本題にはなかなか入らない
潮の匂いだ。
外から海の気配を感じた頃に馬車の向かう方向に町が見えてきた。
「皆さん、もう着きますよ」
御者くんが声をかけてきた。
「この港町からジパングに行くわけやな?」
「やっと到着ですね。まず食料の確保ですね」
「ああ、そうだな。誰かさんが人の5倍は食べるおかげでストックがギリギリだったからな」
「前みたいに船で移動やんな?なんとか今度こそ海賊出てけーへんかな?」
「だーかーらー、前も言ったが海賊ってのはただの犯罪者だからな。出て来て一悶着あっても何の得もないんだぞ」
「えーー、会いたいやん、海賊。片足なかったり眼帯付けてたりすんねんで。そんで何かあったら皆で酒飲んで、賞金かけられてたり、異名で呼ばれてたりすんねんで。『死神』とか『クレイジーなんとか』とか」
「タカシそういうの好きだよなホント」
「まぁまぁ俺も興味はありますね。何かあれば酒呑んでるイカした連中って感じです。そして女子は大体薄着」
ガタガタと馬車は町に近づき柵の間にできた簡素な門の前で停車した。
御者くんが門番と話をして門をくぐる。町に入ってすぐ脇の所に馬車を停めると僕たちに声をかけてきた。
「お疲れ様でした。僕はここまでです。ジパングにはここから船で半日くらいみたいですね」
僕たちは馬車から降りる。
「ここまでありがとう。また機会があればよろしくな」
「気ーつけて帰れよ。護衛とか雇うなりなんなりして。マーシーがそれくらい出してんねんやろ」
「御者くん。ご飯を一杯食べて大きくなるんですよ」
「じゃあな、少年」
僕は御者くんに最後に挨拶をした。
「はい!ありがとうございました!皆さんもお元気で!」
御者くんは元気に挨拶を返した。
僕たちは潮の匂いに惹かれて町中を歩く。
木造の建物が数軒並んでいる。宿屋や飯屋くらいはあるが実に田舎という印象の強い港町だ。
坂道を上り高台に上がると広々と海が視界に入ってきた。
「海やな」
「ああ、海だな」
「刺身に日本酒ですね」
「ホンマそれ」
「とりあえず港の方に行くか。ジパングに出る船があるのか聞いてみよう」
港には船が4隻。漁船っぽいのが2隻に少し大きめのが2隻。
僕は船の近くで作業をしているおじさんに声をかけた。
「すみません、ジパングに行きたいのですがここから船を出されているんですよね?」
「なんだ、客か。そこの小屋に顔のいかついヤツがいるからそいつに話しな」
「あ、あそこですね。ありがとうございます」
僕は言われた通りにその小屋へと向かった。
「すみませーん、ちょっといいですかー?」
小屋の扉が開かれて目線の高い人物が顔を出した。
スキンヘッドで左目から頬にかけて大きな傷のある世紀末なおじさんだった。
「めっちゃいかついやん」
「暴行か殺人、もしくは両方ですね」
2人はスキンヘッドのおじさんに聞こえないくらいの声で呟いた。
「すみません、ここからジパングに船を出しているとお伺いしたのですが間違いないでしょうか?」
「なんだ、客か。ここからジパングへ船は出してるが」
「でしたらぜひお願いします。3人なのですが一番早くていつ出発できますか?」
「後1時間もすれば出る船があるが、それに乗り合わせるか?」
「ありがとうございます。タイミング良くて助かります」
「1人銀貨1枚だ。あそこに見える1番でかい船がそうだ。準備があるなら遅れないようにな。まぁ夜には着く予定だから大した準備も必要ないだろうが」
「分かりました。買い物があるので済ませたら船で待たせていただきます」
僕は銀貨を3枚渡してタカシとマサルを連れて町の方へと戻った。
「それじゃあ買い出しだけしておくか。秦で買ったのがまだ残ってるだろうから少し追加するだけで大丈夫だろう。船旅も数時間らしいしな」
「刺身をストックしておきましょう。とれたてをそのままストックしておけばいつでも新鮮な刺身で日本酒がいけるというものです」
「ほんだら俺は魚に合いそうな酒を少し買っとくか」
それぞれ店を回り30分くらいで合流。
僕達は先ほど案内された一番大きな船の前でその船を見上げていた。
「でかいな。魔大陸行った時の船の5倍くらいはあるんちゃう?」
