特等席じゃないですか
バタバタと階段を駆け上がり息を切らせながら廊下を警備している警備兵の元へと駆け寄る。
「お父様は無事?」
廊下を走るメイメイが扉の前を警護している兵士3人に声をかける。
「メイメイ様!」
「国王様は無事です!」
ビシッと背筋を伸ばして答える兵士。
「今、この建物の1階にも賊が侵入してきました。2人はすぐに応援に向かいなさい。1人は扉の警護を。私はお父様を守ります」
「はっ!!行くぞ!!モーリスはここを守れ!命をかけろよ!」
「了解しました!!」
兵士2人が下へと降りていくとメイメイはゆっくりと扉を開けた。
扉を開けるとベットに腰を掛けている国王様。
その横で国王様となにやら話しをしている頭に布を巻いた女性。
開いた扉に気づいてこちらを警戒の目で見据えて腰の剣に手を添えていた女性騎士。
「メ・・・メイメイ様!!」
リンの護衛であるアニーさんがメイメイが入ってきたことに気づいて声を上げた。
国王様の横に立っていたレイファンもそちらに気づき安堵の表情を見せる。
「お父様ご無事ですか?」
メイメイはゆっくりと扉からベットの方へと歩を進める。
アニーもレイファンも数分前に爆発音がし、その後争うような声や喧騒も聞こえていたため無事であったメイメイの姿にホッとした表情を見せていた。
シュッ
アニーは何が起きたのか気づいていない。
国王様はベットに掛けたまま目を見開き口を大きく開けた。
レイファンの咄嗟に出した右腕に深々とナイフが突き刺さり血が飛び散っていた。
明確にメイメイの立つ所から国王様に向かって放たれたナイフ。ほぼ無意識で右腕を差し出し偶然刺さってくれたおかげで国王様にそのナイフが到達することはなかった。レイファンは刺さった瞬間の激痛を感じると同時に声をあげた。
「アニー!!気を付けて!!!」
声をかけられたアニーがビクッとレイファンの方を振り向くと右腕にナイフの刺さったレイファンの姿。すぐさまメイメイの方を振り返りながら剣を抜いたアニーだがメイメイの腕から伸びた真っ黒い鞭のようなものに勢いよく弾かれて壁に激突した。
「貴様何者だ!!!」
叫んだのは国王様だった。
右手をメイメイにかざし
「はっ!!」
と、声を発するとメイメイは国王様の放った風魔法に吹き飛ばされてドアの横の壁にめり込むように叩きつけられる。
ぐうっと呻き声をあげるメイメイの横の扉がバタンと開いた。
「どうされましたか!!」
扉の前に居た兵士が駆け込んできたが壁に激突しているアニー、腕にナイフの刺さったレイファン、そして壁にめり込んでいるメイメイの姿を確認したと同時に黒い影に巻き付かれてジタバタともがき苦しみだした。
「お父様。最後に娘の顔を見れて良かったでしょう?」
メイメイは下卑た目で国王様に声をかけた。
するとメイメイの足元に影が生まれるとそこからゆっくりと2匹の獣人がせり上がってきた。大きめのダガーナイフを持った2足歩行の狼のような獣人。
「貴様・・・・」
「メイメイ様の偽物・・・・?それとも催眠・・・・?」
レイファンは負傷した方の腕を抱えながら、か細い声をだした。ハァハァと肩で息をし始め目も虚ろに見える。
「貴様・・・・・・リャンか?」
国王様はメイメイを鋭い目で睨む。
「はい国王様。2度目の襲撃にお伺いさせていただきました」
メイメイの右手の指輪が光るとメイメイの姿は60歳くらいのローブを着た男性の姿になった。
「今回は邪魔が入らなさそうでほっとしていますよ。昨日の者は何者だったんでしょうか?」
「ここでは魔法が使えるぞ。儂を殺せると思っているのか?」
「国王様。そのナイフを受けた女性・・・・・・・死にますよ。ナイフには猛毒が塗ってましたので」
「!?」
その時ベットにドサリと伏したレイファン。顔色は悪く額には汗がびっしょりだ。
国王はバッとレイファンを抱えて顔をゆがめた。
「レイファン!レイファン!!」
国王様が珍しく声を荒げていた。レイファンを抱えながら治癒魔法を咄嗟にかける。
「魔法使いを殺すには接近戦でサクッとやるに限る・・・・殺せ」
1人の獣人が地面を蹴る。
ギイィィィィィィィン!!!
