幼女を助けるの何度目だろう
急な傾斜の木々の間をズザザザザと滑り落ちる獣人の女の子。
膝や腕は擦りむいて血がにじんでいる。
ようやく落下は止まったが上に戻ろうにも落ちてきたところは傾斜が高く登れそうにない。
女の子の横には先ほども一緒にあった布でできたボールが転がっていた。
「うわあああああん」
その場で泣き出した女の子。
不意に背後から聞こえた獣の声に振り返る。
そこにはお父さんよりも大きい3メートルはあるグレーの毛を纏い、大きく伸びた爪が特徴的な熊が涎を垂らしながら2足歩行でこちらを見つめていた。
無意識に泣くのをやめて唇が震えだしガチガチと歯が小刻みに音を立てる。
熊はゆっくりと1歩2歩と近づくが女の子は動けないようだ。
熊が腕を振れば届く距離まで近づいた。
「お・・・・おとうさ・・・・・・」
その灰色の熊は目を血走らせながら右手を振り上げた。
ガアン!!!
「はい、間一髪」
僕は女の子を左腕で抱えながらマジックガードでその灰色の熊の右腕の攻撃を止めた。
「おい、人間の言葉が分かるならそのまま回れ右して帰れ。そうすれば何もなかったことにしてやる」
その熊は受け止められた右腕をもう一度振りかぶり
ガン!!ガアン!!!
と、僕のマジックガードへと叩きつけた。
「そっか、それじゃあ仕方ないな。ウィンドカッター」
ズバン!ズバン!
と、首と両腕が熊の後方へと落ちる。
そのまま首と腕を失った灰色の熊は地面に転がった。
なるほどね、結界の外は獣が出るんだな。
「うわあああああああああああん」
おいおい泣くな泣くな、誤解されるだろ。
僕は左腕に抱えた子にヒールをかけた。
「おーーーい!!無事かーー!?聞こえるかーー?」
斜面の上から大人の声が聞こえてきた。
この子が落ちたのを見て友達がすぐに誰かを呼びに行ったのだろう。
「大丈夫でーす!女の子も大丈夫でーす!」
タタタタッと、斜面の上から狼顔のガッチリした青年が降りて来た。
「おお、無事だったか・・・・って、うお!!」
目の前には首と両腕のなくなった灰色の熊が横たわっている。
「この子が結界を越えてしまったのに気づいて駆けつけたらそこの熊が餌にありつけたような顔をしてたんで仕留めたのですが、問題ありますか?」
「すごいな君、刀・・・・・・・ではないな、魔法か」
「はい、魔法結構得意なんです」
「灰熊の身体を切り裂くとは・・・・」
狼くんは倒れた熊の切断部分を確認している。
この熊そんなに固いのか?
僕は左腕によしこちゃんを抱えたまま右足で倒れた熊の足部を踏みつけてみる。
固っ!!鉄みてーじゃん。
僕のウィンドカッターは鉄をも切り裂くのか。
「とにかくありがとう、よしおさんも感謝するはずだよ。上に戻ろうか」
よしおさんってあの鬼の形相のおじさんだよな・・・・・、大丈夫かな?牢屋ぶち破ってきちまったんだが。
僕は空いた右手を山にかざした。
臨時階段
ゴゴゴゴッと斜面に階段を作り出し狼くんと一緒に斜面を歩いて戻る。
「便利な魔法を使えるんだな」
「この村には魔法使いはいないんですか?」
「獣人は特にそうだが・・・・・・・この村のものは魔力の少ないものが多いからな」
即席の階段を上がりきると獣人や人間の子供たちが心配そうに待っていたが、怪我のないよしこちゃんを見ると笑顔で駆け寄ってきた。
そして僕の顔を見て全員が固まった。
変態認定されてますからね。
僕は何も言わず左腕に抱えていたよしこちゃんを下ろした。
「怪我もなくてよかったよかった」
僕はそう言って子供たちから離れた。
「ほら、お前たち!こっちには近づくんじゃないぞ!広場の方で遊ぶんだ!!」
ハイ!
ごめんなさい!
はーい!
子供たちはわらわらと去って行った。
よしこちゃんがこっちを見てブンブンと手を振ってくれているのを見て僕も軽く手を振り返した。
なんとか弁護をしてくれないだろうか。僕は悪い人間ではないですよと。
「ありがとう、この村のものじゃないよな?京から来たのか?」
「いえ、外の国からきました。生まれも育ちもジパングじゃないのですが、両親がこの国出身だったので一度は来てみたいと思いまして」
「そうか、ゆっくりしていくといい。歓迎するよ」
ニヤリと笑うその顔は狼のように大きな口に大きな牙、顔は完全に獣。しかし二足歩行の気さくな青年だ。
「ちょっと問題がありまして・・・・・・」
「どうした?食事と宿くらいなら用意するが」
「いえ・・・・・それが・・・・・・」
僕は自分の今の境遇を説明した。
「そうか、それは災難だったな。しかしよくよしおさんに殺されなかったもんだ、はははは」
笑い事じゃないくらいに殺意の目を向けられましたが。
「一緒に説得してやるよ。よしこちゃんを守ったって知れば許してくれるだろう」
「ぜひお願いします。このままじゃ僕はジパングで10歳くらいの子に手を出す変態認定されてしまいます」
「はっはっはっは、よしおさんも自分の娘だからそんなに怒っているんだろうな。普通に考えればただ子供をあやしたようなもんだろうに」
「ええ全くです。しかしこの国じゃ獣人の耳を触ることがこんなに大事になることを知らなかった自分にも責任がありますので」
1人の心強い味方をつけることができた。これでなんとかロリコン疑惑を払拭できるかもしれない。
あの2人は今頃僕のことを笑って酒の肴にしていそうなもんだな。
そういえばぶち破った壁のことで怒られるかも・・・・
僕は狼くんと共に牢屋へと戻った。
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