お前ビビッてんのか?
「お前たちは誰が王になるのがふさわしいと思う?」
そう国王様は自身の子供たちへと言葉をかけた。
始めに言葉を発したのは珍しくリンだった。
「私は・・・・・・・。誰が次の王様になってもこの国は平和になると思います。ホウリュウ兄様は博識です。色んなことを知っていてこの国を良い道へ導いてくれます。シリュウ兄様はとても心の強い方です。どんな屈強にも負けない強さを持っています。メイメイ姉さまはとても優しい。私にも他の誰にも。きっと平和な国になると思います。ロンは強い心と正義感を持った子です。この国が間違った道に行くことは絶対にありえません。1人、王を選んだとしても、他の皆が一緒に居ればこの国は間違いなく大きく発展します。私以外であれば誰がお父様の跡をついでも大丈夫だと思っています」
メイメイが口を挟んだ。
「私もリンに概ね同意です。ただリンと1つ違うのはリンが王様になってもきっとこの国は良くなるわ。それはもちろんこれだけ立派な兄弟がいるのだから間違った未来にはきっとならないし、リンが王様になったらきっと笑顔の多い国になるわ。それでも誰かを選ぶと言うなら、私は・・・・・・・・・・・・・ロンを推すわ」
「そうか、メイメイはロンが次の王にふさわしいと思うか?」
国王様の問いにメイメイが答える。
「はい。もちろんホウリュウ兄様もシリュウ兄様も王にはふさわしいと思います。けれど私は豊富な政治力や強固な軍事力よりも周りへ目を向けるロンの人間性が人の上に立つ上で重要だと考えます」
「メイメイ姉さん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。僕はシリュウ兄様を推薦します」
「そうか、ロンはシリュウがよいか?」
「はい。あの戦場で兵を率いたシリュウ兄様の姿は輝いて見えました。あれが人の上に立ち、先頭を走るものの姿だと思いました」
「そうか・・・・・・・。ホウリュウ、シリュウ、お前たちはどう思う?」
先に口を開いたのはシリュウだ。
「俺は・・・・・・・・・・・・・。ロンが王になるべきだと思う」
「シリュウ兄様・・・・・・・・・」
「俺は周りが見えていない。戦場で先頭を突っ切れと言われれば俺はそれに答えることができるとは思う。けれど前しか見えないんだよ、きっと。ロンは・・・・・・・・・・・いつも周りのことを考えている。自分のことなんてどうでもいいから自分以外の人間を助けることができるヤツだ。王としてそれはいいことなのか分からないが、それは俺みたいなヤツが簡単にできることじゃない。ロンは自分が人質に取られた時に迷わず自分の首に剣を突き立てやがった。人質がいなくなれば、自分がいなくなれば後を任せられると思ったんだろう。自分以外のヤツを信用できる人間なんてそうはいない。まぁ・・・今度あんなことしやがったらぶっ飛ばすがな」
そしてホウリュウも口を開く
「私も・・・・・・ロンを国王に推薦します。シリュウが今言った通りです。私は・・・・・皆が知っての通り不甲斐ないことに魔族に操られていました。そんな私の発言ではございますが、ロンは兄弟の為に、そして国のために自身を捧げることができる男です。まだまだ若いですがロンが皆の中心になるのであれば私は全力でロンをサポートします。それが私の罪滅ぼしだと思っています」
「兄貴の言う通りだ。一番若いがそんなのは関係ねェ。俺がロンの剣になってやる」
「そうか・・・・・・ほぼ全票ロンに入ったということだな」
「そ・・・そんな・・・・・・・僕には王になる資格なんてありません!ホウリュウ兄様のように国を動かせませし、シリュウ兄様のように強くもない!!僕なんて・・・・僕なんて!」
ガアン!!!!