獣人が横から飛び出してきた剣を大きく弾いて後退した。
「はぁはぁ、国王様には指一本触れさせません!!」
額から血を流しながら剣を構えたアニー。
国王とレイファンの前で獣人とリャンに目を向ける。
「この、死にぞこないが」
リャンの手元の黒い鞭が地面を這ってアニーに忍び寄る。
「アニー!!避けて!!!」
アニーは後ろから聞こえたレイファンの声に反応すると大きく横に飛んだ。
飛び退いたアニーの後ろにはリャンと獣人たちに両手をかざしたレイファンの姿があった。
「国王様!すみません!」
レイファンは断りをいれた後
「ウィンドボール!!!」
「チィッ!なんだ、この大きさは!!」
ドオオオオン
と破壊音と共にレイファンの前方に空気の塊が放たれリャンと獣人を巻き込んで壁に大きな穴が空いた。
その穴は廊下も貫通し部屋から外が丸見えになり光輝く塔が一望できるようになった。
レイファンはそのまま再びベットに伏せるとアニーは周囲を警戒しながらゆっくりとレイファンに近づく。
「はぁはぁはぁはぁ」
レイファンは苦しそうに息を荒げている。
「国王様ご無事ですか?大丈夫?レイファン?」
アニーは片手で剣を大きく空いた壁に向けながらレイファンと国王に声をかけた。
「無茶をするな、レイファン。アニーよ無事だったか」
「はい。もう大丈夫でしょうか?宰相のリャンも獣人も今の魔法に巻き込まれたように見えましたが」
「近くに気配は感じん。直撃はしていたが死んだかどうかは分からんな」
「それにしてもレイファンすごい魔法だったわね」
レイファンからの返事はない。
「儂の治癒魔法では毒までは治らんようだ。アニーよすぐに誰か呼んで来てくれるか?このままではこの子が死んでしまうかもしれん」
「は・・・はい!」
アニーは剣を納めて大きく穴の開いた廊下へと足を向けた。
と、その時廊下の端の階段から数人の駆け上がって来る足音が聞こえてくる。
アニーは剣を再度抜きその音の方へと視線を向けて剣を構える。
「国王様!!」
「な・・・なんだ!!この穴は!!」
「国王様は無事か!!!」
「止まりなさい!国王様は無事よ!」
アニーは剣を構えたままだ。先ほどメイメイ王女に攻撃されたことから近寄ってきた兵士が味方なのか疑問を持ったようだ。
その後ろから階段を上がってきたメイメイとリンに視線が移る。
「メ・・・・メイメイ様。リン様・・・・・・・・・」
力の抜けたアニーは剣をカランと地面に落とし、膝をついた。
「アニー!アニー!!無事だったのね!!お父様は!?」
リン王女がアニーに駆け寄ってきた。額から血を流しているアニーの体を支えて心配そうに肩を抱く。
「国王様はご無事です。けれどレイファンが・・・・・」
大きく穴の開いた部屋に兵士とメイメイ王女が駆け込んでいく。
口々に国王の安否を心配する中、国王はすぐにレイファンの容態を皆に説明した。
ホッとしたアニーはそのまま意識を失っていた。
「これはこれは、特等席じゃないですか」
マサルは大きく空いた廊下から見えるぼんやりと光る月の塔を見つめながら誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
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