ざまーみろ。ここに部外者なんて1人もいない
「ふむ、では今一度お前たちに聞こう」
たっぷりと間を置いて、国王様が王子たちへと言葉をかけた。
「月の塔を破壊したこの冒険者たちをどう処罰すべきか各々の意見を述べよ」
王子王女たちが一斉にこちらに視線を向ける。
第一声はロン王子だった。
「彼らに罪はないと思います。我々はなんの被害も被っていないのですから」
正面のおじさんたちの顔がひくついてるぞ。
「私も彼らに何か罪があるとは思いません」
メイメイ王女も続いた。
「私は今回何度も彼らに命を助けられました。そんな人たちに何か罪を与えるようなことはできません」
リン王女も無罪主張で多数決なら勝訴だが。
「俺も別にこいつらになにか償ってほしいことなんてないな。こいつらの罪は強いて言えば国の建造物破壊くらいだろ」
シリュウ王子・・・・・・・・あれを弁償しろと?
ホウリュウ王子は王子王女たちに目線を向けてからこちらに視線を返した。
「私に彼らを裁く権利はありません。私は操られて国王様を危険にさらした人物です。家族を殺そうとした人物です。それを阻止してくれたのは紛れもなく彼らですから」
「兄貴よ、それを言うなら俺も家族を殺そうとしたんだ。兄貴だけが抱えることじゃない。まぁ俺はコイツらが好きでもなんでもないが、むしろどっちかつーと嫌いだが、別に罪を犯したわけじゃねーって言いたいだけだ」
「私の自慢の弟がこう言っていることだし、その弟が月の塔がなくても強い秦帝国を作ってくれるらしいのでな。私も彼らに罪はないと言っておこう」
国王様は僕らの向かいに座るおじさんたちに目線を向け
「うむ。では満場一致で彼らに罪はないということでこの件についてはここでの議論はおしまいだ」
正直ホッとした。横に並ぶ2人も安堵の表情を見せた。
大丈夫だとは考えていたが一番最悪のパターンはこの国を敵にまわすことだったからな。
その場合はミズリー師匠に会わせる顔がない。
そして王様は続いてこう言った。
「儂は王の座を退く」
全員が全員驚いた表情で王様を見た。
王子たちだけでなくレイニーレイファン、扉に立っていた兵士、対面のおじさんたちももちろん。そして僕もだ。
「そんな、国王様!折角ご病気も全快されたのに」
「よよよ、よろしいので?秦国は賊も打ち返し、これからでは?」
席を立ち国王様へと声をかけるこの国の重鎮たち。国王様の言葉を聞いてなにやら色々と考えてるのがその表情から分かる。おそらく次の王様が誰なのか?それは自身が推す王子王女なのか?といったところか。王子王女たちは驚いてはいるが思ったよりも平然としている。いや、ロンとリンは慌てているかな?
「病気で近々この世を去る身だったからな。このような機会ではあるが身を引こうと思ってな。それに」王様は王子王女たちへと視線を向けた「儂には優秀な子供たちが居るからな。いつまでも上にふんぞり返っているわけにもいくまい」
「そそそそ、それで・・・・・後継者には一体誰が・・・・?」
「ややや・・・・やはりホウリュウ王子様でいらっしゃいますでしょうか?」
「いや、ここは賊相手に獅子奮迅の活躍を見せたシリュウ王子様でございましょう」
僕らの向かいで視線を向け合い牽制し合う大人たち。気持ちは分からんでもないがおとなしく王様の言葉を待てばいいのに。
「その前に彼女らを紹介しておく。レイニー」
「はい」
と、僕らの横で席を立つレイニーさん。
「レイファン」
国王様はレイファンにも声をかけた。レイファンもレイニーと同じように席を立つ。その表情は少し不安にとれた。
「儂の愛した女性レイニーと儂の娘レイファンだ」
言い争っていた大人たちが口をアングリとさせて驚愕の表情で2人へと視線を向けた。王子王女たちも驚いていたが一番驚いていたのはレイファン本人だ。ざまーみろ。
「ここここ国王様・・・・・・・それは・・・・・・まことでしょうか?」
「ああ、嘘偽りはない。2人とも、頭の布をとってもらって構わんかね?」
国王様はレイニーとレイファンの頭部に巻かれた布を取るように指示をすると2人はゆっくりとその布を解いていく。そこからピョンッと尖った耳が出てくると向かいのおじさんたちの顔が青ざめた。
「エ・・・・・エルフ・・・・」
「なななな、なんということだ」
「ままま・・・・・まさか・・・・・この者を次の王に任命されるおつもりですか?」
「馬鹿を言うな!エルフが王だなどと!!・・・・・・・」
最後の発言をしたものはすぐに自らの口を塞いだ。
「そうか、お主らも亜人を差別する側であったか」
「い・・・いえ!そのようなつもりは!」
「し・・・しかし・・・・この国で今エルフが王になるようなことがあれば国が荒れますぞ・・・・」
「心配するな。彼女ら2人がそういう立場になることはない。儂は引退して余生をこのものたちと穏やかに過ごそうというだけだ。国王という立場になって最初で最後のわがままだ」
レイニーの目からホロリと涙がこぼれ落ちた。レイファンはまだ、えっ?えっ?と驚いている。
僕は自身の頬が緩んだのが分かった。そうなればいいなと思っていたことが叶ったか。
シリュウ王子が口を挟んだ。
「いいんじゃねーか?父上は今までずっと国王として生きてきたんだ。今後は1人の男として短い余生を好きな女と一緒に過ごす幸せも、かわいい娘と一緒に過ごす幸せも、誰も文句は言わねーよ。まぁ俺や兄貴はいいが、メイメイやロン、リンにもその愛情を向けてやってくれればな」
「全員儂の自慢の子供たちだ。もちろん全員愛している。これまでも、これからも一生だ」
「そ・・・・それでは次の王は誰に?・・・・・・」
話しの腰を折るのが好きだな?もう少しこの惚気を聞いていたかったんだが。
国王様は視線を王子王女たちへと向けた。
「お前たちは誰が王になるのがふさわしいと思う?」
子供たちへと投げかけたその質問。
5人の表情はリラックスはしていたが真剣なものへと変わった。
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