そりゃもう、大変なことが起きると思うんです
ずうずうしくも国王様のベットに伏せっているレイファン。
「誰か解毒魔法を使えるものはおるか?」
国王様がその場に駆け付けた者たちに声をかけた。
「私がやってみます!」
1人の兵士が挙手しレイファンに近づいていく。
「キュア」
兵士のかざした手に光が宿り、レイファンにその手をあてるとそれを伝ってレイファンに光が灯る。本来であれば顔色が良くなり呼吸も安定するはずだが一向に症状は良くならない。
「駄目か・・・」
国王様の顔に落胆が見える。
その表情を見て兵士が咄嗟に謝罪した。
「も!申し訳ございません!!」
「いや、仕方ない。ただの毒ではないようだ」
「メイメイちゃんは解毒魔法は使えないんですか?」
マサルが国王様の前だということも考えず王女様をちゃん呼びする。
「私の魔法じゃ解毒はできないわ」
「それじゃ・・・・・・・・エルム」
「はいはーーい」
姿を現して国王様の前にピューンと飛んでいくエルム。
「妖精王殿・・・・・・頼めるか・・・・?」
「やってみるわ」
エルムから薄緑色の光が放たれレイファンを覆う。数秒するとレイファンの乱れていた呼吸は正常に戻り顔色も良くなっていった。
「もう大丈夫ね。じゃあそっちの人達も」
エルムは部屋の隅で意識を失っていたアニーと兵士のもとに飛んでいきこちらにも回復魔法をかける。本人曰く回復魔法ではなく精霊魔法らしいが。
「申し訳ございません!!」
この部屋の前で元々警護していた兵士が国王様に深々と頭を下げた。
「よい、儂もすぐにはメイメイが偽物だとは気づかんかった。皆無事でよかった」
国王様はレイファンの頭に手を添えた。
「リン、その精霊と一緒にお父様とここにいなさい。マサル、ミノ、私たちは下に行きましょう」
マサルは悩んでいた。
(うーーん、あの塔が壊れたらメイメイちゃんも弱ってしまうんですよね。なら戦場に連れて行くのはちょっとまずいか?いや、俺がついていればなんとかなりますかね?牛くんもいるし・・・・・。と、なるとここの方が問題か?エルムがいるから大丈夫だとは思いますが国王様もリンちゃんも力は落ちるはずだし・・・・)
「どうしたのマサル?」
「いえ、ここでマーシーとタカシを待ってもいいかなと」
「駄目よ、早く行かないとあの子たちが危ないわ」
あの子たちってのは多分獣人たちのことでしょうか。
「えっとですね・・・・・今からきっと大変なことが起きると思うんです」
「・・・・・・・・・・・・・どういうことかしら?」
「ええーーっと・・・・・・・虫の知らせと言いますかなんと言えばいいのか・・・・・多分この国の一大事みたいなことが起こるような・・・・・・・・起きないような・・・・・」
「もう起きているわ。グズグズしている暇はないわ行くわよ」
(今からあの塔がぶっ壊れるんですなんて言えないよーー)
メイメイは牛くんを連れて廊下を出て行く。
「エルムここは任せた。皆さんも国王様をお守りください」
マサルはすぐにメイメイを追う。
罪悪感に胸を締め付けられながら。
ロンはエドガーと共に月の塔の聖域から出ると国王様のもとに向かうのではなくお城に向かっていた。
「ロン様!一度メイメイ様や国王様と合流されたほうが」
「お父様はメイメイ姉さまが居れば大丈夫です。だからこそ僕はお城の方の反乱を治めないと」
爆発音や火の手はまだ南門の近くで起きているようなので城全体には被害は出ていないように見える。
兵士が武器を持って音のする方へ向かっていたり襲撃されている南門から遠ざかるように避難しているものもいる。
「ロン王子様!!」
「ロン王子様だ!!」
「どこまで被害が出ていますか?」
ロンは近くの兵士に声をかけた。
「南門が破壊されそこから亜人共がなだれ込んでいます。戦えるものは小隊単位で現場へ向かいました」
「バラバラで応戦していては被害が大きくなります。中庭に誘導します!手分けして城を封鎖してください!中央から西側の門と扉を全て閉じて戦えるものはここの中庭へ集合!ここで迎え撃ちます!!」
「かしこまりました!」
「かしこまりました!!急げ!!すぐに封鎖だ!!」
「寝てるヤツをたたき起こせ!!」
「戦えないヤツは城の奥へ向かわせろ!!」
ロンは指示を出すと先に進んで中庭へと向かう。遠くで争っている音が聞こえてくる。
