犯罪者ルートって
タカシとマサルはテーブルに並んだ料理に箸をつけ、注がれた米酒を口につけた。
「うーーまーー!!」
「これや!!これやで!!!」
小さめのグラスになみなみ注いだ米酒に口を持って行きそれに吸いつく。
「日本酒万歳。これを作った人は天才ですね」
「マーシーにも呑ませてやりたいな」
「刑務所の差し入れに酒はダメでしょう?」
「やっぱり牢屋にでも入れられてんのかな?」
「ロリコンは犯罪ですからね」
「小学校低学年くらいの女の子大泣きやったもんな」
「いつかはやると思ってましたが」
「耳を触った時の手つきが常習犯やったしな」
グビグビ、さらに追加の米酒を注ぐ。
「ピンと尖った犬耳を見た時のマーシーの目つきは職質ものでしたからね」
「あの顔見たら110番やな(笑)」
「あの連れていかれる姿をぜひともミラちゃんに見せてやりたかったものです」
「おっちゃん!米酒おかわり!」
「すごく美味しそうに呑むもんだね」
「にいちゃんも呑みーや、俺のおごりやから」
「呑みましょう。こんなに美味しいものは皆でいただくべきですよ」
「この村の人間としてそう言われるのは実に嬉しいね」
タカシとマサルは青年を前に実に楽しそうに呑んでいた。
その時ガラガラと、入り口が開いた。
カウンターのおじさんが「おかえり」と店に入ってきた女性に声をかける。
「タカシ、タカシ」
「なんや?」
「ものすごい美人です」
「ほんまや・・・・・・アイドル・・・・・いや、女優みたいやな」
真っ黒な長い黒髪に真っ黒な大きな目。整えられた前髪にプルンと厚めの唇。張りのある白い肌。実に大和なでしこな日本女性だ。
「おかえり、かすみちゃん」
2人の向かいの青年がその子に挨拶をすると、ガッとタカシは青年の肩を掴み顔を寄せた。
「知り合いか?紹介してくれ」
「いや、任せろタカシ」マサルはニヒルな笑顔でその女性に振り返った「かすみちゃん、ご一緒にいかがですか?ここの米酒は絶品なんですよ」
かすみちゃんはにっこりと笑顔でマサルに笑いかけるとカウンターの奥に入っていった。
「躱されとるやんけ。っていうかここの米酒は絶品ってこの店の子に言うても・・・・・」
「あれ?おかしいですね?普段の3倍くらいの笑顔を出せたとおもったんですが」
「にいちゃん、あの子はこの店の子なん?」
「そうだね・・・・・・・・・・。あまり大きな声では言えないんだが、あの子に話しかけるのはやめてあげてくれるかい?」
「??なんでなん??」
「あの子はね・・・・・喋れないんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか、でもこっちの声は聞こえてるんやろ?」
「ああ、声を出すことができないみたいでね」
「ほんだら話しかけてもええんちゃうの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・聞こえていても、会話ができないわけだからね。あまり人前に出たがらないんだよ」
「聞こえてるんやったら反応くらいできるやん、こっちが一方的に喋ったったらええんちゃうの?楽しませたり笑わせたりはできるやん」
「タカシ・・・・・・・・お前は凄いヤツですね。かすみちゃんが嫌がるかもしれないじゃないですか」
「そうなんかな?楽しい話は聞いてるだけでもええと思うねんけど」
「そうか・・・・・そうかもしれないね。君は随分と前向きな性格なんだね」
「??割と普通のことやと思うけど」
「これがタカシ節なんですよ。いやあ、それにしても美人でしたねー。あの笑顔だけでご飯3杯はいける・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!白米忘れてました!!おじさん!!白飯はありますか!?」
その後出された塩むすびに感動した2人。
酒に白米に幸せを感じていた。
「ところでにいちゃんの名前聞いてなかったわw」
「はははは、僕は『けんた』だよ」
「よっしゃ、けんたくんもう一杯いこ」
タカシはさらに米酒を注ぎけんたくんの前に突き出した。
