大自然のど真ん中で直立したくなる
宿を出て少し歩けば大きな屋敷はすぐに見えてきた。ここに巫女様がいるらしい。
「さ、入ってみるか」
「すみませーーん!」
ガラガラ、と開いた扉から出て来たのは綺麗な着物の女性。
「はい、どちらさまで・・・・、ああ、よしこちゃんを助けていただいた冒険者の方ですね。どうぞお入りください。巫女様は奥にいらっしゃいますので」
僕達は案内されて廊下を歩いた。
靴を脱ぐスタイル。
懐かしくていい。
着物の女性に案内されて奥の大きな扉、いや、大きな襖の前までくる。
案内してくれた女性は膝をついて
「巫女様。昨日よしこちゃんを助けていただいた冒険者の方がいらっしゃいました」
スー――ッと襖が開かれる。
僕達は3人揃って部屋に入ると目の前には歳を重ねて顔中にしわの入ったおばあさんが出迎えてくれた。
『そんなまさか!巫女がこんなおばあちゃんだなんて!!認めませんよ!俺は認めませんよ!!』
『わざわざ念話で目の前の人に聞こえないようにしたのは大人になったな、マサル』
「こんにちは。あなたが巫女様でしょうか?」
僕は目の前のおばあさんに声をかけた。
「ああ、そうだよ。よしこが世話になったみたいだね。礼を言おう」
おばあさんは1人掛けのソファに座りながら軽く頭を下げた。
!?
まいったな。実にまずいもんを見ちまった。
この村はやっぱりあまりいい感じがしないんだよ。
タカシが声を出した。
「おばあさんこんにちは。この村のお酒は美味しいし、お米も美味しいんで堪能させてもらってます」
「そうかい、それは嬉しい言葉だね」
「獣人と人間が仲良く暮らしてるんもええもんやわ。別の国はなんか獣人がいじめられてて気分悪かったで」
「この村、いやこの国じゃ昔からこんなもんさ。いがみ合ってても仕方がないだろう?」
「おばあさんの言う通りやわ。獣人だって人間やねんから一緒に楽しく暮らしててなんの問題もないもんな」
「まぁ、姿形が自分と全然違うとなると恐怖の対象だったり忌み嫌うこともあるんだろうね」
良い国じゃないか。この国は。
なのになぜこんなに問題が山積みなんだよ。
「そこの2人も」巫女のおばあさんは僕とマサルに声をかけてきた「この村を堪能してくれているかい?」
「料理とお酒の美味しいところはどんな場所であっても5つ星ですよ。お墓だろうが廃墟だろうが飯と酒が美味しいなら俺は何カ月でも居続けられます」
「マーシーも気に入ってるんやろ?犬耳と猫耳いっぱいおるし(笑)」
「嫌いではない・・・・・・・・・・・・・まぁ、故郷・・・・・って感じがしていいなとは思うな」
「そうですよね。故郷って感じがしますよね。俺の田舎もここまでじゃなかったですが同じ匂いがします」
「せやな、和を感じるよな」
「まぁゆっくりしていくがいいさ。明日は『巫女降ろし』があるからね。美味い酒も料理もたくさん出る」
『巫女降ろし』?