「ここで敵を迎え撃ちます!!中央から西門まで今全て封鎖させています!!敵の進行は必ずここになります!!戦えるものを集合させてください!!ユルグさん!魔法兵を後方に集めて遠距離攻撃の準備を!エドガー、ライトを使える人たちにここに明かりをお願いして!ジュラールさん!弓は足りますか?噴水前の倉庫に弓も矢もあるはずです!緊急事態ですので扉は破壊しても構いません!ここを抜けられたら国王様のもとに賊を近づけることになります!!ここは絶対に死守します!!!」
「「「「おおおおおお!!」」」」
「よし!!武器を集めろ!!」
「盾はあっちの倉庫にあるぞ!!」
「あそこなら槍も大量にあるはずだ!」
「明かりを灯せ!!」
ロン王子の一声で皆が戦闘の準備を始めていく。
「ルードルさん!弓兵と魔法の使えるものを10名づつ集めて城を越えた位置に控えていてください。屋根を越えて来るものの対処をお願いします」
「任された!おい!!お前たちついて来い!!」
中庭には明かりが灯され前方に鎧をつけた槍兵が広がって陣を張る。
後方には弓兵と魔法使い。
槍兵の後ろに剣を持った兵士や戦える貴族たちが並ぶ中にロンも剣を装備して身構えていた。
エドガーがロン王子に声をかける。
「ロン様、もっと後ろに控えていてください」
「エドガー、そういうわけにはいかないよ・・・・・・・・・・・・・。獣人もこの国の民だ。この戦いは国民同士で身を削り合う愚かな戦いだと思う。それでも僕は・・・・・・・・・、今からここに向かって来るものたちを斬らなければならない。例え相手が自身の思いとは違う意思で拳を振り上げていたとしてもそれを防ぐために僕はそれに対して力を振るわなければならない。なぜなら僕はこの国の王子であり、この国を守るべき存在だからだ。こんな方法しかできない僕自身の力の無さが本当に憎い。誰一人傷つかない平和な国を作りたい。けれどここで躊躇してなにもしないままだったら僕はきっとダメなんだ。愚かな戦いだったとしても僕は僕のこの手を汚すべきだと思ってる。あの人も同じ立場なら・・・・・きっと・・・・・・」
「ロン様・・・・・・・・・・」
ドオオオオオオオン!!
と、中庭に続く門が破壊された。
剣を持った獣人たちが前傾姿勢で一気にこちらに向かって来る。
「槍兵構えーーー!!皆の者!!ここは絶対防ぎきれ!!この国を皆の力で守れ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
ロンの上空を弓矢と魔法が獣人に向かって飛んでいく。
爆発音と風を切る音が獣人たちに襲い掛かるが一切の躊躇なく向かって来る獣人たちが槍兵とぶつかり鮮血が飛び散った。
「いけーーーーーーーーー!!!」
そこからなだれ込むように剣を持った兵士たちが獣人たちに斬りかかっていく。
槍兵に串刺しにされた獣人を足場に飛び越えて来る狼や犬、虎の姿をした獣人に剣を構えた兵士たちが斬りかかる。
トカゲの獣人の大きく長い尻尾に横なぎにされ吹き飛ぶ兵士。
腕をなくした虎が兵士の首に噛みつく。
盾を持った兵士はその盾で獣人を押し込みその隙間から手に持った剣で獣人を刺す。
後方から魔法の第二波が通り過ぎると獣人たちの後方で大きな爆発が発生し獣人たちの腕や首が吹き飛んだ。
「おおおおおおおおおお!!!」
ロン王子の目の前にも獣人はなだれ込んでくる。ロン王子は雄叫びとともに剣を振るうと獣人の体は上半身と下半身に別れ吹き飛んだ。
果敢に前線を抜けて来る獣人たちに剣を振るいこれ以上はここを通さないようにロン王子は3人、5人、10人と獣人たちを一閃する。
戦況はロン王子たちが獣人を押し返し有利に進んでいた。
加護の効果もある。
陣を引いていたこともある。
後方からの遠距離攻撃も獣人の数を減らすのは効果的だ。
「ははっ!所詮獣人程度だ!」
「我々に立てつこうなどと!」
「獣は地にひれ伏していろ!!」
獣人たちの勢いは初撃から減少し門からなだれ込んでくる数も減ってきていた。
「抵抗しないものは殺すな!向かって来るものは殲滅せよ!」
ロンが声を大きく張り上げる。
戦場では動けなくなった獣人に剣を突き立てるものが多く見られた。明らかに死んでいるものの腕や首を落とすものまでいる始末だ。
ロンは向かって来るものを殺す覚悟も持っていたが今この場で起きている現状を顔をしかめて見ているしかなかった。
事態は一転する。
後方から感じる膨大な魔力。
振り返ると月の塔に絡みつく大きな龍の姿。
そして・・・・・・・崩れ落ちる月の塔。
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