表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男3人異世界ぶらり旅  作者: neon
21/230

牛の丸焼き。そう、それはご馳走です





渋々森に入ることにする。


「はぁ、とりあえずあの煙の立ち上がってる辺りに行ってみようか。戦闘中だったら加勢はしない。遠くで様子見。冒険者にしろ山神様にしろ襲って来る場合のみ対処だ」


僕達が入って来たのは西口。真逆の東口の村の出口を出ると道の無いただの森だ。僕は索敵を目一杯広げて森の様子を確認する。レベルが上がって索敵範囲もかなり広げれるようになっているようだ。煙の上がっている辺りまで索敵範囲を広げることができた。


冒険者が5人6人6人のパーティで何かと対峙している。こいつが山神様か。この距離じゃ姿までは確認できないがAR表示は『山神レベル95』と出ている。冒険者の中の最高レベルが48で大半がレベル20台、後はレベル38、39か。このレベル差はどうなんだろうか?倍近くのレベル差があるが連携や戦い方次第でなんとかなるくらいのレベル差なんだろうか?


とにかく道など無い森を足早に抜けていく。スピードは出せないが索敵で狼なんかの獣類はこちらが先に見つけて風魔法で仕留めながら進む。


目的地の200メートルくらい手前からはスピードを落としてソロソロと近づいていく。


ドォーーンンンン


火柱があがった。あれはファイアストームかな?5メートルくらいの火柱が先に見える。こんな森の中で火魔法なんか使うなよ。


マップ上では山神様からは全員距離をとっているので遠距離攻撃を仕掛けているみたいだ。森が少し開けて遠視できる辺りで僕達は身を潜めて観察する。


山神様、山神様、どれが山神かな?


「でっ!!」

「「「デカイ!!」」」


大きな岩というより崖を背にした山神様とそれを扇状に包囲する冒険者達。


山神様の姿は犬だ。それにしてもデカイ。人の倍くらいあるから3メートルくらいか。


一角牛のボスと同じ感じだが牛が大きいのと犬が大きいのとでは後者の方が違和感があるもんだ。


しかし真っ白な毛並みとあの目つき。大きさだけは相違するがあれはまるで


「ヤマトだ」タカシがそう言った。


タカシの家で飼っている犬。


確かに僕もそう思ったくらいだし、何より飼い主であるタカシが言うのなら相当類似しているということだ。


おっ、冒険者達が矢を放った。


「!?」


ヤマト似の山神様はその矢を躱すことなく身を捻って胴体で受け止める。


「なんで避けねーんだよ!」タカシがイライラしながら今にも飛び出しそうだったが僕はそれを制した。


避けない理由は見当がついた。僕の索敵によれば山神様の背後にもう一体獣の反応があった。『山神の子 LV27』


その山神の子のHPは残り2割くらい。山神様はどうやら子供を守っているようだ。


タカシは行っていいかと僕に聞いてきた。もちろん山神様を助けにだ。初めて出くわした化け物みたいな巨大な犬を助ける義理など無いわけだが。


「あいつはヤマトだ」タカシが断言した。


「なら、助けないとな」


理由はそれだけで十分過ぎた。


クエストの邪魔をして冒険者から恨みを買うのはあまり得策ではない。


「無いよりはマシだよな」


僕はタカシとマサルに雑貨屋で購入したお面を出すように言って3人共1番最初の布の服に服装を変えさせた。お面は2つなのでタカシとマサルに着けさせて僕が魔法で冒険者達を撹乱するから2人で山神様を拾ってくるように指示する。山神様はこちらに攻撃してくるかもしれないから気をつけるようにと伝えて僕は冒険者達の位置を確認する。


「じゃあ行くぞ」

僕は地面にそっと手を触れる


「アースクエイク」


ドン!!


と、一瞬山が揺れると冒険者達の足場で地割れが起こる。


「うお!!なんだ!!」

「地震か!!」


足を取られて冒険者達の陣形が崩れる。


タカシとマサルはその隙に1秒とかからず山神様の元に辿り着きタカシがヤマトを、マサルが子犬の方を担ぐ。子犬と言っても雄ライオンくらいの大きさはあるがマサルは難なくお姫様抱っこでこちらにすぐに戻って来た。