「作業してる人の数も20~30人くらいいるしな。前は5人くらいじゃなかったっけ?」
「おお、もう来てたか。客室を案内するからついてこい」
先ほどのいかついスキンヘッドのおじさんが船にかかった階段を上がっていった。
甲板にはでかい木箱がたくさん並べられている。
僕達はおじさんについて行き甲板から船室の方へと向かう。以前魔大陸に行ったときは漁船を少し大きくした程度だったがこの船はちゃんとした客室が用意されておりパッと見た感じでも10室くらいはありそうだ。
その1室に案内され部屋に入るとベットが4つとテーブルがあるだけの部屋だった。
「この部屋を使ってくれ。夜には着くが気分がすぐれないようなら医者も乗っているから声をかけてくれ。あと、他にも客がいるからあまり騒がないようにな」
そしてスキンヘッドのおじさんは出ていった。
と、同時にタカシとマサルはベットにダイブした。
「久々にベットやーー」
「馬車も悪くはなかったんですがやっぱりベットですよね」
「夜に着くって言うてるけど向こうで泊まるところとかあんのかな?」
「このくらいの船が着くってことはジパングの方の町もそれなりの大きさだろうから宿屋くらいはあるだろ」
「とりあえず船が出発しましたら宴会といきましょうか。色んな刺身をご用意しましたよ」
「酒も買い足したから十分あるで」
「船酔いしながら俺は酒は呑めねーぞ」
「キュアしながら呑んだらええやん」
「キュア万能じゃないですか」
「酔いも醒めるから呑んでる意味がねーんだよ」
「じゃあマーシーはジュースで」
船員が結構な量の荷物を船に運び込んでいる。おそらくジパングとの交易船なのだろう。
ジパングにはそういえばオリハルコンやらヒヒイロカネなんて実にRPGなものがあると聞いているため少し胸も躍る。
すぐに船員さんから声をかけられて船はなんの問題もなく出発することになった。
出発した瞬間にプシュッとビール瓶の開く音が鳴る。
「カンパーーイ!!」
「いえーーい!カンパーーイ!!」
「はいはい、乾杯」
ビールを傾ける2人に対して僕はぶどうジュースで乾杯だ。
あ・・・・・・もう酔ってきた・・・・・・キュア
「なんなん?もうキュアってんの?早すぎひん?」
「船酔いは分からなくもないですが、気持ちの問題じゃないんでしょうか?」
「この縦揺れはほぼ兵器なんだよ。いいよな車酔いとか船酔いとか全然経験したことないって」
「なんか揺れたらテンションあがるやん」
「もっとご飯を食べて大きくなれば大丈夫ですよ。マーシーは栄養が足りないんじゃないですか?」
「筋肉も全然足りてへんで。もっと筋トレせな」
「体質だよ体質。そういえばお前たち夜行バスで漫画とか余裕で読んでたよな?羨ましいよ」
目の前に刺身を並べてグビグビ酒瓶を傾ける2人。ビールの次には米酒に手を出し始める。
「ほんで、ジパングでの予定は?」
「やることなんて決まっていないでしょう?あるとすれば本格的な日本米と日本酒を探すくらいじゃないですか?」
「米に酒か!!ええな!!あと味噌汁とか納豆とあったら最強やん!!あああああああ!!思い出したら食べたなってきた!!!」
「こっちにも米はあったが確かに本格的な日本米は食べたいよな」
「それでしたら米!酒!ですね!楽しみですねー、あとは大和美人さえいれば言うことなしですね」
「マーシーは黒髪好きやもんな?ミラちゃんしかり」
「もちろん嫌いではない。そして和服も良き。着物じゃなくても浴衣みたいなのもいい」
「いいですよねー、和服美人。和服美人が道端で山賊に襲われてないですかね?」
「それを救って一体どうしようと?」
「助けて一体何を要求する言うねん?」
「それはですね・・・・・ゲヘヘ・・・・いや、そのような人が居ればもちろん速やかに助けて・・・・グヘヘ・・・・山賊なんて輩はこらしめないとですね」
「悪い顔つきしてんな」
「その姿をミレーヌさんに見せてやりたいな」
「ミレーヌさんは今関係ないでしょう?・・・・・・・・・・・ミレーヌさんの・・・・・・・・・・・・浴衣姿・・・・・・・・・・・・そんな贅沢なことがあっていいんですか?マーシー、浴衣を買って帰りましょう」
