これっぽっちも信用してないですよ
僕達は塔を破壊した後すぐに城へと向かう。
入り口から出るとすぐに索敵が使えるようになった。
「さて、どうすっかな?」
「王様の無事確認した方がええんちゃう?それからロンたちか」
「王様無事。近くにエルムもレイファンもいる。マサルはメイメイ王女と牛くんと一緒。ここをまっすぐ行ったところで獣人とこの国の兵士たちが集まってるな。そこにロンも居る。お、第二王子もいるな」
「・・・・・・・・で?俺はどうすりゃええ?」
「お、おもしろいヤツ発見。・・・・・・・・・・・・・タカシはロンの居るところに向かってくれ。マサルもそっちに向かってるみたいだし」
「分かったわ・・・・・けど俺そこで何したらええんやろ?」
「やりたいことやればいいさ。それで言いたいこと言えばいい」
「マジで?じゃあメイメイちゃんにマサルにはミレーヌさんって巨乳の彼女が居ること伝えてくるわ」
「おう、マサルの良いようにはさせん」
「じゃあレイニーさんは?」
「俺が王様のところに送り届けるよ」
「んじゃよろしく」
「タカシ」
「ん??」
「多分、今行くところは人や獣人がたくさん死んでる。なにせ国に対しての反乱がおきてるわけだからな。ここはそういう世界だ。言ってること分かるな?」
「ああ・・・・・・・。大丈夫や」
「よし、じゃあそっちは任せた」
「ほな行くわ」
タカシはロンたちの方へと駆けて行った。
「じゃあレイニーさん、俺たちも行きましょうか」
「ええ・・・・・・。あなたたち変わってるわね」
「どこがですかね?塔をぶっ壊しても気にも留めず王様に会いに行くところですか?」
「お互いにふざけてるようだけど、お互いに信用し合っているところ」
「・・・・・・・・どうでしょうね?アイツのことはこれっぽっちも信用してないですよ。信頼はしてますがね」
「信用してないけど信頼している・・・・・・・。なんだか分かるようで分からないわね」
「俺たちも急ぎましょう。あ、ちょっと寄り道していきますね」
僕は目の前の森を迷わず入って行った。
王様の居る建物から数100メートル離れた森の中に見覚えのある名前を見つけたからだ。
僕はそれにゆっくりと近づいていく。
「塔を破壊するなんてどういうことだ?アイツが勝手にやったことか?いや、あんな魔法使えるなんて聞いていない。それにしても・・・・・くそっ!なんて魔力だあの小娘!」
60歳くらいのローブの男性だ。
少し離れたところに獣人の死体が2体。
「誰だ!?」
どうやら僕に気づいたようだ。
「やぁお久しぶり。負傷しているところを見るとまた王様を襲って返り討ちにでも会ったのかな?」
「貴様は・・・・」
「宰相のリャン・・・・だったかな?」
リャンは僕の後ろに居たレイニーさんにチラリと視線を向けた後僕に視線を戻した。
僕はゆっくりとリャンに近づいていく。
その距離は10メートルを切った。
「貴様の仕業か?」
「一体どのことを言っているのか分からないな」
僕は意味ありげに笑顔を作った。
「フンッ、まぁいい。塔が無くなればこの国の人間の加護も消える。そうなれば獣人どもが城に居る人間どもを殲滅してくれるだろうからな」
「影魔法だけでなくあれだけの数の獣人を洗脳状態にするとは恐れ入ったよ」
「・・・・・・・・・そこまで知っているとはな、人間」
「ちなみに聞いておきたいんだが」
「何かね?」
「術者であるお前が死んだら洗脳状態はどうなるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ズバン!
と、リャンの足元から真っ黒の刃がこちらに向かって飛んでくる。
リャンはそれと同時に足元の影へと落ちていく。
ガシッ!!
「ガフッ!」
僕は膝まで影に落ちていたリャンの首を右手で掴み影に入らせないように持ち上げた。
「悪いな。スピードには結構自信あるんだ」
10メートル近く離れていた距離をタカシほどではないが一瞬で詰めた。飛んできた黒い刃はガードでゴリ押し。
リャンは首を掴んだ僕の右手を掴もうとするが
「ここまで来て、もう遠慮はしないぞリャン。サンダーボルト」
ビシャーーーーン!!!