「何それ?祭り?祭りなんか?」
「ちょうどここを出るのは明後日の予定でしたから良かったですね、マーシー」
おい、勝手に滞在日数1日増えてるぞ。
「何年かに一度の村での行事さ」
「ほんだらそれが終わってから京に行こか、なぁマーシー」
「ああ・・・・・・そうだな。折角だし少し拝見させてもらうとするか」
「祭りですか・・・・いいですね。祭りと言えば屋台。イカ焼きたこ焼き、焼きそばりんご飴。立ち食い呑み歩き」
「明日の晩出される料理と酒は食べ放題呑み放題だから目一杯堪能しとくれ」
「「あざーーーっす!!」」
こいつは回避は不可能だな。
まあ明日までに『巫女降ろし』について少し調べておくか。
「ほんだら行こか。せや、おばあさん。山の中腹に温泉があるって聞いたんやけどどのあたりなん?今から行っても入れるんかな?」
「それならここを少し上がったところに湯気の立ち昇る横に広い建物がある。そこは年中温泉が湧いてるから自由に入るといいさ。酒も一緒に販売してるよ」
「よっしゃ!今から行こーやマーシー!!温泉に酒やで!」
「そうだな。まぁ堪能しておこうか」
この後何が起きるか分からないしな。
僕達は巫女のおばあさんに最後に挨拶をしてその屋敷を出た。
そしてそのまま山を上がっていく。
山をそして村を見下ろせる。良い景色だ。藁ぶき家に広々とした田んぼ。視界にはそれ以外入らない360度自然に囲まれた村。
巫女のおばあさんの言っていた通り湯気の立ち昇る建物を発見してタカシとマサルが率先して入る。
中にはハチマキをしたおじさんが番頭に座っておりまるで現代の風呂屋を思わせる。
そして暖簾には『男湯』『女湯』。現代でも最近はあまり見なくなったな。
『女湯』を横目でチラチラ見ながら僕達は『男湯』に入っていった。
中は想像通りの脱衣所で先客は誰もいない。
割と朝早いためひょっとしたら僕達が一番風呂なのかもしれない。
「タカシとマサルはさっき風呂に入ってたって言っていたよな?」
「もちろんこんなに広い風呂じゃなかったで」
「旅館の内風呂って感じでした。まぁまぁ広かったですよ、5人くらいは一気に入れるくらいに」
僕達は服を脱ぎ捨て用意されているタオルを手にガラガラっと横扉を開けて中に入った。
「うっおおおおおおおお!!!!!」
「すげー景色だな」
「これぞ、ザ・露天風呂ですよ!!!」
扉を開けるとそこはほとんど外だ。目の前に10メートルくらいの木枠の風呂釜。こちらの脇に洗い場があるだけでそれ以外は見渡す限りの山、少し先に川もある。
「露天風呂って言うより、ほとんど山の中じゃねーか」
「めちゃめちゃええやん!!この緑の匂いがたまらん!!」
「秋には紅葉。冬には雪景色が楽しめそうですね。ぜひミレーヌさんと入りたい」
「男湯と女湯は別やけどな」
「金にものを言わせて貸し切りにしてしまえば大丈夫でしょう。マーシーどうですか?ミラちゃんとミレーヌさんを誘って・・・」
「そいつは最高だな」
「ちょちょちょ、マリーちゃんも誘ってや!俺だけ蚊帳の外なんか!?」
「誘うのはタカシだからな。断られたら諦めろよ」
「こ・・・断られるわけないやん!ミ・・ミレーヌさんも来るんやったらいけるって!」
「ミレーヌさん頼みな時点でダメですね、タカシ」
そう言ってる間に僕はかけ湯をしてゆっくりと風呂に浸かった。
「これはいい」
「ああーーー、ホンマやーーー。きっもちええわーー」
「悪の心が洗い流されていきますねーー」
「それじゃあマサルは何も残らないじゃないか」
「なんですと?俺は悪の塊だと?」
「どっちかって言うとマーシーの方が悪い心多そうやけどなー」
「なんだと?俺は少しばかりずる賢いだけで悪ではないよ、悪では」
風が心地よい。
木々が風に揺られてザワザワと音を立てる。
天気も良く青い空に緑の山、鼻に入る自然の匂い。
ザッパーンとマサルは山に向かって仁王立ちした。
「おい、折角の自然を汚すんじゃない」
「汚してるわけじゃないですが・・・・・なんだか無性に直立したくなったんですよ」
「・・・・・・・・・・・・あっ、そう」
ザッパーンと僕もマサルの横に立ち上がった。
「うむ、悪くない」
「そうでしょう?」
「おーい、酒買ってきたで」
「ナイスタカシ」
「よし呑みましょう」
「何してんねん2人で」
露天風呂に浸かりながら一杯。
山には僕らの声だけが響き渡っていた。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!