自分の子を怪しげなお面をつけた人間に連れていかれた母犬は鬼の形相で吠えるがガッチリ胴体をホールドしたタカシには逆らえずそのまま運ばれてこちらに合流する。


「よし、そのまま走れ!」


僕は森の奥を指差し2人を先に行かせると


「水!」


冒険者達の頭上に直径10メートルくらいの水の塊を発生させてそのまま弾けさせて水をぶっかける。特にダメージを与えるものではなくただの嫌がらせだ。


3人ほど冒険者がこちらに向かってくるのが確認できたので


「壁!」


僕は目の前に高さ3メートル幅25メートルくらいの壁を土魔法で作りだしてその壁はこのまま放置してタカシ達のあとを追った。




遠目に離れてから索敵で冒険者達の様子を確認すると壁の前で3人の冒険者が立ち止まっていたが破壊するつもりはないようだ。強度に自信はなかったので多少パワーに自信があれば壊して進めるとは思うが3人でがむしゃらに追いかけるのは危険と判断したのだろう。他の冒険者も地割れを起こした地帯から移動せずに残っている。


タカシとマサルは真っ直ぐ村に向かわずに冒険者達から離れるように森の奥へと移動している。タカシにいたってはあのデカイ獣を担ぎながらよくそんなスピードで走れるもんだと感心する。僕も木々をすり抜けながら結構なスピードで追いかけていたが一向に距離が縮まらない。


少し木々の開けたスペースで2人はやっと止まってくれたのでなんとか追いつくことができた。





「ぬおっ!!」僕はその場に着いて驚愕した。


タカシの左腕が真っ白なデカイ犬にガッツリと噛まれている。肩近くまで持っていかれていてタカシの目の前でそのデカイ犬の鼻がヒクヒクと動いている。拳だけ生え揃った鋭利な牙からひょっこりと出ているところを見ると警察犬の訓練なんかで腕にゴツい布をつけて噛み付いている姿を思い出したがこの大きさなら噛み付く訓練じゃなくそのまま丸呑みにされそうだ。


まぁ、問題はタカシの方が笑ってるってところなんだが。


「おいタカシ、食べられてるぞ」

一応注意してやったがまるでそんな雰囲気ではなかった。


「はははっ、いきなりコイツジャレてきやがってさぁ」


ジャレてるわけではないな。目が本気だ。殺意のある目だ。獲物を狩る目だ。


なんか大丈夫そうだからこのデカイのはタカシに任せよう。僕は弱っていた子犬の方に寄って行き、抱えていたマサルごと「ヒール」をかけた。


みるみると子犬のHPが回復していく。10秒ほどかけ続けると弱っていた表情もなくなってマサルの手から離れて僕とマサルに対して臨戦態勢に入るが別に襲って来る気はあまりなさそうだ。


気づくとタカシはデカイ方にベアハッグをしていた。抱きしめているとも言うが。


「フッカフカやなぁオイ!はははは!」


そういえばデカイ方は弓矢で射られていたなと思い出してこちらもヒールをかけようと近づいてみたが、傷口はどこにも見当たらなかった。オマケにHPも満タンだ。ステータスにある『治癒の血』が原因だろうか?冒険者はコレを狙っていたみたいだが。


タカシは今度はマウントをとって抱きついている。気持ち良さそうだ。


「離せ!この小僧が!!」


「!!!」


「ヤマトが喋ったーーーーー!!!」

タカシが発狂した。煩い。


正直喋るんじゃないかと思っていた僕はそんなに驚かなかったがマサルも目を丸くしていた。


「おいタカシ離してやれ。話ができん」


お、おお。と戸惑いながら返事をしたタカシは渋々そのフカフカの白い身体から離れた。


「貴様らも我の血が狙いか?」

治癒の血のことを言ってるんだろうな。


「いや、たまたまだ。たまたま通りかかってたまたま襲われていた犬2匹を見つけてたまたま俺たち3人が犬好きだったってだけだ」


それにしてもデカイな。こうやって対峙すると今にも襲い掛かってきそうでちょっと怖いな。


子犬の方はもう元気みたいで親犬の側から一緒になってこちらを睨んでいる。


「治癒の血ってのはその子犬の方にはないんだな」


「!?」


しまった。さらに警戒して牙を剥き出しにしてきた。いらないこと言ってしまったかな?


