そういえばゲームだったよな
露天風呂から出た僕達は山風に吹かれながら村を見下ろしていた。
「なぁなぁマーシー」
「なんだよタカシ」
「あの上の方やねんけど」
僕は村とは逆の山頂の方を見上げた。何か見えるな、建物かな?
「多分神社の社かなんかやわ」
「そう言われればそう見えるな。本当にタカシは目がいいな」
「山頂にある神社ですか。何を祀っているんでしょうか?」
「よしお前たち、ちょっと困った話をしていいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・マーシーの困った話はちょっと勘弁願いたいところなのですが」
「ちょっとって言うてるけどそれはほんまにちょっとで済むんか?」
「もうこれ以上俺1人で抱えておくのは限界なんだよ」
「なんなんですかそのセリフは?間違いなく厄介事じゃないですか」
「ほんまにマーシーはトラブルメーカーやねんから」
「まず1つ」
「あ、話し始めましたよ」
「話してええか聞いてきたのに俺らの回答聞かんやん」
「あそこの社はなぜか索敵で調べられない。これはお前たちも同じだろ?」
「そもそもあそこまで俺の索敵は届きませんね」
「俺もやわ」
「そうか、どっちにしろあの社付近は索敵で調べられないから何かがあるということだ。秦の国の月の塔の結界と同じ感じだな」
「あそこには大事な何かがあるということですね」
「良いもんか悪いもんかは分からへんけど」
「そうだな。良いか悪いかは別だな。次にあの巫女様のことなんだが」
「巫女のばあちゃんか、あのおばあちゃんがなんなん?実はおじいちゃんとか?」
「ばあさんだろうがじいさんだろうが興味はないのですが」
「あの巫女様何歳だと思う?」
「・・・・・・・・・・・やめてくださいよ。意味深じゃないですか」
「確かに嫌な質問やな・・・・・・・80くらい?」
「それじゃおれは85歳でファイナルアンサー」
「あのばあさん41歳な」
「うっわーーー」
「いたたたたたた」
「あの腰の丸まったこじんまりとした風格あるおばあさんが41歳って見えるわけあらへんやん」
「それは確かに困った話ですね」
「村を囲むように張られた結界。山頂の社は索敵できないほどの強力な結界。41歳のおばあさん。地中奥深くにいる何者か。これだけのフラグを立ててくるなんてコレで何もない方がおかしいよな」
「どうしましょうか?何も聞かなかったことにして京に向かいましょうか?」
「と、いうことはここでもひと悶着あるってことなんか?」
「ゲームとは元来そういうものだろうな。新しい土地に来れば新しい謎や新しい敵、新しいアクシデントに遭遇するものだからな」
「それでも41歳のおばあちゃんでしたり前もって明らか何かあるのは珍しいんじゃないでしょうか」
「それを言うたら魔王もそうやし秦の反乱もそうやったんちゃうの?」
「まぁ巻き込まれるべくして巻き込まれていることは否定はしないが、やっぱりリアルでロープレなんてするもんじゃないよな。ほら、噂をすれば」
今すぐ京に向かう?
