俺はなにもやってない
僕は今正座をしている。
足元は硬い石造り。反省した顔で目の前の髭面で犬耳を生やしたおじさんと目を合わせている。
おじさんの視線は厳しい。
僕に何か恨みがあるのだろうか?
あるんだろうな。
娘の仇を見つめるほどの視線で僕を見つめるそのおじさん。
僕が何をしたのかって?
何もしてないよ。
誓って何もしてないよ。
恨まれるようなことを僕がするとでも?
しかし僕は今正座をさせられている。
周りは鉄格子だ。
地面は石造りでひんやりと冷たい。
手首にはしっかりと魔封じの腕輪がされており僕を危険な犯罪者とでも言いたいのだろうか?
石造りに鉄格子。そう、僕は今牢屋に入れられています。
何もしてないよ。
僕は牢屋に入れられるようなことは何もしてないよ。
ちょっとね、そう、ちょっとね・・・・・・・、耳をさぁ・・・・・・・・・・・・・触ったんだよ。
耳触って少しばかりフニフニしただけなんだよ。
それだけだよ。
たったそれだけなんだよ。
ピンと尖ったフサフサの犬耳が目の前にあったらどうする?
触るでしょ。
掴むでしょ?
フニフニするでしょ?
それの一体何が悪いって言うんだよ。
「すみません、俺何か悪いことしましたかね?」
「テメェ!!!ウチの娘の耳を触りやがって!!!この変態ヤローが!!許されると思ってんのか!!!いますぐぶっ殺してやりてーわ!!!」
どうやらものすごく悪いことをしたようです・・・。
「マーシー大丈夫なんかな?めっちゃ怖い獣人のおっちゃんがキレながら連れていったけど」
「そうですね、止める雰囲気ではなかったですからね。なにせブチ切れでしたからね」
タカシとマサルは丸太に腰をかけながらビールを開けていた。
「ボールがコロコロ。駆け寄って来る女の子。マーシーに接近。マーシーおもむろに右手を掲げる。女の子の耳掴む。フニフニフニフニ。女の子号泣。近くの獣人の女の子もつられて号泣。激怒のお父さん登場。マーシーお縄。俺とタカシ半歩下がる。マーシーあたふた。俺とタカシ知らんぷり。マーシー言い訳せずそのまま連行」
「マーシー・・・・・・・・なんか捕まってもうたな・・・・・・・・・・・・」
「ちょっとばかりはかわいそうに思えましたけどね」
2人に近づいてくる着物姿の黒髪の青年。もの珍しそうにタカシとマサルに寄ってきた。
「外の人間だよね君たち。めずらしいね」
「あ、どうも、こんにちは。一緒に呑みますか?」
タカシはビールを一本差し出した。
「いや、遠慮しておくよ。さっきの連れていかれた人は君たちの知り合いかい?」
「すみませんお騒がせしました。悪気はないのですが小さな女の子には目がない少し変態っ気のあるヤツでして」
「なんやろな?ちょっと犬耳触っただけやのにあの喧騒って」
「外の国じゃ分からないが、ここじゃ獣人の耳や鼻に触れることは家族や恋人じゃないと許されないことなんだよ」
「家族や恋人じゃないと・・・・・・・胸や尻と同じということでしょうか?」
「と、いうことはマーシーは見知らぬ女の子の胸をフニフニしたいうことなんかな?」
「変態じゃないですか」
「捕まってしかりやな」
「大丈夫かな彼?よしおのおじさんは獣人の中でも腕力が強くて乱暴だから・・・・・」
「まぁ大丈夫でしょう。殺そうと思っても魔王でも殺せないようなヤツですからね」
「よしおってめちゃ親近感沸く名前やん。あの牙剥き出しで鬼の形相の犬のおっちゃん、ええ名前してんな」
「この村には宿屋はあるんでしょうか?ここで一泊して明日には京に向かう予定だったんですが」
「宿屋ならあそこに暖簾のある家がそうだよ。君たち商人じゃなくて冒険者だよね?この国には一体何をしに来たんだい?」
「観光です。見た通り俺たちはジパング生まれ・・・・・・・・だと思います。来たことないですが」
「ジパング出身は間違いなさそうだね。両親がおそらくこの国出身なんだろうけど、ジパング出身で外の国に永住するものはあまり聞かないから珍しいね」