「ミレーヌさんの浴衣姿なんて・・・・・・・・・・・反則やんけ」
「・・・・・・・・・・・・・・確かにいいな、浴衣姿」
「マーシー、今ミラちゃんで浴衣姿想像したやろ?バレッバレやで」
「よし、マサルがそう言うなら売っていたら買って帰ろう」
「マーシーも鼻の下伸びてますよ。ミラちゃんに浴衣着せて一体全体何をしようって思っているんですか?未成年ですよ、相手は」
「大丈夫だ。未成年が浴衣を着てはいけない法律なんてここにはない。あったら俺がその法律作ったヤツを殺す」
「本気じゃないですか・・・・・ミラちゃん逃げてください!!変態がミラちゃんのうなじとはだけた浴衣の裾から見えるおみ足を狙ってますよ!!」
「そんで魔王に睨まれるってな」
「黒髪に浴衣は絶対に合う。大丈夫だ、俺は服をプレゼントするだけなんだから何も悪いことはしていない。よし、魔王様にじんべいでも土産で買って帰ろう」
「思い切り機嫌取りじゃないですか」
「下心悟られんための配慮。さすがに考えとんなマーシー」
「なんて話しは置いておこう」
「長い前振りでしたね」
「なんなん?前振りやったん?ほんだら浴衣のくだりは無しなん?」
「いえ、絶対買いますよ」
「ああ、浴衣は探す」
「ああ、さよけ」
「元々この世界が俺たちのもと居た世界と同じ構造になってる。フランスはフラン、イタリアはリア、スイスはスー」
「地図的には魔大陸がアメリカ大陸でしたし中国はそのまま秦でしたしね」
「ああ。ここまであまり気にしていなかったがもしも元の世界に戻れるとするなら俺たちがこの世界に飛ばされた時にいた日本、すなわちジパング。ここになにかしらヒントがあるかもしれない」
「どうなんかな?あまり関係ないようにおもえるけど」
「そうだな。全然関係ない可能性もありうる。ここまで俺たちみたいにこの世界に飛ばされてきた話しや時空を飛び越える話しなんて一切なかったわけだから俺も全く期待なんてしてないよ」
「そうですよね、どうすれば帰れるのか一向に見えてきませんでしたね」
「やっぱり魔王を倒さなあかんのかな?」
「7人?」
「せやな、7人全部倒したら帰れるんかもな」
「1人でも無理だな。俺実際死にかけてるよ」
「メチャメチャレベルあげてめっちゃ鍛えたらいけんちゃうの?」
「まぁ可能性はあるかもしれないが、逆にレベルの上限とかがあったら手の打ちようがなくなったりしそうなんだよな。おそらくだけど魔王にレベルをつけるとしたら多分余裕で100とか超えてそうなんだよな」
「レベルの上限100とかはありそうですね」
「ゲームによってはレベル上限まで上げてもラスボス相手に楽勝ってわけにはいかないからな」
「楽勝じゃなくても勝てればええやん」
「怪我すんのも嫌なんだよ。一度太もも貫かれてみろ」
「痛いじゃ済まないですね。マーシーはラスボス相手に圧勝希望なんですね?」
「リアルである限り危ない橋は渡りたくないだけだ」
「まぁそれはマーシーっぽくていいですね」
「ただ1つ分かっていることがあるとすればこの世界がゲームのようになっているということはこの世界を作った何者かがいるということだな。それは人なのか魔族なのか神的なヤツなのか分からないがな」
「ゲームということなら人なのでしょうが規模で言うと神様な感じですねあのたまに出てくる選択肢もこっちの状況知られているということですしね」
「全員が同じ夢見てるっていうのんは?」
「その線は早い段階であきらめたけどな」
「ミレーヌさんは夢ではなく現実です」
「まぁこの話しはこの世界に来た時に言った通りに期待せずに考えよう。もしも帰る方法があるのなら向こうから何かしらアクションがあるはずだからな」
今のこの会話も全部筒抜けなのかもな。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!
久々に投稿させていただきました。
個人的にものすごく忙しく大変な日々を送っていたため
全く更新できずでした。
けれどこのまま終わるわけにはいかない精神復活。
いけるところまでいきたい。
この作品をおもしろいと思ってくれている皆さんに
感謝の意味も込めて踏ん張りたい。