YES or NO
「久々ですね」
「ゲームやっていうのをすっかり忘れてたわ」
「今回ばかりはどっちでもいい気がするな、俺は」
「俺は別に京に行っても構わないですよ。京にも美味しいご飯とお酒がある可能性は高いと思いますし」
「俺はどっちでもええかな?なんやかんやどこに行っても何かあったわけやから今回も同じなんちゃうの?」
「選択肢の先には何かしらのイベントがあるのは間違いないからここに留まったとしても何かあるんだろうな。毎回目的に合わせて選択してきたが今回は首を突っ込むためにここに残るかこのイベントを回避するか聞かれているような気がしないこともない」
「ほんだらここでも巻き込まれて次に京でも何かに巻き込まれたらええんちゃう?どうせ何処行ってもなんかありそうやん」
「タカシの言うのもそのとおりなんでしょうね。どうせ巻き込まれるならこっちから行く精神ですね」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・定石通り順番に攻略していくか」
「ほんだらここに残るってことでええの?」
「はぁ、そうですね。41歳のおばあさんの謎ですか、あまりテンション上がらないですね」
「まぁ見ちまったものはしょうがないな。このまま放っておいても後々気になりそうだしな」
NO
「それじゃこのままこの村のイベントを進めるか」
「それじゃとりあえずかすみちゃんに会いに行きましょう」
「せやな、一杯やりにいこか」
「朝に露天風呂で一杯。昼に居酒屋で一杯。そして夜は夜でまた呑むつもりだなお前たち」
「ただ待っていても仕方がないですからね。待つ時間を有効に使うべきです」
「それじゃお前たちの言う美人ちゃんに会いに行くとするか」
「絶対にマーシーもツボですよ」
「確かにアレはマーシーが好きそうやわ」
「随分ハードル上げてくるな、オイ」
僕達はまだまだ日は高かったが昨日タカシとマサルの入り浸っていた店へと向かった。
ガラガラガラガラ
「おっちゃん今日も一杯たのむわ」
「こんにちはマスター、こんな時間から開いているなんてこの店は最高ですか?」
昼間から良い匂いを漂わせた店内に入りテーブルに僕達は座る。
すると奥からエプロン姿の黒髪の女性がおしぼりを持って近づいて来た。
「お、かすみちゃんこんにちは。ここのお酒とご飯が美味すぎたから今日は客1人紹介で連れてきたで」
「かすみちゃんに会えただけでこの店に来た甲斐がありますよ」
おっと、こいつは確かに美人だ。白い肌に真っ黒の髪、パッチリした目にみずみずしい唇。和服の似合いそうな日本美人だ。
ガンガンに上げたハードルを軽く超えてきやがった。
「昨日はこの2人に失礼はなかったですか?」
かすみちゃんはにっこりと笑って奥へと戻って行った。
「ね!ね!ね!どうですか!?言った通りでしょう!?ミレーヌさんやメロン師匠とはまた違ったザ・大和撫子でしょう!!」
「確かに美人だな。お前たちが絶賛するのも頷けたよ」
「せやろ?よっしゃ、とりあえず酒や。おっちゃん、米酒3本頼むわ」
「昨日食べたおにぎりをください!白米最高!」
「いきなり白飯でいいのかマサル?」
「食べてから言ってください。ここのおにぎりは絶品なんですよ。そして横に添えられた塩こんぶが絶妙なんです」
「そうか・・・・・まぁ食うか」
お酒とおにぎりはかすみちゃんではなくマスターが持ってきた。
「かんぱーい」
ゴクリ
「うっまーーーー!!」
「ぷっはーー!やっぱええな!風呂上がりの一杯は最高やな!」
「確かに美味いな。そして呑みやすい。宿で呑んだのも露天風呂で呑んだのも美味かったがまた違った米酒だな」
そして僕はほかほかと湯気の立ち昇るおにぎりに口をつけた
「うっま」
「せやろ、ここの白飯めっちゃいけんねん」
「マーシーマーシー!今です!この塩こんぶを口へ!」
僕はマサルに差し出された塩こんぶを口へ運ぶ。
「天才か」
「そうなんですよ!ここのおにぎりはもう天才としか言いようがないんですよ!歯ざわり良し舌ざわり良し!甘みもあって口の中でふわっと旨味が広がるんですよ!そしてこの塩こんぶの塩っ気が油断した頬にスパンと右フックのように良い刺激となって白飯の美味しさを数倍に引き上げるんですよ!!」
「そんな食レポはいらないが、間違いなく今まで食べて来たおにぎりでダントツ1位だ」
お酒におにぎりなんてどうかと思っていたが別々で最高のものを出されると合う合わないではなくて両方美味いで完結するもんだな。
僕達は出されたお酒とおにぎりに舌鼓。
ここ以外で米が出ても物足りなくなってしまいそうだ。
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