「初めての里帰り。ほんで美味しい米とお酒を探してんねんけど美味しい料理とかあるん?」
「名物はやっぱりお米になるのかな?ここから見える景色の半分でお米がとれるわけだからね。僕達は年中食べているから感動はないけど、たまーにやってくる外の人達はよく美味しい美味しいと言っているからね。白米もそうだし米酒もそうだね」
グッとタカシとマサルは手を握り合った。
「とりあえずご飯にしましょう。金は・・・・・・タカシが持っています」
「おう、任せろ」
「あ、温泉ってこのあたりにあったりするんでしょうか?」
「温泉なら、山の中腹に沸いていて入れる所があるよ」
バチンッと今度はハイタッチ。
「女の子を辱めたマーシーには一晩反省してもらいまして俺たちは一杯やりましょう」
「せやな、マーシーは明日迎えに行こう」
「まぁ行ったところで簡単に出してはもらえないよ。ここの犯罪者は京に引き渡すことになるからね」
「性犯罪者と成り下がったマーシーは一旦忘れましょう」
「まぁ自分でなんとかするやろ」
「そういえば外から来る時に灰熊に出会わなかったかい?」
「灰熊??それは強いん?」
「それは美味しいんですか?」
「食べたことはないけれど、強いっていうものじゃないよ。見かけたらすぐに村に入るようにね。ここは結界で守られているから大丈夫だけれど外で出会ったら食べられてしまうよ」
「人を食べる灰色の熊ってことなんか?」
「熊は食べるものであって食べられるものにあらず」
「ここの灰熊はそうはいかないよ。3メートルくらいで刀で切りつけても傷もつかないようなヤツだから」
「まぁ熊は後回しやわ。先に白飯と米酒やわ」
「右に同じ。さぁご飯を食べに行きましょう」
2人はマーシーも熊も何も心配する顔を見せずに青年を引き連れて食事のできるところへと案内させた。
牢屋で正座でいることおよそ3時間。
目の前にさっきまでいた獣人のおじさんはいなくなっている。
色々考えた結果、何かの間違いであるとは思うのだがおそらくは僕が悪いのであろうという結論に至る。
耳を触った女の子が号泣し、友達の獣人の女の子までつられて泣き出したこと。そしてその親が激怒していること。
おそらくだがこの国では獣人の耳に触れるのはそれすなわち罪に問われる行為なのだろう。
そんなん知るか
ってわけではあるがこの国にはこの国のルールがある。僕が不意に起こしてしまったことは大変申し訳ないことをしたなと思うわけだが、触ることのできない犬耳なんて犬耳にあらず。
触れない肉球なんて肉球にあらずだ。
索敵を広げるとタカシとマサルは僕が捕まったところから近くの家に入っていった。おそらく酒の呑めるところなのだろう。
あのヤロー共俺が捕まるとき他人のふりしやがったからな。
結構人口は多いな。端から端まで結構広く田んぼが広がっているが家屋も並んで建てられている。100人200人程度じゃなさそうだ。
獣人も多いが侍と鍛冶屋が割と多い。
刀を何本か調達しておきたいな。
いや、そもそもどうすれば侍という職業になれるんだろうか?そこを知りたい。
索敵にも結界は反応で出ている。この村を大きく囲っているように展開しているな。
やっぱり外からの外敵の侵入を防ぐようになっているんだろう。
ん??山の麓の方に移動しているのはよしこちゃん。僕がさっき耳をフニフニした子だ。
少し離れたところに友達も数人居るがそこから離れている。
ピタリと動きが止まった。随分と結界に近いところに居るがどうしたんだ?またボールでも追いかけているんだろうか?
急に動き出した。結界に向かって・・・・結界を越えたぞ。動きがおかしい。
HPが若干減少している・・・・・・・転げ落ちてるんじゃないのか?
移動する先に大きな反応・・・・・
ドオン!!
僕は封魔錠を外し壁をぶち破って外に出るとすぐに空を駆けだした。
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