僕の目の前の机が激しい音をたてて真っ二つに割れた。
僕とマサルは微動だにせず、レイニーとレイファンは驚いて抱き合っている。そしてすべての視線を集めた人物は振り下ろした拳を握りしめたまま口を開いた。
「ロン・・・・・なんやお前ビビッてんのか?お前が認めて尊敬する、頼りがいのある兄弟がお前のことをここまで言ってんねんぞ?誰もがロンが王様になることを願ってるんやぞ?何も考えずにお前を推してるんとちゃうやんけ。馬車で襲われた時にロンはメイドを逃がすために自分が犠牲になる言うたな。ロン自身が人質に取られた時に自分がおらんようになったら俺らが自由に戦えると思って自分の首に剣を突き立てたな。お前のそういうところはみんな見てんねんぞ。お前の漢気をみんな分かってんねん。これだけの人間がお前を認めてんのにお前はそれを不意にすんのか?俺もロンを王様に推すで。ロンがこの国の王様になったらこの国にはもっと笑顔の溢れるええ国になるはずや!間違いない!!お前が兄ちゃんや姉ちゃんや俺の言葉を信じられへんのやったら別にええわ。他の誰かに譲ればええ。それでもここに居る人らやったらこの国はええ国になるとは思うわ。それでも一番はやっぱりお前や。安心せえや、ここに居る人らも、もちろん俺も全力で手伝ったるから。何も全部1人でやれって言うてるわけやないやろ。シリュウ王子っていう最強の鉾があって、ホウリュウ王子っていう最強の盾があって、頼れる姉ちゃんが2人も居って、病気の治った父親も見守ってくれんねんぞ。怖いもんなんかなんもあらへんやろ!!」
シーーーーン、と静寂が訪れる。
王子に向かって『お前』はないな、タカシ。
「くっくっく、あーーっはっはっは。言いたいことは全部言われたな。こんな冒険者風情にな」
シリュウ王子が笑顔で声を高々に笑った。
「ロン、彼の言う通りだな。嫌なら断ってもいい。断る権利もロンにはある」
ホウリュウ王子も笑顔で答えた。
国王様が口を開く。
「ロンよ・・・・・・誰かに譲るか?」
拳を握りしめ歯を食いしばるロンの姿が僕の目に入った。
「僕は・・・・・・僕は・・・・・・・・。なにもできない・・・・子供です・・・・・・・・・・リン姉さんが大好きで、メイメイ姉さんが大好きで、シリュウ兄さんは少し怖いけど尊敬していて、ホウリュウ兄さんのようになりたくて、お父様のように威厳のある人間になりたいと思ってました・・・・・・・。この城の人達が大好きで、この城で働く人たちが大好きで、この国に住む人たちが大好きで、そしてなによりこの国を大事に想っています。今すぐにお父様のようになることはできませんが、皆と一緒に・・・・・・・姉さん兄さんと一緒に・・・・・・この国をもっとすばらしい国にしたい!色々迷惑をかけると思いますが!よろしくお願いします!!僕がこの国を世界一にしてみせます!!」
ワッと拍手と歓声が部屋を埋め尽くした。
決意を固めたロン王子と、それを穏やかな表情で見守る兄弟たち、そして国王様。
フウッと一息ついて椅子にかけたタカシ。
「熱弁でしたね、タカシ」
「第一声が『なんやお前ビビってんのか?』だったからな。王子にかける言葉じゃないな」
「あああああ、何言ったかほとんど覚えてないわ」
「侮辱罪で死刑もありえますね。相手は次期国王ですからね」
ホントお前は天才だよ。
目の前の重鎮たちは少々渋い表情になっているように思えた。
そっか、ここにはロン派はいなかったのか。
「それでは次期国王はロンとする。皆でロンを支えてやってくれ。もちろん儂も微力ながらやれることはやるつもりだ。まぁ儂がいなくてもお前たちが居れば大丈夫だろうからな」
国王様は息子たちへとそれぞれ視線を向けておだやかな笑顔を見せた。
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