僕の右手からリャンに紫電が流れると閃光と爆発音が響き、ビクンとのけ反ったリャンの体から煙が立ち込めた。
動きを止めたリャン。
即死したようだ。
僕はリャンを地面に放り、レイニーさんに振り向いた。
「さぁ行きましょうか」
「・・・・ええ。・・・・・・・その人が黒幕なの?」
「おそらく・・・・。これで主要な敵は排除したはずですよ。後は向こうがなんとかしてくれるでしょう」
僕はレイニーさんを連れて王様の居る建物へと向かった。
マサル、メイメイ、ミノは後方で崩れ落ちていく月の塔をその場で立ち止まり見上げていた。
「なるほどね。知っていたの、マサル?」
「え・・・いや・・・・。知っていたといいますか、知っていなかったと言いますか。なんとなくこの国にとって大変なことが起きるような起きないような。まさに虫の知らせとはこのことだと言わんばかりの悪寒がしたと言いますか・・・・・」
「すっごい魔法―。すごいねマサルー」
「魔力が随分落ちたわね・・・・・・。けれど関係ないわ、行きましょう」
メイメイは向き直ってすぐに足を動かした。
塔が破壊され加護が無くなることを大事だと思っていないような言葉。
今はそれよりももっと大事なことがあると言いたげな表情だった。
「大丈夫、メイメイちゃんは俺が守りますから」
「お嬢―、僕も守るー」
マサルとミノもそれに続いた。
メイメイたちが戦場に着いた時にはシリュウ王子が最前線で槍を振り回しているタイミングだった。
「メイメイ様!」
「メイメイ様!ご無事でしたか!?」
「シリュウ兄さんが前に・・・・・・。ミノ、前まで連れて行ってちょうだい」
「わかったー」
ミノはメイメイを抱きかかえて跳躍すると戦場の邪魔にならないように壁を1回2回と蹴りあっという間に前線の左陣の前まで跳んでいった。
もちろんマサルもそれに続いて前線について行く。
「メイメイ様!!」
「メイメイ様だ!」
前線の王国兵がメイメイに気づいた。
地面に降り立ち獣人たちの方を見たメイメイ。
遠目に戦場の中央でシリュウ王子が親衛隊を引き連れて獣人たちと切り結んでいる。
メイメイは獣人たちに視線を向けた。
「あなたたち!!そこまでよ!!武器を捨てなさい!!」
メイメイの声が獣人たちに及ぶと近くに居た獣人たちは一瞬だが手を止める。
しかし止まったのは一瞬だけでメイメイに視線を向けた獣人たちは一斉に闘気剥き出しでメイメイに襲い掛かった。
「どっせーーい」
「お嬢は守るよーー」
マサルとミノが向かってきた獣人たちを吹き飛ばす。
マサルは向かってきた獣人の横腹を蹴り、ミノはその自身の蹄で豪快に薙ぎ払うと向かってきた獣人たちは軽々と吹っ飛ばされていく。
「メイメイちゃんの言葉も耳に入らないか」
「お嬢―、前に出ちゃダメだよーー」
「牛くん、できるだけ気絶させるように処理していこう。気を失えば催眠は解けるらしいからな」
「わかったー、殺さないように殴るー」
メイメイは唇を噛みしめ拳を握りしめていた。やめなさい、止まりなさいと声はかけるが獣人たちは全く気にせずメイメイに向かってき、マサルとミノに吹き飛ばされ続ける。
主戦場となっているのはシリュウ王子の居る中央で左陣の端に降り立ったメイメイたちの所には流れて来た獣人が数人づつ向かって来るだけだった。
「メイメイちゃんどうしますか?こっちに向かって来るヤツを何人か気絶させるくらいならこのまま続けることもできますが」
戦場の中央では今もシリュウ王子とその親衛隊たちが次々と獣人に刃を突き立てて命を奪っている。
「メイメイちゃんも分かっているとは思いますがあそこに突っ込んで邪魔をするわけにはいきませんよ。俺ならあの王子を止めることはできますが、そうなれば獣人たちがこの国の兵士たちを殺し始めるでしょうしね」(あの王子が間違いなくストッパーになってますね。あそこが抜けられたら一気に獣人が押し返しそう。シリュウ王子、加護がなくても中々やるもんだ。ここにマーシーが居ればまとめて獣人たちをスリープでもすればなんとかなりそうなものなんですがね)
「ここまで来たのに・・・・・私にできることなんてない・・・・」
目に涙を浮かべ自分自身の無力さに苛立つメイメイ。
「メイメイちゃん・・・・・・・・・。牛くん、メイメイちゃんは任せた。俺が1人でも救えるように獣人ををぶっ飛ばして気絶させていきます」
「ん、分かったーー。マサル気を付けてねーー」
「メイメイちゃん、大丈夫ですよ。戦況は必ず変わります。メイメイちゃんはその時に迷わず動く準備だけしていてください」
マサルはシリュウ王子の暴れている中央へと駆けて行った。道中獣人たちを蹴り飛ばして乱戦の外へ弾き出しながら。
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