おい、どうしてそうなった。
王様とリン王女と話をしているとバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
索敵によるとアニーのようだ。何か分かったのかな?
!?
おい、どうしてそうなった。
アニーのステータスに『洗脳』の文字。
調査に行かせて調査から戻ってきたら洗脳状態か。
コンコン
「失礼しますアニーです」
ゆっくりと扉を開いて部屋に入って来るアニー。見た感じはなにも変わらない。
「突然申し訳ございません。至急の報告がございます。月の塔の結界内部に何者かが侵入した形跡がございました。おそらくは王子・・・・・・」
刹那。
アニーが懐から取り出したナイフを部屋の奥に位置するリンに目掛けて投擲。
部屋にいる全員の表情が瞬時に凍り付いた。
王様は咄嗟に手をリン王女の前に差し出し、レイファンは体ごとリン王女の前に立ちはだかった。リン王女は身動きできずに固まったまま。そして僕は落ち着いてアニーの手元から離れた瞬間のナイフの柄を掴んだ。
はいスリープ。
バタリと地面に倒れるアニー。
「ア・・・・・アニー!!一体何が!!」
リン王女が慌てふためく。
「皆さん落ち着いてください今アニーがリン王女に向かってナイフを投げましたが問題ありません。エルム」
「はいはーい」
エルムは僕の顔の横に現れ一緒にアニーの顔を覗き見る。
「確かに今・・・・・・アニーさんがナイフを投げたように見えたけど・・・・・・」
レイファンはリン王女の前に立ち、何が起きたのか不思議そうにしている。
「エルム、状態異常の『洗脳』の特徴と解除方法は?」
「一時的な洗脳は暗示みたいなもの。基本はひとつの指示に従わせるものね。だれもここを通すな、マーシーを殴れ、タカシに噛みつけ、マサルの食事の邪魔をしろ、そしてリン王女を殺せとかね。そして指示以外の行動は本人の通常の意思でできるわ。だから今のアニーちゃんはちゃんと月の塔の調査結果を伝えるべくここに来てそれを伝えようとした。けれど目の前にリン王女がいたから洗脳の意思が尊重されていきなり殺そうとした」
「解除方法は?」
「これで正解よ。気絶させたり眠らせれば数分で解除されるわ。けれど一時的な洗脳ではない場合はすぐには治らないけれどね。その場合は洗脳の効果が切れるまで数日監禁ってところかしら」
眠らせれば洗脳は解除されるか。それはありがたい。
「皆さん落ち着いてください。今アニーは洗脳という状態異常に陥っていました。間違いなくさっき俺たちと居た時はかかっていませんでしたが月の塔に誰かが出入りした形跡がないか調べさせて戻ってきたらこの状態だと考えると月の塔に今その元凶が居ると考えられます」
「洗脳状態だと・・・」
「はい。ですので今アニーのとった行動は本人の意思ではございません。王女に攻撃の意思を示したことに罪はないとは言い切れませんが何卒寛大な処置をお願いします」
「お・・・お父様!アニーは絶対にそのようなことは致しません!!マーシーさんのおっしゃるように、その洗脳状態がこのようなことになった原因です!」
リン王女が王様を説得している。王様としては自分の娘にナイフを投げつけられたわけだから簡単に許すこともできないと思うが。
「妖精のエルムによれば洗脳状態は意識を途絶えさせ数分すれば回復します。回復次第アニーから事情を聞いてすぐに月の塔を調べるべきです。おそらくそこに王子たちもいるのではないでしょうか?」
「なぜその護衛アニーが洗脳状態だと分かる?」
王様のおっしゃる通り。
僕はチラリと横のエルムに視線を向けた。
「妖精は生き物の状態異常も感知できるようです。全ての妖精がというわけではないと思いますがエルムは別格ですので」
エルムはこちらをチラリと見る。
「洗脳や呪い、毒状態くらいなら分かって当然よ。私はスーの森の妖精王なんだから」
「妖精・・・王・・・・。それならば確かに疑うこともないな。しかしその妖精王と共にいる君の存在が何者なのかが気になるが」
確かに。
「説明しますと長くなりますが、共通の友人がいて偶然縁があり、共について来てくれることになっただけですよ」
共通の友人が犬神であったり召喚魔法で飛び出したわけなんですけどね。
数分するとアニーはゆっくりと目を覚ました。
そして飛び起きるように体を起こしてリンに向かって頭を床に擦りつける。
「申し訳ございません!!リン様!!この罰は如何様にも!!」
あ、自分のしたことは分かってるのか。
「アニー、もういいのよ。操られていたことは分かっているから。あなたは悪くないわ」