「小僧共、一体何者だ?冒険者か?」


あ、タカシが今度は子犬の背後に一瞬で移動して子犬の方を羽交い絞めにした。


気付いた親犬はタカシと子犬の方を振り返ったがその瞬間僕は親犬の元に移動してフワフワの背中を撫でた。

「キャン!」

と、可愛らしく吠えると親犬はバッと距離をとってこちらに向かって構える。


「毛はサクラの方がやわらかいわぁ、フワッフワやぁぁ」

タカシが子犬に埋もれている。


「山神様山神様。俺たちには別に敵意も殺意もないよ。むしろあるのは好意くらいだ」


親犬は子犬の方にチラチラと目をやりながら僕に対して臨戦態勢だ。


どうすりゃいいのかな?何か親交を深めるために。


「マーフィー、マーフィー」


「なんだよマサル。焼き鳥食いながら喋るな」


「んぐんぐ、ゴックン。確か獣ってのは自分より強い相手には絶対服従らしいぞ。だから力尽くで俺たちの強さを思い知らせるってのはどうだろうか?」


力尽く、、ねぇ。


いや、それよりもいい方法がありそうだ。


ヤマト(親犬)は僕達を、というよりはマサルの食べている焼き鳥に目が向いてるようだ。


これで釣ってみるか。



「タカシ、マサル。飯にしよーぜ。マサル、牛を出せ。今から焼く」


僕はマサルに持たせていた一角牛の一匹をアイテムボックスから出して急造で土魔法で作り上げた釜っぽい物の上にそのまま横たわらせた。


チラッと山神様を横目に火魔法で牛を焼きにかかる。


「「にーく、肉。にーく、肉」」


いつの間にか子犬から離れてマサルと一緒に肉踊り(意味はわからない)を敢行するタカシ。


山神様と子犬はいきなり肉を焼き始めた僕等に対してまだ殺気を放っている。


いい感じに焼けた肉を前に雑貨屋で購入したナイフ片手にタカシとマサルがスタンバっていた。


「マーシーマーシー、もういけるんちゃう?」


いけるにはいけると思うが、これはどうしたもんか。マンガなんかではこういう牛の丸焼きを食べるファンタジー物もあったと思うがリアルで丸焼きにした(かなりデカい)牛ってどう食べればいいんだろうか?


火魔法を止めて「よし、行けマサル」


「イエッサー!」


ガスっとナイフを刺して切り身にしてそのまま口に運ぶマサル。ワイルドだ。


「美味い!!」


今度はさらに切り身にしてアイテムボックスから取り出した塩を振りかけて口に運ぶ。


「あ、こっちのがいい!」


続けてタカシも牛にナイフを立てて塩をかけて貪りだした。


2人ともさっき焼肉定食食べてなかったか?



そういえばマサルの棍棒フルスイングを耐える皮膚にナイフが簡単に刺さるもんだな。タカシとマサルの攻撃力によるものか、死んだらそうなるのか?


お、山神子犬ペアがいい感じに牛の丸焼きを睨みつけてるな。


「タカシ、マサルちょっとどいてな」


スパン!


と風魔法で牛の丸焼きを半分くらいにして山神様の前あたりに土魔法で綺麗な簡易的なテーブルを出現させる。


「タカシ」


おう、とタカシは返事をすると牛の丸焼きの半分をガッと掴み、そのテーブルに移動させた。というより放り投げた。



「とりあえず食べな。それから話をしようか」


「アチアチッ、ヤマトもサクラも食え食え!うめーぞ」焼けた肉を掴んだ手は流石に熱かったようだ。


マサルは一心不乱に肉を裂いては食べ続けている。


ただ何も考えずに肉に食らいつく2人を見て少し警戒を解いてくれたのかな?先程までの殺気はもうこちらに向けられてはいない。


ジリジリと牛の丸焼きに近寄り、ガブリ。


そこからは山神様も子犬もマサルと同様に一心不乱に肉にかぶりつき始めた。



「俺も少しもらおうかな」


ただそのまま丸焼きにした牛ってのは大丈夫なんだろうか?すでに貪り始めている2人には悪いが食中毒を起こす細菌やウイルスが気になるところだな。まぁそのために焼いてはいるんだが。


一応一切れ。よく焼けているところを選んで塩をかける。パクリ。


「あ、こりゃうめーわ」


やっぱり肉の質なのか、どんな料理にしてもとにかく美味くできあがりそうだ。すげーぞ一角牛。




十数分。肉を堪能しつつまわりを索敵で警戒するのは忘れない。山神様の前のテーブルにはもう何も残ってはいない。、、、何も?


骨まで食ったのか。


マサルの前には骨組みが綺麗に残っている。いやいやこっちもこっち。内臓とか全部食ったのか?お前の胃は大丈夫か?


「さて、山神様。満腹のところ申し訳ないが話をしようか」


僕は山神様に歩み寄って目の前で腰を下ろして地面に座り込んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