?」
「お祭り?ああ『巫女降ろし』だね。誰に聞いたんだい?」
「巫女様っていうおばあさんに明日は呑み放題食べ放題やからゆっくりしていけってさ。ところで『巫女降ろし』ってなんなん?巫女様が降りてくんの?」
タカシの自然にこういうことを聞き出す能力を僕は尊敬しています。
「まぁそうだね。この村の昔からの行事というか、習慣というか、政というのか」
「それはあの頂上の神社でするんですか?」
「宴会はあそこではしないよ。このあたりの外にテーブルを並べてみんなで呑んだり食べたりするんだよ」
「外で立食。いいですね。マーシー、イカが大量に余ってましたよねおすそ分けしましょう」
「イカを出すのは構わないが。じゃああの神社は関係ないんですか?」
「いや、あそこから巫女様が降りてくるんだよ」
「へー、そんで『巫女降ろし』なんか。そのまんまやな」
「こういう催し事には何かしら意味があるものですよね?例えば何かを祀っているとか、豊作祈願とか?『巫女降ろし』には一体どういう意味が?」
「うーん、これは村のことだからね。外の人達は楽しく呑み食いしてくれればいいよ。そういう参加だけで十分だよ」
何かある・・・・か。
「そうそう難しい話はいいですよ。ところでけんたくん、かすみちゃんのことをもう少し詳しく聞きたいんですが」
「そうそう、ここのマスターの子なん?あのマスターから生まれて来たとは到底思われへんねんけど。いや、奥さんがめっちゃべっぴんさんとかか」
「ははは、間違いなくここの子だよかすみちゃんは。まぁ、お母さんが美人だったのは合ってるかな」
「そっか、お母さん似やねんな。マスターに似んでよかったわ」
美人・・・・・・・だった・・・・・・・・か。
「けんたくんの力でなんとかかすみちゃんと一緒にお酒を呑むことは叶わないですか?」
「そりゃええわ!かすみちゃん呼ぼうや。一緒にちょっとだけでも話でけへんの?」
「あまり他の人と関わろうとしないからね。僕が頼んでも無理だよきっと」
「うーーん、あの笑顔を見ながらお酒を呑みたいところだったんですが」
「そっか難しいか・・・・・しゃーないか、けんたくんこの村で他になんか楽しいこととかないん?」
「そうだなあ、今は山一面緑色だけれど季節によっては緑の葉が黄色や赤色になったり、山頂付近には桜っていう木がピンク色の花を咲かせて見ごたえあるんだけれどね」
「桜かーー。桜ってことは花見ができるってことやん!桜見ながらのお酒もええよなー」
「へー、桜を知ってるのかい?外から来る人は知らない人が多いんだけれど」
「花見もいいですよね。ブルーシート敷いて地べたで酒並べるのもいいし、バーベキューっていうのもありですしね」
なぜかずっと白米をつまみながら米酒を呑み続ける男4人。
けんたくんから得られる情報もとりあえずはこの程度かな。
「よし、お前たちそろそろ一旦おいとまするぞ」
「ええ!?まだいけるって!」
「そうですよ、ここで金を落とさないでどこで金を落とすんですか」
「どうせ夜も呑むんだから休憩はさんで一度リセットしたほうが夜に呑む酒がうまくなるだろ?」
「うーーん、そうかもしれんけど」
『ロープレでは定番の情報収集をしたいんだよ。ちなみに俺は今からかすみちゃんに会いにいくつもりだがお前たちは別にここで呑み続けてくれても構わないぞ』
「そうですね、呑み続けていたら体にも悪いですしね。料理を作り続けるマスターにも休憩が必要ですね」
「せやな。またいつでも来れるしな。一旦外の空気でも吸いにいこか」
「マスターお勘定。4人分まとめてでお願いします」
「いいよいいよ僕の分は自分で払うよ」
「ありがとうけんたくん。でも誘ったのはこっちだったからね、今日だけは払わせてもらうよ。また一緒に呑もう」
僕はまとめて支払いを済ませ店を出た。
「そんじゃなけんたくん、また明日には会えるんやろ?」
「そうだねもちろん明日には僕も参加するからね」
けんたくんはそのまま山を下っていく。
僕達は逆方向だ。
「で、かすみちゃんに会いに行くんやな?」
「ああ、この先の崖になってるところに1人でいるみたいだ。怖がらせるなよ」
「まさか。紳士的な態度で接してみせますよ」
「でもかすみちゃんは話されへんねんやろ?あれか?ゼスチャー的なヤツか?」
「喋れない女の子の目の前で反復横跳びなんてするんじゃないぞ」
「するわけないじゃないですか。なんなんですか?その変態行為は?」
「すごいなマサル。よくもそれだけの真顔でとぼけることができるもんだな」
「そーいやホウリュウ王子の連れの女の子の前でなんかやっとったな?鎖にグルグル巻きにされた女の子の前でいやらしい顔しながら」
「何を言っているのですか?あれはただの勝利の舞いですよ」
「勝利の舞いでもなんでもええねんけど、マーシーどうなん?声の出されへん子相手にどうすんの?」
「なんとか関わりは持っておくべきだろう?こんな違和感ばかりの村で声の出せない女の子なんて何もないなんてことはなさそうだしな。決して下心があるわけじゃないぞ」
「分かりました。好感度を上げにいくということですね?残念ながらこの村に攻略対象はまだ1人しかいないわけですしね。あ、マーシーはもうすでによしこちゃんを堕としたんでしたね」
「なんだマサル、指の2~3本落としてヒールで生えてくるか試してみたいのか?」
「怖いんですよ!マーシーは脅し方が怖いんですよ!」
「はっはっはっは、ホンマに生えるんかは興味あるけどな」
「それならタカシの指の方がいいかと」
「あかんて、ジャンケンでチョキ出されへんようになるやん」
「大丈夫ですよ。小指と親指で試せばいいだけですよ」
「指3本なるやん。それはチョキに見えるけどチョキじゃないもんやでそれは」
「おい、もう見えてくるぞ。少しでいいからお近づきになれれば十分だ。なんでもいいからちょっとした情報が得られればいいんだよ。情報収集は大事だ。できれば関わった人間全員に話を聞いてまわりたいからな。そしてその中に必ず重要人物がいる。ゲームの世界なら絶対にそうだ」
「マーシーが言ってることは分かりますよ。新しい村に着いたらとにかくまず始めに全員と会話をする精神ですね。タカシはスルーして一直線で王様に会いに行きそうですが」
山道になってるところを歩いていると大きな木と綺麗に削られた石。その石に腰をかけて村を見下ろしている黒髪の綺麗な少女がいた。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!




