門番さん掌くるり
僕とレイファンはゆっくりと秦の国を歩きお城までやってきた。
走るか飛ぶかすれば数分の道のりだがゆっくり歩くと1時間くらいはかかる道のり。
お城の塀が見えてくるとレイファンは少し緊張した面持ちになっていく。
「やっぱり緊張するものか?」
「そりゃそうよ。お城になんて入ったことなんてないわけだし。ハーフエルフだし」
「メイメイとは面識があるんだよな?」
「そうね。メイメイ様とは何度か教会で顔を合わせたことがあるわ」
「メイメイと一緒に居たデカイ牛のミノってのは堂々としてたぞ」
「ミノは結構前からメイメイ様の護衛で就いていたからよ」
「まぁ気楽にな。こっちは御呼ばれしてる立場だし、レイファンのことは友人で仕事仲間ってことで紹介するからな」
「分かってるわよ。けど、なるべく横でじっとしてることにするわ。エスコートお願いね」
「了―解」
少し歩くと目の前を大きく塞ぐ鉄製の門。
その脇には門番らしき兵士が3人長槍を持って警備している。
僕はそれに近づいていくと門番の方から声をかけてきた。
「待て。何用だ?今城には誰も入れないぞ」
そりゃそうか、昨日あんなことが起きたところだしな。
「すみませんが今日来るように言われてまして。マーシーと申します。誰か分かる方いらっしゃいますか?」
「ん?今日来客があるとは聞いておらん。帰れ」
「こっちは今忙しいんだよ。悪いが日を改めろ」
ありゃりゃ、話が通ってないのか。どうしようかな?
レイファンが小声で話しかけてきた。
「どうすんのよ?本当に約束したの?」
「もちろん約束したよ。確かに時間は言ってなかったが。こんなに早く来る予定でもなかったしな」
僕は門番に近づいた。
「すみませんが確認していただいてよろしいでしょうか?秦国王様か、もしくはリン王女様にマーシーが来たと伝えていただければ分かると思うのですが」
「国王様だと!バカバカしい!お前のような冒険者が簡単に国王様に会えると思っているのか!」
「リン王女様ってのも疑わしいな。あの方宛の来客なんて聞いたことがないぞ」
リン・・・・・・リン宛の客は来たことがないのか・・・・。
もっと交友関係大事にしろよ。
「分かりました。でしたら言い方をかえさせていただきましょう。あなたたちが私のような来客は考えられないと言うのはそれはあなたたちの主観ですのでそこはお譲りしても構いませんが。もしも私が本当に秦国王様にお招きいただいているとしたらどうでしょう?門番がそんな大事な来客を片手間で追い返したと知れば秦国王様はどのような決断をされると思いますか?悪いことは言いません、ぜひ確認されることをお勧めさせていただきます」
「・・・・・・・・・ん、むうぅ」
「ちょっと待っていろ」
1人の門番が門の横の扉から中に入り、どうやら確認に走っていったようだ。良かった良かった。
1人確認に行った門番を待っていると高くそびえ立った城壁の横をこちらに歩いてくるものに気が付いた。
人、人、牛だ。
「お、マーシーじゃないですか。ひょっとして職質中?(笑)大の大人がそんな少女を連れていたら怪しまれますよ」
「マサル、この国はでかい2足歩行の牛を連れて歩くより、10代の女の子を連れて歩く方が不審者に思われるらしいな。恐ろしい国だ」
「牛じゃないよー、ミノだよー」
「あら、あなたは昨日の?」
メイメイとミノが僕に気づいたようだ。
「これはメイメイ様。おかえりなさいませ」
「どうぞ、お通りください」
門番はもちろんメイメイたちを通す。
メイメイは立ち止まり僕に目を向けた。
「今日はどうしたのかしら?誰かに用?」
「はい。昨日秦国王様とリン王女様にお礼も兼ねてお城に来るように言われてまして。今日という指定はリン王女とさせていただいたのですが時間指定はしていなかったもので門番の方が只今確認に走ってくれています」
「そう。あなたたち、彼を通していいわ。私が保証するわ。彼は昨日お父様を救った英雄よ」
「え!?」
「国王様を・・・!!」
英雄って・・・・盛りすぎだろ。
メイメイが門番に声をかけたと同時くらいに先ほど走っていった門番Cが戻ってきた。
「申し訳ございません、マーシー様。リン王女様よりすぐにお通しするようにお伺いしております。先ほどのご無礼をお許しください」
「も!申し訳ございません!!」
深々と頭を下げる門番さんたち。
「いえいえ、こんな冒険者が突然王様に会いになんてだれも考えませんよ。あなたたちの対応には特に悪意もございませんでしたでしょうし。俺は全く気にしてませんよ。それじゃあ通らせていただきますね」
先導する門番に付いて僕とレイファンは門を入っていく。メイメイ、マサル、ミノも一緒に中に入った。
「あら、あなた・・・・・教会で会ったことあるかしら?」
「は・・・・はい。メイメイ様。何度かお会いさせていただいたことがあります」
「彼女はレイファンと言って俺の仕事の手伝いをしてもらってるんですよ」
「そう・・・・・・・・」
「マーシーが目を離す度に違う少女を連れていることに驚愕です。少女キラー、いや幼女キラーマーシー」
「説明は、まぁ・・・・・・・またするよ。それよりも朝から一体どこに出かけていたんだ?それも第一王女様自ら」
「毎日の日課です。メイメイちゃんは毎日朝の散歩も兼ねて教会まで食べ物を持って行くんです。そして俺と牛くんは荷物持ちです」
「メイメイ様、そのピッチリドレス姿で?」
今日は真っ黒の肩の出たドレス姿だ。腰から上はピッチリで体の線が強調されている。
「このドレス姿がいいんじゃないですか」
「それを横から後ろから舐めまわすように見ながらマサルは朝の散歩をしていると?」
「横からが特にいいです」
「あー、だからマサルはーいつもお嬢の横にいたのかー」
「黙れ牛」
メイメイがこちらに近づいて声をかけてきた。
「ごめんなさい、昨日名前を聞きそびれていたわ」
「あ、俺はマーシーです。マサルがご迷惑かけていないでしょうか?」
「大丈夫よ。ちょっと視線がいやらしいだけ。一緒に冒険者をしているんですってね?」
「はい。ちょうどこの国に立ち寄った時に色々な縁でロン王子様やリン王女様と仲良くさせていただくことになりまして」
「偶然にしては出来すぎているように思えるけれど?」
「はははは、俺もそう思いますよ。なにもなければすぐにでもこの国を出て行きたいんですけどね。けれど、偶然でもこの国の王様をお救いできたのは本当に良かったと思っています」
「そうね、昨日のことも色々聞きたいと思っていたところだし、お礼ももちろん言わせてもらいたいところね。リンとロンも呼んで皆で食事でもどうかしら?」
「光栄です。王子様や王女様相手では緊張してうまく喋れるか分からないですが」
「あら、そうは見えないけれど。それじゃあ2人には話を通しておくからまた後でお会いしましょう」
「はい、それでは我々はリン王女に挨拶に伺います」
「じゃあなマーシー、またあとで」
「じゃあねーマーシー」
「ああ、ミノくんもまたな」
メイメイ、マサル、ミノが離れ、僕とレイファンは先導していた兵士に連れられてリン王女の部屋へと着いた。
コンコン、兵士がノックする。
「失礼します。マーシー様をお連れいたしました」
扉が開かれて中からリンの護衛のアニーが姿を見せた。
「どうぞ」
中へ招かれて僕は中へ。一緒にレイファンも。
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