僕は捕まっていた牢屋まで戻ると破壊されて大きく空いた壁の前に立ち尽くしているよしおさんを発見した。
あ、これはまずそうだ。
よしおさんはゆっくりとこちらを振り向くと僕を見つけ、牙をむき出しにして前傾姿勢でゆっくりとこちらに歩いてくる。
「テメー、逃げ出すとはいい度胸じゃねーか。こんな危険なヤツを野放しにするなんてできねえ。今すぐここで噛み殺してやるぞ」
僕はすすっと一緒に戻ってきた狼の青年の影に隠れた。
「よしおさん、ちょっと待ってください。今、彼が何をしていたのか話しだけでも聞いてください」
よし、任せた狼くん。よしおさんを説得してくれ。
「はぁ!!何をしてたかなんて関係あるか!!牢屋ぶち壊して逃げ出したヤローに人権なんてあるか!!」
爪をむき出しにして僕に襲い掛かろうとするよしおさん。
「よしおさん!!彼が居なかったらよしこちゃんは今頃灰熊に殺されてましたよ!!」
「!?・・・・・・・・どうゆうことだ・・・?」
「よしこちゃんは斜面を滑り落ちて結界の外に出ちゃったんですよ。さらに運悪くそこで灰熊に遭遇してしまったんです。そんなところに助けに入ったのがそこの彼です。彼が助けなかったらよしこちゃんは喰われてましたよ」
「そんな・・・・・・・・。ほんとうか・・・?」
タッタッタッタッタッタと、そこに本人登場。よしこちゃんだ。
「よ・・・・よしこ!!無事だったか!!!」
よしこちゃんに気が付いたよしおさんはよしこちゃんの方に向かおうとするが、よしこちゃんはその手前に居た僕の方に寄って来て僕の右手を両手で掴んだ。
「な!?ソイツに近づくんじゃないよしこ!!そいつは危険な人間だぞ!」
「や!」
や?・・・・嫌ってことか・・・・?よしこちゃんは僕の右腕に抱き着いてくる。
「こっちに来なさい!よしこ!!」
「や!!そんなこと言うパパ嫌い!!」
ガーーーーン!!って顔してるじゃないか、よしおさん。
狼くんがすぐによしおさんに声をかける。
「よしおさん。よしこちゃんを助けたのは事実ですよ。彼は外の国から来た人間だからここの常識とは少し違う認識があるだけですよ。彼も随分反省してますし何より娘の命の恩人なんですから大目に見てやってください」
よしこちゃんは変わらず僕の右手に捕まっている。
僕はよしおさんに近づいていった。
「よしおさん、すみませんでした。確かにかわいいからと言って不意にこの子に触れてしまったことは謝罪させてください。何かしようと思ったわけではありません。僕の住んでた国では挨拶で相手の腕や頬や耳に触れることもあるんです(時には通報されることもあるが)それでも許せないというのでしたら早々にこの村を出ていきます」
「や!!」
よしこちゃんは僕の腕を掴んで右に左にグイグイ引っ張る。
よしおさんは渋い顔をしている。大好きな娘に嫌いと言われてその大好きな娘が見知らぬ男に懐いているのだから心中お察しします。
「・・・・・わかった・・・・・。娘を救ってくれたんだな・・・・・・・・。ありがとう。儂もムキになっていたのかもしれん」
「いえ、分かってくれてありがとうございます」
僕はよしこちゃんを抱きかかえてよしおさんに近寄りそっとよしおさんの腕にその子を受け渡した。
狼くんもほっとしたようで僕に近寄ってきた。
「よしおさん、それじゃあ彼を宿に案内してきますね」
「あ、ちょっと待ってください」
僕は壊れた壁に近寄ると土魔法で元あったように壁を直した。
よしこちゃんがよしおさんの腕の中でパチパチと拍手をしていた。
「急いでいたものですみません。ご迷惑おかけしました」
僕は頭を下げて狼くんについて去って行った。
去り際よしこちゃんがブンブンと手を振っていたので僕は笑顔でそれに手を振り返す。
・・・・・・・・・―――――――っふーーーー。犯罪者ルート回避――――。
もうちょっとで10歳の子に手を出して刑務所行きっていう人生の終着点に行きつくところだった。
僕はかいていた変な汗をぬぐい狼くんについて行った。
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