「いえ!!リン様にあのようなことを!!処罰はどのようにも!!」
「アニーさんアニーさん。あなたが洗脳状態だったことは分かっています。自分の意思であのようなことをしただなんてここにいる人間は誰も思っていません。少し酷かもしれませんが、どういう心境でナイフを投げたか教えてください。洗脳状態の特徴をお伺いしたいんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。本当に申し訳ございません!月の塔の報告のため部屋に入りましたらそこにいらっしゃるリン様が目に入り、なぜそのように思ったのかわからないですが、殺さなくちゃという気持ちが芽生え、気づいたらナイフを・・・・・」
アニーさんは頭を床に擦りつけたまま頭を上げずに語った。
なるほど。厄介なもんだな。
「アニーさん。月の塔に調査に行った時に誰かに出会いましたか?もしくはなにか異常はなかったですか?魔法をかけられたとか何かが光ったとか声が聞こえたとか」
「いえ・・・・・・。月の塔の結界はそのままでしたが錠前が外れていることに気づき、そのままこちらに戻ってきましたので特には・・・・」
洗脳状態になる条件は分からないか。
ガードは効くのかな?ガードで防げればいいんだけど。
『エルム。洗脳とか状態異常ってガードで防げると思うか?』
僕は念話でエルムに確認してみた。
『大丈夫なんじゃないかしら。見た感じ攻撃と認識するものはだいたい防げそうだし』
期待はしておくか。
「よし、それじゃあ俺は月の塔に行ってくるか。レイファン、リン王女とアニーさんを見ててくれ。ここにいると安全だろう」
「マーシーさん。月の塔には王族しか入ることができません。王族以外が唯一入ることができる方法は王族と一緒に入る場合のみです。ですから私が一緒に参ります」
「それは危険だな。ですよね?国王様」
「そうだな。しかしすぐにでも月の塔を調べる必要がある。儂の兵を出そう。リンの護衛と調査も兼ねて」
王様は外の兵士に声を掛けて誰々と名前を告げると数人の兵士が集まった。
皆体格が良く、他の兵士よりもきらびやかな鎧を着ていることからそれなりの精鋭なんだろうと感じられる。
「かしこまりました国王様」
兵士たちは事情を聞きリンと僕に付いてお供してくれる。
「レイファンとアニーさんはここで待っていてください。国王様、よろしいですね?」
「ああ、かまわん」
「レイファン。国王様とお母さんの話しでもしていてくれ」
「足手まといになるから行くとは言わないけれど。気をつけてね」
「兵士さんたちもいるから大丈夫さ」
「それじゃあ皆さんお願いします。お父様行ってまいります」
リン王女は王様に頭を下げて僕もそれに合わせて頭を下げた。
兵士たちは前と後ろに別れリン王女を挟むように並んで階段を降り、建物を出るとそこから見える月の塔へと向かって行く。
歩いて3分もすれば森にぶつかった。なにやらこの森から魔力を感じることからここに結界が張られているのだろう。
そこに怪しげな鉄製の門。大きさは縦横2メートルくらいの小さな門がただの森の入り口に立っている。
なるほど。この門以外からは入れないと。
確かに錠前がされているが外れて引っかかっているだけの状態だ。
「リン王女様。一応これをつけていてください。魔法を防ぐ効果があります」
僕は某貴族の屋敷に火をつけた際に入手した魔法を封じるネックレスをリンに手渡した。
「ありがとうございます。これで洗脳が防げるかもしれませんね」
「効果があるか分かりませんが」
僕はもう一つ持っていたものを兵士の隊長っぽい人に手渡してこちらも一応つけてもらうように話した。兵士さん達にも洗脳の話はしているので快く受け取ってもらえた。
もしかかってしまった場合は僕が眠らせるか誰かが昏倒させる手はずになっている。
森の入り口の小さな門の前まで来るとリンが一歩前に出た。
「それでは参ります。ついてきてください」
リンに続いて兵士がその門をくぐる。
僕もその後ろからついて行った。
リンが居るおかげで案外簡単に入れたわけだが結界は力づくで壊すこともできるんだろうか?
試してみたいが試すわけにはいかないか。
中に入ると人2人が通れるくらいの獣道を真っ直ぐ歩いていく。
残念。
この中でならいけるかと思ったが索敵が反応しない。
注意深く目と耳を研ぎ澄まし警戒しながら進むと森から抜ける。
そこには先客がいた。
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