不審者と思われないように
タカシとマサルは本名なのになぜ僕だけがアダ名であるのか考えながら歩を進める。
どんどん近くなる石の壁。木製の門の脇にどうやら人がいるようだ。
よかった。一応人類がちゃんと存在しているようだ。まぁ見た目が完全な鎧姿なので安心はできないか。
僕達を不審者だと判断し、いきなり剣でもぬかれたらシャレにならん。
「鎧姿の門番があらわれた。どうする?」
とタカシ。
「たたかう。逃げる。賄賂を払う。とりあえずマーシーを差し出す」
とマサル。
「とりあえず話をするでファイナルアンサーだ。馬鹿ども」
こちらから向こうが見えているということはあちらからも僕達が見えているということだ。2人いる門番のうち3メートルくらいの長い槍を持った方が身体をこちらに向けて僕達を待ち受けているようだ。
まず2人からビニール傘を回収する。
「とりあえず俺が話すからお前らは適当にニコニコしていろよ。合図したらダッシュで今来た方向に逃げろ」
と、2人は会話に入ってくるなと注意した。
この馬鹿2人は他人と揉める天才だからな。しかもまだ酒が残っている。
僕はビニール傘3本を腕で抱えるようにして持つ。これが武器に見えないこともないと判断してのことだ。敵意はないということは示さないとな。
門番の前まで来る。
タカシとマサルは2メートルほど後ろで待機だ。
「アナクタラヌハサヤヌ?」
何語だよ。
仕方がないな。と、ステータスを開いてスキル欄を開く。
『語学』に2ポイントを費やしてLV1にすると門番の喋る声が日本語になった。
良かった。スキルにあるのは分かっていたが想像通りの効果を示してくれた。
タカシと同じくらいの身長に全身鎧装備のオジさんが不審な目で僕達の全身を舐め回すように見る。
「旅のものか?変わった服装をしているな?どこから来た?」
旅のもの、か。現代ではしない質問だな。やはりファンタジー系のゲームの世界と考えるべきか。
「すみません、道に迷ってしまいまして。宿などがございましたら休息をとらせていただきたいのですが」
「盗賊や山賊には見えないが一応何をしにここに来たのか確認させてもらおう」
ちらっと僕の後ろのマサルの方に目線を移して門番が話を続けた。
「商いかね?見たところ変わったものをお持ちだ。それはレイピアかね?」
「お目が高いですね、騎士様。しかしながらこちらは武器ではございません」
「よせよせ、騎士ではなくただの門兵だ」
「左様でございますか。佇まいから名のある騎士様なのかと思いました。これは失礼。これはこのようなものでして」
と、2本の傘は地面におき、1本の傘をバサッと開いた。
「おお、面妖な。盾かね?」
「日用で利用する場合は雨風を防げます。強度の高いものでしたら矢も防ぐことが可能です」
と、ビニール傘を閉じて地面に置いたものも再度抱え持つ。
「最近は商人の出入りは激しい。冒険者も年々増えていて武器防具やマジックアイテムが飛ぶように売れるからな。お前達もうかうかしていたら他の商人に全部もっていかれてしまうぞ。まぁそのような変わったアイテムを好む貴族もいるからな」
実に興味深い単語が出てきたな。魔物にマジックアイテムに冒険者に貴族か。
と、門番は流れ作業のようにもう1人の門番から青い石板を受け取り僕の前に差し出した。
「規則だからな。さぁ手を乗せてくれ」
マズイ。身元確認のための装置か何かか?
異世界人とか宇宙人とか出たりしないだろうな?
僕は冷静を装って手を石板の上に乗せた。
「名前は?」
と、門番のオジさんが聞いてきた。
「、、、マーシー」
自分で自分の事をあだ名で呼ぶのは抵抗あるんだよ。
すると石板がボンヤリと青白く光り空中に文字が浮かびあがった。
ラッキーだ。浮かびあがった文字は日本語だ。カタカナでマーシー。そしてLV1。商人。とだけ出ている。語学スキル様々だ。
「マーシーLV1、商人だね」
そう、今の僕は商人だ。
僕のステータスの職業欄には選択肢が付いていて選んだ職業を設定できるようになっていた。石板出された瞬間多少焦ったが、自分のメニューを開き職業をすぐに選択肢の中にあった商人に切り替えた。3人とも平民のままだったら商いで来たっていうのが疑われていたかもしれないしな。
「毎回出入りの際にこの確認をされるのですか?」
「いや、最初の1回だけだ。今から滞在証を発行するからそれで10日は街で自由にできる。10日過ぎる前に更新の手続きをすればまた、10日って具合に滞在できるよ。期限の切れた滞在証を携帯していた場合は罰金をとられるから注意するように。ちなみに滞在証の発行料は銅貨2枚。更新は銅貨1枚。罰金は銀貨2枚だ」
滞在費がいるのか。まぁ妥当だな。
それにしてもこの石板すげぇな。機械じゃないよな。魔法かな?
「他の2人もいいかな?」
あ、言葉通じないや。僕は2人に近づいていきスキルの語学にLV1つけるように指示した。指は動かさず目で追えばつけれることも伝えてあの装置がなんなのかも簡単に説明した。
タカシを先に送りだすとなぜかタジタジなので不審に思う。
門番のオジさんが石板をタカシの前に差し出すとタカシは恐る恐る手を乗せた。
ヤバい。タカシの目が泳いでる。
完っ全に職業変えてやがる。いつの間に相談も無しに変えやがった。それにしてもうろたえ方が分かり易すぎる。門番のオジさんも不審に思って目がさっきより険しくなっていた。
「名前は?」
「タ、、タカシ、、です」
石板が光りだし文字が浮かびあがる。
「タカシ。LV2。職業、格闘家」
まぁ、格闘家だと思った。
選べる職業は、平民、格闘家、戦士、商人、魔法使い、だけだったしな。
横のマサルが罰の悪そうな顔をしている。こいつも格闘家にしてんのかよ、、、、。
「マサル。LV1。格闘家」
馬鹿が2人。
「君達2人は格闘家なんだな?」
「はい。2人には護衛も兼ねさせていますので。」
と、割って入って説明しておく。
「じゃあ3人で銅貨6枚だな」
と、マサルがそろそろと近づいて耳打ちしてきた。
「銅貨って、、、どうするんですか?」
そりゃもっともだ。ただ、こういうゲームには初期の所持金という便利なものが用意されているもので、すでに確認済みのステータスのアイテム欄を開く。所持金もアイテムの1つとしてカウントされるようで1つのスペースに銀貨×1。もう1つのスペースに銅貨×10。僕は銅貨×10の方から銅貨6枚をとりだした。
何もないところから銅貨が6枚宙に浮いたように出てきたのであわてて手で掴み、それを門番のオジさんに手渡した。
「おお、アイテムボックスが使えるのか。流石商人だな」
おおっと、この世界はこれもありなのか。銅貨を出した瞬間マズイかなと思ったが商人のスキルか何かなのかな?
滞在証は薄い銅板みたいなもので大きさも免許証くらいだった。何やら印字されていてそこにはユーロポート領フランと記載されており最後に門番が印鑑みたいのを押していた。
そして僕達は門を難なく?通ることができた。
門番さんの名前はモルさんと言うようで何かあれば相談に乗ってくれると言ってくれた。威圧感もあって強面だがすごくいい人だ。
ついでに安くてサービスの良い宿を探していると相談したら入ってすぐの右手にある宿屋は安くて、さらにうまい朝食を出してくれると教えてくれた。